企業において人材は極めて重要な経営資源です。人材をどのように配置して活用するか、すなわち要員計画によって今後の経営状況は大きく左右されるでしょう。本記事では、要員計画とはいかなるものか、人員計画との違いを交えて解説します。また、策定の目的や方法、手順も示します。
要員計画とは
要員計画とは、企業が人材という資源に着目し、経営計画や事業計画の完遂を目的として立案する計画です。具体的には、人員の配置、異動、採用、教育訓練に関する計画などがあります。
これらの策定によるメリットは、効果的に事業を行うために要する業務ごとの人材や人数を把握でき、人材不足が判明した場合には、採用すべき人材の数を判断しやすくする点です。
また、将来を見据え、今確保している従業員を育ててスキルアップさせていくスケジュールも立てやすくなります。
人員計画との違い
同じ意味で使われることが多々ある要員計画と人員計画ですが、微妙に異なる意味を持っています。使い分け方を知っておきましょう。
人員計画には、部署や業務といった小さな視点に立って、質的な側面にも目を向けるというニュアンスが含まれます。どこの部署がどのような人材を求めているか、異動させるとすれば誰が適任かといった長期的な人材運用が検討される計画です。
一方、要員計画は人員計画の土台となるもので、経営や事業という大きな視点に立ち、最適な人員数といった量的側面に着目するニュアンスが含まれます。計画通りに事業を進めるためには、どの部署で何人必要となるかなどを検討するのが要員計画です。
要員計画の目的
計画立案を通した長期的な人材活用方法の検討によって、さまざまなメリットが企業にもたらされます。ここでは、もたらされるメリットにも着目しながら、要員計画を立てる目的を考えてみましょう。
採用のミスマッチ防止
まず挙げられる目的は、採用のミスマッチを防ぐことです。
要員計画が事業や経営に関する計画と強固に結びつき、人材戦略が明確になっていれば、採用方針のぶれを抑えてミスマッチを減らせます。自社に向いた人材の採用にもつながるでしょう。
経営側と人事部が連携を取りながら、事業計画に基づいた採用計画を立てることで、行き当たりばったりではない合理的な採用活動を行えます。
適切な人員配置
適切な人員配置ができるようになることも、策定の目的として外せません。
事業計画と密接につながる理にかなった人員配置によって、限りある社内リソースの最適な分配が実現するでしょう。最も適切な人員配置が実現すれば、各部署の人員不足が原因で生じる業務のロスやコストを最小限に抑えられます。
中長期的な人材の能力開発・育成
中長期というスパンで人材の能力開発や育成を行うことも、重要な目的として含まれます。
人材はすぐには育ちません。そこで、中長期的な事業計画から、将来のどの時期にどのようなスキルを持つ人材がどれだけの人数必要になるかを推定し、その結果に基づいて中長期的な人材育成計画を立案します。
要員計画における2つの立て方
要員計画を立てる手法には、トップダウン方式とボトムアップ方式という2つの方式が存在します。計画策定の際にはどちらも必要になるので、しっかり理解しましょう。
トップダウン方式
経営計画や事業計画に基づくマクロ的アプローチで、必要となる予算額を計算し、人件費と採算を天秤にかけて要員計画を立てる方式です。業務量は考えず、人件費率や損益分岐点などの経営指標から、会社全体で必要となる人材の総人数を決め、それを部署や業務ごとに割り振ります。トップダウン方式には、予算内に人件費がおさまるというメリットがある反面、各部署に十分な人数の人員が補充されず、業務に支障をきたす可能性が高まります。そのため、この方式で立てた要員計画を実施する場合には、計画した人数で現場の人員不足が解消できるのかを見極めなければなりません。
ボトムアップ方式
ミクロ的アプローチにより、部署やプロジェクト単位で業務量やニーズにそくした業務遂行に不可欠な人材の数を割り出し、それらの積算によって会社全体で必要な人材の総数を出す方式です。ボトムアップ方式を採用すれば、現場の人員不足が原因で計画通りに業務が遂行できないという事態は避けられますが、予算を大幅にオーバーする危険性が無視できません。
したがって、立案を行うときには、まずトップダウン方式とボトムアップ方式から一方を選んで立て、その後もう片方でも立ててみて大きな違いが出ないことを確認する必要があります。双方を組み合わせることではじめて、適切な計画が策定できるからです。2つの要員計画の間に大きな差が生じている場合、どこかに問題があります。このときは適正な計画となるように見直さなければなりません。
要員計画を策定するまでの流れ
要員計画は以下のように、5つのステップを順に踏んでいくことで策定可能です。流れに沿って、ステップごとのポイントを解説します。
1. 現状把握
最初のステップは、データを集めることによる、自社の現状把握です。まず、部署や事業所ごとに在籍している従業員の人数を、年度末と年度当初に分けて確認しましょう。このほかに、今年度中に減る見込みの従業員数と、増える見込みの従業員数のデータも収集しておきます。
2. 各部署へのヒアリング
2つ目のステップは、経営層および各部署・事業所の責任者に対して行うヒアリングです。これは、要因計画策定の際のトップダウン方式とボトムダウン方式それぞれにおいて、人員がどれだけ必要になるかを導出するために行うものです。同時に、現場が抱える問題点やニーズも聞き出します。
経営層に対するヒアリング項目は、中長期的な事業計画を進めるためにどのようなニーズがあるかなど、トップダウン方式で必要となる項目です。一方で各部署に対しては、人手不足のために手の回らない業務があるか、特殊なスキルを持つ人材のニーズはあるかといった、ボトムアップ方式で必要な項目をヒアリングします。
3. 要員の調整
3つ目のステップは、ヒアリングをもとに算出した要員を補填するための具体策を考える、要員の調整です。トップダウン方式とボトムアップ方式で算出した要員数のくい違いについても、経営指標を利用して検討するなどして調整します。
このステップでは、新たに人材を採用するのか、人の代わりにツールを導入するのか、今いる従業員をスキルアップさせるのか、アウトソーシングでしのぐのかを決めていかなければなりません。ここで重要となるのは、長い目で見て経営計画や事業計画が実現するように、中長期的な視点に立って決めることです。
4. 採用計画の立案
4つ目のステップは、採用計画の立案です。いつまでに、どのような人材を新卒や中途で何人採用するか人数を決定したうえで、余裕のあるスケジュールとなるように立案します。
5. 要員計画の策定・運用
5つ目のステップは、要員計画の策定・運用です。これは人材を採用するだけの計画というような小さな枠にとらわれない中長期の計画であり、人材の育成や定着を図るための施策、業務の改善、人材を管理するシステムの構築なども含まれます。
計画の運用において忘れてはならないポイントは、業務計画とのズレが生じていないか常に現場の状況確認を怠らず、業績の悪化や重要な業務を担う人材の離職など状況の変化に応じて、要員計画の見直しを行うことです。
まとめ
要員計画は、企業の経営計画や事業計画から俯瞰した人材に関する計画であり、人員計画を下支えするものともいえます。トップダウン方式とボトムアップ方式という2つの方法で策定した要員計画を比較したときに、両者に乖離がみられないのが理想的です。計画の策定は、現状把握から開始して、最後の要員計画の策定・運用へと連なる5つのステップで行います。
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