管理会計および財務会計は、経理の仕事として重要なものです。どちらも会計に関する情報を提供するための業務ですが、提供先が違います。
管理会計は経営者や役員などに、会社の経営状況を示すための情報を提供し、正しい意思決定や事業戦略の立て直しなどを図るためのものです。一方、財務会計は期中を通じて会社の損益や資産などの情報を、投資家・株主・金融機関などの外部ステークホルダーに提出するためにあります。
本稿ではそのうち、管理会計にて具体的に行われる業務についてご紹介します。
管理会計の業務内容
まずは大まかな業務内容からご説明します。管理会計では大きく分けて、「経営分析」「原価管理」「予算管理」の3つの業務で構成されています。
経営分析
経営者などが、経営上の意思決定を下すのに1番必要な情報は「会社がどのような状況にあるか?」です。そのためには、財務諸表、調査報告、特殊調査の情報を分析していきます。
1.財務諸表
決算書に記載されている賃借対照表や損益計算書などから、経営状況と財務状況を分析します。
2.調査報告
調査会社に依頼し、提出されたレポートをもとに経営実態を分析します。
3.特殊調査
買収調査や資本参加など、財務と法務の観点から、監査法人や弁護士事務所に調査を依頼し、その結果を分析します。
経営分析ではさまざまな情報を分析する必要があり、あらゆる情報を統合的に管理することで、経営状況を明確に可視化していきます。
原価管理
原価管理は、会社が経営活動を続けていく上で「最小のコストで商品やサービスの品質、数量、顧客満足度などの目標を達成できるようにコントロールするため」にあります。商品やサービスにかかっている原価を知ることで、適切な価格設定や、利益率の拡大を図ることができます。
特に原価情報を可視化した「限界利益」を算出することが大切です。これについては後述します。
予算管理
予算と実績を比較した上で、計画通りに行っているか否かを判断します。予算が計画通りでなかった場合は、その原因を分析し、その後の予算管理を実施します。これも管理会計において重要な業務の1つであり、会社全体の予算を徹底管理することが、継続的に成長する企業経営のポイントです。
管理会計に欠かせない「限界利益」について
管理会計において、欠かすことのできない指標の1つが「限界利益」です。これは、売上高から変動費を引いた数値を指します。管理会計では経費を「変動費」と「固定費」に分類します。前者は売上に連動して増減する経費であり、後者は売上に連動しない固定的な経費のことです。仕入や外注費などは売上に応じて変化するので、変動費に分類されます。
一方、人件費や家賃などはたとえ売上がゼロでも発生するものなので、固定費に分類されます。たとえば小売業界やなどは売上原価と変動費はイコールなので、売上総利益も限界利益も同じになるはずです。ただし、製造業などは仕入れた原料だけでなく、製造や建設にかかわって人件費や減価償却費などの固定費も売上原価に含める必要があります。なので、売上原価と変動費はイコールで繋がりません。売上総利益も限界利益も異なります。
管理会計では、この「限界利益」に焦点を置いた検証・修正作業による、経営判断や事業計画の立て直しが欠かせません。たとえば、売上200万円に対してかかる費用が210万円の場合、一般的な考え方では-10万円になるので、引き受けない方がよいでしょう。ところが、210万円の費用の中に固定費40万円が含まれていると、「限界利益」は+30万円になります。これはつまり、固定費のうち30万円が回収できることになるので、この仕事を受注しなかった場合は固定費40万円がまるごと損失になってしまいます。以上のように、「限界利益」の観点から管理会計を実施すると、本来の損失を軽減することに繋がります。
さらに「限界利益率」を計算すると、より経営状況の把握ができます。「限界利益率」は「(売上高-変動費)÷売上高×100」で計算することができ、限界利益率の動きを月次で確認し、それらが想定外に変化しているケースでは売上単価の下落や変動経費単価の上昇などの問題が起きている可能性があります。さまざまな要因が考えられますが、その状態が長期化すると売上から十分な利益が取れなくなっていることを意味します。
このように、「限界利益」1つとっても経営状況を細かく把握することができるため、とても重要な指標なのです。
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この他、管理会計に欠かせない指標についてご紹介します。
損益分岐点
営業利益がゼロになり、そこから利益が発生するポイントを損益分岐点と呼びます。計算するには「固定費÷限界利益率」の式を用いて、会社が利益を出していくために最低限必要な売上高を算出します。
たとえば、原価20円で1,000個作ったパンを100円で販売した場合、何個売れば売上が出るのでしょうか?変動費が10円、固定費が10円だとすると、答えは「111個目」となります。損益分岐点を理解することで、商品やサービスをどれくらい販売したら利益が出るのかを理解できるため、管理会計において重要な指標です。
労働分配率
ビジネスで発生した付加価値に占める人件費の割合を労働分配率といいます。会社の生産性を測るものには、会社が生んだ付加価値がどこに使われているかを見ることが大切になります。そこで活用されるのが、労働分配率です。
労働分配率は「人件費÷付加価値×100」で計算できます。会社が生み出した付加価値が1億円、給与が4,000万円、法定福利費が600万円、厚生費が200万円だとすると、労働分配率は48%になります。
では、労働分配率の適正値はどれくらいでしょうか?中小企業庁が発表したデータによると、業界全体における労働分配率は2014年で68.62%。2015年で68.32%、2016年で68.58%となっています。
参考:中小企業庁『平成29年中小企業実態基本調査速報(要旨)(平成28年度決算実績)』
労働分配率の平均値は業界ごとに違いますが、おおよそ70%前後です。会社にとって、労働分配率が低いのは給与を十分に還元できていないことになり、高過ぎると会社の利益が確保できていないことになります。何事もバランスが大切なのです。
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管理会計に取り組んでみよう!
管理会計を実施するには、さまざまな情報を集めて分析し、いくつかの指標を追うことが大切です。まずは、経営者がどのような情報を求めているか?を明確にした上で、分析対象を確認します。また、多くの指標を追うのは難しいものなので、管理会計に特化したシステムの導入もご検討ください。
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