SAPの2027年問題とは? 対応策や必要な備えなどについて解説

 2024.11.20  クラウドERP編集部

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SAP ERP 6.0のサポートが2027年末で終了することに伴い、多くの企業が「2027年問題」に直面することになります。サポート終了後は、新たな不具合修正やセキュリティパッチの提供がなくなるため、システムの使用にリスクが生じてしまいます。対策方法を知り、準備をしておく必要があります。

SAPの2027年問題とは? 対応策や必要な備えなどについて解説

2027年問題とは?

IT業界で言われる「2027年問題」とは、SAP社のERPシステム「SAP ERP 6.0」の保守サポートが2027年末に終了することによる影響を指します。保守が終了すると、新たな機能追加が行われなくなり、セキュリティや不具合の修正プログラムも提供されなくなるため、システムの安定稼働が困難になります。もともとは「2025年問題」とも言われていましたが、SAP社が保守サポートを延長したため、現在では「2027年問題」として懸念されるようになりました。

日本国内でもSAPを使用する企業は2000社を超えており、サポート終了後のシステム稼働への影響が大きく予測されています。SAPについての詳細やERP導入のメリットについては、関連記事で紹介していますので、ぜひご参照ください。

「2025年の崖」と「2027年問題」の違い

2027年問題のほかに「2025年の崖」という用語もよく耳にしますが、両者には違いがあります。「2025年の崖」は、古いシステム環境を更新せずに使用し続けた場合、企業や日本経済全体において業務停滞や経済的リスクが生じる可能性を指す言葉で、想定されるリスクも幅広いです。一方で「2027年問題」は、2025年の崖の一部としてのSAPのサポート終了に伴うリスクを具体的に指しています。

SAP ERPシステムを使用している企業では、サポート終了に伴いシステムの更新が不可避ですが、2025年の崖に直面する他の企業も、システム基盤の見直しが必要とされています。2025年の崖について詳しく知りたい方は、関連記事をご覧ください。

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2027年問題への対応策

2027年問題に対する具体的な対応策としては、次の3つの方法について検討することが考えられます。それぞれの対策には特徴と利点があり、企業が求めている要件や事業規模に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。

1. 「SAP S/4HANA」に移行する

最も一般的な対応策は、SAPの最新ERPシステムである「SAP S/4HANA」への移行です。SAP ERP 6.0からSAP S/4HANAに移行することで、既存の運用ノウハウを活用しながら、クラウドベースでの最新の業務機能を導入できます。SAP S/4HANAは、従来のシステムよりも高度な分析機能や業務の自動化が可能で、業務効率化に大きく貢献します。移行作業には準備と計画が必要ですが、システムの安定性や機能面での向上が期待できる選択肢です。

2. 移行せず「SAP ERP 6.0」を継続して使用する

SAP社が提供する延長サポートの契約が必要ですが、SAP ERP 6.0を継続使用する方法もあります。追加費用を支払うことで、保守サポートを2030年末まで延長できるオプションが用意されており、移行のタイミングを遅らせることも可能です。延長期間を活用すれば、移行計画や予算調整に余裕を持たせることができますが、通常の保守料金に加えて費用が発生するため、コスト管理が課題となります。また、延長期間中もサポート対象の機能が制限されるため、セキュリティや業務継続に関するリスクはゼロではありません。

3. 他社のERPに移行する

SAPにこだわらず、他社のERPソリューションに移行するのもひとつの選択肢です。現在では、SAP以外にも高機能でコスト効率の良いERPシステムが多く存在し、業界や企業規模に適した製品を選ぶことができます。特にクラウドERPは、インターネット経由でどこからでもアクセス可能なため、リモートワークや複数拠点での業務にも適しておりおすすめです。また、クラウドサービスのメリットとして、サーバーの管理やシステム保守が不要であり、専任のIT人材が少ない企業でも運用しやすい点が挙げられます。システムのアップデートも自動で行われるため、常に最新の機能やセキュリティ対策を利用できるのもクラウドERPの大きな魅力です。

ただし、SAPから別のERPへの移行には、データの移行や操作教育といった初期投資が必要であり、予算管理や導入計画が重要です。しかし、他社ERPには業種別のカスタマイズやクラウド環境の柔軟性が備わっているため、システムの導入・運用費用を抑えながら、2027年問題への確実な対応が期待できます。ERP全体の基本機能や他社製品のメリットについては、関連記事を参考にしてください。

SAP S/4HANAとは?

SAP S/4HANAは、SAP社が提供する最新のERP(基幹業務システム)で、2015年に発表されました。このシステムは、SAP ERP 6.0の後継として開発され、2040年末までの長期的なサポートが予定されています。S/4HANAは、オンプレミス型、クラウド型、ハイブリッド型といった複数の導入方法が選べるため、企業の業務環境やニーズに合わせた柔軟な運用が可能です。従来のSAP ERP 6.0と比べ、データ処理の高速化やセキュリティの強化が図られたS/4HANAは、多様なビジネス環境においても優れたパフォーマンスを発揮します。

SAP S/4HANAの特徴

以下では、SAP S/4HANAの特徴について詳しく解説します。

データ処理が高速である

SAP S/4HANAの大きな特徴のひとつが、データ処理の高速化です。このシステムはインメモリーデータベースを採用しており、すべてのデータをメモリ上で保持するため、従来のディスクベースのデータベースよりもはるかに迅速な処理が可能です。これにより、リアルタイムでのデータ処理が実現し、意思決定のスピードが飛躍的に向上します。また、ビッグデータを活用した高度な分析にも対応しているため、複雑なデータ処理を必要とする業務にも最適です。

クラウドの運用プラットフォームが選択できる

SAP S/4HANAでは、クラウドを活用した柔軟な運用が可能です。従来のSAP ERP 6.0はオンプレミス環境での導入が前提でしたが、S/4HANAではクラウド型やハイブリッド型の選択もできるため、企業のIT戦略にあわせて導入形態を選べます。クラウド型にすれば、サーバー管理や保守の負担が軽減され、初期費用の削減やスケーラビリティの向上が期待できます。さらに、クラウド環境であれば定期的なアップデートも自動で行われるため、常に最新の機能を利用できるメリットがあります。

セキュリティが強化されている

S/4HANAは、セキュリティ面でも大幅な強化が図られています。データの一元管理により、アクセス権限を適切に設定できるため、データへの不正アクセスを防止できます。また、内部統制の仕組みが強化されているため、コンプライアンス遵守が求められる企業にも適しています。こうしたセキュリティ強化により、企業は安心してデータを管理でき、ビジネスの信頼性も向上します。金融業界や製薬業界など、特に高度なセキュリティが求められる分野にも対応可能です。

操作性が向上する

SAP S/4HANAでは、「SAP Fiori」と呼ばれる新しいユーザーインターフェース(UI)を採用しており、従来のUIに比べ操作性が大幅に向上しています。SAP Fioriは、直感的なデザインとシンプルな操作で、初心者でも使いやすい設計となっており、タブレットやスマートフォンなどのマルチデバイスに対応しているのが特長です。従来のデスクトップPCだけでなく、モバイル端末からも業務アプリケーションにアクセス可能であるため、外出先でも業務がスムーズに進められます。こうした操作性の向上によって現場での活用範囲が広がり、ユーザーの利便性も飛躍的に向上しています。

SAP S/4HANAへの移行方法

SAP S/4HANAへの移行には、企業の現行システム環境に応じた計画と準備が求められます。まず大前提として、S/4HANAに移行するためにはシステムの「Unicode化」が必要です。Unicodeとは、異なる言語や文字を一元的に扱える文字コード規格のことで、現行システムがUnicodeに対応していない環境である場合、まずは対応させる作業が必須となります。このため、移行プロセスでは、現行システムがUnicode化されているかを確認し、必要な準備を整えた上で移行を進めることが重要です。

ここからは、Unicode化完了後の移行方法として検討される3種類の方法を解説します。

1. ブラウンフィールド

ブラウンフィールドは、現在のSAPシステムの設定やデータをできるだけ維持しながら、SAP S/4HANAへ移行するアプローチです。この方法は「コンバージョン」とも呼ばれ、既存のシステム環境を活かしつつ、S/4HANAの基盤に乗せ替える形で行われます。そのため、システム設定やカスタマイズした部分を大きく変更せずに済み、移行コストを抑えやすい点がメリットです。また、既存業務の変更が少ないため、日常業務への影響を最小限にできる点も、多くの企業にとって魅力的です。

ただし、ブラウンフィールドには、新しい機能をフルに活用できないという制約もあります。特にS/4HANAで提供される最新のベストプラクティスは、ゼロから設計し直すグリーンフィールドに比べると制約が生じる可能性があります。そのため、現在のシステムが安定して稼働している企業や、大規模な業務フローの変更が不要な場合は、ブラウンフィールドの検討がおすすめです。

2. グリーンフィールド

グリーンフィールドは、既存のシステムを一から見直し、SAP S/4HANA上で新たにシステムを構築する方法です。「リビルド」とも呼ばれるこの方法は、現在の業務プロセスやシステム設計を刷新し、S/4HANAの最新機能やベストプラクティスを活用できるという大きな利点があります。企業がS/4HANAに対応した新しい業務フローを構築できるため、既存システムに抱えていた非効率な業務や冗長なプロセスを改善し、より効率的で柔軟なシステム環境の実現も可能です。

グリーンフィールドは、特に既存の業務フローに課題を抱えている企業に適しています。一方で、全く新しいシステムを設計するため、プロジェクトにかかる時間とコストが多大になりやすいことが特徴です。また、従業員のトレーニングなども必要になるため、移行計画においては事前の準備や綿密な計画が欠かせません。プロジェクトの進行中には、従来の業務と新しい業務との整合性を保つための管理も必要であるため、移行後のサポート体制も考慮しましょう。

3. 選択データ移行

選択データ移行は、ブラウンフィールドとグリーンフィールドの折衷案的な移行方法で、システム全体を一度に移すのではなく、重要なデータや必要な機能のみを段階的に移行します。この方法では、SAP ERP 6.0で扱っているデータの一部を選択的にSAP S/4HANAへ移行し、必要な部分に対して機能改修や新機能の追加を行うことが可能です。完全な再構築が必要なグリーンフィールドほどの時間やコストはかからず、既存の環境をある程度維持しながら新機能を取り入れることができるため、現行システムの改善を徐々に行いたい企業に適しています。また、システム全体の移行リスクを分散できるため、段階的にS/4HANAの環境に慣れていくことも可能です。

2027年問題への対策に向けて必要な備え

2027年問題への対応には、企業が今から準備を始めることが重要です。SAP ERP 6.0のサポート終了に伴うリスクを最小限に抑えるためには、システム移行計画だけでなく、組織全体での基盤整備も求められます。以下では、2027年問題に備えるために不可欠な3つの対策について詳しく解説します。

IT人材の確保

まずは、問題の対応にあたる優れたIT人材の確保が必要です。近年、IT人材の不足が深刻化しており、特に高度なスキルを持つ専門人材の需要は高まる一方です。2027年問題や2025年の壁といった課題に直面する今、企業がIT人材の採用や育成に力を入れなければ、システム移行や運用改善に対応できる体制が整わない可能性もあります。SAPやERPに精通したIT人材は特に希少なため、今後のシステム管理や保守運用のためにも、計画的な人材確保と、既存人材のスキルアップが重要です。

業務の標準化

業務を事前に標準化しておくと、システムの標準機能に業務プロセスを合わせやすくなり、将来的なシステム移行やアップデートが容易になります。標準化された業務フローは、時代の変化に合わせた柔軟な対応が可能となり、コスト削減にもつながります。さらに、業務プロセスの見直しによって、長期的な視点での改善と効率化を図ることができるため、企業としての競争力向上にも寄与します。

また、「Fit to standard」という新しいERP導入方法も、基本的には追加開発を行わずに業務標準化を進められるとして注目されています。Fit to standardについて詳しく知りたい方は、関連記事もご覧ください。

既存システムの整備

2027年問題に向けた対策には、現行システムの整備も必要になります。既存のSAP ERPシステムがどのような状態かを確認し、移行やサポート延長の際に問題となる部分がないかを把握することが重要です。システムの状態を把握しておけば、必要な移行計画やデータ整理がスムーズに進むだけでなく、将来的なトラブル発生も防げます。

また、古いシステムのままで運用を続けることで生じるセキュリティリスクや運用コスト増加の防止にもつながります。特に老朽化しているシステムや、パフォーマンスに課題があるシステムについては、適切なタイミングでアップグレードや改善を行い、2027年問題に備えた万全の体制を整えておきましょう。

SAPから移行するなら「NetSuite」

SAP ERP 6.0からの移行には、NetSuiteへの切り替えもおすすめです。NetSuiteは、SaaS型統合業務アプリケーションのリーディングプロバイダとして、多くの企業で導入されています。ERP、会計、CRMなど主要な業務アプリケーション機能をひとつのデータベースでまとめ、単一のシステム内で企業のさまざまな業務を効率的にサポートできるのが特長です。

また、NetSuiteはクラウドを前提として設計されているため、インフラ管理の負担が軽減され、最新バージョンへのアップグレードも同社が担当します。クラウドの利便性を活かして運用コストを削減しながらも、システムのアップデートや保守作業をNetSuite側に任せられるため、ITリソースを最小限に抑えることが可能です。ERP導入の効果や事例についてさらに詳しく知りたい方は、下記関連記事もご参照ください。

まとめ

2027年問題は、SAP ERP 6.0のサポート終了に伴うシステム更新の課題で、企業のIT基盤や業務運営に大きな影響を与えることが懸念されています。SAP S/4HANAへの移行や他社ERPの検討、IT人材の確保、業務の標準化、既存システムの整備など、多くの準備が必要です。

NetSuiteはクラウド型の特長を活かし、会計、ERP、CRMなどを統合したシステムを提供します。ひとつのシステムでさまざまな業務をまかなえる利便性や、常に最新機能へのアップグレードが自動で行われることも魅力です。ITリソースを抑えつつ無理なくシステムを安定運用でき、長期的な業務の効率化が期待できます。

2027年に向けて十分な準備を整え、堅実なIT基盤を構築していきましょう。

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