企業経営において、環境問題や社会問題に対する取り組みが重要視されています。利益の追求だけでなく、社会の発展に貢献する経営体制は、ステークホルダーの意思決定促進に不可欠です。サステナビリティに基づくマテリアリティの明確化は、企業価値の向上と組織の成長を実現に導きます。本記事では、マテリアリティの概要や重要視される背景、SDGsとの関係性、具体的な設定方法について解説します。
マテリアリティ(重要性)とは
マテリアリティとは、組織に関わる「重要課題」を指す言葉です。マテリアリティについて理解を深めるためには、まず企業の本質的な存在意義を明確にする必要があります。企業は製品やサービスを創出することによって市場に価値を提供し、その対価として利益を得て発展していく組織です。しかし、経済的な価値の追求だけが企業の本質的な存在意義ではありません。組織と事業の健全な成長を通して社会的な価値を生み出し、世界の恒久的な平和と地域社会の発展に貢献することも企業の大切な存在意義です。
企業の社会的な価値を高めていくには、地球の温暖化や水不足、貧困格差、人種差別など、世界的な社会問題に対する取り組みが必要です。企業の経営ビジョンを実現するためには、自社を取り巻く市場動向や経営状況を俯瞰的かつ客観的に分析し、組織の発展に必要な要素を明確化しなければなりません。企業活動による社会課題の影響を理解するために必要となるのが、マテリアリティという概念です。
マテリアリティの意味
企業経営の領域において「優先的に取り組むべき重要課題」がマテリアリティです。マテリアリティの語源は「material」であり、英語で「材料」や「素材」を意味します。これまで、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書といった財務情報に大きな影響を及ぼす要因を指す言葉として用いられていましたが、近年におけるマテリアリティは財務情報だけを指すものではありません。
昨今では、社会の将来や環境に対する非財務情報を含む概念として、マテリアリティという言葉が使われています。たとえば、経営理念やビジョンに基づく成長戦略の策定やDXの推進といった財務情報に影響を及ぼす要因に加え、気候変動への対応やクリーンな自然エネルギーの普及、あるいはカーボンニュートラルの実現など、今後の見通しを踏まえた企業の潜在的価値もマテリアリティに含まれています。
なおマテリアリティ分析は、自社にとっての重要課題を抽出・評価し、優先順位の策定や中長期的な計画を立案するために用いられる手法です。
マテリアリティが重要な理由
マテリアリティが重要視される背景にあるのは、サステナビリティ(持続可能性)の実現です。サステナビリティは、企業経営の領域では経済発展・社会開発・環境保護という3つの要素がバランスよく統合された状態を指します。現代の企業経営における社会的責任を論じるうえで重要なキーワードとなっており、ステークホルダーの信頼を獲得するためにもサステナビリティに対する取り組みは欠かせなくなっています。
18世紀半ばから19世紀にかけて石炭を動力源とする蒸気機関が誕生し、産業革命による近代文明が幕を開けると、生産の中心が農業から工業へと移行し、科学の発展と物資の大量生産によって社会の利便性は飛躍的に向上しました。しかしその後、大気汚染や環境破壊は無視できない規模にまで拡大します。1960年頃になると環境問題に対する国際的な関心が高まり、1984~1987年にはWCED(World Commission on Environment and Development:環境と開発に関する世界委員会)がレポートの中でサステナビリティという概念を取り上げました。
その後、サステナビリティに基づいた社会と経済の進歩・発展に伴い、企業の環境問題や社会貢献に向けた取り組みが重視されるようになります。2000年に入るとCSR(企業の社会的責任)を強化する企業が増え、社会や環境に対する取り組みの開示が活発化します。ステークホルダーや投資家からの信頼を獲得するには、より具体化されたマテリアリティの公表が必要です。自社のあるべき姿や進むべき方向性を明示するために、現在多くの企業において、マテリアリティを明確に定義する必要性が高まっています。
・WCEDレポート(持続可能な開発)の提出(1987年) | 独立行政法人 環境再生保全機構
(参照元:https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/rekishi/06_02.html)
マテリアリティとGRIガイドライン
マテリアリティにはいくつかのフレームワークがあります。代表的なものとして挙げられるのが「GRIガイドライン」です。GRIガイドラインは、サステナビリティに関する国際基準と情報公開の枠組みを策定する非営利団体のGRCが作成したフレームワークです。さまざまな組織が環境・社会・経済的な発展に向けた方針や計画の立案・策定に活用しており、世界でもっとも利用されているサステナビリティのガイドラインとして知られています。
とくに、最新のGRIガイドラインである「GRIスタンダード」は、マテリアリティという抽象的な概念を具体的な指標と項目が落とし込まれたフレームワークです。多様なステークホルダーを想定したうえで、経済と環境、社会に与える影響を評価軸に構成されています。現代では、これまでの実績に加えてCSRやESG(Environment Social Governance:環境・社会・ガバナンス)といった非財務情報がステークホルダーの重要な判断材料になっています。このような背景を踏まえると、今後の企業経営は、ますますESG情報の開示に備えていかなくてはなりません。
マテリアリティとSDGsの関係
サステナビリティに基づくマテリアリティを策定するうえで「SDGs」への取り組みは欠かせません。SDGsとは、2015年にニューヨーク国連本部で開催されたサミットで掲げられた国際社会共通の目標です。この地球上から貧困と戦争をなくし、あらゆる国で生活を送る人びとが平和で豊かな暮らしを享受できる社会をつくり上げることが目的となっており「17の目標」と「169のターゲット」によって構成されています。
SDGsは2030年までに達成すべき世界共通の目標として認識されており、国内でもSDGsへの取り組みを経営体制に導入する動きは活発化しています。なお、SDGsはサステナビリティに内包される要素のひとつです。マテリアリティは、サステナビリティ報告書の作成においても不可欠です。また、気候変動に配慮した取り組みを情報開示するための調査であるCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の解答にも、マテリアリティの設定は欠かせません。
マテリアリティとサステナビリティは、政策や世論によって変化するため、継続的に見直していく体制が求められます。ただし、SDGsやESG、CSRなどの枠組みにとらわれると、自社のビジョンや企業価値と関連性の低い要素をマテリアリティに設定する可能性があるため注意が必要です。
・JAPAN SDGs Action Platform|外務省
(参照元:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html)
マテリアリティの設定方法
マテリアリティは企業の事業形態や組織体制によってそれぞれ異なるため、絶対的な正解というものは存在しません。マテリアリティを設定する際は、企業理念や経営ビジョンの明確化と事業に関連する課題を幅広く抽出し、事業領域における財務情報と社会的な領域の非財務情報を定義する必要があります。その際、先述したGRIガイドラインや先進的な企業の取り組み事例を参考にしながら、自社の事業形態や組織体制に応用していくのも有効な手段です。
自社にとって優先的に取り組むべき重要課題を明確化したのちに、各要素の優先順位を設定します。重要度と緊急度のマトリクスを用いてマテリアリティの優先順位を決定し、ステークホルダーの関心が高い要素や対外的に影響を与える課題から優先的に取り組むことが重要です。最終的なゴールへ到達するために必要な目標となるKPIの設定や評価方法を策定し、必要に応じてプロセスの見直しや改善といった施策を講じます。
[RELATED_POSTS]まとめ
マテリアリティとは、企業経営の領域における優先的に取り組むべき重要課題を指す概念です。現代の企業経営では、ステークホルダーの関心が非財務情報にも向けられています。企業が中長期的な発展を遂げるためには、社会や環境に対する取り組みが欠かせません。競合他社との差別化を図り、市場における競争優位性を確立するためにも、サステナビリティに基づくマテリアリティの設定に取り組みましょう。
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