ERP(Enterprise Resource Planning)の導入により、点在していたデータが一元化され、経営戦略の策定と意思決定の迅速性を高めた企業は数多く存在します。
しかし、その陰にはそれと同程度の企業がERP導入に失敗していることをまず理解しなくてはなりません。
特にERPは製品自体も高価なソリューションであるため、たった一度の失敗が致命的となり運用を止めることもなかなか難しいでしょう。
ではERP導入に失敗しないためにはどうすればいいのか?
それはやはり、導入そして運用のポイントをしっかりと押さえつつ、適切な製品を選択していくことです。
今回は、ERP導入を検討している企業に向けたった4つのポイントで失敗しないERP導入を解説していきます。
ERPと従来システムの違い
まずはERPを導入することで、従来システムとどういった違いが出てくるのかを改めて理解しておきましょう。
情報の点在から統合へ
従来システムでは各部署に基幹系システムが存在し、それぞれが独立して稼働していました。
システム同士が連携されているケースも少なく、データに関しても異なるフォーマットで管理されているのが一般的ですね。
経営戦略のために多角的なデータを取り揃えようとしても、必要なデータを抽出してフォーマットを加工し、レポートとしてまとめるため有用なデータを入手するだけでもかなりの時間を費やしたのが常でしょう。
ERPにより各基幹計システムは統合され、各部署のデータに関してもフォーマットが整備され統合されます。
これにより必要なデータを必要な時に瞬時に可視化することができ、スピーディーなビジネスが展開できます。
現場のためのシステムから経営戦略のためのシステムへ
従来システムで主体となっていたのは現場業務の効率化でしたが、ERPでは情報の一元管理から経営戦略主体のシステムへとシフトします。
しかしここで注意したいのが"システムを利用するのは”くまで現場社員"ということです。
この事実を忘れ、完全なる経営者目線で導入を進めると失敗するケースが往々にしてあるので現場社員の視点を忘れてはいけません。
システムから基盤へ
ERPは "全システムの集合体"ではなく、ERPという基盤上に各システムが連携されているというソリューションです。
このため「ERPさえ導入すれば全てが揃って万々歳」という考えを持っていては、導入に失敗する可能性が高まります。
当然ERPにもできないということが存在するので、この点をしっかりと認識しておく必要があるでしょう。
ERP導入のポイント
1.ERPの導入目的を明確にする
ERP導入で大切な最初のポイントは、導入目的を明確にすることです。
これは全てのシステム導入に言えることで明確化した目的が今後の製品選定などに大きく影響します。
まず、ERP導入以前に自社が抱えていた課題は何でしょうか?
情報共有がままならない環境で顧客対応が後手に回っていた
データの抽出/加工/分析に時間がかかり、意思決定の遅れから競合に先を行かれていた
生産システムや販売システムなど各システムの連携が取れていなかったため、在庫の無駄や品質のムラが発生していた
などなど、様々な課題を抱えているかと思います。
このような課題から導入目的を明確にするわけですが、注意したいのは導入自体が目的にならないことです。
ERPの導入自体を目的と位置付けるのではなく、あくまで経営の効率化や課題解消が目的であることをしっかりと再確認しましょう。
2.自社にとって最適な導入形態を選ぶ
ERP導入に際し、企業は2つの選択肢があります。それはクラウドでの導入か、オンプレミスでの導入かです。
クラウド
クラウドとはインターネット経由で利用するサービスを指す言葉であり、PCとインターネット環境さえあればERPを導入することができます。
システムはベンダーが運用するサーバ上で稼働しているので、ユーザー企業としては月額利用料を支払うだけで運用・管理業務の一切から解放されます。
また、導入の迅速性や安価さを考えると全体的に低コストで利用できるのもメリットの一つでしょう。
もちろん企業規模によってはオンプレミスのコストを上回ったり、オフライン環境下では利用できないといったデメリットもあります。
しかし、多くのメリットから昨今では中堅・中小企業を中心に導入が進んでいるのはクラウドERPです。
オンプレミス
オンプレミスとは自社サーバにシステムを構築する導入形態であり、その中でもパッケージ製品の購入か自社開発かに細分化されます。
カスタマイズ性が高く自社要件に適合しやすいなどのメリットはありますが、サーバ調達から考えると導入コストは数百~数千万円に上るのがネックです。
また、システムバージョンアップ/OSバージョンアップ/バックアップ/セキュリティなどなど、運用・管理業務の負担が大きいのも悩みどころです。
総合的にどちらの導入形態が有利かは現状環境に左右されますが、"クラウドファースト"という言葉がある通りまずはクラウドERPの検討をしてみるのがいいでしょう。
3.各製品を比較し精査する
各製品の選定に関してはこちらで詳しく解説しているので、ここでは比較に関する注意点を3つ紹介します。
RFPの注意点
ERP導入の際はほとんどの企業でベンダーやパートナーに対しRFP(提案依頼書)を提出し、自社要件に対する各製品の適合率を測ると思います。
しかし注意が必要なのは「できる」ではなく「どうできるか」という視点で捉えることです。
各ベンダーやパートナーにRFPを提出しても、こちらの要件定義に対し「できない」や「不可能」と明示してくることは少ないと思います。
理由は「自社製品を売り込みたい」という気持ちからくるものと、プロセスは違えどほとんどの製品で大体のことはできてしまうからです。
しかし、そのプロセスこそが重要であり「どうできるか」という視点で捉える重要性はここにあります。
簡単な例で言えば「CRMでの三層情報(顧客情報、案件情報、商談情報)管理は可能か?」という要件に対し「コンポーネントを拡張すれば可能」という意味で「できる」と記載しているケースがあります。
ここでRFPに記載されている「できる」を鵜呑みにすると、導入後に「こんなはずではなかった!」と無駄な手間とコストが生まれる可能性が多いにあります。
だからこそ、RFPは「できる」ではなく「どうできるか」の視点で捉えることが重要なのです。
事例を追求しない
ERP選定の際は、同業他社への実績豊富な製品に着目することが多いでしょう。
ただし例え実績豊富な製品であっても自社にとって最適な製品とは限らないので、はやる気持ちにストップをかける必要があります。
確かに、同業他社への導入実績が豊富なケースではその業界特有の課題を解決できる可能性が高いと言えます。
しかしながら、果たして自社のERP本来の導入目的はそこにあるのでしょうか?
事例を確認することは確かに重要ですが、あくまで参考程度に留め「自社の課題を解決できる製品か?」という視点で選定することが大切です。
機能要件が厳しすぎる場合も?
定義した機能要件に対し、全てを完璧に満たす製品というものは恐らくありません。
そういったシステムの構築を望むのであれば自社開発かアウトソーシングでの開発が必要です。
しかし多くの中小企業において開発費用は大きな負担であり、大方クラウドかパッケージでの導入に絞られるでしょう。
そんな中、納得のいく製品が見つからず選定がなかなか進まないという企業も存在します。
この場合"機能要件が厳しすぎる"という原因が考えられます。
自社開発以外の導入では「要件定義に100%マッチした製品はない」という認識を持ち、足りない部分は業務改善によってカバーするなどの気概がなければ選定が一向に進まず時間だけが経過していくでしょう。
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4.サポート、セキュリティの確認
コンプライアンスの強化が叫ばれている昨今、各製品のサポートやセキュリティを確認することは必須条件です。
サポート
クラウドなら「24時間サポートか?」「サポートの範囲は?」「トレーニングはあるか?」などを確認しておきましょう。
オンプレミス(パッケージ)では緊急時エンジニアに直接コンタクトを取れるか?などが重要です。
セキュリティ
クラウドならまずデータセンターの所在地を確認しましょう。
海外にデータセンターを構えている場合、その国の法律が適用されることになるので国内の法律とは異なることが往々にしてあります。
例を挙げるなら2001年に施行された米国のパトリオット法です。
これは必要と判断されれば米国調査機関が企業のデータを全て差し押さえることができるという法律であり、対テロ対策として施行されました。
実際にパトリオット法が発動された事例もあるので、こういったリスクも懸念しておく必要があります。
この他SSL暗号化通信やファイアウォールなど基本的なセキュリティ確認は外せません。
オンプレミス(パッケージ)では自社セキュリティ製品との親和性などを確認しておきましょう。
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まとめ
今回ERP導入4つのポイントを解説しましたが、各ポイントの中でもやるべきことや注意すべき点は数多くあります。
企業に必要な基幹系システムのほとんどを包括しているERPだからこそ、他システムよりも導入が難しいのは当たり前です。
しかし導入に成功さえすれば、他システムの何倍ものベネフィットを得ることができるでしょう。
最後に、ERPは導入までも非常に重要ですが導入後の運用によっても明暗が分かれます。
ですので導入を最終ゴールとせず、運用までをしっかりと考えた上でプロジェクトを推進することが重要です。
ERP運用のポイントに関してはまた別の機会に解説したいと思います。
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