第一の産業革命(インダストリー1.0)、蒸気機関の開発による工業の機械化。第二の産業革命(インダストリー2.0)、電力を活用した大量生産。第三の産業革命(インダストリー3.0)、1990年代以降のコンピューターによるICTシステムの構築。そして今、第四の産業革命(インダストリー4.0)に注目が集まっています。
本稿ではこのインダストリー4.0の基礎知識と、ERPとの関係について紹介します。今更人には聞けない知識ですし、この機会にインダストリー4.0への理解を深めていきましょう。
インダストリー4.0とは?
日本は世界的に技術評価が高く「モノづくり大国」だと言われています。トヨタや日産といった日本ブランド自動車は世界中の道路を走行していますし、海外では高級車として扱われています。しかし日本以外にも「モノづくり大国」と呼ばれる国があります。それがドイツです。
ドイツ初の自動車メーカーといえばメルセデスベンツ、BMW、アウディなど日本でよく見かけるものから、ポルシェなどの高級車まで日本に負けず劣らずの技術力を持っています。ドイツには速度無制限の高速道路アウトバーンがあり、自動車の安全性・安定性・耐久性が高いレベルで要求され、必然的に丈夫で壊れにくいモノづくりが栄えてきたのだと考えられます。
そんなドイツが長年取り組んでいる新しい産業革命が「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」です。日本ではまだこの革命の全貌を詳しく知らない方も多いですが、インダストリー4.0は日本にとってかなり大きなインパクトをもたらします。もしも日本がその波に乗り遅れてしまうと、産業技術はドイツから大きく引き離されてしまうかもしれません。それほどにインダストリー4.0への取り組みは先進的で、可能性に満ちています。
具体的には「工場のデジタル化」を進めるのがインダストリー4.0のコンセプトです。これを聞くと、日本でも産業ロボット等の活躍によって、生産ラインの自動化は進んでいると考える方が多いでしょう。しかしインダストリー4.0は従来取り組まれてきた生産ラインとは全く違ったアプローチから、生産性の劇的な向上を目指しています。
2013年4月にドイツ技術アカデミー(acatech)から公開された最終報告“Recommendations for implementing the strategic initiative INDUSTRIE 4.0″ の日本語訳版である「『戦略的イニシアチブ Insustrie 4.0』の実現に向けて」から、インダストリー4.0の内容についてまとめてみました。
- ドイツ政府が主体になって推進する対外競争力を高める国家的戦略プロジェクト
- 製造業のデジタル化及びコンピューター化を目指す
- IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を取り入れる
- CPS(サイバー・フィジカル・システム)を導入してスマートファクトリーを実現する
- 消費者1人1人に合わせた商品作りであるマスカスタマイゼーションを実現する
- 生産にかかるコストを極小化し、相対的に生産性を最大化する
このように、インダストリー4.0とは工場のスマート化によって、無数の産業機械が相互に制御し合って、高度な製造を可能にすることを目的にしています。スマートファクトリーが実現すると、工場では物理的なクラスター(集団)を作る必要は無くなるといいます。
たとえばドイツの生産クラスター(自動車部品メーカーや組み立て工場が一定の地域に集合していること)は、生産コストが低い中東欧やチェコ、ハンガリー、スロバキアで形成されています。インダストリー4.0によってスマートファクトリーが実現すると、こうしたクラスターは無くなり、デジタルネットワークによって結合されたバーチャルクラスターを形成することになります。
インダストリー4.0のイメージ
ここまでの解説でインダストリー4.0が何なのか、何のためにあるかを解説しましたが、具体的にどういった環境がインダストリー4.0やスマートファクトリーなのかイメージできた方は少ないかもしれません。そこで、自動車工場を例にスマートファクトリーのイメージを考えてみましょう。
たとえば組み立て工場にて、ある部品の在庫量が一定水準を下回ると、その情報が自動的に発注先企業の部品工場に伝達されます。部品工場ではその情報を受け取り、必要な部品を必要数自動的に製造、さらに自動車組み立て工場に供給します。部品取引における決済も自動的にITシステムが記録・処理します。つまり人が発注先企業にメールで部品を注文する必要がなくなります。
さらに、工場内にはあらゆる場所にセンサーが設置され、機械の異常やパフォーマンス低下などを迅速に感知、かつシステムがこれに反応して自動修理等も行います。
スマートファクトリーでは消費者1人1人の要望にあった製品を生産することが可能で、高度なマスカスタマイゼーションを可能にするとも言われています。そうなれば、日本のモノづくり技術を持ってしてもドイツ産業に勝つことができず、世界でのシェアも徐々に席巻されていくことは確実です。
[RELATED_POSTS]インダストリー4.0にERPは必要不可欠
いわゆるスマートファクトリーの現実化に向けて取り組んでいるインダストリー4.0では、それを支えるシステム基盤としてERPが活用されています。ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略で、統合的な業務システム環境を提供するIT製品のことです。インダストリー4.0では理想とされるITシステムについて次のように定義されています。
- 基幹システムを現場から最上位のシステムまで垂直統合する
- 機械同士をM2Mで結び工場内での水平統合を実現する
- Eコマースシステムと統合し受発注を高速化する
- サプライヤーとのシステム統合によってそれぞれの可視化や品質管理を連携する
- 機会から直接データをクラウドに吸い上げてリアルタイム分析によって予知保全を実現する
このITシステム要件を満たすためにERPは欠かせない存在になっています。ERPはもともと、企業全体の情報資産を有効活用するため、組織内に散在している情報を一元管理可能にするためのシステムです。そのためサプライヤーやその他の企業と大規模なシステム連携を取る際に必要だったり、センサーから生成されたデータの受け皿としてERPは欠かせない存在なのです。
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欠かせないIoTとAI
インダストリー4.0、並びにスマートファクトリの実現に向けて欠かせないモノがIoTとAIです。IoTとはモノがインターネットに接続されたネットワークを利用した新しい機能を備えたものであり、AIは人間が開発した自動化プログラムや識別プログラムのことです。
まずIoTは生産ラインに立ち並ぶ産業機械に搭載し、センサーから色々な情報を生成させるためのデバイスです。一方AIはIoTから吸い上げたデータを自動的に分析して、工場内の稼働状況を常に可視化するものです。
このIoTもAIもどちらもインダストリー4.0に欠かせないものであり、IoTやAIの受け皿になるのもERPの役割の一つです。
インダストリー4.0のこれから
ドイツがインダストリー4.0を推進し始めたのは5年以上前のことで、それから研究は徐々に進み、すでに一部では運用させているところもあります。インダストリー4.0が完成すると、多くの人々がドイツ企業のアーキテクチャを真似て新しいビジネスを構築するはずです。例えばOracle ERP CloudであればAIやIoTなどにも対応しているのでインダストリー4.0の基盤ご利用いただけます。
いかがでしょうか?本稿でインダストリー4.0の概要について理解していただけたのであれば幸いです。これからのインダストリー4.0の動向に注目していきましょう。
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