私は工場の原価計算からキャリアを始めて15年以上、管理会計、財務会計、コントローラー、監査、資金調達等数々のファイナンスエリアに携わってきました。結果、いつもたどり着く結論がありました。つまり、ファイナンスはITであるということです。
企業の経理・財務部門の責任者の方々、会計士・税理士のプロフェッショナルな方、は同じように思われる方が多いのではないでしょうか?
最近、アメリカではデジタルCFOという言葉が生まれて普及してきました。
デジタルCFOとは
現代、企業の全てのファイナンス業務は何らかのITの力によって補完されています。
企業内に神経のように張り巡らされたIT情報網から上がってくる情報が経理財務部門に集約され咀嚼されている。これは説明するまでもないでしょう。
デジタルCFOのコンセプトは、つまり、デジタル時代のCFO、CFOには強いITリテラシーとスキルが必要ということです。そしてこの流れは日々加速しています。次世代を担うCFOにはより強いIT技術スキルが必要になることは間違いありません。
CFOの業務は、究極的にはリスクとリターンをコントロールし、企業の社会的・金銭的価値を極大化させることにあります。裏返せば、CFOとファイナンス部門にITリテラシーとスキルが欠けている企業は社会的・金銭的価値を著しく損なう可能性がある、と言えるでしょう。
デジタルCFOに必要な要件とは
次世代のデジタルCFOを目指すにはいくつか必須とされる要件があるように思われます。現在も経理財務部門のマネジメントポジションにある方々、また、今後そのポジションを期待され目指していく方々には必須のスキルなのではないでしょうか。幾つか挙げてみたいと思います。
1.IT技術に精通していること
一般に会計や法律の進歩はゆっくり進むものですが、その周辺のデジタル化されたものは全てムーアの法則に乗り日進月歩しています。そして、そのスピードは加速しています。
デジタルCFOはCIO(や情シスと呼ばれる情報部門)のトップと対等に話ができるレベルのIT情報知識が必要です。
なぜなら、財務会計システムだけではなく、企業内に張り巡らされたデータ(例えば工場の稼働データや従業員のプロジェクト従事データ等)は全て従業な財務会計データとなりえるからです。
「クラウドって何?IoTって何?人工知能? 」全て財務会計部門の将来に直結する内容です。わからないことは恥ずかしいことではありません。しかし、わからないまま放置するは良くないことです。たとえ情シスのトップであっても、最新技術の全てをカバーしているわけではないですし、技術屋さん目線で誤解している場合も多々あります。
ですので、デジタルCFOは、常にIT周りの業界動向を把握しておくこと、また、企業内のIT情報のストラテジーを把握しておくこと非常に重要です。また、それらを聞いて理解できるコアなITスキルを日頃から養っておくべきでしょう。
2.自ら手を動かすこと
CEO(社長)はあなたのところに来て言うでしょう。「なんで財務会計にそんなに人手が必要なの?」と。財務会計部門のトップならば誰しもヒヤリとする瞬間です。ビジネスの達成を目指すトップにとっては財務会計部門はアウトソースしても問題ない場所だと考えることは多々あります。そして、彼らがそう考えるのはしょうがない面があります。
デジタルCFOは無駄を省き、適切なIT技術を取り入れながら業務の効率化を図る必要があります。しかし、どんなに削っても守らなければいけないコアな部分があります。私はいくつかの業務においてCFOが実際に自ら手を動かすことが非常に重要だと思います。
例えば、ダッシュボードの作成。私はCFOが生データを見ながら自らダッシュボードを作ることをおすすめします。理由は大きく2つあります。
1つ目の理由は、人が作ったダッシュボードは必ず恣意性が入るからです。データのまとめ方、並べ方、色の付け方全てにおいてです。特に組織においては、良いことだけを並べて悪い事象を正確に伝えないという事象が起こりえます。経験豊富なCFOならば、生データを見れば、自ら判断できるものがあるはずです。大きな組織だからといって怠ると企業の身を滅ぼす重要な問題を見逃す可能性があります、実際良く見聞きしますよね。
2つ目は、企業戦略上、必要なダッシュボードは日々変わるからです。ダッシュボードを自分で作れないと誰かに依頼するようになると思いますが、直接の部下に依頼しても数日、社外に依頼すれば数週間かかるでしょう。現代ではもっとフレキシブルな戦略策定が求められているはずです。
デジタルCFOには自ら手を動かす力と、それができるレベルのシステム理解が必要です。それができない?それならば、部署内のパワーユーザーを徹底的にトレーニングして右腕に育てましょう。たまにシステムについて文句ばかり言っている人がいますが、それは育てるべきパワーユーザーではありませんので注意しましょう。
3.導入する決断力
デジタルCFOは日々進化するIT技術に精通し、これを導入する決断力を持たなければいけません。
もはやクラウド化されていないツールは無いですし、経理業務もモバイル・デバイスで行える時代です。その次に来るのはマシンラーニングによる自動化ツールでしょう。デジタルCFOは常に新しい技術を検討する必要があります。
クラウドERPや財務分析ツール、データベースや人事給与システムまで、適切な導入は企業の価値を高めます。しかし、その際に気をつけるべきことがあります。直近で重要なポイントを数点挙げておきます。
- クラウド化に関してはネイティブクラウドのツールかつグローバル・スタンダードなものを選択しましょう。というのも、今後数年間でサーバーサイドにおける人工知能導入が進みます。ネイティブクラウドではなかったり、完全国内仕様だけであったりというものはその流れから置いて行かれると思われます。
- One Fit Allなツールは無いということです。A社にピッタリとハマったからB社にハマるとは限らないのです。将来を考えれば過度なカスタマイズをすることは絶対に避けなければいけません。自らに有ったツールを選択し、必要であれば一つのツールで完結させようとせずモジュールだけを利用していくことが必要でしょう。
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4.情報セキュリティの意識
最後ですが、最も重要な事として、デジタルCFOは情報セキュリティに対して適切な気配りをしなければいけません。デジタル化が進み便利なツールが増えてきた一方で、負のインパクトも大きくなっています。
情報管理の甘さによる失敗から巨大な企業がいとも簡単に崩壊することは過去にも多くの事例がありました。企業のリスクに責任を持つものとして、デジタルCFOは情報セキュリティにおいて妥協をするべきではありません。
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デジタルCFOは自己投資も
強いITリテラシーとスキルと知識を持つのがデジタルCFOだという説明をしてきました。ITへの親和性と言うのは天性のものがあるのかもしれません。しかしながら、たとえ元々IT好きであったとしても、最新の動向というものは経理財務業界の横の繋がりではなかなか入ってこないものです。ですから、デジタルCFOにはIT分野に対する自己投資が必要になります。
まずは、例えばカンファレンスや研修のイベントに顔をだす。ITのみならず、先進的な技術の情報は網羅的に知っておいたほうが良いと思います。例えば、ソフトウェアだけではなく遺伝子工学やロボット、ドローン、ブロックチェーン、IoT、3Dプリンター、シェアリング・エコノミーなどが、業界を超えていきなり他業種から流れ込んでくる可能性があります。
また、定期的に最先端なサービスを提供する会社と話をする等でしょうか。先進的な取り組みをする他のデジタルCFOと話をするのも良いかもしれません。
そして、企業の将来を絡めた会計財務業界全体の将来を見通す先見の明を養うことが必要でしょう。おすすめは、デザイン思考やエクスポネンシャル思考といった最先端テクノロジー将来像を見る訓練です。次に何が起きるか、その為にどういうアクションを今とっておくべきかを見極めていく、これがデジタルCFOの真の姿なのではないでしょうか。
私も早く真のデジタルCFOになりたいものです。
著者紹介
齋藤 和紀氏
(Kii株式会社 ファイナンス・ディレクター兼コントローラー)
2013年9月Kii参画。以来、成長期にある同社の管理部門全般を統括。シリコンバレーを主とした海外投資家、シリコンバレー大手IT企業からの資金調達をリードし成功させている。それ以前には、米大手石油化学メーカーの国内10社以上の経理業務を統括する国内グループの経理部長や、米系コンピューター会社日本法人のファイナンスマネージャーの要職を歴任し、成長期や過渡期にある企業を財務経理のスペシャリストとして支えてきた。2008年には金融庁国際会計調整室において政府のIFRS採用計画策定に参加。早稲田大学卒、同大学院ファイナンス研究科修了。
Kii株式会社について
Kii株式会社は日本発のグローバルなIoTプラットフォーマーとして注目のベンチャー企業です。同社の中核サービスである「Kii Cloud」IoTプラットフォームや同社が北米を中心に展開する「Space」IoTエコシステムは、世界中の大企業からスタートアップに至るまで、様々なIoT製品やモバイルアプリを支えるツールとして利用されています。シリコンバレー、東京、上海、香港、台湾、スペイン、ロンドンにメインのオフィスを置き、グローバルに事業を展開しています。Kiiは業務革新にも最先端技術を積極採用、シリコンバレースタンダードのクラウドERPであるネットスイートが急成長するKiiの事業基盤を支えています。
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