売上に関するルールの一つに、収益認識基準というものがあります。これは売上が発生するタイミングを明確にしたルールのことで、正しい財務諸表を作るために重要なものです。収益認識基準をしっかりと定めることは、コンプライアンスの強化にも繋がります。大企業のみならず中小企業でも意識しておきたいものだといえるでしょう。この記事では、収益認識基準とは何なのかという基本的な情報や、新しい収益認識基準の特長などについて解説します。
収益認識基準とは?
収益認識基準とは、企業の売上をいつ、どのように計上するかを明確にしたルールのことです。この基準があることによって、正確な売上高を把握することができます。ここでは収益認識基準とは何かについて、基本的な部分を解説します。
収益認識基準は売上が発生するタイミングについてのルール
収益認識基準とは、企業の売上がいつ発生するのかを定めたルールのことです。いつ売上を計上するかのルールを統一することで、損益計算書に正確な売上高を記載できるようになります。
2021年4月から新しい基準の適用が開始されました。従来は会社ごとに異なる基準を定めていましたが、基準が統一されていないと、企業の業績を比較して投資判断することができません。このような問題を解決するために導入されたのが、新収益認識基準です。
この新しい基準を導入する場合には、経理部門だけでなく営業部門などにも影響が出ることが予想されます。そのため、導入の際は各部門と密に連携を取って、説明とスケジュール管理を徹底することが重要です。
収益認識基準が必要である理由
収益認識基準が必要である理由として、以下の2点が挙げられます。
- 正確な財務状況を記録するため
- コンプライアンス強化のため
収益認識基準は、正確な財務状況を記録するためのものです。売上計上のタイミングがバラバラだと、同じだけ働いているのにある月は売上高が多く、ある月は少なく計上されるなどの問題が発生してしまいます。財務状況を正確に把握するために基準が必要だといえます。
また、基準が統一されていないと、不正をしやすい環境が生まれてしまいます。売上計上のタイミングを故意にずらすことで、実際よりも売上を多く見せたり、少なく見せたりすることが可能です。基準を統一することは、コンプライアンス強化にも繋がります。
新収益認識基準で何が変わる?
収益認識基準は2021年4月から新基準へと変わりました。では、これによって一体何が変わったのでしょうか。ここでは、新収益認識基準の特長や、従来のものとの違いについて解説します。
今までの収益認識基準の特長
従来の収益認識基準では、主に以下の3つの方法が採用されていました。
- 現金主義
- 発生主義
- 実現主義
現金主義では、現金の受け渡しが行われたときに売上を計上します。一方、発生主義は商品の受け渡しが行われたときに売上を計上するという考え方です。
実現主義は現金などを受け取って、商品やサービスの受け渡しが実現したときに売上を計上するという考え方です。あらかじめお金を受け取っていたとしても、まだ商品やサービスを相手に提供していなければ、収益として認識することはできません。
従来の収益認識基準では、多くの企業が実現主義を採用していました。しかし、統一された基準であったとはいいがたく、企業によって売上が計上されるタイミングが異なっていたのが実情です。
新収益認識基準の特長
新収益認識基準では、基準の統一化が目指されました。IFRS-15という世界的に使われている会計基準の考え方に則って収益を認識します。
重要なポイントは、義務を履行したときにはじめて売上として計上されるという考え方です。あいまいな部分があった実現主義の考え方と比較して、義務の履行というはっきりとした基準を設定したものになっています。
義務の履行とは、言い換えると顧客が商品やサービスを自由に使えるようになっている、ということです。商品の受け渡しについては理解しやすいですが、長期にわたる保守サービスなどは、段階的に売上の計上を行うことになります。
[RELATED_POSTS]なぜ新収益認識基準が必要なのか?
新収益認識基準が必要になった要因としては、以下のようなことが考えられます。
- 企業の業績を比較しやすくするため
- 海外投資家を呼び込むため
- 不正を抑止するため
まず、基準が統一されるため、企業の業績を比較しやすくなります。業績が比較しやすくなることで、投資活動を活発化させる狙いがあると考えられます。
また、海外の基準に合わせることで、海外からの投資を呼び込むといった狙いもあるでしょう。国際的な基準を用いることで、自国の企業の業績を評価するのと同じように、日本の企業を評価することができます。
加えて、基準の統一には不正防止効果もあります。ルールが明確化になることで、認識基準を悪用した売上の改ざんは難しくなるでしょう。
新収益認識基準のポイント
新収益認識基準では、収益を認識するまでにいくつかのステップを踏みます。ここでは、新収益認識基準で大切なポイントについて解説します。
5つのステップで収益を認識する
収益の認識に関して、新収益認識基準では以下の5つのステップを踏んで行われます。
- 契約を識別する
- 契約内の履行義務を識別する
- 取引価格を算定する
- 取引価格をそれぞれの履行義務に配分する
- 収益を認識する
一つひとつの契約に含まれる履行義務をしっかりと識別することがポイントです。契約で提示した取引価格は、それぞれの履行義務に決められた割合で分けられます。
例えば、パソコン本体とサポートサービスをセットで販売する契約を結んだとします。この1回の契約における取引価格が30万円だとすると、パソコンに25万円、サポートサービスに5万円を割り当てます。
収益の認識はパソコンを渡したときと、サポートサービスを渡したときにそれぞれ行われます。契約時にパソコンを渡したのであれば、そのときに25万円を売上計上します。一方、サポートサービスはある期間を経た後義務が履行されるため、段階的に計上することになります。
適用範囲は大企業や上場企業
新収益認識基準は全ての企業で適用されるわけではありません。適用が強制義務となっているのは、監査が必要な大企業と上場企業のみです。
中小企業は適用しなくてもよいとされています。もちろん任意適用ですので、適用しても問題ありません。ただし、上場を目指す企業にとっては必須ですので、早いうちに適用するのがよいでしょう。
新収益認識基準の影響を受ける取引は?
最後に、この新収益認識基準によって影響を受ける取引の例を見てみましょう。代表的な例は、以下のような取引です。
- 長期間にわたって義務の履行をする取引
- 商品とサービスのセット販売
- 建築やITベンダなどの取引
まず、2年間のメンテナンスサービスといった、長期間にわたるサービスは、義務の履行を段階的に行うという考え方を適用します。あらかじめ代金を受け取っていたとしても、その時点で売上計上してはいけません。義務の履行をするごとに少しずつ計上していきます。
また、商品とサービスのセット販売取引なども、代金が支払われた時点では全額を売上計上してはいけません。取引価格のうちサービス部分に割り当てた売上は段階的に計上します。
建築業やITベンダの契約も注意が必要です。建物やシステム開発には、ある程度の期間が必要なため、工事や開発の進捗度に従って収益を認識することになります。
まとめ
収益認識基準は、会社の業績を正確に記録するために必要なものです。正確な業績を記録することは、企業の戦略を立てるうえで重要なだけでなく、株主や顧客に対する信頼を得るうえでも大切です。
一方、収益認識基準を明確にして売上を管理するのは大変な作業でもあります。業務を効率化したいと考えているのであれば、NetSuiteのクラウドERPがおすすめです。会計処理やオーダー管理などの機能を統合したシステムで売上情報を一括管理し、業務の効率化に貢献します。ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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