ニューノーマル時代を見据えた経理・財務部門におけるDXの進め方
〜第4回 企業の回復と成長を支えるAgile Finance

 2021.06.02 

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新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)の感染拡大による営業時間の短縮や休業などの事業環境の突発的な変化は、企業経営者に、危機に直面した際の経営判断スピードや企業の対応力を問うこととなりました。CFO組織がこれらの危機への対応を支援していくにあたり、耳を傾けるべき提言のひとつとしてAgile Financeというコンセプトがあります。本コラムの4回目はこのコンセプトについて紹介していきます。

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Agile Finance(アジャイル・ファイナンス)とは

Agile Financeとは、AICPA(米国公認会計士協会)、CIMA(英国勅許管理会計士協会)、およびOracleにより全世界のCFO・ファイナンスリーダーに対して実施されたサーベイの研究レポートで提言されたコンセプトです。2017年と2019年にレポートを発行しており、ビジネスの俊敏性を指す“Agile“を高めるためのファイナンス組織の運用モデルを提唱しています。2019年のレポートではAgile Financeを実現するための、①Operational Excellence(オペレーショナルエクセレンス)、②Digital Intelligence(デジタルインテリジェンス)、③Business Influence(ビジネスインフルエンス) の3つの側面を解説しています。

コロナ影響下の2020年には「Agile Finance Reimagined(アジャイル・ファイナンスの再構築)」として、経理・財務を基盤として前進する事業部門の回復力と成長力を高めていく方法について、改めてアドバイスを提供しています。

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回復力の獲得に向けた戦略

「Agile Finance Reimagined」では、2007~08年の世界金融危機による景気後退後に、企業が競争優位性を獲得・維持するために実施した行動を参考に、コロナ影響下の現在の企業がレジリエンス(回復力)を獲得するための4つの戦略を紹介しています。

1.生産性の強化(BOLSTERING PRODUCTIVITY)

使用するデータのクリーンさと正確性を確保するため自動化を進め、プロセス全体で人的介入を排除することで、リソースを予想分析と戦略的意思決定に集中させる

トータルコスト削減を目標に業務の自動化を推進して生産性を高めるという、従来読者の皆様が取り組まれていることにも触れていますが、生産性強化には2つの側面があります。

まず、1つの側面として、今一度考えたいのは「プロセス全体で人的介入を排除する」ということです。この側面には2つポイントがあり、1つ目のポイントはE2E(End to End)の一連の業務プロセス、P2P(Procure to Pay)やO2C(Order to Cash)、R2R(Record to Report)などを1つのくくりとして、企業内の関連部署だけではなく取引先や金融機関、会計監査人など外部の関係者も含めたBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)に取り組むことです。2つ目のポイントはデジタル化によるマニュアル処理の廃止です。これはData to Dataを業務プロセスに積極的に取り入れることで実現が可能になるということです。本連載コラムの第2回では請求書デジタル化の事例を紹介しました。この事例は外部の取引先を巻き込んだData to DataによるBPR事例です。請求書の受け取りから支払処理まで情報の発生源からデジタル処理することで、手作業による転記作業の廃止や取引情報の一元管理および可視化を達成し、支払プロセス全体のデジタル改革による生産性向上を達成しています。

P2PやO2C、R2Rなど一定のトランザクション量が発生している業務を対象に「取引のデジタル化」を今一度考えてみてはいかがでしょうか。第2回で解説したように「取引のデジタル化」は不特定多数の取引先企業と様々な取引書類のデータフォーマットを共通化することがポイントです。電子インボイス推進協議会の組成など取引データ共通化の機運は高まっており、一定割合の共通化を達成しつつある企業が登場しています。また、「取引のデジタル化」は、業務の自動化に取り組むことでオペレーションコストを削減し、CFO組織をより専門的な分野に注力する、というオペレーショナルエクセレンスの実現を推進できると考えます。

BOLSTERING -PRODUCTIVITY(出典:クニエ, 取引のデジタル化からオペレーショナルエクセレンスへ)

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生産性強化のもう1つの側面として、「使用するデータのクリーンさと正確性を確保する」ということが挙げられます。意思決定のために事業の兆候、受注・販売状況や部材の需給状況などをタイムリーに取得することで意思決定を早期により正しく行えます。また、業務プロセスにおける例外の発生やボトルネックを可視化できると、現場マネージャーが適切なタイミングで是正措置をとることが可能になります。この点については、次回コラムで解説します。

タイムリーな意思決定の観点から、「Agile Finance Reimagined」レポートには、ローリングフォーキャストの実行頻度に関するアンケート結果が掲載されています。「毎月実行」が33%と多い中で、「常に」・「毎日実行」が17%と、かなり高頻度でのローリングを行っている企業が一定数存在している点も紹介しておきたいと思います。

2.リソースの再配分とバランスシートの強化(REALLOCATING RESOURCES AND STRENGTHENING THE BALANCE SHEET)

事業にとって大切な要素だけを見て、完全な配分メソッドを持つことができれば、CFO組織が、コスト、マージン、配分を見て、どの分野を増やし、どの分野を減らすかの意思決定能力が飛躍的に向上する

回復力を高めるための2つ目の戦略として投資・資産の再配分を挙げています。アフター・コロナではコロナ前の事業環境に戻るのではなく、ニューノーマルの新しい事業環境へ遷移していく、と読者の皆様も認識されていると思います。そのような変化した事業環境のもとで、撤退すべき事業なのか、投資を加速すべき事業なのか、リソース再配分の意思決定を行うことで企業の競争優位性を高めることができる、と解説しています。

リソース再配分の意思決定のために、CFO組織には財務的な観点からCEOや各事業のマネジメント層に対して問題提起やアドバイスを行うことが求められると考えます。CFO組織がマネジメント層と議論するには、各事業の要となる非財務情報を含むKPI(Key Performance Indicator)の先行きから財務情報のフォーキャストを説明することが求められ、そのために経営情報の可視化やデータ分析のスキルが必要といえます。

3.FP&Aの役割強化(TURBOCHARGING THE ROLE OF FP&A)

財務・会計をトランザクションの専門家からバリューマネージャーへと進化させるには、財務部門と組織全体の両方で、テクニカルスキル、ソフトスキル、デジタル化、マインドセットのシフトを組み合わせていく必要がある

「Agile Finance Reimagined」では、CFO組織が企業をリードする存在になるためには、組織として、個人として、デジタルテクノロジー・ビジネス理解・データ分析・コミュニケーションなど各方面のスキルを育成すると共に、CFO組織が事業部門のパートナーとして、事業部門に対し指導やアドバイスを行う役割を企業内で担うことが重要である、と解説しています。

事業部門のパートナーとなりアドバイスを行えるようにCFO組織の役割やスキルを変革するには、各事業の成功要因であるCSF(Critical Success Factor)を理解した上で、財務情報と非財務情報を組み合せた目標指標・成果指標であるKGI(Key Goal Indicator)と、KGIの先行指標であるいくつかのKPIを継続的にモニタリングし、真に事業の要となるKPIが何か、データ分析担当者として事業のオペレ―ションに関わる方法があると考えます。この事業の要となるKPIは変化の激しい事業環境の中で見出すことは簡単ではありません。PDCAサイクルの中でKPIを進化させる必要があるといえます。TURBOCHARGING-ROLE-OF-FP&A(出典:クニエ, KPI設定のPDCAサイクル)

4.社員や関係者とのコミュニケーションの改善(IMPROVING COMMUNICATIONS WITH EMPLOYEES AND STAKEHOLDERS)

ビジネスリーダーは、業務への影響を考慮しながら社員の健康と安全性に取り組む必要がある

コロナ禍は経済危機というよりも、公衆衛生、人道的な危機であるため、リーダーは社員や社外関係者と透明性をもってコミュニケーションを図ることが信頼を築く上で重要である、と解説しています。

コロナ禍において企業は、リモートワークの推進と同時に情報の透明性向上が求められていると考えます。

リモートワーク下であっても、従来と同等もしくはそれ以上のスピードで業績情報を外部開示することは、投資家との関係強化につながります。また、リモートワークの推進は社員に対して安全性に配慮した多様な働き方を提供することになります。決算プロセスに紙面文書・ハンコが大量に残っていてはリモート環境下で従来通りのスピードで決算を行うことは困難となり、出社が余儀なくされます。紙面文書・ハンコを法的要因で必要な場合を除いて決算プロセスから廃止し、決算タスク管理やデータ共有などに様々なクラウドサービスを利用することで、働く場所の制約を受けずにリモート環境下でも従来と変わらないスピードで決算処理が行えるようになります。

次に、情報の透明性向上とは、関係者が同じ情報をもとに双方向のコミュニケーションをとることを指します。請求書等の取引データや業績情報などの開示データなどを社内および社外の関係者に一方的に提供するだけではなく、相手方からのフィードバックを共有することで両者の関係強化を図ります。部門別収支データに対する現場マネージャーとのQ&Aや、請求書データに対する取引先からのQ&Aを、該当のデータに紐づけて行えるチャット機能を活用することで、双方向のコミュニケーションが可能となり、透明性の向上に寄与できます。

Agile Financeのコンセプトを活用したCFO組織変革の事例

ここである大手企業のCFO組織変革事例を紹介します。この企業では、これまでの業務システムはオンプレミスのERPパッケージに多くのアドオンモジュールが実装されていたためシステムが硬直化し、IFRS(国際会計基準)に代表される会計基準の変更や個人情報保護などのコンプライアンス対応をシステム外で行うことになり、日々のオペレーションや決算処理に多くのExcelやAccessでの作業が発生していました。CFO組織リソースの多くは日々のオペ―ションに費やされている状況でした。

そこで、CFO組織変革に向け、現行のマニュアルだらけの業務手順をSaaS型のクラウドアプリケーションに沿った手順に抜本的に見直し、システム外のマニュアル業務を廃止していきました。クラウドアプリケーションに沿った業務を型化し、定型化できた業務はBPOへ外部委託することで日々のオペレーションに費やされていた社内リソースをより高度な取り組みに分配することができています。CFO組織の社員が他部門を巻き込んだうえで別のデジタルテクノロジーを活用したBPRを推進したり、会計や税務など高度専門性を有する分野に注力したり、メンバーの能力に適した人材育成とCFO組織変革を達成しています。

Organizational-Change-in-Accounting(出典:クニエ, 経理組織変革の取り組みテーマ事例)

この事例に見られるように、前述した1つ目の戦略である「生産性の強化」として、デジタル改革やEnd to Endの部門横断のBPRを推進することで、デジタルテクノロジーの活用スキルや部門間のコミュニケーションスキル、業務改革のプロジェクト管理スキルの獲得に取り組み、P2PやO2Cなどのトランザクション領域のオペレ―ションコストを削減してCFO組織の社員をFP&A(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)や会計・税務の高度専門性を有する領域へシフトしていくことはCFO組織変革の1つのシナリオだと考えられます。今回のコラムでは、コロナ影響下の現在の企業が危機を脱却して事業拡大に向かうためにCFO組織がとるべき戦略として、「Agile Finance Reimagined」レポートを中心に解説しました。具体的には、End to Endでデジタル化を進めてオペレーションコストを削減し、CFO組織のリソースをFP&Aや高度専門性の分野へシフトし、投資・資産の再配分に取り組むことが重要であるという点について述べてきました。次回のコラムでは、現場マネージャーが適切なタイミングで是正措置をとるためにいかにしてタイムリーに現場の状況を把握するか、CFO組織が事業部門のパートナーとしてバリューマネージャーへといかにして変革するか、データ分析・活用の方策を解説していきます。

[SMART_CONTENT]

<連載>ニューノーマル時代を見据えた経理・財務部門におけるDXの進め方

第1回 :コロナ対応をデジタル改革へ
第2回 :取引のデジタル化から始めるDX
第3回 :テレワークの推進とガバナンスの強化
第4回 :企業の回復と成長を支えるAgile Finance
第5回 :データドリブンによるレジリエンス(回復力)の獲得

著者紹介

株式会社クニエ
株式会社クニエはNTTデータグループのコンサルティング会社です。グローバルに活躍されるお客様へのコンサルティングはもとより様々な変革に挑戦されるお客様に経験豊富なコンサルタントが高品質なコンサルティングサービスを提供しています。
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