その昔、春秋時代の中国に“敵を知り己を知れば百戦危うしからず”と喝破した偉大なる軍師あり。占いや吉兆で戦の行方を探る時代に、科学的・合理的な分析により常に戦に勝利する極意を見出し、率いる軍を常に勝利へと導く。それ故に彼の教えは2500年の時を超えて現代に語り継がれ、日本でも多くの経営者にビジネスの指南書として愛読されている。
今回は、現代のビジネスにも通じる孫子の教えを掘り起こし、戦乱の中国よりも苛酷な競争環境に立ち向かう中小企業の銘となる必勝の戦略を探っていきます。
正確な情報の共有なくして勝機は見いだせない
「衆を治むること寡を治むるが如くするは、分数是れなり。衆を闘わしむること寡を闘わしむるが如くするは、形名是れなり」
大兵団を統率する際に、小さな部隊のように統制が図れるのは、部隊編成と組織運営のルールが徹底しているからである。大兵団の戦闘が小部隊同様に統制できるのは、指令や情報の伝達がうまくいっているからである
古代中国の大兵団は何十万人の規模となりますが、モバイルやインターネットのない時代に兵の統率者は旗や太鼓の音で軍令を伝えていました。孫子が城内の警備を強化するために軍令の合図を無視した王の寵妾をその場で斬殺した逸話は有名ですが、要はそれだけ兵の統率手段として「情報の伝達と共有」の重要性を見抜いていたことになります。そして、その情報は正確なものでなくてはならないこともしっかりと喝破していました。
「故に、君の軍を患わす所以の者三あり。軍の以て進む可からざるを知らずして、之に進めと謂い、軍の以て退く可からざるを知らずして、之に退けと謂う。是を軍を縻ぐと謂う。三軍のことを知らずして、三軍の政を同じうすれば、則ち軍士惑う。三軍の権を知らずして、三軍の任を同じうすれば、則ち軍士疑う」
統率者でもない君主が軍令に口を出すと、軍が進撃してはならない状況の時に進撃を命令して勝機を逃し、指揮命令系統も混乱し、兵との意思疎通さえも阻害される
これは直接的には王の無謀を諫める言葉となりますが、現代に置き換えれば情報の混在や偏った認識での意思決定が組織内に無用な混乱やリスクをもたらすことへの警句と捉えることができます。
IT環境が整備された現在のオフィスでは太鼓を鳴らさずとも「情報の伝達と共有」を図ることができますが、老朽化した基幹システムや業務ごとに分断化されたアプリケーションがビジネスの勝機を逃し、経営層の迅速な意思決定を阻害して、現場に無用な混乱を招くことは多々あります。
たとえば、手頃な価格の基幹業務ソフトとして多くの中小企業で活用しているオンプレミスの会計ソフトでは、営業目標の達成度や在庫状況、製品の歩留まりなどの広範囲に渡ったビジネスの進捗をタイムリーに掌握できず、兵の統率者にあたる経営層や各現場のリーダーは、月に1度会計ソフトから出力される財務管理データだけを頼りにビジネスの意思決定を行うことになってしまいます。
ビジネスの勝機をつかむためには、統率者が迅速な意思決定を行えるように、正確な「情報の伝達と共有」が図れる仕組みを構築し、組織の統制を図ることの大切さを、孫子は今に伝えています。
兵の連携なくして軍は動かせない
それでは、孫子の考える“戦えば必ず勝利する統制のとれた組織”とは、どのようなものでしょうか。
「善く兵を用うる者は、夫れ、呉人と越人の相い悪むも、其の舟を同じうして済り、風に遇うに当たりては、相い救うこと左右の手の如し。勇を斉えて一の若くするは、政の道なり。剛柔皆な得るは、地の理なり。故に善く兵を用うる者の、手を攜うること一人を使うが若きは、已むを得ざらしむればなり」
戦上手の統率方法とは、たとえば呉と越の兵士が同じ船に乗り嵐に遭遇すれば、まるで左右の手のように連携して船を漕ぐようなものだ。剛強な兵士も柔弱な兵士も等しく勇気を奮い起こさせて、それぞれの役割を果たさせながらあたかも手をつないでいるかのように連動させ、まるで一人の人間のように軍を動かせるのは、統率者が状況を利用してそうせざるを得ないように仕向けているに過ぎない。これこそが軍の統制である
敵味方が同じ境遇に立たされる“呉越同舟”の故事は、耳にしたことがあると思います。現代のビジネスでは、部署間で戦をすることはさすがにありませんが、同じ組織の人間として変化の激しい経営環境に立ち向かうという意味では、やはり左右の手となって船を漕ぐような綿密な連携が求められてきます。
そんな時に、部署間の「情報の伝達と共有」が分断されていては、いかがなものでしょうか。財務会計管理は会計ソフト、在庫管理は在庫管理システム、営業部は販売管理とCRMを併用するといったように、部署ごとに異なる業務管理システムを適用していたら、業務間で関連するデータを照合・確認する手間や2重打ち込みのロスが発生し、経営層や各部署のリーダーが正確な情報に基づいて迅速な状況判断を行うことができません。部署間のシームレスな連携も遮断され、組織全体としての兵力も著しく低下してしまいます。
孫子の教えは、組織が連携して機能する仕組みを統率者が率先して構築することを暗に示唆していると解釈できます。
[RELATED_POSTS]“水の如く柔軟に、迅速かつ臨機応変に事に備えよ”
それでは孫子は統率された兵士を率いて、どのような戦いを演じていたのでしょうか。
「夫れ兵の形は水に象る。水の行は高きを避けて下きに走る。兵の勝は実を避けて虚を撃つ。水は地に因りて行を制し、兵は敵に因りて勝を制す。故に、兵に常勢無く、常形無し。能く敵に因りて変化して勝を取る者、之を神と謂う」
兵の動かし方に定められた型もなければ、一定の勢いも不要である。例えるならば、水のようなものだ。高きを避け低きに流れる水の如く、敵の兵力が充実した場所を避け、手薄になっている場所を攻める。水がその地形に応じて流れを変えるように、敵の動きに応じて柔軟に変化していく臨機応変の戦法が、神業に等しい勝利をもたらす
この教えほど、目まぐるしく変化する現代ビジネスの統率者に示唆を与える言葉はありません。消費者ニーズの多様化や顧客要求の高度化・複雑化、少子高齢化による国内市場の縮小やグローバルな競争の激化など、様々な経営課題に直面する中小企業にとって水の如き柔軟な経営姿勢と臨機応変な対応だけが事業の持続的な成長への活路を拓きます。
そして、孫子は次のようにも言い遺しています。
「兵は拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざるなり。夫れ兵久しくして国を利する者は、未だ有らざるなり」
用兵には多少まずい点があっても迅速に事を進めて成功したという話は聞くが、時間をかけてうまくいったという話は聞かない。そもそも戦争を長期化させて国家に利益をもたらした者など存在しないのだ
この場合、「戦争」を「オペレーション」に、「国家」を「顧客」に置き換えると、現代に意味が通じやすくなります。米国ゼネラル・エレクトリック社(GE)がITベンチャーの開発アーキテクチャを採用して、顧客の声やIoT(Internet of Things)データを瞬時に製品改良へと反映させる「インダストリアル・インターネット」の仕組みを完成させたことは記憶に新しいことと思います。
絶え間ない変化と進化を加速する現代のビジネスには、かつてないほどまでにスピーディな対応が求められ、現在のビジネス環境において意思決定の遅さや円滑に機能しない組織体制は致命的なものとなります。モバイルやインターネットのない2500年前の昔から、孫子は時代を超えて通用する“百戦危うしからず”の普遍的な真理を見抜いていたことになります。
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現代に甦る稀代の軍師・クラウドERP
中国古典では諸葛亮孔明も大局的に戦を捉える軍師として著名ですが、孫子の兵法は「情報の伝達と共有」「用兵の妙(組織の連携)」「戦略の臨機応変」の3つの視点が特に優れ、それゆえに戦えば必ず“百戦危うしからず”の勝利へと導きます。
そうした心強い軍師が身近にいれば中小企業の経営も心強いものとなりますが、希有なことに現代にもこの3点においてどのITシステムよりも優れるビジネスのナビゲーター役が存在します。
会計管理、販売管理、在庫管理、生産管理などのビジネスに必要な全ての業務アプリケーションを統合するERP(統合基幹業務)システムをWebベースのソリューションとして提供するクラウドERPは、フロントからバックオフィスまでのすべてのトランザクション(データ処理)を単一のデータベース内に一元的に管理し、全部門のKPI(重要業績指標)をリアルタイムに可視化して「情報の伝達と共有」を促すとともに、分断されていた業務プロセスを全体最適の視野から円滑に「連携」して、迅速かつ正確な経営判断を支え、変動する経営環境に「臨機応変」に対処します。
さらに経営の根幹となる財務会計管理をベースにCRM(顧客管理)、Eコマース、多言語/多通貨対応などのビジネスのニーズを全方位的に捉えたマネジメントツールとして機能するNetSuiteならば、グローバルレベルでの「情報の伝達と共有」と「組織連携」を実現して業務プロセス改善と業績向上を「臨機応変」にナビゲートし、皆様のビジネスを勝機へと導きます。現代に甦った軍師として傍らに置き、“百戦危うしからず”の経営を実現してください。
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