せっかく業務効率化やスピード経営の実現を期待して評判の高いクラウドERPを導入したものの、いざ導入してみると期待した効果が現れず、「こんなはずじゃなかった」と感じている経営者や情報管理者は少なくないものと思われます。
クラウドERPを有効に機能させるためには、導入前からそれなりの準備を進めていくことが求められます。
今回は、クラウドERP導入が失敗に至ってしまった事例を運用時点から詳細に分析し、導入時に見落とすことのできない重要なチェックポイントについて解説していきます。
最適なERP導入はPDCA視点からの事前チェックで決まる
クラウドERPの導入を失敗する企業に共通して見られる傾向は、ERPの導入・運用を人任せにしているということです。人から薦められたから導入する、運用は情報システム部やサービス提供事業者に任せる、後はERPシステムが自動的に業務を効率化してくれる、これでは何のために「経営の見える化」を推進するクラウドERPを導入したのかわかりません。
クラウドERPに限らず全てのITシステムは、その導入によって何らかの目的を達するための「道具(tool)」に過ぎません。この大切なことに気がついていない企業が多すぎます。ITシステムを有効に使いこなせるかどうかは、それを活用するユーザー側の計画や運用方法の問題となってきます。
ITシステムの効果的な運用を図るためには、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のプロセスから成るPDCAサイクルから運用方法を適宜見直していくことが求められます。PDCAサイクルは、1950年代に品質管理の父といわれるW・エドワーズ・デミング博士が提唱した製造プロセスの継続的改善を図るマネジメントサイクルで、現在は業務改善の手法としても多くの企業で活用されているので、ご存知の方も多いと思われます。
ITシステムの導入にあたっても、このPDCAサイクルでの運用を前提にして導入計画を組み立てていくと、自社に最適なシステムの導入を図ることができます。それでは、PDCAそれぞれのアングルから、クラウドERP導入の失敗パターンを分析し、導入時点でのチェックポイントを導きだしていきましょう。
Plan(導入時期計画);導入を急がず綿密な事前計画を
<失敗パターン1>
A物流センターではこれまで活用していた在庫管理システムが老朽化しトラブルが頻発していたことから、新規システムへの早急な移行を優先課題に他の業務システムとの統合やイニシャルコストの抑制も図れるクラウドERPを導入。短期間での基幹システム刷新を実現したものの、各部署では従来からの業務フローや処理方法がまったく通用しなくなり、かえって現場が混乱する事態を招いてしまいました。
ビジネスに必要なあらゆる業務機能を提供するクラウドERPの導入は、これまでの業務フローを全体最適視点から再構築していきます。そのため、各業務のワークフローや処理方法も大きく変わり、基幹業務システムを継続的に活用してきた企業ほど、従業員はルーティン化された業務手順に慣れ親しんでしまっています。導入前にはシステムや業務フローが刷新されることを全社員に周知して意識を統一するとともに、部署によっては今まで扱ったことのないアプリケーションを活用することにもなりますので、情報システム部やサービス提供事業者の協力を得て事前に取扱い方法のマニュアル作成やセミナーを行うことも必要になってきます。
また、クラウドERPへのスムーズな移行を図るためには、これまで適用していた業務のあり方に一番近しいサービスを、あらかじめ選定しておく必要もあります。このためには、自社に必要な機能、導入にかけられる予算や期間を事前に割り出しておく必要があります。
Planは、デミング博士によると「目標を設定して、それを実現するためのプロセスを設計する」作業と位置づけられています。クラウドERPの導入を図る前には、導入の目的や時期、移行期間中の業務進行について、クラウドERPを活用する全社員で(もちろん最大の恩恵を受ける経営層も含めて)、導入計画を検討し、意識の統一を図ることで、スムーズにクラウドERPに移行できる体制をあらかじめ構築しておく必要があります。
[RELATED_POSTS]Do(全社運用計画);統一されたシステム活用のための準備
<失敗パターン2>
Bスーパーマーケットでは、各店舗での品切れや在庫ロスをなくすために、販売時点情報や在庫管理情報を全チェーンで共有できるクラウドERPを導入。確かに各店舗の欠品や在庫状況は「見える化」されるようになったものの、各店舗の発注担当者は相変わらずカンに頼った商品発注を行い、店舗ごとの品揃えや在庫状況のバラつきは一向に解消されませんでした。
クラウドERPを適用すると、今まで分断されていた様々な業務データが共通の基盤上に可視化されますから、一見、クラウドERP導入の効果が現れているように思われます。しかし、そのデータが実際の業務に反映されなければ、何のために全業務で統一されたシステムを活用するのかわからなくなります。
こうした問題は、導入決定者(たいていは経営層ですね)が「導入さえすれば業務効率が向上する」と安易に考えている際に起こりがちです。何のためにクラウドERPを導入しようとしているのか――導入決定者はそれをまず明確にして、全社員で統合システム導入の目的を共有しておく必要があります。
システムの運用を図るDoは、PDCAサイクルの中で「計画を実施し、そのパフォーマンスを測定する」作業と位置づけられます。クラウドERPの導入目的が明確になって、初めてクラウドERPのパフォーマンスを測定し、業務に効率的に反映させていくことが可能になります。
Check(導入評価計画);自社に最適なクラウドサービスの選定
<失敗パターン3>
C建設工業では着工前見積と実質的な工費との誤差を解消するために、顧問税理士から進められるままにクラウドERPサービスを導入。しかし、設計変更や海外からの資材調達などの建設業界特有の変動要因に対処できず、社内にITに詳しい人間もいなかったために手探りで機能の追加や別システムとの連動を繰り返すうちに、不効率でコストパフォーマンスの悪いERP導入となってしまいました。
Checkは、デミング博士によると「測定結果を評価し、結果を目標と比較するなど分析を行う」作業とされています。しかし、社内に情報システム部などの部署やITに詳しい人間が存在しない場合は、企業の基幹業務を司るクラウドERPを適正に分析・評価することができません。
この場合、クラウドサービスを提供するベンダーがエスコート役を果たすことになりますが、会計管理専門のベンダーがERPサービスを提供する場合もあれば、特定の業界に特化したサービスを提供しているベンダーもあり、その特徴は様々です。
クラウドERPサービス選定の段階で自社の業務課題に応えるベンダーを選定すると同時に、
身近にその効果を適正に分析・評価できる人間がいない場合は、多彩なオプション機能と適切な導入・運用サポートを提供し、導入前の不安や疑問を解消してくれるベンダーを選定することをお勧めします。
NetSuiteは、企業や業種別のニーズに合わせてカスタマイズができる開発プラットフォームを準備し、各業種に特化したソリューションを設計することが可能なクラウドERPサービスです。経営環境の変化に合わせて柔軟にトランザクションの拡張や機能追加に対応し、経営課題に応じて適切なトレーニングおよびサポートを提供して、導入企業が最適なクラウドサービスを稼働できる支援体制を確立しています。最も特徴的なのは、自社の成長や事業の展開に合わせて大きなコストをかけずとも、自律的に拡張できる常に最新の経営基盤を手にすることができるのです。
Act(業務改善計画);クラウドERPと連携した継続的な業務改善
最後に、これが最も重要なチェックポイントとなりますが、クラウドERP導入計画は必然的に業務再改善計画を伴います。
Actは、PDCAサイクルの中で「プロセスの継続的改善・向上に必要な措置を実施する」作業と位置づけられています。そして、そのために必要なデータを「見える化」し、「業務全体のプロセス統合と最適化」を図ることが、クラウドERPの本来の機能となります。
クラウドERPの導入を決定することは、自社の業務プロセスの中に継続的な改善のための仕組みを構築する決意をすることにほかなりません。経営の実態が「見える化」されれば、不効率なプロセスは省略されますし、不採算な部門は再編成され、全体最適視点からのBPR(Business Process Re-engineering/ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が加速します。
それこそ、クラウドERPを導入さえすれば組織や業務のあり方が大きく変わっていくこととなりますので、クラウドERPと連携した継続的な業務改善への決意を固めてから導入計画を進めることが、導入を成功に導く最大のキーポイントとなります。そして、自律的成長を促す運用です。これが最も重要です。
ビジネスに必要なすべての業務をシームレスに繋ぎ、全体最適視点から継続的な業務改善のPDCAサイクルを循環させるNetSuite で、初めてのクラウドERPの導入を成功へと導いてください。
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