シリコンバレーがホットですね。いや、本当に暑いです。
サンフランシスコは一年を通じて涼しいですが、サンノゼのあたりは太陽ギラギラで暑い、、、という、気候の話もありますが、実際、日本の大企業が研究所を新たに構えたり、政府が経産省がシリコンバレーに人を送り込んだりと、ずいぶんホットではあります。でも、実際に行ってみるとそれほど熱くない、、、というか何もない。むしろ私の感覚からすると、渋谷とか秋葉原のほうが熱い。そう、シリコンバレーを「地域」ととらえている記事はよく見るのですけれど、それほどの重心は彼の地には無いと思うのです。だから、シリコンバレーを場所で論じる文脈は軽薄になります。シリコンバレーはマインドの総称であり仕組みの総称だと思います。何がシリコンバレー的なのか、頭を整理してみました。
破壊的イノベーションをシリコンバレー的と呼ぶ
折り紙を二つ折りに重ねて折っていった場合、何回折ることができるでしょうか。実は1枚の紙はどんなに頑張っても8回までしか折れません。0.1mの厚さの紙も2倍2倍に増えていくと8回目で辞書並みになり、もう二つ折りにできる状態ではなくなります。
技術資産とインフラ資産は蓄積して低減せず、次の時代には前の時代の資産を利用する限界コストは限りなくゼロになっていきます。これがムーアの法則に代表される、シリコンバレー的エクスポネンシャルの考え方の基本になっています。リニア(算術的)な増加が1,2,3・・と増加するのに対し、エクスポネンシャル(指数関数的)は2倍、4倍、8倍という増加の仕方をします。前述の折り紙ですが、仮に51回折るとその厚さは地球と太陽の距離になります。これがエクスポネンシャルのパワーです。
人類の発展やテクノロジーの発展はまさにエクスポネンシャルであるというのがシリコンバレー的考え方です。現在は、張り巡らされたインターネット資産やインフラ資産を利用した産業構造の根本的変化が始まっています。破壊的なイノベーションはエクスポネンシャルに加速するテクノロジーから生まれます。それを見据えた一歩先の破壊的イノベーションを思考する人たちがシリコンバレーには確かにたくさんいます。その代表が著名な脳科学者であるレイ・カーツワイルであり、彼が創設したマウンテン・ビューにあるシンギュラリティ・ユニバーシティです。
未来への楽観論をシリコンバレー的と呼ぶ
人間は楽観的なニュースよりも悲観論なニュースに10倍反応するといわれています。それは、人間には生存本能があるからです。
悪いニュースは必要以上にシェアされ、人々は必要以上に悲観的になり、メディアもうまくそこに入り込みます。私が学生だった20年前、途上国の発展によって石油が枯渇し、地球全体が飢えると言われていました。でも、食料問題もエネルギー問題も20年前に言われていたほど悪くならないし、むしろ人間生活は向上しているとは思いませんか?。一時は地球壊滅かと騒がれたオゾン・ホールなどは言葉すらニュースに出なくなりましたよね。人間は危機を煽られると弱いのです。例えば、無駄な危機意識をあおるとの観点から、フロリダ州では環境変化や地球温暖化という言葉を公的文書に使うのを禁止しています。
先日、2014年の日本の二酸化炭素排出量が予想以上に減ったと報道がありました。原発が稼働していないのに、、です。世界市場では数年前のシェール・ガス/オイルのバブルははじけ、多くの開発は中断されたままなのに、原油の価格が下げ止まりません。これは果たして一過性の物でしょうか。再生可能エネルギーによって、今後エネルギーコストは限りなくゼロになっていく。というのがシリコンバレーの考え方です。実際、太陽光発電の効率はエクスポネンシャルに増加していますし、コストはエクスポネンシャルに下がっています。太陽のパワーをフル活用できれば、10秒で人類の1日分、1時間で1年分のパワーが供給できます。(地球の水循環は太陽の力で起きているので、広義では風力も水力も太陽エネルギー発電ですね。)
一方でテクノロジーはUberやAirbnbのようなシェアリングエコノミーやクラウドコンピューティングを生み出しました。そもそも、人類の発展とシェアリングは切り離せません。自給自足だった食料調達を農業という形でワークシェアし、空いた時間を労働に回すことで近代経済が発達しました。保育園という形で家庭内の子育て労力を地域でシェアするからこそ女性が働きに出られるようになり、経済が活発になりました。実際、シリコンバレー企業はクラウドERPをはじめとしてクラウドコンピューティングを使い倒していますし、それによって省エネルギーでの経営を可能としています。
人類のあらゆる問題は科学技術が解決すると信じることをシリコンバレー的と呼ぶ。実際、話してみると彼らは驚く程未来に対して楽観的です。未来を信じるからこそそれに対して積極的に関わろうとしますし、そこから破壊的イノベーションが起こります。この辺の雰囲気が分からずに、「なんとなくの悲観論」に後押しされてシリコンバレー(という地域)に行けば何とかなると考えるのは本末転倒ですね。
[RELATED_POSTS]開拓者への資本の集中をシリコンバレー的と呼ぶ
コロンブスもマゼランも航海に出る前に巨額の資本の蓄積を必要としました。新たなフロンティアに向かうには巨額の資本蓄積がいります。米(アップル・グーグル・MS・アマゾン)のトップ4社の時価総額合計がドイツの株式市場総額を超えるのは単純にそういうことでしょう。現在は、次のフロンティアに向けての資本の集中が始まっているわけで、名もないベンチャーが巨額の資金集めできるのは彼らがシリコンバレーという場所に居るからではなく、彼らが次のフロンティアへの航海をしている開拓者だからなのでしょう。シリコンバレーにはゴールドラッシュから続く開拓者スピリットがあります。
と、実はここに落とし穴があります。シリコンバレーにフロンティア・スピリットが根付いているのが確かだとして、煌びやかな49ers(ゴールドラッシュに集まってきた人々)の影で実は一番儲けたのは、彼らにアメリカンドリームを喧伝して採掘用のシャベルを売りつけたブラナンという小売商であり、ジーンズを提供したリーバイスであり、送金を扱ったウェルズ・ファーゴ銀行でした。砂金による一攫千金を狙って訪れたドリーマーは大半が失意のまま別の職業に就いたのです。
現在もシリコンバレーには画期的なアプリやクールなデバイス!を引っ提げて煌びやかなスタートアップが世界中から集まってきます。なぜならそこでアメリカンドリームを喧伝し、成功している人たちがいるからです。でも煌びやかなベンチャー企業はものすごく栄枯盛衰が激しく、その影にはそこにプラットフォームや資金を提供して着実に儲けている人たちがいて、それが本来のシリコンバレー的であることを忘れずにいることも重要です。
本当にシリコンバレー的を目指すならば表面上の煌びやかな機器やサービスモデルより、プラットフォームを握る事を志向するべきです。それこそがシリコンバレー的破壊的イノベーションの本質なのだと思います。
著者紹介
齋藤 和紀氏
(Kii株式会社 ファイナンス・ディレクター兼コントローラー)
2013年9月Kii参画。以来、成長期にある同社の管理部門全般を統括。シリコンバレーを主とした海外投資家、シリコンバレー大手IT企業からの資金調達をリードし成功させている。それ以前には、米大手石油化学メーカーの国内10社以上の経理業務を統括する国内グループの経理部長や、米系コンピューター会社日本法人のファイナンスマネージャーの要職を歴任し、成長期や過渡期にある企業を財務経理のスペシャリストとして支えてきた。2008年には金融庁国際会計調整室において政府のIFRS採用計画策定に参加。早稲田大学卒、同大学院ファイナンス研究科修了。
Kii株式会社について
Kii株式会社は日本発のグローバルなIoTプラットフォーマーとして注目のベンチャー企業です。同社の中核サービスである「Kii Cloud」IoTプラットフォームや同社が北米を中心に展開する「Space」IoTエコシステムは、世界中の大企業からスタートアップに至るまで、様々なIoT製品やモバイルアプリを支えるツールとして利用されています。シリコンバレー、東京、上海、香港、台湾、スペイン、ロンドンにメインのオフィスを置き、グローバルに事業を展開しています。Kiiは業務革新にも最先端技術を積極採用、シリコンバレースタンダードのクラウドERPであるネットスイートが急成長するKiiの事業基盤を支えています。
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