企業が保有するデータの量は増加の一途を辿っています。総務省が発表した平成27年度版の情報通信白書(平成27年度版情報通信白書 第2部 ICTが拓く未来社会 第4節 ICT化の進展がもたらす経済構造の変化)によれば、2005年から2014年にかけての9年間でデータ量は9.3倍に増加し、その総量は14.5エクサバイトに達しています。
“14.5エクサバイト”と聞いてピンと来る方は少ないでしょう。たとえば1670万画素のデジカメ写真は1枚あたり約5.5メガバイトの容量があります。これが何枚あれば14.5エクサバイトに達するかというと、実に26兆枚以上です。
これは国内の情報流通量だけを対象にしたデータなので、世界的に見るとさらに膨大なデータが生まれています。企業のデータ増加量も基本的にはこれに比例します。ですので、10年前のデータ量に比べると現在では10倍以上のデータ量を保有しているという企業が少なくないはずです。
ちなみにデータ量の劇的な増加に関する調査結果は、多くの世界的企業が発表しているものです。
こうした“ビッグデータ時代”にて重要視されているのが“マスターデータ管理(マスター管理)”です。今回はこのマスター管理について、マスターデータの定義から基礎的なことまでご紹介します。
マスターデータとは?
マスター管理は、マスターデータを管理するための業務というよりも「あらゆるデータをマスターとして管理するための環境を整え、適切に管理する」というのが目的です。では、そもそもマスターデータとは何でしょうか?
ビジネスパーソンにとって最も身近なマスターデータと言えば出退勤時に使用するデータではないかと思います。たとえば出退勤システムを導入している企業では、会社に出勤したデスクトップを起動し、一番最初に出退勤システムにログインして打刻を行うでしょう。あるいは、オフィスに設置されている専用端末に社員証などをかざすことで出退勤を行っているかと思います。
出退勤システムを使用する場合は社員番号を入力するだけですし、専用端末が設置されている場合はカードをかざすだけで出退勤を完了できます。その理由は、社員番号やカードのIDに紐づけて、社員情報がマスターデータとして管理されているからです。
つまりマスターデータとは、人やモノを識別するための“基礎データ(基礎情報)”だと言えます。出退勤システムの場合は社員番号やカードIDに紐づけられた氏名、年齢、性別、所属部署、役職などがマスターデータに該当します。
もう一つ、マスターデータを理解する上で欠かせないポイントが、マスターデータは社内のあらゆるデータベース(DB)が利用すべき唯一絶対のデータであるべき、ということです。
たとえば出退勤システムで利用しているマスターデータでは、同じ社員情報を扱う人事管理システムなどにおいては同一のマスターデータを利用すべきです。そうでないと様々な問題や非効率が発生することになります。
しかし現状として、ほとんどの企業が本来唯一絶対であるべきマスターデータが2つも3つも存在している状態であることも事実です。
マスター管理の重要性
マスターデータを管理することがいかに重要かについて、すでに理解している方も多いでしょう。次のような事例を知ると、マスター管理の重要性がより分かりやすくなります。
とある製造会社では一般企業の例に漏れず、業務システムのサイロ化(分断化)が進んできました。営業部門では営業支援システムが、製造部門では生産管理システムが、総務部門では顧客管理システムがそれぞれ独立して稼働しています。しかしそうした中でも、企業は顧客情報の一元管理を目指しました。
顧客情報の変更は営業部門が起点になるので、営業部門はシステムに情報変更を反映させた段階で他部門にそれを連絡しなければなりません。しかし、変更された顧客情報の多くは他部門へ適切な連絡が行かず、システムごとに管理している顧客情報が違うという状況が生まれました。
そのため営業部門は常に最新の顧客情報を活用していていも、製造部門と総務部門、あるいはその他の部門は適切に管理されていない顧客情報を活用しています。その結果として業務全体が最適化することは難しく、データの不整合によりトラブルなどが生まれやすくなります。
こうした事例は決して少なくありません。多くの企業が大なり小なり、こうした不適切なマスター管理による不都合を抱えています。この事例では顧客情報を参考にしたものですが、これが製品情報、資産情報などあらゆる情報で起こっているとしたら、企業にどれだけの不利益を生んでいるか容易に想像できます。
だからこそ、マスター管理を徹底して“情報の不整合”を無くすことが重要課題としてあがっているのです。
[RELATED_POSTS]マスター管理を実現するには
マスター管理の基本は“データの一元管理”と非常にシンプルです。ただし、前述のように多くの企業は業務システムの個別最適化を進めた結果、部門ごとに分断されたシステム環境が構築されているのでデータの一元管理はなかなか難しい問題です。
その解決策として挙げられるので共有データベースの構築です。業務システムごとに別々のマスターデータを管理していることが問題なので、各業務システムが共通利用できるデータベースを構築できれば問題は解決します。
しかし、業務システムごとの連携もままならない状態でデータベースを構築して、果たして高い投資対効果は得られるのかというと、疑問が残ります。そこで採用されるITソリューションが“MDM(Master Data Management)”や“ERP(Enterprise Resource Planning)”を導入することです。
MDMとERPの特徴は次の通りです。
MDM
MDMはサイロ化されたシステム環境にて、各業務システムのデータを一元的に管理するためのITソリューションです。部門ごとに点在する業務システムと連携し、かつMDM自身があらゆるデータの管理をすることで、一つの共有データベースとして機能します。
ERP
ERPは複数の業務システムが一つに統合され、大規模なシステム連携環境を構築するためのITソリューションです。財務会計システム、生産管理システム、顧客管理システム、営業支援システムなどのあらゆる業務システムがあらかじめ統合・連携されているため、当然データベースも共有するよう設計されています。そのため自然とマスター管理が実行され、特別な対応は不要です。
MDMとERPのどちらがマスター管理に最適であるかは、現状のシステム環境によって異なります。ではどちらの方がビジネスにもたらすインパクトが大きいか?というとERPでしょう。
ERPはマスター管理を実現するだけでなく、すべての業務システムが連携された一気通貫なシステム環境を構築できるため、単にマスターデータを共有するだけでなく様々なシーンで大幅な業務効率化を実現できます。そのためERPには“全体最適化”という特長があり、ビジネスに大きな好影響を与えてくれます。
さらに、ERPをクラウドサービスとして提供するクラウドERPを活用することにより、より広範囲な業務システムとの連携が可能になり、その効果が大きくなる可能性があります。
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まとめ
企業のデータ量は今後も増加していきますし、複雑さも増していきます。その中でマスター管理を徹底するためには、MDMやERPといったITソリューションの存在が欠かせません。そうしたマスター管理を徹底すれば、マスターデータの不整合という問題を解決するだけでなく、実に多くのメリットもたらしてくれます。
マスター管理の問題を抱えているという企業は、この機会にMDMやERPの導入を検討し、問題を解消するだけでなく“攻めのIT戦略”を実現していただきたいと思います。
- カテゴリ:
- サプライチェーン/生産管理
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- 製品ライフサイクル管理(設計情報/統合マスタ)