サステナビリティ(持続可能性)の重要性が増している現代において、企業はサステナブル経営を意識した組織体制に変える必要性が高まっています。従来のような目先の利益だけ追求し、社会的な配慮を欠いたやり方に限界が来ているからです。本記事ではサステナブル経営の基本的な知識をはじめ、導入のメリットや押さえておくべきポイント、事例などを紹介します。
サステナブル経営とは?
「サステナブル経営」とは、企業活動の基盤となる環境・社会・経済の持続可能性に配慮し、ステークホルダーとの共存を目指す経営のことです。
これまでの企業活動においては、しばしば地球の資源を浪費し、地球環境に多大な負荷をかけてきました。しかし、近年の気候変動に起因する自然災害の多発やエネルギー問題など、数々の課題が浮上している中、企業においても持続可能性に注意を払いながら事業に取り組むことが求められています。自社の短期的な利益だけを追求するのではなく、環境・社会・経済に配慮し、持続可能な状態を実現する必要があります。
一方、サステナブル経営は単なる課題への対応という側面だけではなく、企業にメリットももたらします。多くの企業における共通言語にもなっているため、同じ価値観を共有することによってイノベーションが起きることが期待されています。また、消費者に対してもサステナブル経営の取り組みをアピールすることで企業イメージが向上し、消費者や取引先の獲得などよい影響につながる効果が期待できます。消費者庁が公表する「エシカル消費に関する消費者意識調査」によると、環境破壊・資源枯渇といった環境問題に対する消費者の関心が高まっていることが報告されています。
サステナブル経営の実現にはコストや人手が必要になる一方で、持続可能性を考慮した長期的な視野で経営を考えることによって将来のリスクや機会の把握、企業の安定した発展などにつなげられるため、積極的に取り組む意味は大きいです。
サステナブルとSDGs・CSR・ESGとの違い
サステナブル(sustainable)は「持続できる・耐えうる」といった意味がある言葉です。サステナブル経営の核となる概念であり、同様に「SDGs」「CSR」「ESG」といった言葉とも関連します。それぞれの言葉の意味と違いについて解説します。
SDGs
「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」は、2015年9月開催の国連サミットで採択され、途上国と先進国が共同して取り組むべきものとして提唱されている目標です。設定された17のゴールと169のターゲットを2030年までに実現することを目指しています。
サステナブル経営でも環境・社会・経済について考慮しますが、SDGsはさらにその3つの枠組みに関する17のゴールを設定しています。SDGsでは持続可能性について広範に取り扱い、具体的な目標があるという点で違いがあります。
CSR
「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)」は、企業が投資家・顧客・社員・取引先など全てのステークホルダーに責任を持ち、要求に応えるべきであるという考え方のことを指します。「説明責任を果たす」「法令を遵守する」「社員が求める労働改善を実施する」などの取り組みを行います。日本でCSRの考え方が普及したのは1990年代で、企業による情報開示や説明責任などが求められるようになりました。
CSRにおける対象範囲は企業が関わるステークホルダーに限られる一方、サステナブル経営では社会や環境、経済などの広い範囲にまで及びます。CSRに持続性という観点を加えて進歩させたものがサステナブル経営とも理解できるでしょう。
ESG
「ESG」は、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を取った言葉です。サステナブル経営と似た概念ですが、ESGの場合は投資における判断基準や分析対象になっているという点で違いがあります。
ESGの要素は企業の長期的な成長に欠かせないものであり、投資先の企業を選ぶ際は環境や社会への配慮をどれほどしているのかが重視されます。ESGの観点から分析した結果、基準に満たない企業は投資を撤退するという判断がされるのです。
ESGが投資において重要視される背景としては、国連が2006年に提唱した「PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)」があります。これはESG課題を中心に6つの投資原則を定めたものであり、日本においては2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名したことからESG投資が広がりを見せました。
[RELATED_POSTS]サステナブル経営に取り組むメリット
サステナブル経営に取り組むことで得られるメリットについて紹介します。持続可能性という長期的な視点を持って事業の発展を考えることで、リスクの回避やイメージの向上、人材確保の面などで良い影響が得られるでしょう。
事業リスクの低下
サステナブル経営に早期に取り組むことで、将来的なリスクを回避できる可能性が高くなります。例えば、人権問題や社会の変化への対応、気候変動といったリスクです。また、環境問題や社会課題の解決を目指して積極的に取り組むことで、「社会的責任を果たしている」「将来に渡る持続性や環境へ配慮している」と評価されるなど、企業イメージにも関わります。
グローバル企業や大企業を中心に、環境負荷の低さを取引先の選定基準にする「グリーン調達」を採用するなどの動きが進められており、バリューチェーン全体の見直しも実施されています。調達先において環境破壊や人権問題などのトラブルが発生した際には企業の信頼性が損なわれるため、予防措置が必要であるからです。
サステナブル経営に取り組んでいない企業は、リスク面を考慮して取引先の候補から外されるリスクがあります。企業として社会課題への対応を考慮することは、経営・事業リスクの回避、事業の存続という意味で重要です。社会課題解決によってもたらされる市場機会の価値は年間12兆ドルにのぼるとする推計があり、取り組みを進めることで新しい事業創出につながる可能性も期待できます。
ステークホルダーからの信頼向上
社会課題やESG投資などの影響から、投資家も持続可能性を評価するようになってきています。サステナブル経営を導入した企業は投資家からの評価が高くなり、株価にも影響が及びます。金融機関もサステナブル経営を行う企業には有利な融資条件を提示する可能性があるため、資金調達が有利に運ぶこともあるでしょう。
他にも、社会的意義のある企業経営を実践することで社会貢献と地域の信頼獲得につながります。SDGsの取り組みは企業イメージをアップさせ、信用できるという印象を多くの人に与えます。
将来的にSDGsがビジネスの取引条件になる可能性があるため、持続可能性を意識した経営は企業が今後発展していくために重要な要素になります。SDGsの活動を社内外に発信してコミュニケーションを取り、認知や理解につなげることも大切です。具体的な方法としては、企業ストーリーとして伝えたり、マーケティングに活用したりする動きがあります。
社員のロイヤリティ向上
サステナブル経営を実践することは、従業員の企業に対する満足度やロイヤリティの向上につながります。企業がCSRの施策に取り組むことで、従業員は業務を通じて環境問題や社会課題に向き合う機会が増え、社会貢献しているという実感が得られるようになります。それらの施策を通常業務と両立して取り組むことは容易ではありませんが、企業に所属しながら社会とのつながりを実感できる活動に取り組むことにより、自社で働くことに誇りを持てるようになるでしょう。
人材の確保
サステナブル経営は、若い世代への訴求効果もあります。「Z世代」と呼ばれる1990年代中盤以降に生まれた世代は、環境問題やSDGsを学校教育で学んでいるため、サステナブルへの意識が強いです。消費行動においても、倫理的で公平な基準で選ぶ「エシカル消費」を行う傾向にあります。
企業の採用活動においても、企業がサステナブル経営を重視しているかどうかは志望学生からチェックされる重要なポイントです。若年層にとって、現在の課題を将来に持ち越さないために企業がどれだけ本気になって取り組んでいるのか、また企業そのものが長期的に存続していくのかという要素は、今後の人生に大きく関わります。企業が優秀な人材を確保するためにも、早期にサステナブル経営に取り組まなければなりません。
サステナブル経営は働き方改革やダイバーシティ(Diversity:多様性)の推進とも関連しています。ダイバーシティを尊重する職場環境は従業員を大切にするという企業イメージを志望者に与えるからです。また、すでに在籍している従業員の意欲向上や離職率の改善にも貢献します。サステナブル経営の実践は、人材確保という面でもプラスに働く効果が期待できます。
企業活動の長期化
サステナブル経営は企業活動を長期的に安定させることにも貢献します。
「日本の資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一は、企業が利益を上げることは大前提とした上で、自社の利益の追求だけを目的にした幸福は永続せず、道徳と経済を両立しなければならないといった、現代のサステナブル経営に通じる考え方を持っていました。これは「とりあえず社会貢献すればよい」ということではありません。公益性の観点を欠いた状態で利益を追求すると社会全体が発展せず、結果的に自社も損をしてしまうことになるという考え方です。
企業活動は企業の力だけでなく、所属する従業員や社会・環境などの基盤があって成立するものです。社会や環境の状態を無視した企業活動には、必ず限界が訪れます。獲得した利益は独占せず、従業員や社会に還元することで、企業の長期的な繁栄と成長につながります。
サステナブル経営は、渋沢栄一が掲げた「論語(道徳)と算盤(経済)」の考え方を現代に合う形にしたものとも捉えることができるため、日本社会にとって原点回帰に近い側面があります。
サステナブル経営導入のポイント
持続可能性を考慮したサステナブル経営において取り組むべき重要なポイントを紹介します。
環境への影響の低減
サステナブル経営の実践は環境にかかる負荷の低減につながります。例えば、使ってない部屋の電気をオフにする取り組みはすぐにでも始めることが可能です。他にも、「事業で排出される二酸化炭素の量を測定して削減できるように工程を見直す」「廃棄物を削減する」「リサイクルやゴミの分別を徹底する」などの取り組みが挙げられます。
環境に配慮した製品やサービスの利用も有効です。適切な森林管理を認証する「FSC認証」や、海洋資源の保護・回復を目的とした「MSC認証」などの認証を受けた原料を選択するほか、「包材を削減する」「再生可能資源を使う」「リサイクルしやすい素材を使う」「紙・植物由来の素材を使って脱プラスチックする」など、多くの施策があります。
企業活動においては多くのエネルギーや資源を消費する必要があります。それによって、自然が資源を回復するスピードを消費が上回ってしまい、これまでのやり方に限界が見えてきています。問題なく調達できていた資材も、将来的には原材料の高騰や枯渇によって叶わなくなります。そのような事態を未然に防ぐためにも、環境の負荷が少ない事業活動を実践していく必要があります。
働きやすい職場環境の整備
働きやすい職場の整備や、多様性が尊重される環境づくりもサステナビリティを実現する取り組みのひとつです。企業の発展には組織内で働く従業員の成長を促すことも必要であり、その支援を通して企業自体も従業員と一緒に長期的に成長することへとつながります。
取り組み例を挙げると、ワークライフバランスの見直し、男女で育休が取得できる体制作り、介護と仕事が両立できる制度の導入、社員が希望するスキルアップ・資格取得などの教育、リモートワークなどの柔軟な働き方の実現、長時間労働の削減、取得しやすい休暇制度、定期的なストレスチェック、社内にリフレッシュルームを設けるなど、さまざまな施策が考えられます。
快適な職場環境の整備は企業イメージの向上や人材の確保のしやすさにもつながるほか、すでに所属している社員のエンゲージメントも高まるメリットが期待できるでしょう。
ステークホルダーとの関係構築
サステナブル経営は持続可能性を考慮した事業活動ですが、時間のイメージだけで捉えていると見誤ります。地域や社会におけるステークホルダー(利害関係者)と長期にわたる友好な関係を構築していかなければなりません。企業はこれまでの短期的利益を追求する姿勢ではなく、社会貢献などを通じてステークホルダーと関係性を築きつつ、企業は成長していく必要があります。
そのためには、ステークホルダーの声を無視せずに要望を聞き取って対応することが求められます。その手段としては、お客さま相談室で意見や要望、クレームなどの「生の声」を聞いたり、株主総会でどのような取り組みをしているのかを伝えたりする方法があります。また、地域のボランティア活動を通してコミュニケーションを取ることもステークホルダーとの関係構築につながるでしょう。
サプライチェーンの管理
原材料の調達から製造、流通、在庫管理、販売に至るまでのサプライチェーンの管理にも配慮する必要があります。その中でも、サプライチェーン上において社会的配慮を行い、持続可能な調達を目指す「サステナブル調達」が重要です。サステナビリティに対する社会的要請は企業単体だけでなくサプライチェーン全体に及んでいるため、原材料の調達ルートや製造・販売プロセス、取引先といったすべてのプロセスにおいて社会的責任を果たすことが求められています。
特に、グローバルに事業を展開する日本企業の中には、サプライチェーン上にある人権や環境などの問題に関係するリスクが高くなっており、社会的な配慮を行う必要性が高まっています。例えば、原材料の調達地域で児童労働や強制労働、低賃金労働などの人権侵害が発生している場合、国際的に問題視され、企業のイメージ低下につながります。
サプライチェーンを適切に管理するにはコストがかかりますが、レジリエンス(回復力・弾性)を意識したサプライチェーン構築は、原料の安定調達と品質向上につながります。コストを嫌って、見直しを怠ると、企業価値の損失のリスクを抱えることになるため、避けなければなりません。サステナブルという共通言語のもと、関連企業と共同調達を行うことで、リスクの低減とコストの低減を実現できる可能性もあるため、積極的に取り組むことをおすすめします。
サステナブル経営実施の注意点
従来の経営を見直してこれからサステナブル経営を実施する場合の注意点について解説します。
短期間でのリターンではなく長期的な価値向上を目指す
長期的な価値向上を重視する施策がサステナブル経営ですが、利益や価値を生んでいくには「長期的に市場から求められる」「供給に持続性がある」「社会からの信頼性を得る」という3つの点が重要です。需要に応えるには長期的に供給できる体制が必要であり、事業の継続には社会から信頼されるブランド価値を守る必要があります。
間違っても公益性の観点を欠いた短期・中期的なリターンだけで経営判断を下すべきではありません。ESG投資が注目されつつある現在、非財務的な取り組みも企業価値として社会や投資家から評価される要素になっています。持続可能性の観点を含む経営は企業価値の向上をもたらし、新たな価値創造や財務を改善する効果が期待できます。少なくとも財務的なリターンを阻害しません。
企業や事業のあり方や存在意義を問われる時代を乗り越えていくためにも、長期的な計画と目標を立てて達成していきましょう。どのような未来を目指すか、何をするのか、課題と解決方法をどうするのかといったことを考えてください。
全社での意識統一によって社内浸透させる
サステナブル経営の導入を成功させるには、立派な理念だけを掲げていても成功しません。まずは経営層が意欲的に参加して取り組んでいる姿勢を社員に見せる必要があります。
サステナブル経営でまず獲得できるものは、企業価値や従業員のエンゲージメントといった「無形資産」です。企業にとっては、競争の優位性確保やイノベーションを起こすことに役立つ一方、目に見えて分かりやすいものではありません。そのため、サステナブル経営の実施にあたっては、経営層が明確なメッセージの発信や行動を起こす必要があります。研修や勉強会、講習を開いて社員の意識を醸成したり、今後の方針や計画について理解を深めたりする施策も効果があります。最終的には個々の従業員が企業の理念を意識し、何ができるのか考えて、自律的に行動できるようになることが重要です。
サステナブル経営の取り組み例
サステナブル経営の取り組み事例として、主にビジネス向けソフトウェアを提供している企業であるOracle社の施策を紹介します。
Oracle社では、持続可能な開発目標の達成のためにテクノロジーが重要な役割を果たすと考えています。サステナブル経営の一環として、資源管理、バリューチェーンの実行、環境分析・報告などの最適化に対する支援を行っています。グローバル企業として資源管理にも責任を持ち、天然資源の使用量にもムダが出ないような配慮がなされています。
調達や物流においてもサステナビリティを意識した責任あるやり方を重視しており、社会的な影響に配慮した経済構築と事業運営の実施を行っています。サプライチェーンにおける取り組みでは、設計・製造・包装などの一連のプロセスに独自の基準を設け、各サプライヤーに遵守することを求めています。他にも監査プログラムの導入を実行するなど、プロダクトライフサイクル全体において、持続可能性への配慮が徹底されています。
紹介した取り組みは一部の例です。Oracle社は、循環型のエネルギー効率が高いクラウド運用や機器のリサイクルなど、サステナブル経営を実現するさまざまな活動を実践している企業です。
まとめ
サステナブル経営とは持続可能性に配慮し、長期的な社会貢献とステークホルダーとの共存によって企業成長を目指すことです。これらの取り組みによって事業のリスク低下や企業イメージの向上、人材確保のしやすさなど、長期的な面でさまざまなメリットが得られるほか、長期的な視点を持つことにより安定した事業継続が実現します。
サステナブル経営の実施にあたって、ITを活用した業務効率化を検討している場合は、エネルギー効率の高い循環型クラウドの運用などをはじめとするサステナブルな活動を実施しているOracle社のソリューションを導入することをおすすめします。
- カテゴリ:
- 経営/業績管理
- キーワード:
- SDGs