SAPとは? 特徴や種類、導入メリット・デメリットについて解説

 2024.11.18 

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SAP(エス・エー・ピー)は、世界中の企業が導入するトップシェアのERP(統合基幹業務システム)です。ERPは財務、人事、生産などの基幹業務を統合し、情報をリアルタイムに管理するのに欠かせません。本記事では、ERPの中でも特にSAPに注目し、その特徴やメリットをわかりやすく解説します。SAPの強みを押さえ、自社に最適なERPソリューションを選ぶ際の参考にしてください。

SAP(エス・エー・ピー)とは?

「SAP(エス・エー・ピー)」とは、ドイツのヴァルドルフに本社を置く世界的なソフトウェア企業、SAP社が提供するERP製品です。メルセデス・ベンツが販売する自動車を「ベンツ」と総称するように、SAP社が提供するERP製品そのものを指して「SAP」と呼称するのが一般的です。

SAP社の由来は、ドイツ語の「Systemanalyse Programmentwicklung」をもとにした英語である「System Analysis Program Development」です。

同社は1973年に世界初の統合基幹業務システム「R/1」を開発し、現在ではERP市場のトップシェアを誇るリーディングカンパニーとして、国内外で多くの企業がそのソリューションを導入しています。

SAPとERPの違い

ERPとは、「Enterprise Resource Planning」の略称で、日本語だと「企業資源計画」を意味します。企業資源計画とは、企業の人的資源、物的資源、資金、情報などを一元的に管理し、経営を効率化するための手法を指します。

そして、この手法を実現するためのITシステムがERP製品であり、そのひとつがSAP社の提供する統合基幹業務システムです。また、ERP製品が普及してからは、企業資源計画という経営手法の概念だけでなく、統合基幹業務システムそのものを指して「ERP」と呼称することも一般的になりました。

つまり、「ERP」は経営管理を効率化するシステム全般を指し、その中で特に有名な製品が「SAP」という位置づけです。

SAPでできること

統合基幹業務システムとしてのSAPは、財務会計・管理会計・人事管理・購買管理・生産管理・在庫管理・物流管理・販売管理といった基幹業務を統合的に管理するソリューションです。組織の経営状況や財務情報をリアルタイムに把握できるため、的確な経営判断・意思決定を迅速に下しやすくなります。

また、基幹業務を統合的に管理することで、全社横断的な情報共有や部門を跨いだ業務連携も実現され、組織全体における業務効率化・コスト削減につながります。

SAPが広く普及している背景

SAPやERPが普及する以前の1980年代まで、日本国内の企業では、それぞれの業務に合わせて独自のシステムを構築し導入していました。しかし、各部署や部門に合わせて設計していたため、システム同士の連携が取れず、企業全体でのシステム管理が難しいという課題がありました。そこにやってきたのが、1990年代前半に起きた欧米でのBPR(経営コンセプトや業務プロセスの改革)ブームです。ブームに後押しされる形で、国内でも多くの企業がERPパッケージを導入しました。

また、当時はちょうど2000年問題(Y2K問題)があり、新たな業務システムへ移行し対応しようとする企業が多かったのも、SAPやERPが普及した要因です。海外では多数の企業がERPを発売していましたが、SAP社は長年の実績により信頼性が高く、日本独自の商習慣にも対応できる柔軟性を持っていました。結果、SAP社は世界中で広がる「第一次ERPブーム」の中、圧倒的シェアを獲得し、今日に至ります。

SAP導入企業が抱える「2027年問題」

SAPにおける「2027年問題」とは、SAP社提供のERPパッケージ「SAP ERP」のサポートが、2027年に終了することに起因する問題です。

終了するのはメインストリームサポートのみであり、セキュリティプログラムに関してはその後も更新されるため、SAP ERPの利用自体は不可能ではありません。しかし、不具合への対応や法規制の更新、新機能の追加といったサポートは対象外となるため、SAPを導入する多くの企業では、今まで通りの安定的な使用は不可能になるでしょう。

2027年の到来が迫る中、SAP ERPを使用している企業においては、「SAP S/4HANA」や他社製品への移行が喫緊の課題となっています。

2027年問題についてはこちらもご参照ください。

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SAPの機能(モジュール一覧)

SAPは、財務会計・生産管理・販売管理といった複数のモジュールで構成されているため、さまざまな業務領域に対応可能です。主に次の9つのモジュールがあります。

▼モジュール一覧

  1. 財務会計(FI:Financial Accounting)
  2. 固定資産管理(FI-AA:Asset Accounting)
  3. 販売管理(SD:Sales and Distribution)
  4. 在庫購買管理(MM:Material Management)
  5. 管理会計(CO:Controlling)
  6. 生産管理(PP:Production Planning and Control)
  7. 品質管理(QM:Quality Management)
  8. 人事管理(HR:Human Resources)
  9. プラント保全(PM:Plant Maintenance)

たとえば、「SAP-FI(Financial Accounting)」は主に財務会計を効率化するためのモジュールで、キャッシュフロー管理や資産管理、経理業務などの領域をカバーします。

そのほか、「SAP SD(Sales and Distribution)」は製品の受発注や帳票管理といった販売管理を支援し、「SAP MM(Material Management)」は仕入れ先への発注依頼や請求書の照合といった購買管理を効率化します。このように、各業務領域に特化した機能群で構成されていることが、SAPの大きな特徴です。

SAP社が提供するERPの種類

SAP社のERPには、オンプレミスで導入できる製品やクラウド版のみの製品など、複数の種類があります。以下、代表的な製品の特徴を紹介します。

SAP S/4HANA

SAP S/4HANAは、SAP社が提供する主力のERPで、主に大企業向けの製品です。「SAP HANA」と呼ばれるインメモリー・カラム型データベースシステムを基盤にしています。

SAP HANAならではの高速なデータ処理により、SAP S/4HANAはゼロレスポンスタイムを実現し、リアルタイムで迅速な意思決定を可能にしているのが特徴です。従来のSAP ECCから大きく進化し、データ処理速度の向上やデータ構造の簡素化、ユーザーインターフェース(UI)の改善が施され、操作もより直感的になっています。また、分析機能が同一プラットフォーム内に統合されているため、外部システムを利用せずに迅速なデータ分析ができるのもメリットです。

オンプレミスとクラウドの両方に対応しており、新しいUI「SAP Fiori」により、モバイルを含めた幅広い端末での使いやすさも追求されています。なお、SaaS型ソリューションである「SAP S/4HANA Cloud」もあります。

【関連記事】SAP S/4 HANA Cloud とは?特徴、Public と Private の違いを解説

SAP Business One

SAP Business Oneは、中堅・中小企業向けに開発されたERPで、会社の財務管理、販売・購買管理、在庫管理、顧客管理などをひとつのプラットフォームで管理できます。標準だけでも豊富な機能を備えているため、短期間かつ低コストの導入が可能です。リアルタイムで財務状況を把握でき、企業の素早い意思決定をサポートします。

また、オンプレミスとクラウドの両方に対応しており、企業のニーズに応じて柔軟に選べます。世界各国の商習慣や税制にも対応しているため、海外展開を視野に入れる企業に適しているのも特徴です。

SAP Business ByDesign

SAP Business ByDesignは、中堅・中小企業向けのERPです。前述したSAP Business One同様、短期間・低コストで導入できるほか、会計や財務、顧客管理、プロジェクト管理など36種類の業務を一元管理できます。

SAP Business Oneとの違いとして、SAP Business ByDesignはクラウドベースのため、自動アップデートにより常に最新の機能が利用できます。また、SAP Business Oneよりも対応できる業界の幅が広く、グローバル対応や複雑なプロジェクト管理が必要な企業への導入にも適しています。

【関連記事】SAP Business ByDesign とは?主な機能や特徴を紹介 

SAP ECC

SAP ECC(ERP Central Component)は、SAP R/3の後継にあたるクライアント・サーバー型ERPです。各地域や業界の商習慣に対応しつつ、企業の業務プロセスに合った機能を自由にカスタマイズできる柔軟性から、多くの企業で導入されてきました。

しかし、サポートは2027年末をもって終了するほか、サポートを受けるために条件も設定されており、後継製品であるSAP S/4HANAへの移行が求められています。

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SAPを導入するメリット

世界各国の企業が提供する統合基幹業務システムの中でも、SAPは信頼性が高く、高いシェアを誇ります。SAPの導入により得られる代表的なメリットは、以下の5つです。

1. 経営資源の可視化による的確な経営判断

SAPの導入により、企業は人事情報(人材/スキル/評価)・製品情報(仕入れ/在庫/販売)・財務情報(現金/債権・債務/財務)といった期間業務データを一元管理でき、部門ごとに分散していた情報を統合できます。これにより、各部門の活動や経営資源をリアルタイムで可視化し、経営陣は正確なデータに基づき迅速かつ的確な意思決定が可能になります。

信頼性の高いSAPは、全体的な業務効率の向上と戦略的な経営判断を支えるのに最適です。

2. 基幹システムの連携による業務効率の向上

SAPでは、生産、販売、人事、在庫などの基幹システムがひとつのプラットフォームに統合されます。これにより、各システム間でデータの矛盾や重複が発生しにくくなり、部門間の連携がスムーズになります。たとえば、販売データが即座に生産管理に反映されるため、過剰生産や在庫不足のリスクを軽減できます。各部門がリアルタイムな情報に基づいて効率よく業務を遂行できるようになり、全体の生産性が向上します。

3. ガバナンスとセキュリティの強化

企業の不祥事や情報漏洩が話題になることが多い近年、ガバナンスとセキュリティの強化は、重要な経営課題のひとつです。SAPでは、アクセス権限の厳密な設定や職務分掌を通じて、内部統制を強化し、情報漏洩や不正行為のリスクを低減できます。

基幹システムが統合されていることで、ITインフラの保守や運用管理が簡素化され、セキュリティ管理も効率的に実施できます。これにより、企業全体の安全性を高めると同時に、監査やコンプライアンスの要件にもスムーズに対応できる環境が整います。

4. データを起点とする経営体制の構築

SAPは、企業が蓄積する膨大なデータを一元管理し、効率的に活用できる環境を生み出します。収集から蓄積、加工、可視化までのプロセスが統合されているため、迅速かつ正確なデータ分析が可能です。さらに、ビッグデータ分析基盤と連携することで、勘や経験に頼らないデータドリブンな経営体制を構築できます。これにより、戦略的な意思決定がデータに基づいて行えるようになり、業界における競争優位性を高められます。

5. 基幹システムの統合による運用負荷の軽減

SAPは、複数の基幹システムをひとつのプラットフォームに統合することで、ITインフラの保守や運用管理にかかる負荷を大幅に軽減します。これにより、システム管理部門の作業量が減り、人件費の削減が可能です。また、運用負荷が減った分の人的リソースを、企業の成長に直結するコア業務に再配置できるため、業務効率化と企業価値向上の両面で大きなメリットが得られます。

6. 経験と実績によるシステムの堅牢性

SAPが選ばれる理由のひとつは、その圧倒的なシステムの堅牢性です。SAP社は長年にわたり、世界中の多様な企業と協力して、数々の導入実績を積み重ねています。この豊富な経験をもとに、安全性と安定性を日々強化しており、さまざまな業界のニーズに対応できる強固なシステムを提供しています。こうした信頼性の高い基盤が、企業からの厚い信頼と選ばれ続ける理由となっています。

7. 容易な多言語・多通貨への対応

SAPには、国際ビジネスに不可欠な多言語・多通貨対応が標準機能として備わっています。各国の商習慣や税制度にも柔軟に対応する姿勢は初期からあり、世界的なシェアを獲得する一因ともなりました。この柔軟な対応力により、海外拠点を持つ企業も、地域に合った業務管理をスムーズに行えます。複数の国での業務を一元管理したいグローバル企業にとって、最適なソリューションのひとつです。

SAPの導入によるデメリット

SAPにより多くのメリットが得られる一方、導入や運用に際してはいくつかのデメリットも考慮する必要があります。特にコスト面やシステムの複雑さは、導入企業にとって大きな課題となることがあるので注意が必要です。

1. 莫大な導入・運用コスト

SAPのデメリットは、初期費用のみで最低約1,000万円、その後は企業規模や運用方法に応じた従量課金という、莫大な導入費と管理コストにあります。

SAPの現行製品は、SAP S/4HANAです。同製品はオンプレミスとクラウドの両方に対応しているものの、現状はより高いセキュリティ環境を構築しやすい、オンプレミスが主流になっています。

しかし、オンプレミス環境でSAPを構築する場合、数千万~数億円の開発費用を要するケースが多く、さらにITインフラの保守・運用管理にも相応のリソースを投じなくてはなりません。比較的費用の安いクラウド型であっても、中小企業には調達が難しい金額です。

2. 機能や設定に関する知識の習得が困難

SAPは多くの機能を備えており、さまざまな業種に対応できる汎用性の高いERPシステムです。しかし、高性能かつ多機能ゆえに、機能や設定も複雑なものになっています。したがって、その性能を引き出すためには、高度な専門的知見を持つ人材が欠かせません。

たとえば、SAPは独自のプログラミング言語「ABAP」で構築されているため、運用やモジュールの追加開発などには、ABAPに精通した人材が必要です。さらに、マニュアル整備や知見のある人員の適切な配置なども求められます。

SAP導入時の注意点

SAP導入後のトラブルや効率低下を防ぐためにも、あらかじめ「導入目的の明確化」から「運用開始」までのプロセスを制定しておく必要があります。

一般的に、SAPの導入は「導入目的・自社課題の整理」→「ベンダー・業者選定」→「要件定義・スケジュール調整」→「プログラム設計・開発」→「初期設定・運用テスト」→「社内教育・効果測定」というプロセスに沿って展開していきます。

最初に考慮すべきは、自社の課題や改善目標を具体的に整理し、「何をどう改善したいのか」をはっきりさせることです。この導入目的をもとに、システムの設計・開発を共に行ってもらうベンダーを選定し、機能要件と非機能要件を定義していきます。

そして、要件に基づいて実際にSAPを構築し、運用テストや社内教育というプロセスを経てから、運用を開始しましょう。

SAPの導入プロセスについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

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これからERPを導入するときに注意すべきこと

ERPは、企業の基幹業務を支える重要なシステムです。導入時には、自社のニーズに最適なソリューションを選ぶことが欠かせません。以下の点に注目しながら選定を進めましょう。

ソリューション自体の信頼性

ERPパッケージを選定する際、最も重視すべきなのは、ソリューション自体の信頼性です。ERPでは従業員の個人情報や顧客情報などの機密データを扱うため、高いセキュリティを提供する製品が求められます。導入実績の豊富なベンダーが提供するソリューションは、数多くの企業からのフィードバックを活かして継続的に改良されており、信頼性も高いといえます。たとえば、SAPやOracleのERPは世界的に多くの企業で採用されており、その信頼性は実績によって裏付けられています。導入前には、製品のセキュリティや信頼性について、しっかりと確認することが重要です。

業務への適合性

セキュリティ要件だけでなく、自社の業務要件への適合性も重要なチェック項目です。自社の組織体制や事業形態に適したソリューションを選ばなければ、導入後に効率化を図ることが難しくなる場合があります。そのため、事前に自社の経営課題や現行の業務フローを洗い出し、「何を目的としてERPを導入するのか」というビジョンを明確にしておくことが必要です。

保守・運用管理のサポート体制

ERPは長期にわたり運用するシステムであるため、保守・運用管理のサポートが充実しているかが重要です。導入後にトラブルが発生した場合、迅速な対応を期待できるサポート体制が整っているか、事前に確認しましょう。ベンダーに問い合わせて、保守範囲やサポート内容を把握し、不明点がないようにすることが大切です。無料トライアルを設けている場合もあるため、実際に使用してみてサポートの質を見極めるのも有効な手段です。

以下の記事でERPの選び方についてさらに詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

【関連記事】ERPの選び方って?押さえておきたい選定のポイント 

ERPなら「Oracle NetSuite」もおすすめ

クラウドファーストの流れが進む中、クラウド環境で統合基幹業務システムを構築する企業が増えています。そんな企業におすすめしたいのが、Oracle社のクラウドERP「Oracle NetSuite」です。

Oracle社は、エンタープライズ向けのソフトウェア開発を長年手掛ける中で、強固なセキュリティと業種を選ばない柔軟な対応力を培ってきました。同社の主力製品であるOracle NetSuiteは、その技術と信頼性をもとに、40,000社以上で導入されています。27言語と190種類以上の通貨に対応し、グローバルなビジネスニーズにも柔軟に応えられる点が魅力です。

また、クラウドERPならサーバーやネットワーク機器の購入が不要で、オンプレミス型よりも導入費用や導入期間を大幅に削減できるため、IT投資の負担が軽減され、中小企業にも最適です。さらに、自動アップデートにより常に最新の機能やセキュリティを維持でき、システム管理の手間も省けます。これにより、企業はより戦略的な業務に集中でき、柔軟なビジネス展開が可能になります。

Oracle NetSuiteとSAPの比較については、以下の記事をご覧ください。

【関連記事】NetSuiteとSAP: ERPソリューションを比較する 

まとめ

企業の基幹業務を効率化するERPの中でも、特にSAP社のソリューションは世界トップシェアを誇り、多くの企業に導入されています。強固なセキュリティ体制のもと、経営資源の可視化や業務効率化が可能なのは大きなメリットです。

一方で、高い導入コストや運用の難しさといった課題も存在します。ERPの選定には、自社の課題や目標に合致するかを慎重に見極めることが大切です。

「Oracle NetSuite」や「SAP S/4HANA」などの選択肢も比較し、最適なERPを導入して経営を強化しましょう。

Oracle ERP Cloud とSAP S/4HANAとの比較

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