ビジネスの世界において「DX」は、聞き馴染みがある言葉かもしれません。しかし、DXにもさまざまな取り組み方があり、「攻めのDX」「守りのDX」といった分類がなされることもあります。そこでこの記事では、「攻めのDX」と「守りのDX」の意味や具体的内容を解説するとともに、企業がDXに着手する際の手順に関しても説明します。
攻めのDXとは?
データおよびデジタル技術の活用により、社会や顧客のニーズに基づき製品・サービス・ビジネスモデルを変革したり、組織そのものや企業風土、業務、プロセスなどを変革したりして、ビジネスの競争において優位に立てる環境を構築することをDXと呼びます。
この定義においては、前者の社会ニーズ・顧客ニーズに基づいて製品やサービス、さらにはビジネスモデルの改革をしていくことを特に「攻めのDX」と呼ぶことがあります。
NTTデータ経営研究所が提唱する「攻めのDX」も、エコシステムやステークホルダーを巻き込むものであると定義されています。
つまり、自社のみならず、対外的に影響する変革に対して呼称しているのです。例えば、既存商品の価値向上や顧客接点を抜本的に改革することなどはいずれも攻めのDXにあたります。
守りのDXとは?
上述したDXの定義から考えた場合の「守りのDX」は、「組織そのものや企業風土、業務、プロセスなどを変革」することがこれにあたります。
NTTデータ経営研究所においても、守りのDXは自社でコントロールできる改革であると定義されています。例えば以下のようなことです。
- 業務効率の向上、省力化に向けた改革
- 業務プロセスの根本的な改革や再設計
- 経営データを可視化することによる的確かつ迅速な意思決定の実現
攻めのDXと比較した際の一番の違いは、自社でコントロールできる問題であるかどうかです。顧客など利害関係者も巻き込むようなテーマに対しての取り組みはハードルも高く、良くも悪くも変化による影響の範囲が広いです。他方で、自社内の問題であれば比較的外部との関係性を考慮する必要性が少なくなり、取り組みやすいと考えられます。
[RELATED_POSTS]攻めのDXと守りのDXの現状
NTTデータ経営研究所が、国内企業約1万5千社に対してアンケート調査を実施し、DXへの取り組み実態などその内容を一部公表しています。
その結果を見てみると、まず「DXへの取り組み状況」として、DXに取り組んでいる企業は全体の半数以下でしかないことが示されています。特に規模の小さい企業ほどあまり取り組んでいない傾向にあることがわかっており、売り上げ規模1,000億円以上の大きな企業であれば半数を超え、8割弱が取り組んでいます。(売り上げ500億円未満の企業では3割程度)
(参照元:https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/190820.html)
さらに同調査では、取り組み内容をいくつかのテーマに分類してその状況を調べています。
その結果、最もよく進められているのは業務効率向上や省力化であることがわかっています。また、業務プロセスの再設計や改革に関しても比較的よく進められているようです。
ただ、守りのDXにあたるものが上位を占めており、ビジネスモデルや顧客接点の改革といった攻めのDXに関してはいずれも小さな割合にとどまっています。
さらに、それぞれの「成果が出ている」比率に関しても攻めのDXでは低水準です。守りのDXに比べると取り組み自体もあまり進んでいない上、取り組みの難易度も高いことが理解できます。
DX推進に向けて企業がやるべきこと
DXの具体的内容、そして日本企業の進捗状況などを紹介してきましたが、自社でDXを推進していく上では何をやるべきなのでしょうか。これについては以下で解説します。
初めは守りのDXから着手
経産省から「DXレポート」が公表されて以降、DXに向けて取り組む企業は増えたとされていますが、それでもまだまだ十分に浸透しているといえる状況ではありません。また、上述の通りDXに取り組んだとしてもその成果が出るとは限らず、具体的目標や目的意識も持たずに始めたのでは効果も期待できません。
経産省が作成した「DXレポート2(中間とりまとめ)」の内容を見てみると、直ちに行うべきアクションとして業務のオンライン化や業務プロセスのデジタル化、顧客接点のデジタル化などが掲げられています。コロナ禍であっても事業継続を可能にするアクションであり、かつ従業員等の安全の配慮にも繋がります。
また、本格的なDXを進めていく上で重要になる短期的施策としては、経営陣やIT部門、事業部門などによるDXへの共通認識を形成することが挙げられます。
いずれも企業内部での対応ですし、比較的取り組みやすい内容であるといえるでしょう。目的等を明確にした上で取り組みやすい守りのDXから実施するのが良いということです。もちろん、効果的なDXの進め方は各企業を取り巻く環境によってさまざまです。しかし、何から手を付ければ良いのかわからず何も着手できていないという状況であれば、まずは守りのDXを検討してみましょう。
本気でDX推進を目指すなら攻めも意識
これから着手するという企業であっても、本気でDX推進を目指すのであれば、初めから攻めも意識した改革を行いましょう。
攻めのDXに対して資金を投下するのは勇気のいることですが、今後グローバル競争で勝ち抜いていくためには攻めDXに対する投資、とりわけIT投資は欠かせません。ただし守りのDXの重要性が低いということではありませんので、社内改革を行い企業活動の無駄を省きつつ、攻めに転換、あるいは同時進行していくのが良いでしょう。
例えば、単にITシステムを導入して業務をデジタル化するだけではなく、そこから得られたデータ等を有効活用しつつ、ビッグデータ・AI技術なども駆使して製品やサービスのさらなる発展を目指すという方法があります。
攻めのDXを実現した成功事例
ここからは、DXを実現した成功事例を紹介していきます。いずれも顧客との関係に変革を起こした、攻めのDXであるといえます。
ウォルマートのDX事例
世界的な活動を行う小売企業、ウォルマートは小売業界におけるトップ企業ですが、Amazonなど他社が行うEC事業が発展することに伴い苦戦もしていました。
しかし、オンラインとオフラインを上手く組み合わせたDXを進め、オムニチャネルを実現することによって利益を伸ばすことに成功しています。Webサイトと実店舗を独立した別物として扱うのではなく、組み合わせて顧客に適した商品を提供するサービスを構築するDXにより、さらなる成長を遂げました。
コマツのDX事例
建設機械メーカーとして活躍するコマツでは、工場内にある機械を一括管理し、インターネット上で稼働状況を確認するシステムを導入し、省力化や保守管理対策として効果を発揮しています。元は機械の盗難防止等を目的としていましたが、燃料消費の効率化や部品交換などの提案を顧客に行うなど、DXを具体化したサービスとなっています。
コマツの取り組みは2020年DX銘柄の中でグランプリにも選ばれており、DXの模範的事例として注目されています。
ミスミのDX事例
製造業向け工具や機械部品などを取り扱っているミスミは、「meviy」というプラットフォームを提供し、顧客の部品調達を支援する環境を構築しています。
部品調達では待ち時間などが発生し、業務に支障をきたす場面もあるのですが、「meviy」ではAIが設計データを解析し、迅速な価格・納期等の見積りを実行します。その結果、大幅な時間のカットを可能としたのです。
こちらも攻めのDX事例として注目を集めています。
まとめ
攻めのDXとは、顧客などのニーズに基づいて、製品やサービス、ビジネスモデルを変革することをいいます。これに対して、組織内の課題や業務効率向上、プロセスの変革などを通して競争の優位性を獲得することを守りのDXと呼びます。
攻めのDXのほうがハードルは高いといえますが、今後、業界を引っ張っていくような強い競争力を保持するためには、守りのDXのみならず攻めのDXにも着手していくことが重要です。自社の状況に応じたDXへの取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
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