システムリプレイスを検討しているけれど、その意義やメリット、進め方についてよく分かっていないという方は多いのではないでしょうか。この記事では、システムリプレイスとは何かという基本知識から成功させるためのポイントまで、わかりやすく解説します。リプレイスに対する知識を深め、最新の技術やビジネス状況に適応したシステム環境を整えていくために、ぜひ本記事をご覧ください。
システムリプレイスとは? - ITシステムの交換
システムリプレイスは、日本語に直訳すると「システムの置き換え」や「システムの交換」という意味になります。つまり、システムリプレイスとは企業が所有する既存のITシステムを新しいシステムに交換、または更新することです。
リプレイスは通常、古いシステム(レガシーシステム)が技術的に時代遅れになったり、ビジネスニーズが変化して既存のシステムがそれに対応できなくなったりしたときに行われます。
システムリプレイスとマイグレーションの違い
リプレイスと混同しがちなのが、マイグレーションです。これらは両方ともIT環境を更新することを指しますが、その目的とアプローチに重要な違いがあります。
マイグレーションとは、特定のデータ、アプリケーション、またはシステム全体を既存の運用環境から別の運用環境へと移動することです。例えば、オンプレミスのサーバーからクラウド環境へ移行することがその代表例として挙げられます。
ここで重要なポイントは、マイグレーションの場合、基本的に同じシステムを使い続けることが多いということです。既存の建物をそのまま別の土地へ移し替えるようなイメージが近いです。
一方、システムリプレイスは、既存のシステムそのものを新しく交換することです。先の例えで言うと、これまでと同じ敷地内で家を建て替えたり、部分改修したりするイメージがリプレイスと近くなります。
リプレイスとマイグレーション、どちらのアプローチを選択するかは、企業のビジネス目標や技術的要件、予算など、さまざまな要素によって決まります。
レガシーシステムをリプレイスする意義と目的
リプレイスの意義や目的は、レガシーシステムが内包するさまざまな問題を解決することにあります。レガシーシステムは主に以下のような問題を抱えがちです。
- 年月とともに内部構造が複雑になり、ブラックボックス化する
- サポート期間が終了する
- 適切に保守運用できるIT人材が不足する
- 新しい技術やビジネス環境に適応できない
これらの結果として、レガシーシステムを運用し続けることは、運用コストやセキュリティリスクの増大を招き、ビジネスパフォーマンスを低下させる原因になります。こうした問題について、経済産業省が2018年のDXレポートで「2025年の崖」という象徴的な言葉を用いて、日本経済全体の問題として警鐘を鳴らしています。その予想によると、2025年には国内企業が使用している基幹系システムの6割が稼働21年以上のレガシーシステムになり、その影響で年間最大1.2兆円の経済損失が出るとのことです。
出典:経済産業省「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」
企業がシステムをリプレイスするのは、レガシーシステムに付随するこれらの課題を回避するためです。リプレイスによって、最新の技術トレンドを取り入れ、システムの保守性をアップしつつ、運用コストを削減することで、全体的なビジネスパフォーマンスを向上させることが可能となります。
リプレイスを行うべき時期
システムリプレイスに最適なタイミングはケースバイケースですが、一般的には5年程度が目安として考えられます。というのも、国税庁が規定するソフトウェアの耐用年数(減価償却期間)が5年だからです。
とはいえ、5年という期間はあくまで税務上の観点によるものなので、それが最適とは限りません。システムリプレイスを行うべき実際の時期は、システムの性質や使用状況、企業のビジネス環境などによって大きく左右されます。一部のシステムは5年足らずで陳腐化する一方で、他のシステムは10年以上も特に問題なく使い続けられるかもしれません。
そのため、単純に時間的な面から考えるだけでなく、以下のような兆候が出たらリプレイスを検討することをおすすめします。
【リプレイスの検討ポイント】
- システムエラーなど技術的な問題が頻発する
- ビジネス環境や業務内容の変化にシステムの機能・性能が対応できていない
- システムの製造元のサポート期間が終了する
- システムの保守・運用コストが増大している
- 新しい法令に対応する必要がある
システムをリプレイスするメリット
システムリプレイスは企業にさまざまなメリットをもたらします。その主な内容は以下の通りです。
DXに対応しやすくなる
近年、多くの企業が競争力強化のためにデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。リプレイスはこのDXを推進するための重要なステップです。
レガシーシステムを新しいシステムに置き換えることで、最新のテクノロジーやソリューションを組み込むことが容易になり、企業のDX戦略を実行するための基盤を整えられます。例えば、クラウド技術、AI、IoT、ビッグデータ分析などがDXで特に期待される最新技術の例です。
また、新しいシステムは通常、ユーザーインターフェイスが改善されているので、より使いやすくなっています。これにより、従業員の生産性向上などが見込めます。
動作が安定する
システムをリプレイスすることで、その性能と信頼性を大幅に向上させることが可能となります。
新しいシステムでは通常、処理能力が向上し、データの保存領域が増えます。これにより、企業は大量のデータを迅速に処理し、より多くの情報を効率的に保存可能です。また、新しいシステムは最新のハードウェアやソフトウェア技術を利用して設計されているため、故障や破損のリスクを大幅に減らせます。
これらのメリットは、企業がスムーズに運営し、顧客ニーズへ迅速に対応する能力を高めるため、全体的なビジネスパフォーマンスの向上につながります。
セキュリティリスクが下がる
セキュリティの強化につながるのもリプレイスのメリットです。
ITシステムのセキュリティは、現代のビジネス運営において最も重要な要素のひとつです。たとえ原因が外部からのサイバー攻撃だとしても、個人情報の漏洩などを起こした企業は社会的信用を失いかねません。
古いシステムは最新のソフトウェアへの適合性を確保できない場合があるので、セキュリティの脆弱性を生む可能性があります。特に、製造元のサポート期限を過ぎたシステムは新しいセキュリティパッチやアップデートが提供されなくなるので、システム全体が攻撃に対して無防備になりかねません。
その点、システムをリプレイスすることで、最新のセキュリティ対策を整備しやすくなります。例えば、クラウド活用やリモートワーク環境を念頭に置いた「ゼロトラストセキュリティ」など、最新のビジネス環境に適応したセキュリティ対策も取りやすくなります。
システムリプレイスの4つの方式
システムリプレイスの実施方法には4つの異なる方式があり、それぞれには独自のメリット・デメリットが存在します。以下では、それぞれの方式の概要を紹介します。
一括移行方式
一括移行方式とは、既存のシステムを一度に新しいシステムへ置き換える方法です。この方式の最大のメリットは、一度にすべての作業を済ませられるため、コストと時間を節約できる点です。また、新旧のシステムを混在させる必要がないため、システム間の互換性に関する問題を避けられます。
他方で、この方式のデメリットは、リプレイス作業中はシステムが停止するため、そのあいだビジネスに影響を及ぼす可能性があることです。さらに、もし移行作業に失敗した場合、その影響は非常に大きくなります。
段階移行方式
段階移行方式は、システムを部分的かつ段階的に新しいシステムへ置き換えていく方法です。この方式のメリットとしては、もし移行の途中で問題が発生したとしても、その影響範囲を限定的に抑えられることが挙げられます。また、その都度の移行作業時間は短いため、ビジネスへの影響を最小限に抑えることが可能です。
しかし、段階移行方式は、全体として見ると時間と手間が大きくかかります。また、一部のシステムだけが新しくなるため、新旧のシステム間でのデータや機能の互換性に問題が生じる恐れがある点には注意が必要です。とはいえ、一括移行が可能な企業は少ないため、多くの企業にとっては段階移行方式の方が現実的な選択肢となります。
順次移行方式
順次移行方式とは、新システムと旧システムを同時並行的に運用し、新システムに問題がないか比較確認しながら徐々にリプレイスを進めていく方法です。
この方式の特長は、移行後にトラブルが発生するリスクを大きく抑えられることです。旧システムと一定期間のあいだ同時運用してから完全に移行するので、運用に伴う問題の洗い出しや対策をある程度終えた状態で、新システムへの一本化ができます。新システムに問題が起きても、旧システムが同時稼働しているので、現場に大きな負担がかかることもありません。
その反面、新旧システムを同時に運用する必要があるため、ランニングコストが一定期間かかるというデメリットがあります。また、旧システムと新システムを並行して動作させるあいだは、2つのシステムを管理する手間や、新旧システム間でデータの一貫性を確保するための作業負担が生じるのも難点です。
パイロット移行方式
パイロット移行方式とは、まず一部の部門で新システムを試験的に運用し、問題がなければ他の部門へと導入を広げていくという方法です。
パイロット移行方式の最大のメリットは、トラブルが発生した場合でも影響を局所化できる点です。さらに、初期段階で得られた経験やノウハウを、次のステージで活用できます。
しかし、ひとつの部門で成功したからといって、他の部門でも必ずしも成功するとは限らないのがパイロット移行方式の弱点です。というのも、異なる部門にはそれぞれ独自の要件や環境があるので、それらに対応するための追加的な調整や改修が必要になる可能性があるためです。
システムリプレイスを進める方法
システムリプレイスを成功させるには、適切な計画の立案と実行が必要となります。以下では、システムリプレイスの基本的な進め方をステップごとに紹介します。
チームを立ち上げる
まず、プロジェクトを遂行するためのチームを立ち上げることが重要です。このチームは、情報システム部門のスタッフだけでなく、システムを実際に使用する部門のメンバーや、予算関連の担当者なども含めるべきです。これにより、現場の実感や財務的な観点も含めた多角的な検討や意思決定が可能となり、プロジェクトの成功に向けた体制を整えることができます。
要件を明らかにする
システムリプレイスのプロジェクトでは、リプレイス後のシステムが企業のビジネス要件を適切に満たすために、前もって要件定義を明確にしておくことが重要です。具体的には、新システムがどのような機能や性能を備えるべきか、どのような業務フローを支えるべきか、どの程度のスケーラビリティや拡張性を持つべきかなどを明らかにする必要があります。
さらに、システムが担当する業務プロセスにおいて、「変えたいところ」と「変えてはいけないところ」を明確にしておくことも重要です。これにより、システムリプレイスによる影響を適切に管理し、想定外の問題が発生するリスクを最小限に抑えることが可能となります。オーバースペックのシステムを導入してコスト面での無駄を出さないためにも要件定義は重要です。
移行の計画を立て、見積もりを出す
次に、システムリプレイスを具体的に進めるための計画を立て、見積もりを作成します。計画では、リプレイスするシステムの全体像や機能、移行対象となるデータの範囲、そして移行作業のスケジュールを詳細に決定します。
また、費用やスケジュールの観点から複数のシステム開発業者に見積もりを依頼し、最適なパートナーを選択することも重要です。各業者の技術力や信頼性、サポートの充実度、コストパフォーマンスなどを総合的に考慮し、自社のビジネスと最もマッチする解決策を選ぶことが求められます。
移行するシステムを開発する
計画の策定と見積もりが終わったら、次はシステムの開発に移ります。開発の流れは一般的に以下の順序で進められます。
要件定義:必要な機能や性能の詳細を明確化する。
設計:ソフトウェアのアーキテクチャ、データモデル、UIなどを設計する。
プログラミング:設計に基づいてソフトウェアを実際に構築する。
テスト:ソフトウェアが正しく動作するか、要件を満たしているかを確認する。
この一連の開発プロセスを通じて、新システムの基盤を作り上げることができます。
移行するリハーサルを行う
移行に向けた準備が整ったら、実際の移行作業前に必ずリハーサルを行います。このリハーサルは、システム移行のシミュレーションであり、予期せぬ問題やミスを発見し、それらを解決する機会です。リハーサルでは、データの移行やシステムの動作、ユーザーの操作感など、さまざまな観点からシステムの挙動を確認します。
移行を実施する
リハーサルで問題がなければ、ついに本番のシステム移行を実施します。この際、新旧システム間のデータの整合性を確保することが最も重要です。特に、データの欠損や重複が生じないよう、細心の注意を払いながら作業を進めます。
また、リプレイスによって既存の業務に影響が生じないように、システム停止時間の最小化や、ユーザーへの周知なども欠かせません。新システムを導入しても使いこなせなくては無意味なので、ユーザーへの教育も重要です。
システムリプレイスを成功させるためのポイント
システムリプレイスを成功させるには、どのようなポイントに注意すればいいのでしょうか。以下では、そのポイントを2つご紹介します。リスクとコストへの認識を共有し、計画を立てる
既存のシステムやデータとの兼ね合いも考えなければならない分、リプレイスは単に新しいシステムを導入するよりも難易度は高いです。システムの変更に伴って現場の業務プロセスにも何らかの変化や負担が生じることもあるので、現場から不満が出ることも考えられます。また、多額の予算が必要になることや、システムが組織全体の運営やパフォーマンスに影響することを考えれば、経営層の理解も欠かせません。
そのため、リプレイスはIT部門に任せきりにするのではなく、経営層や現場ともその意義や重要性、リスク、コストなどについての認識を共有することが重要です。移行スケジュールはもちろん、新システムの使い方や利用上のルールなどについても綿密に共有し、組織全体が一丸となってリプレイスに取り組めるようにしましょう。
信頼できる業者を探す
システムリプレイスを成功させるには、適切なパートナーを見つけることも大切です。実績や経験が豊富な業者を選ぶことで、予期せぬ問題やリスクを最小限に抑えることが可能です。また、業者の選定にあたっては、自社のビジネスモデルや業界特性を理解してくれる業者を選ぶことも重要になります。
さらに、システムの基本的な品質や移行サービスだけでなく、アフターサポートの内容を確認することも欠かせません。リプレイスには一定のトラブルは付き物なので、何か困った事態に遭遇したとき、迅速かつ適切にサポートしてもらえるかどうかは非常に重要になります。
まとめ
本記事では、システムリプレイスの概要から進め方、成功させるためのポイントまで包括的に解説しました。リプレイスは、ITシステムの機能・性能の向上、セキュリティリスクの軽減、最新の技術動向への対応など、多くのメリットをもたらします。これらの効果は、組織全体の業務改善やDX推進にも寄与するものです。
優先的にリプレイスの対象にしたいシステムとしては、ERPが挙げられます。というのも、ERPを導入することで、部門横断型の業務連携や情報共有などが可能になり、組織全体のIT基盤を構築できるからです。
本記事を参考に、ぜひ計画的にシステムリプレイスを推進してください。
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