事業活動では、収支の管理や勘定科目の分類、売掛金や買掛金の処理、財務諸表の作成といった経理・会計業務が発生します。法人や個人事業主などの事業者は、原則として事業活動で発生するお金の動きを法的要件に基づいて管理しなくてはなりません。こうした業務の効率化や確実化を図る上で重要な役割を担うのが、会計ソフトです。
会計ソフトとは
会計ソフトとは、経済活動で発生するお金の動きを電子的に管理するシステムです。1980年代後半にパーソナルコンピュータの普及が進み、同時期にインストール型の会計ソフトが開発され、それに伴って経理・会計業務のデジタルシフトが加速しました。
一般的な事業者は、企業会計原則に基づいて複式簿記で仕訳を行い、期末に貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などの財務諸表を作成します。その上で財務諸表に基づいて税務申告書を作成し、税務官公署に提出しなくてはなりません。この経理業務や会計業務のサポートが会計ソフトの役割です。
会計ソフトの種類や特徴について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
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日本の三大会計ソフトとは
株式会社ワンズマインドの調査(※1)によると、企業間取引を主体とするBtoB企業の会計ソフト導入率は74.7%となっています。なかでも高いシェアを誇るのが「弥生会計」「マネーフォワードクラウド会計」「freee会計」の3つです。これら3つの製品は国内市場で「三大会計ソフト」と呼ばれています。
■会計ソフトの市場占有率
1位 弥生会計:45.2%
2位 マネーフォワードクラウド会計:24.2%
3位 freee会計:21.0%
弥生会計は会計ソフトの老舗と呼ばれる製品であり、初心者でも導入しやすく操作性に優れ、サポート体制が充実している点が大きな特長です。クラウド型とインストール型の両方に対応しており、中小企業や個人事業主を中心として高い支持を得ています。
マネーフォワードクラウド会計は連携できる外部サービスが多く、クレジットカード連携の仕様が便利な会計ソフトです。
また、日本最初のクラウド会計ソフトとされているfreee会計は、直感的でシンプルな操作性が特長です。簿記の知識が希薄でも経理・会計業務を遂行できる会計ソフトとして人気を博しています。
(※1)参照元:BtoB企業の会計ソフト導入率は74.7%、税理士への依頼有無に関わらず7割以上が「導入している」|比較ビズ
会計ソフトの種類:提供形態の違いについて
会計ソフトは大きく分けるとクラウド型とインストール型の2種類が存在します。会計ソフトを導入する際は、それぞれの違いを把握した上で、自社の要件に適した製品を選択することが重要です。
クラウド型
クラウド型の会計ソフトは、PCやサーバにソフトウェアをインストールする必要がなく、一般的なインターネット環境さえあれば時間や場所を問わずに利用できる点が大きな特長です。定期的に無料でアップデートが提供されるため、最新の税制や会計基準に対応できるという利点があります。
また、サービス事業者のサーバにファイルが保管されるため、コンピュータに物理的な破損が生じてもデータ自体は影響を受けません。原則として毎月のライセンス料が発生するものの、利便性の高さや事業継続性の観点から、会計ソフトの主流はインストール型からクラウド型へ変遷しつつあります。
インストール型(オンプレミス型)
インストール型の会計ソフトは、PCやサーバに専用のソフトウェアをインストールして利用する提供形態です。基本的に社内LANの閉ざされたネットワークの中で運用するため、オンラインを介した不正アクセスやマルウェアの被害を受けにくいというメリットがあります。
原則としてローカル環境で稼働することから、処理速度がネットワーク帯域幅に依存しない点もメリットのひとつです。また、インストール型の会計ソフトは永久ライセンスが提供される製品が多く、一度の購入で期限の制限なく利用でき、基本的に導入後の維持費が不要という利点があります。
会計ソフトの役割
会計ソフトの基本的な役割は会計業務の効率化です。企業会計は目的によって「管理会計」と「財務会計」に区別されます。ここでは管理会計と財務会計において会計ソフトの果たす役割を解説します。
管理会計における役割
管理会計とは、事業戦略や機能戦略の立案、資金繰り計画の策定などに役立てる「社内向けの会計業務」です。原則として管理会計は任意の会計業務であり、法的な要件に従う必要はなく、企業が独自のルールに則った形式で実行します。
会計ソフトが提供するのは、カスタマイズ性の高い帳票作成機能による、記帳の効率化・自動化のサポートです。そして蓄積された会計データに基づいて予算管理や原価管理を実行し、データドリブンな意思決定と経営判断を支援します。これらが管理会計における会計ソフトの役割です。
財務会計における役割
財務会計とは、自社の経営状況や財務状況をステークホルダー(投資家や株主など)に開示する「社外向けの会計業務」です。財務会計は一般的な企業に課せられた義務であると同時に、株主や投資家、金融機関、消費者などの信頼を獲得する上で非常に重要な役割を担っています。
財務会計では、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などの財務諸表を法的要件に基づいて作成しなくてはなりません。したがって、財務会計における会計ソフトの役割とは、企業会計原則に準拠した財務諸表を作成し、ステークホルダーに正確な経営状況を開示することです。
会計ソフトの5つの機能
会計ソフトには、経理・会計業務を効率化するさまざまな機能が搭載されています。なかでも代表的な機能として挙げられるのが以下の5つです。
1. 経営活動に関わるあらゆるお金の計算
企業は現金売上や売掛金の入金、原材料の調達費、経費の支払い、給与計算など、経営活動に関わるお金の動きを正確に把握しなくてはなりません。会計ソフトは日々の取引で発生する金銭の動きを一元管理し、総勘定元帳や仕訳帳などに正確に反映できるため、Excelよりも効率的に経理・会計業務を遂行できます。
2. 帳簿への自動入力
会計ソフトの代表的な機能のひとつは記帳の自動化です。たとえば会計ソフトに特定のクレジットカードを登録しておけば、支出の明細を自動的に取得し、その内容に基づいて勘定科目を分類したり、仕訳帳に出力したりできます。それによって仕訳や記帳を効率化しつつ、入力ミスなどのヒューマンエラーを軽減できます。
3. 各種支払いのスケジュール管理
会計ソフトは支払管理機能が搭載されているサービスが少なくありません。それにより、仕入れ先への入金や税金の納付、給与の振り込みといった定期的な支払いを事前にスケジューリングできます。支払いの遅延による信用低下やペナルティを防止できると共に、資金繰り計画を立てやすくなる点がメリットです。
4. 事業状況のデータ分析
会計ソフトが持つ代表的な機能のひとつがデータ分析機能です。入出金や経費などの会計データをグラフやチャートに変換し、売上高の増減や利益率の推移などを視覚的に分析できます。事業の財務状況を俯瞰的に把握できれば、経済的なリスクの早期発見や、データを起点とする資金繰り計画の立案が可能です。
5. 決算書の作成
原則として一般的な企業は事業年度ごとに決算書を作成し、法人税を申告しなくてはなりません。会計ソフトは日々の取引データを自動的に集計し、そのデータに基づいて貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表などの決算書を自動的に作成できます。
会計ソフト導入で得られる5つのメリット
会計ソフトは経理業務や会計業務の精度向上を図る上で極めて重要なソリューションです。ここでは会計ソフトの導入によって得られる5つのメリットについて解説します。
1. 経理業務を効率化できる
経理は事業活動で発生した取引の仕訳や決算書の作成などを担う仕事であり、専門的な知識と正確性が求められる業務です。
たとえば100円のボールペンを現金で購入した場合、購入費用を「消耗品費」の勘定科目に分類し、「借方:消耗品費/100円」「貸方:現金/100円」と仕訳します。そして仕訳の内容を仕訳帳に記録し、さらに総勘定元帳勘定に転記しなくてはなりません。
会計ソフトは「取引日」「勘定科目」「取引手段」「摘要」「取引先」「金額」などの項目が設けられており、各項目を入力すると仕訳と記帳が自動的に処理されます。ソフトによっては銀行との連携機能を活用し、当座預金やクレジットカードの処理を自動化することも可能です。
2. 会計業務のミスを軽減できる
会計業務は管理会計と財務会計に分類され、それぞれにおいて会計データの正確性と完全性が求められます。
会計ソフトは仕訳や入出金管理、請求書の発行、支払い処理、給与計算などの業務を効率化・自動化し、企業の会計データを正確に記録できる点が大きな特長です。また、会計データを統合的に管理することで、内部の人間による意図的なファイルの流出や情報の改ざんなどを防止できます。
3. 帳簿作成・書類作成を簡単に行える
会計ソフトを導入することで、仕訳帳や総勘定元帳勘定といった帳簿の作成と、貸借対照表や損益計算書などの書類を簡単に作成できます。それらによって得られるメリットは、経理・会計業務の属人化を防止できる点です。
経理業務は簿記や税法などに関する専門知識が不可欠であり、会計業務では会計基準やリスク管理、金融情報などへの高度な知見が求められます。そのため、複雑な税務処理や特殊な取引形態では、熟練の担当者に依存するケースが少なくありません。
しかし、会計ソフトであれば、簿記や税法の知識が希薄な従業員でも一定以上の業務を遂行可能です。そして、企業会計原則に基づく帳簿や書類を自動的に出力できるため、熟練の担当者しか対応できない業務領域を削減し、経理・会計業務の標準化を促進できます。
4. 財務状況を把握できる
会計ソフトには事業活動で発生する日々の取引データが集約され、入出金の増減や売上高の推移、経費の発生状況などをリアルタイムに把握できます。これらはグラフやチャートで視覚的に捉えることも可能です。
事業戦略の立案や機能戦略の見直し、設備投資などの重要な経営判断を下す場合、正確な会計データに基づく財務分析が欠かせません。会計データから財務状況を分析できれば、現状の課題や予算の過不足を把握し、適切な資金繰り計画を策定できます。
また、事業資金を確保するためには、法令を遵守した上で税務計画や節税対策を推進しなくてはなりません。会計ソフトを活用すれば、売上高と経費のバランスをリアルタイムに把握できます。これを基に設備投資や決算賞与の支給などで戦略的に利益を圧縮しつつ、税負担の最適化を図れます。
5. 最新の税制、法改正に対応できる
会計ソフトを導入する利点は最新の税制や法令の改正にも対応できることで所得税や法人税、消費税などに関する税制と、国会や行政機関が制定する法令は時代の流れと共に改正されます。
2023年10月よりインボイス制度が施行され、企業が仕入税額控除を受けるためには適格請求書の発行・保存が求められるようになりました。また、電子帳簿保存法の改正により、2024年1月から電子取引データの保存が完全義務化されています。
こうした税制や法令の改正への対応が遅れれば、税務申告に不備が生じたり、法令違反によって行政処分を受けたりするリスクが高まります。会計ソフトは税制や法令の改正時にアップデートが速やかに提供されるため、コンプライアンスを強化しながら経理・会計業務を効率化できる点が大きなメリットです。
会計ソフトが持つデメリット
会計ソフトは企業に多大な恩恵をもたらすソリューションですが、いくつかの懸念事項や注意点も存在します。ここではクラウド型とインストール型の特徴を踏まえた上で、それぞれが持つデメリットについて解説します。
クラウド型が持つデメリット
クラウド型の会計ソフトは、一般的にSaaS(Software as a Service)として提供されます。SaaSはサービス事業者が提供するコンピュータリソースをオンライン上で利用する仕組みです。
しかし、SaaSはインターネット環境に対する依存度が高く、オンライン接続に何らかの障害が発生した場合、会計ソフトへのアクセスが制限される可能性が懸念されます。サービス事業者のITインフラにインシデントが発生した場合も同様に利用が制限され、経理・会計業務の遂行に支障をきたすリスクがあります。
また、SaaSはコンピュータリソースをパブリック環境で共有するという性質から、情報セキュリティの脆弱性を危惧する声も少なくありません。さらにSaaSの料金体系は基本的にユーザー数やアカウント数に基づいて設定されるため、多くの従業員が利用する場合はコストが高額になる点もデメリットのひとつです。
インストール型が持つデメリット
インストール型の会計ソフトは、インターネット環境への依存度が低く、オンラインを介したセキュリティインシデントが発生しにくい製品です。その反面、基本的にインストールした端末でしか利用できず、社内LANで運用するのが一般的なため、会計ソフトへのアクセスに地理的・時間的な制約が生じます。
また、サービス事業者が提供するコンピュータリソースを利用するクラウド型とは異なり、情報処理の速度やデータの保存容量が自社のハードウェアに依存します。サーバダウンやネットワーク障害などのインシデントが発生した場合、データの破損やファイルの消失といったリスクを招きかねません。
さらにインストール型はアップデートに追加費用が発生する場合があます。税制や法令の改正があった場合、サービス事業者から対応するパッチやアップデートが提供されますが、その適用はユーザーが主導で実行するのが一般的です。
会計ソフト導入の流れ
会計ソフトを導入する際は、以下に挙げる4つのプロセスを段階的に進めていくのが一般的です。
1. 導入する目的を明確にする
会計ソフトはサービスによって特性が異なるため、目的の明確化が必要です。たとえば経理業務の負荷軽減が目的なら、仕訳の自動処理や銀行と連携した入出金データの自動取得といった機能が求められます。
また、会計データを経営分析に活用するのであれば、財務指標をグラフやチャートに変換する機能が必要です。このように目的を明確化することで必要な機能が具体化され、導入する会計ソフトを定める一助となります。
2. 会計ソフトを比較する
導入目的を明確化できたなら、次は自社の要件を満たす会計ソフトをいくつかピックアップします。そして機能性やコストパフォーマンス、導入実績などを考慮しつつ製品を比較検討します。
また、法人向けか個人事業主向けか、クラウド型かインストール型か、サポート体制は充実しているかなども重要な判断要素です。以下の記事で会計システムの選び方を解説していますので、参考にしてみてください。
3. 試用で使いやすさを確認する
導入する会計ソフトの候補を絞り込めたなら、次は試用で使いやすさを確認するフェーズです。会計ソフトは無料の試用期間を提供している製品が多く、データ入力や仕訳処理の使用感、FAQの充実度などを確認できます。
その際は経営層がトップダウンで決定するのではなく、現場の意見を取り入れることが重要です。経理業務や会計業務の担当者が試用することで、経営層が見逃しがちな現場のニーズを汲み取れる可能性が高まります。
4. 導入・設定を行う
試用を通して自社の要件を満たす製品を選定できたなら、次は実際の導入と設定に移行します。クラウド型であれば基本的にオンライン上の申し込みで導入が完結しますが、その後にセキュリティやバックアップなどの細かな設定が必要です。
会計データのセキュリティを担保する上で、データの閲覧・編集・削除といったアクセス権限の設定は極めて重要です。各種設定に不安がある場合はサポートデスクへの問い合わせが推奨されます。
会計ソフトを検討するならERPも選択肢の一つに
ERPとは、会計業務のみならず事業における複数業務を一元管理できるシステムのことです。会計ソフトで効率化できるのは基本的に会計業務のみですが、ERPパッケージは複数業務、つまり企業全体の業務を時短・効率化することができます。
OracleのNetSuiteはクラウドERPとして世界的に幅広いシェアを誇り、その導入実績は20,000社以上に及びます。グローバルなクラウド型ERPとして利用でき、19種類の言語・190種類以上の通貨・各国会計基準に対応しているなどのメリットがあります。さまざまな業務と連携し一元管理できるため、会計ソフトの導入を考えるなら、ERPも選択肢の一つに入れておくと良いでしょう。
すべての業務が一つに繋がるERP「NetSuite」
NetSuiteは、会計・財務・人事・購買・生産・在庫管理・販売といった基幹業務を統合的に管理し、全社横断的な情報共有と業務連携を実現するソリューションです。クラウド型のERPなので物理的なITインフラを構築する必要がなく、基本的なインターネット接続環境さえあれば統合基幹業務システムをパブリック環境に構築できます。経理・会計業務の効率化のみならず、基幹業務全体の最適化を図りたい方はNetSuiteの導入をご検討ください。
NetSuiteと会計パッケージの違い
NetSuite社は20年以上にわたり既存の会計パッケージの限界に達しているお客様と接してきました。そして、その多くのお客様が既存会計パッケージからクラウド上に展開されるNetSuiteへ移行しています。NetSuiteは、中堅・中小企業の幹部や財務経理責任者、営業責任者、IT部門などから多くの評価をいただいてきました。
まとめ
会計ソフトは、お金の動きを電子的に管理し、記帳の効率化や財務諸表の作成などを支援するソフトウェアです。代表的な機能としては、経営活動に関わるお金の計算や帳簿への自動入力、支払管理、事業状況のデータ分析、決算書の作成などが挙げられます。
これらの機能によって経理・会計業務を効率化し、財務状況を俯瞰的に把握しながら、決算書の作成や税務申告を自動化できる点が会計ソフトのメリットです。会計ソフトを導入する際は、目的を明確化した上で複数の製品を比較検討し、自社の要件に適したサービスを選定することが大切です。
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