今や企業価値を測るために必要不可欠な判断基準となりつつある「ESG」ですが、それを重視した「ESG経営」を実践する企業が増えています。
本記事ではESG経営とは何か、取り組むメリットとともに解説します。また、実際にESG経営を行っていく際、どのような点に気を付ければよいのかについてもご紹介します。ぜひ自社での取り組みの参考にしてください。
ESG経営とは
ESGは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)の3要素の英語の頭文字を並べたものです。3つの要素は企業が長期的な成功を継続していくために重要なものとして考えられています。
環境は自然環境への配慮を指しており、環境汚染や省エネ、CO2排出量の削減といった持続可能性に目を向けた努力が求められています。
社会は現代社会や地域に及ぶ影響のことです。利益追求の姿勢を見直し、労働環境から人権問題への配慮などの取り組みを行っている企業は評価が高くなります。
企業統治は経営の管理体制のことを指します。権利保護や法令遵守、経営戦略や財政状態などの情報開示と透明性に取り組んでいる企業は評価されやすいです。
こうしたESG経営が必要になった背景として、企業を評価する要素として先述したような各種取り組みが含まれるようになったこと、経営リスクが多様化しつつあることが要因としてあります。自然や社会にある、社会課題を無視した利益追求では成長できない時代になっているという理解が必要です。
ESGとSDGsの違い
ESGと同じ話題でよく登場する言葉として「SDGs」があります。どちらも国連が提唱していて持続性という観点があるため混同されやすい言葉です。
まず、SDGsの正式名称は「Sustainable Development Goals」で、直訳すると「持続可能な開発目標」になります。これは2015年9月の国連サミットで採択された国際的な目標であり、持続可能でより良い世界を目指すために2030年までに国連加盟国が達成するべきものです。17のゴールと169のターゲットが設定されており、「誰一人残さない」ことを目標にして世界中が取り組んでいます。
ESGの方は各企業や団体が目指す経営目標です。SDGsは国や企業、市民まで含めた国際的な目標ですが、ESGは企業や団体に限られるという点で違いがあります。しかし、SDGsの17のゴールとESGとは相互に影響を及ぼすものもあるため、まったくの無関係というわけではありません。
ESG投資の種類
ESG投資とは、環境・社会・企業統治に配慮する企業に絞って投資することです。
ESG評価が高い企業は社会的意義があって成長の持続性もある企業特性があると認識されます。投資家からすれば企業価値が高く優良です。経営者側も投資家の考え方を知っておくことで自社の企業価値を高めやすくなります。
ESG投資の手法には七つの種類があります。
- ネガティブ・スクリーニング
倫理的ではない、環境を破壊するなどの理由があってESGとあわない業界や企業を投資対象から外す方法です。例えば、たばこやアルコール、ギャンブル、動物実験などが該当します。一般的によく取られる手法のため押さえておきましょう。 - 国際規範スクリーニング
UNGCやOECD、ILOなどが公表している国際的規範の最低基準に満たない・反している企業を投資対象から外します。また、国際規範にも種類があるため、それぞれの投資家が重視する国際規範をもとにして投資先を判断することもあります。 - ポジティブスクリーニング
ベスト・イン・クラスとも呼ばれます。環境・人権・ダイバーシティなどESG評価が高い企業の中から総合的な評価が高い企業に投資することです。 - サステナビリティ・テーマ投資
持続可能な事業をしている企業やESGに関連するテーマに沿う投資手法です。例えば、クリーンエネルギー、サステナブル農業、グリーンテクノロジー、再生可能エネルギーなどが該当します。投資手法の中では近年注目が集まりつつある方法です。 - インパクト・コミュニティ投資
環境的、社会的にインパクトの強いものや社会的な課題の解決を目的にする投資手法です。単純なインパクト重視で判断されることもありますが、財務状況も考慮して選ぶ投資家もいます。地域社会の開発が目的の投資をコミュニティ投資、経済への影響を重視する場合はインパクト投資と呼びます。ほかの手法と比べると新しい投資手法です。 - ESGインテグレーション
企業の財務情報と非財務情報であるESGの取り組みも両方併せて投資の判断基準にする投資手法です。企業を総合的に見て判断するのがポイントで収益も重視されます。ネガティブ・スクリーニングの次に採用されていると言ってもよいほど浸透している手法で、重視する項目は投資家個人によって異なります。 - エンゲージメント(議決権行使)
株主の立場から株主総会で意見を表明したり経営陣と対話したりして、ESGの課題について働きかける手法です。ほかの手法と異なって議決権を行使して企業内部から持続可能な発展に向けて働きかけます。対話の結果、企業側に改善が見られない場合は投資対象から外す投資家もいます。
ESG経営の現状
新型コロナウイルス流行をきっかけにして、各業界がESG経営に関する課題対応に追われています。企業が社会や地域に及ぼす影響力が大きくなったことも理由のひとつですが、環境問題や労働問題などの多くの不祥事も目につくようになりました。また、新型コロナウイルスという予測不可能な出来事によって、多くの企業がESGをより強く重要視するようになっています。
ステークホルダーもESGに関するあらゆる事柄について企業に透明性の高さと倫理的な行動、社会的な責任を持つことを求めています。ESGやSDGsが提唱されたことにより、現代企業に求められるものが以前と変わりつつあるということです。GlobalData社の調査によると、経営者の半数以上が今後12ヶ月間の長期にわたってESGが自社ビジネスに与える影響は大きいと回答しています。
GlobalData社による調査はこちら
国内企業においても働き方改革で女性の管理職登用や障がい者採用などでダイバーシティを実現しようという動きがありますが、こういう活動もESGを組織に浸透させる一因になっています。これから長期的な成長を目指していく上で、ESGはますます欠かせないものになっていくことでしょう。
ESG経営に関する課題を軽視することのリスク
今の時代でESGを軽視した経営をするとリスクが伴います。そもそも、ESG経営に注目されている社会的背景として、未来の予測が立てにくいVUCA時代に移行し、企業の持続性が問われるようになってきているからです。近年では、新型コロナウイルスによるビジネスへの打撃によって、ますますESG経営が重要なものとして認識されつつあります。社会情勢の不安定さがあるからこそ、中・長期的なリスクの考慮が必要です。
ESG経営を軽視すると潜在的には資本コストの増加、企業への信頼感や評価の低下、投資家の企業離れに繋がります。ESGへの取り組みが不十分だと顧客や投資家、株主などのステークホルダーから経営に問題があるとみなされる可能性があり、様々な問題に直面するリスクが高くなります。
ESGに正しく取り組むことで得られるメリットは大きなものです。企業の長期的な成長やリスクの回避、価値創出の実現に貢献します。
ESG経営を導入するメリット
非財務情報も重視するESG経営の導入が近年になってなぜ活発になり始めたのでしょうか。その理由とメリットについてご紹介します。
投資家からの評価向上
ESGは、環境問題や社会ルール、コーポレートガバナンスといった会社の価値が長期的に存続できるかどうかを判断する基準のため、ESGを重視する投資家から高い評価を得やすいというメリットがあります。
ユニバーサル・オーナーとして幅広く投資を行うGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、長期的な投資収益を確保するためにESG指数に連動したESG投資を2017年に始めています。
投資家から見ればESG経営を実践しているかどうかは、長期的な成長が望める企業なのかといった真のポテンシャルを測る指標でもあるため重要なポイントです。
安定した人材確保
企業が採用活動をする際は優秀な人材確保が課題となります。近年、企業に対する評価は業務内容そのものだけではなく、業務に取り組む「企業姿勢」が重視される傾向にあります。大手採用サイトの調査によると、新卒採用対象である大学生は環境問題にも強い関心を持っており、企業の取り組みの有無が志望度にも影響します。そのため、採用時にESG経営を行っていることをアピールすることで優秀な人材が集まりやすくなるでしょう。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000876.000013485.html
働きやすい環境整備もESGを実現する取り組みに含まれます。採用活動以外でも、普段から積極的にESG経営に関連した取り組みをホームページやSNSなどで伝えておくことで企業イメージが向上し、人材確保の安定化が期待できます。
経営リスクの分散
コーポレートガバナンスの強化によって粉飾決算などの不正を予防し、企業価値を保つことは企業にとって大きなメリットです。また、ESGの要素は互いに独立しているため、ESGの3つの要素すべてが同時に影響を受けるようなトラブルや状況が発生する可能性は低いです。そのことから、ESGそれぞれの要素が抱える課題に企業が取り組み、企業価値やイメージを向上させることは経営リスクの分散にも繋がります。
2020年にSASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)が日本企業を追加する出来事など、ESGを共通言語に諸国との連携が可能になったこともよい進展のひとつです。
新規事業の拡大
近年、消費者の関心の高まりもあって環境問題や社会問題にフォーカスを当てた様々な商品やサービスが誕生しています。特にスタートアップや新規事業においては、ESG関連で国から出る助成金・補助金制度を利用できるメリットもあり、市場が活発化しています。
例えば、環境問題なら日本のみならず全世界が解決すべき共通課題のため、新しく事業展開する場合はグローバルを視野に入れた商品やサービス提供が可能になるでしょう。
ESG経営を持続的に進めていくための大切なポイント
ESG経営を効果的に実践するために気を付けたい3つのポイントを解説します。
PDCAサイクルでのモニタリング可能な仕組み
ESG経営を実現するためには、まず定量的な目標を立て、その達成度を定点観測していくことが重要です。取り組みについてPDCA(計画→実行→評価→改善)サイクルでモニタリングすれば、どこに問題が発生していて、どこを改善すればよいのかが明確になります。また、ESG経営の活動結果を開示することで、ステークホルダー(利害関係者)からのフィードバックを得られます。それをもとに次の施策や取り組みに活かしていくことが可能です。
財務・非財務情報の集約を可能にする経営基盤
ESG経営の実行と改善を継続的に行うためには、財務情報とESG指標を含めた非財務情報を集約し、一元的な経営管理ができる基盤づくりが必要です。実際に実行するには、既存のオンプレミス環境にあるシステムをすべて刷新する必要がありますが、コストがかかり、運用トラブルが発生するリスクもつきまといます。
いきなり刷新するのが難しい場合、現行システムはそのまま活用しつつ、クラウドでESP(基幹業務システム)を導入するのがおすすめです。小さい規模から始めてみましょう。クラウドERPであれば、常に最新版にアップグレードされたシステムを利用できるため、コストと手間の両方で大きなメリットを感じられるでしょう。
プロセスの自動化による非効率な手作業を削減
業務プロセスの自動化もESG経営の実現には欠かせない取り組みです。ESGに関わる指標の元データは多岐にわたり、データ収集やデータ加工といった作業を人力でこなすのは予想以上に負担になる可能性があります。手作業ではなくAIなどの活用でなるべく作業を自動化し、分析レポート作成の手間を大幅に削減しましょう。
そうすることで自動生成された分析レポートを使ってよりよい経営改善に向けて議論する時間が取れるようになります。手作業でレポート作成を行うムダな作業時間が減少するため、業務効率化、生産性の向上にも繋がります。
ESG経営に関して「Oracle Cloud EPM」が支援できること
Oracle Cloud EPMは、ESGレポート向けソリューションを実装しています。例えば、組織全体のサステナビリティに関する計画の策定、複数あるESG報告要件への対応、ESG関係者に向けたレポートの管理ができます。ESGレポートのニーズを満たす機能が網羅されているのが特徴です。
ESGの報告をするには膨大な情報量が必要であり、データの範囲も組織内外の領域まで及びます。膨大なデータ監査と費用も必要です。報告書の作成自体にもコストがかかります。適切なESG報告をするにはデータの整合性と最新基準に準拠していること、サステナビリティの課題の計画から伝達までも含めて多くのことを考えて作成しなくてはなりません。
Oracle Cloud EPMはESG報告に求められるデータの収集や監査などのプロセス全体のナラティブや包括的な機能を提供して企業のESG活動を支援します。それ以外にもERPや業務システムを接続して、報告に必要なデータソースの取り込みも可能です。
高度な分析機能と機械学習が内蔵されているため、データに基づいた正確な判断をするのに役立ちます。また、広範なプランニング機能によって未来の計画を財務上の影響と考慮しながら検討できるようになります。収益の変化に応じてシナリオ予測が更新され、複数のシナリオを並べた上で企業にとって最適な意思決定を素早く行うことが可能です。
オラクル社自身も自社サービスの「Oracle ERP Cloud」を活用したDXによって早期にペーパーレス化やリモート化を実現しています。2003~2004年頃からすでに在宅勤務が浸透し、育児や介護の事情がある人でも働きやすい職場環境が整っていました。新型コロナウイルスの影響下でのリモートワーク期間中でも、前年と比べて年度末決算発表を3日短縮したという成果が出ています。業務の効率化によって削減された時間は企業価値を高める仕事に充てられるため、とても重要です。
ESG経営の事例
ESG経営を実践する企業の事例を二つ紹介します。ESG経営を実践する際の参考にしてください。
ネスレ
食品・飲料を扱う事業を行うネスレは、健康食品度格付けにおいて主要食品と飲料の60%が基準未満という発表がされており、消費者からの非難も一部ありました。しかし、あるグローバル格付け機関の視点では、データがあるということは改善する意志とその材料があると認識した上でネスレ社を高く評価しています。
ESG経営の実践ではデータ開示をする必要性がありますが、開示する情報が企業にとって必ずよい結果であるとは限りません。そのため、よくない結果は開示したくないという心理が働きやすいです。結果だけ重視すると情報開示に消極的な姿勢になりますが、ネスレの事例では現状を踏まえて将来的にどうしていきたいかという視点も考慮されたため、一部の機関からポジティブな評価も得られています。
ユニリーバ
オラクルが関わった事例で、ユニリーバの物流と積載荷物の最適化によってトラックの台数を減らし、CO2を削減することに貢献しています。こうした取り組みはユニリーバのESG経営を取り入れたブランドづくりの一環として行われており、CO2削減という内容そのものよりも経営の在り方のひとつとして外部にアピールしています。
まとめ
世界的に注目されるESG経営を導入すると、人材確保や経営リスクの回避などのメリットがあります。VUCA時代と呼ばれる現代で企業が長期的に成長するにはESGの観点が欠かせません。
ESGの評価を得るには目標設定と進捗測定を行い、報告書をまとめる必要があります。報告書に必要なデータを網羅すると組織内外の範囲を含む膨大なデータが必要になるため、報告書を作るのにも手間がかかるのも事実です。
ESG経営を実践して企業価値を高めていくためには、クラウドERPツールであるOracle EPM CloudのようなESGの取り組み全体を把握できるツールを使う方が効率的です。財務・非財務情報などの経営情報を一元管理し、あらゆるデータを分かりやすく可視化します。これによりESGの現状を素早く把握できるようになり、PDCAサイクルを取り入れた目標の定点観測も容易になります。また、既存システムをすべて刷新せずに、小さく始めてあとから段階的に拡張していくことも可能です。
もし自社のESG経営の導入に課題を感じている場合は、以下のOracle EPM Cloudの資料もダウンロードしてぜひ参考になさってください。
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