“クラウドERP”が世に浸透したことで、ERP市場におけるSaaSソリューションの重要性が益々高まっています。調査会社のITRが発表したレポート(ITR Market View:ERP市場2018)によると、2016年度の国内ERP市場の売上金額は809億円であり、前年から9.3%の拡大です。2017年度に関してはさらに11.7%拡大すると予測されています。
この売上金額のうちSaaSが占める割合は全体の16.9%であり、売上金額は前年度比44.2%増の137億円に達しています。さらに2021年度には国内ERP市場におけるSaaSの割合は全体の45%まで達する見込みです。
こうしたデータから見てもERP市場においてSaaS/クラウドソリューションは明らかにビジネスでの価値を高めており、大企業だけでなく中小企業にとっても無視できない存在です。事実、クラウドERPが浸透したことで中小企業のERP活用は拡大しています。
本稿でお話するのはこのクラウドERPを活用した“2層ERP(2 Tiers-ERP)”についてです。効き慣れない言葉かもしれませんが、昨今の日本ビジネスにおいて2層ERPもまたその重要性を高めています。
2層ERPとは一体何なのか?実現するための手法は?2層ERPのメリットも併せて解説します。
企業成長に伴うERPのニーズ
企業の成長と発展に伴い、国内外で支社や拠点が増えていくごとに管理が難しくなっていくことがグループ全体の経営管理業務です。
本社においては国内外のすべての支社や拠点から発生する経営データを常に監視して、その都度適切な経営判断を下していくという「経営のリアルタイム性」が強く求められます。もちろんそれと並行してガバナンスやコンプライアンスを維持していくことも同時に求められます。
つまり地理的に分散されたグローバル規模で情報共有やプロセスの最適化を図っていかなければならない、ということです。
しかしこうした経営管理業務が如何に困難であるかは、想像に難くありません。
世界規模でデータを統一するだけでも大変なのに、すべての支社や拠点から送られてくる経営データを集計・加工・処理することは本社にとってかなり大きな負担になります。何よりも問題なのは「リアルタイム性を維持することが難しい」という点です。
適切なタイミングで経営データが送られてくるかは支社や拠点の担当者に依存してしまいますし、データの集計・加工・処理そのものに時間がかかってしまうため、それらのデータを活用する頃には鮮度(正確性)が落ちてしまっています。
こうした課題を解決するための方法として、グループ全体でOracle ERPやSAP等のエンタープライズ・多国籍企業向けのERPをグループ全体に導入するという考えが一般的でした。
そうしたグループ全体で同一のシステム環境を構築すれば、データフォーマットが自然と統一され、かつグループ全体からのデータ収集・加工・処理の手間が削減されることで、経営管理業務の最適化が図れると期待されていたのです。
グループ全体に同一ERPを適用することの問題点
しかしながら、グループ全体にエンタープライズ・多国籍企業向けのERPを導入することには1つ大きな問題があります。それはグループ企業とはいっても本社と支社及び拠点では根本的な商習慣から違うケースが多く、ERPと業務のギャップを埋めるために想像以上の負担がかかり効率性を下げてしまったり、支社や拠点にとって本社と同じシステム環境が経済的にかなりの負担になることです。つまり「ERPのミスマッチ」が大きな問題として浮上します。
グループ全体での経営管理業務最適化のために一部の効率性や経済負担を犠牲にしなければならないため、なかなか解決し難い問題です。
2層ERPがグループ全体の経営管理最適化の救世主に
こうした大きな問題に対して有効的な解決先として発案されたのが2層ERPという概念です。
具体的に説明すると、2層ERPとは本社がすでに導入しているコアERP(OracleやSAP等の大型ERP)と共に、当該ERPと高い親和性と連携するためのインターフェースを持つクラウドEPRをサブERPとして導入します。
この企業として第2のERPであるクラウドERPは、クラウドのメリットの一つである俊敏性を生かして、支社や支店に導入したり、新規事業用のERPとして導入したり、もしくは一部の業務ニーズを満たすERPとして”迅速”な導入が可能になります。また、必要に応じて本社のコア業務を担うERPとこのクラウドERPを連携することで情報を管理することも可能になります。
このコアERPとサブERPの関係性が2層になっていることから2層ERPと呼ばれています。
なぜクラウドERPなのかというと、特別なインフラ環境の整備を必要とせず、本社もグループ全体もインターネットを通じてシンプルにERPを導入でき、かつネットワークを通じて簡単に連携できるからです。本社はコアERPとサブERPを持ち、支社や拠点は本社のサブERPと同じクラウドERPを導入します。
クラウドERPは大型ERPに比べて初期投資が非常に少なく、かつ異なる環境にもマッチできるようなアーキテクチャを持っています。低コスト(大型ERPに比べて)でかつ柔軟性の高いクラウドERPならば、国内外に展開する支社や拠点のすべての商習慣にそれぞれマッチさせながら、グループ全体の経営データ共有促進に役立ちます。
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2層ERPのメリット
2層ERPの具体的なメリットについて確認していきましょう。
国内外を問わずグループ全体の経営データがリアルタイムに活用できる
2層ERPとして採用するクラウドERPはインターネット経由での連携が簡単に行えます。そのため、国内外を問わずグループ全体の経営データをリアルタイムに活用できるのがまず着目すべきメリットです。
システム環境が異なればExcel等で経営データを収集する必要がありますが、クラウドERPの場合は収集の必要もありません。
本社アカウントよりグループ全体の経営データをリアルタイムに取得できますので、本社は常にリアルタイムな経営データをもとに経営判断を下していけます。
昨今盛んになっているM&Aに対しても柔軟性の高さを発揮する
世界はもちろん、国内のM&A市場が年々拡大傾向にあります。日本企業は全体数のうち99%以上が中小企業であり、さらに全体の85%が小規模企業だとされています。
そうした国内の大半を占める中小企業では経営者の高齢化に伴った事業継続問題を抱えているところが多く、その解決先としは“事業継続型M&A”を実行する企業が増えています。
そのため今後の日本ビジネスにおいてM&Aはさらに活発化が予想されており、中堅企業や大企業としては中小企業が持つ技術やノウハウを積極的に吸収するチャンスでもあります。
ただしM&Aによる経営統合ではシステム環境を取り巻く問題点も多いため、2層ERPを構築しておくことでよりスムーズなM&Aを実現します。
海外支社や海外拠点でも現地にマッチしたシステム構築が可能である
数あるクラウドERPの中には、多言語や多通貨に対応したものがあります。中堅・大企業向けの"Oracle ERP Cloud"や中小企業向けの"NetSuite(ネットスイート)"はそうしたクラウドERPの一つであり、現在世界で最も導入されているクラウドERPでもあります。
Oracle ERP CloudやNetSuiteは、多言語・多通貨に対応しているだけでなく、各国の会計基準に準拠したクラウドERPなので、経営データとして最も重要な財務会計を世界規模で最適化することでき、本社が欲しい経営データをいつでも経営ダッシュボードで確認できます。
すべてのデータは統一データベースで管理されますので、企業単位ではなくグループ単位での業務最適化も実現可能です。Oracle ERP Cloud、NetSuiteを2層ERPとして導入すれば、海外事業を拡大する際も可能な限り素早く、最適な経営管理環境を構築できます。
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2層ERPがビジネスを加速させる
以上が2層ERPの概要、実現する手法、それとメリットです。
ERPが事業規模を問わずすべての企業にとって重要性を増していることは確かであり、その中で2層ERPが多くの企業にとって重要なポジションを担っています。グループ全体の経営管理を最適化したい大企業やグローバル企業は、この機会にぜひ2層ERPをご検討ください。
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