開始から完了までの時間を指す「リードタイム」という言葉は、在庫管理と密接な関係にあります。在庫管理本来の目的というのは“適正在庫を保ち機会損失やキャッシュフローの悪化を阻止すること”です。
では適正在庫とは何か?この定義は企業によって異なりますが、一般的には急な発注にも対応でき、かつ極力少ない在庫数と考えることができます。
実はこの適正在庫を維持するためにリードタイム管理が非常に重要になってくるのです。
そこで今回は在庫管理において重要な「発注リードタイム」「製造リードタイム」「出荷リードタイム」をそれぞれ解説していきたいと思います。
発注から納品されるまでのリードタイム
発注リードタイムは「購買リードタイム」や「調達リードタイム」などとも呼ばれ、サプライヤーに発注をかけてから納品されるまでの時間(日数)を指します。
部品発注はいかなる製造業でも発生するものであり、かつ在庫量を決定する大きな要素の一つなので発注リードタイムを改善することが直接的な在庫削減につながるのです。
なぜ発注リードタイムを短くすることが在庫削減につながるのか?
例えば、発注リードタイムを10日間として部品100個を納入するとします。このサイクルで部品を購入していくと、平均在庫数は約60個程度になるでしょう。
では発注リードタイムを6日間として部品60個を納入するとします。これにより平均在庫数を40個程度まで落とすことができるのです。
在庫数を削減するメリット
まず平均在庫数が減ることでキャッシュフローが良くなり、できるだけ多くの在庫を現金化することができます。在庫自体が経営状況を圧迫するといった話は珍しくないのでこれは非常に重要なことです。資金繰りが上手くいけばその分他のところへ投資することができますね。
次に、スペースに余裕が生まれます。つまり在庫管理のしやすい環境を整えることができるので、部品や仕掛け品を適切に管理できるようになるのです。
このように発注リードタイムを短くすることで良いサイクルを生みだし、適正在庫を維持していくことができるのです。
発注リードタイムを改善するために実行すること
発注リードタイムを改善して適正在庫を維持したいからといって、いきなりサプライヤーに「短くして」と言ってもほぼ不可能です。サプライヤーにも生産サイクルというものがあるのでしっかりと交渉する必要があります。
そこで実行して欲しいことは2つあり、まずはサプライヤーの生産工程を知ること。サプライヤーの生産工程を知ることで納品遅れを出さないためにどの程度余裕を持って生産しているかを知る事ができます。そしてこの余裕をできる限り短くしてもらうよう交渉すれば、単純に発注リードタイムを短くすることが可能です。
そしてもう一つは内示情報をサプライヤーと共有することです。自社の生産スケジュールを予め共有することがサプライヤーは見込み生産が可能になり、その分発注リードタイムを短くすることができます。ただし、内示情報はその精度が命です。精度が低い場合サプライヤーの信用を失うことにもなるので、精度を高めるよう努力する必要があるでしょう。
生産開始から完了までのリードタイム
製造リードタイムは生産開始から完了までのリードタイムであり、在庫数にも納期にも影響のあるリードタイムです。
そしてさらに、製造リードタイムは以下のように分類することができます。
- 製造リードタイム:生産着手から完了まで
- 工程リードタイム:各工程の着手から完了まで
- 作業リードタイム:作業ごとに着手から完了まで
このように分類されていることから管理が難しいように感じますが、実は社内努力だけで改善できるのでその分改善が簡単です。もちろんあくまで発注リードタイムなどに比べて簡単という意味です。
製造リードタイムを改善するためには“無駄”を排除する
生産過程には多くの無駄が存在します。まず「生産計画の無駄」はしっかりとした生産計画がないことで作業員の手持ち(何もしない)時間が増えてしまい、生産工程の流れを悪くしています。さらに突発的な指示が発生しやすいため余剰生産を生んでしまうのです。
「運搬の無駄」は工程順序とライン整備が整っていないことで起き、部品が上手く供給できないという問題が発生し生産遅延を招きます。
「段取りも無駄」はその分生産着手への遅延を意味しているので、自然と製造リードタイムが長くなってしまいます。
「行動の無駄」は作業の無駄でもあり、製造過程における問題を作業者が毎回取り除くといった無駄が該当します。予め問題が発生しないよう対処しておけば、無駄もなくなり作業工程がスムーズに進んでいきます。
このように、製造リードタイムの改善は生産工程から一切の“無駄”を排除することです。製造リードタイムが改善すれば生産日数が短くなります。すると自然と納期も短くなり、仕掛け品が減り、部品在庫も少なくなっていくのです。
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受注から納品までのリードタイム
3つめの納品リードタイムは受注から納品までのリードタイムであり、これは生産方式によって定義が異なります。完全受注生産であればサプライヤーへの部品発注から納品までであり、完全見込み生産ならば受注から納品までが納品リードタイムとなるのです。
ただ上記はあくまで極端な例であり、生産方式は実に様々です。そこで生産方式ごとの納品リードタイムとの関係とそれぞれの特徴を紹介しておきます。
STS(Sale to Stock)
いわゆる「在庫販売」というもので、主に小売店で取られている方式です。在庫が手元にあることからすぐに製品を手渡せるので納品リードタイムは最も短くなります。
MTS(Make to Stock)
「見込み生産」のことであり、生産方式の中では最も納品リードタイムが短くなります。ただし重要予測がしっかりとしていないと余剰在庫を生みやすくなるので、キャッシュフローの難しい生産方式です。
ATO(Assemble to Order)
「受注組立て」による生産方式であり、顧客からの受注があった段階で仕掛け品を集め組み立てを行います。仕掛け品が主な在庫となるので管理には十分注意が必要なケースが多いでしょう。納品リードタイムは比較的短くすることが可能です。
BTO(Build to Order)
「受注加工組み立て」のことであり、顧客から受注のあった段階で部品や原材料を加工して生産を開始します。在庫数を少なくすることができますが納品リードタイムは長めです。
MTO(Make to Order)
「完全受注生産」のことであり、在庫は一切持たないのが特徴です。このため在庫の無駄を生むことはありませんが納品リードタイムは自然と長くなります。
ETO(Engineerng to Order)
「受注設計生産」のことであり、顧客から受注のあった段階で設計を行い生産へと着手します。主に注文住宅やオーダーメイドなどで取られる生産方式で納品リードタイムは最も長くなるのが特徴です。
このように納品リードタイムは生産方式によって異なるので、特定の改善策というものがありません。生産方式ごとに試行錯誤して短くしていくのがベストです。例えばMTOならば生産工程全体を最適化することが納品リードタイムの改善につながります。
適正在庫の維持に直接的関係はありませんが、顧客満足度を向上させるためには重要なポイントです。
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各リードタイムを最適化するためのソリューション
在庫管理における各リードタイムの改善には、時にITの力を借りることで改善できる点がいくつもあります。例えば社内システム全体から生成されるデータをリアルタイムで分析することで、正確な内示情報を出し発注リードタイムを短くすることが可能です。
生産管理システムと在庫管理システムの連携が取れていれば、製造リードタイムにおける無駄ポイントを見つけることも難しくないでしょう。
このように各リードタイムを最適化するためのソリューションとして「クラウドERP」が挙げられます。クラウドERPとは1990年代後半を境に大企業で広く普及したERPソリューションをクラウドで提供するものです。
在庫管理システムを始め、生産管理システム・販売管理システム・会計管理システム・顧客管理システム・営業支援システム等々、企業経営に必要なあらゆるシステムを一気通貫で提供しています。
従来のオンプレミス型では導入に数千万程度必要なことも少なくないので、大企業向けのソリューションというイメージもありました。しかし、現在ではクラウドERPが台頭していることで中小企業にも広く浸透しているソリューションになりましたね。
サーバ調達や初期費用は不要なため導入コストを抑えることができ、さらに運用管理業務もないので人件費の削減や管理負荷の軽減を実現することもできます。さらに在庫管理における各リードタイムを最適化することもできるので、キャッシュフローを改善することも可能ですね。
まとめ
今回在庫管理のおける3つのリードタイムについて解説しましたが、皆さんの企業では各リードタイムの最適化が図れているでしょうか?もしも、在庫管理が上手くいっていないと感じたのであれば今一度各リードタイムを見直すことをおすすめします。
特に発注リードタイムと製造リードタイムを積極的に改善していけば自然と在庫数が減り、キャッシュフローを良くしていくことができるでしょう。
さらにクラウドERPで連携の取れた強い基盤があれば、あらゆる業務を最適化しビジネスを加速させていくことができます。まずは今回紹介した改善方法を試してみていただければと思います。
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- サプライチェーン/生産管理
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- 在庫管理