日本では労働力人口の減少などの問題が注目され、従業員の負担軽減につながる工数削減を検討する企業が増加しています。工数削減は、コスト削減や生産性の向上などのメリットもあり、事業活動の改善に役立つ手法です。本記事では、工数削減の概要からメリット、取り入れる際の手法、ポイントまで解説します。
工数削減とは
工数とは、ひとつの作業を完了させるまでにかかる時間や作業人数のことです。「工数=作業時間×作業人数」の計算式で、工数がわかります。工数削減は、作業を終えるまでにかかる時間や作業人数を見直して、工数を減らすことです。工場の作業やプロジェクトなどで工数を削減できると、作業時間の短縮や人件費の軽減に役立ちます。
ただし、工数削減のために作業時間や人員を減らす場合には、現場とよく話し合いをしながら進めなければなりません。実際に現場の状況に合わせた工数削減を行わないと、作業工程に問題が生じて作業がスムーズに進められなくなる恐れがあります。現場と確認しながら適切に作業工程を調整して、無理なく減らせる部分を削減することが大切です。
工数削減が必要な理由
現在、「労働力人口の減少」や「2025年の崖」問題など、さまざまな理由から工数削減が求められています。急速な少子高齢化社会が進んでいる日本では、1995年から15歳以上65歳未満の生産年齢人口の減少が続き、労働力人口(15歳以上の就業者・就業可能者)も減少すると予想されています。
内閣府からは、人口の急速な減少・超高齢化により2060年に、総人口のうち労働力人口の割合が約44%まで低下するとも発表されました。今後の人員不足対策のためにも、工数削減によって作業人員を減らす必要性が高まっています。
2018年に経済産業省が発表した2025年の崖問題により、DXの推進が行われていることも、工数削減が必要とされる理由のひとつです。2025年の崖では、2025年にITシステムの老朽化、サポートの終了、IT人材の大量退職などの問題により、最大12兆円もの経済損失が生じるとされています。DX推進によって工数を減らせれば、人員不足の解消や経済損失の抑制にもつながります。
工数削減のメリット
工数削減には、コスト削減、従業員の負担軽減、生産性の向上などのメリットに加え、従来事業で発生していた課題の解決が期待できます。
コスト削減ができる
工数削減により作業時間と人数を減らした場合、作業にかかっていたコストを抑えることも可能です。社内で昔から行ってきた作業には、何年も内容の見直しをしておらず、無駄が生じているケースもあります。見直しをして不要な工数を無くせば、業務の効率化が可能です。
作業時間を減らすと、残業代や作業中にかかっていた光熱費などの費用も減らせます。同様に、作業人数を減らした場合には人件費を抑えられ、利益の向上も期待できます。
従業員の負担が減らせる
工数削減を実現すると残業時間を減らせるため、働き方も改善され、従業員の負担を減らすことが可能です。作業の見直しを行うと、各工数を細かく洗い出した際に重複している工程や削除が可能な工程を見つけられるケースがあります。
これまで行ってきた作業のなかから減らせる工程を削ったり、ツールを導入したりといった方法で工程をスリム化できれば、従業員の負担が軽減可能です。
これに加えて、道具の置き場所や動線の見直しなどの観点からも効率化を行うことで、さらに負担は抑えられます。負担を抑えることで労働環境を改善できると、従業員の満足度向上にもつながります。
生産性向上が期待できる
工数削減を行うと、作業の効率化によって少人数・短時間で業務を行えます。少ないリソースで作業が完了できることから、生産性の向上にもつながります。
生産性向上には、主に2つの方法があります。業務の準備、伝票処理、書類作成など、さまざまな間接業務を減らす方法と、企業の営業や販売、製造など、直接利益につながる付加価値業務を向上させる方法です。
しかし、付加価値業務を向上させる方法は業務負担の増加にもつながるため、無理なく生産性を上げるには、工数削減により間接業務を減らす方法のほうが効果的です。業務の見直し、自動化などで工数が減らせると業務効率は改善され、利益向上にもつながります。
工数削減の手法
工数削減は、最初に現状を把握してからECRSの原則で業務を整理し、それぞれ優先順位や担当・範囲を決めてから実行します。計画から実行までのサイクルは、PDCAを回して徐々に改善していくことが大切です。
現状の把握をする
工数削減を行う際には、最初に現状を把握する必要があります。現場で行っている業務を流れに沿ってすべて洗い出し、作業工数と内容を確認しましょう。各作業にどれほど時間や人数がかかっているかをまとめてから、実際に必要な時間や人数を調べ直します。
この段階では、作業方法や担当従業員の能力まで詳しく確認することが大切です。作業工程を詳細に把握できると、改善が必要な部分も明確になります。問題点や改善点を確認するためにも、現状の把握は必ず行わなければなりません。
ECRSの原則で業務を整理する
「ECRS(イクルス)の原則」は、「Eliminate(排除)」「Combine(結合・分離)」「Rearrange(交換)」「Simplify(簡素化)」の4原則の頭文字から名づけられた、業務効率化によって工数削減に活用できるフレームワークです。4原則の順に進めていくと、効果的な業務効率化が行えます。
Eliminateは、作業を確認して無駄な作業をなくすことです。生産業務では検査、測定など、間接業務では報告、会議など、削減できる範囲で作業を削ることにより効率化が可能です。
Combineでは、削減できなかった作業から類似の作業を見つけて結合し、異なる作業は分離して工数を削減します。たとえば、複数作成していた報告書をまとめるなどの結合が挙げられます。
Rearrangeは、作業の順序や場所、担当者を変えるなど、入れ替えによって効率化を進める方法です。作業工程・配送ルートを入れ替える、作業スペースの設備を新しくするなど、入れ替えにより準備や片付けにかかる作業を効率化します。
最後のSimplifyは、業務をわかりやすく単純にすることで、工数削減を実現します。
優先順位を決める
現状を把握し業務の整理が完了したら、優先順位をつけて工数削減を進めます。
その際は、作業を「業務における重要性」と、「工数削減における緊急性」の2つの軸で分類しましょう。
「工数削減における緊急性」は、工数が多いせいでコストがかかっているのが明確であり、早急に工数削減を行うべきものを指します。
「業務における重要度が低く・工数削減における緊急度が高い作業」
「業務における重要度が高く・工数削減における緊急度が高い作業」
「業務における重要度が低く・工数削減における緊急度が低い作業」
「業務における重要度が高く・工数削減における緊急度が低い作業」
この中で、優先的に工数削減をするべきものは、「重要度が低く・緊急度が高い作業」です。
業務における重要度の高い作業は、工数削減の過程で万が一トラブルが起きた場合に、影響が大きくなってしまいます。そのため、工数削減の緊急度の高いもののなかでも、業務における重要度が低く、影響がでにくいものから手をつけましょう。
担当・範囲を決める
業務の担当者や担当範囲を詳しく設定すると、作業の重複や不要な作業の発生を防げます。
作業範囲が不明確だと、担当者はどこまで作業を進めるべきかわからず、担当範囲外まで作業してしまうこともあります。こうした作業範囲の重複は、業務の肥大化を招きかねません。
あらかじめ担当者ごとに作業範囲を定めて明確化し、自分の作業に集中できる状況を作ることが大切です。
計画を実行する
工数削減の実現に向けた業務計画が完成したら、社内に周知徹底しましょう。従業員に情報が行き渡って準備が整い次第、工数削減の計画を実行します。
計画を実行する際には、従業員が混乱したりトラブルが生じたりしないよう、業務への影響が少ないところで狭い範囲から始めましょう。いつでも戻せる状態にしておくのがポイントです。
ミスやトラブルの発生に備えて、計画実行のスケジュールにも余裕をもたせておくと安心です。新しい業務で今までと工数がどれだけ変わるのかの比較も忘れずに行ってください。
PDCAを回す
工数削減においては、予定通りに計画が実行されたか、計画が適切だったかを確認し、PDCAを回すことが大切です。従業員からのヒアリングも行い、従業員の負担軽減やコスト削減につながったかなど、現場の状況を確認します。
業務上のトラブルや、品質低下が発生していないかも確認しなければなりません。計画実行後に、業務効率化、コスト削減の効果が出なかった場合や、業務上トラブルが発生した場合には、改善計画を策定します。工数削減計画は、一度だけではなく定期的に検証を行い、徐々に改善していくことが大切です。
工数削減のポイント
工数削減は、周りの理解・協力を得る、スモールステップで取り入れる、システムやツールを取り入れるなどのポイントを押さえることで、スムーズに行えます。
周りの理解・協力を得る
工数削減は、実際に行う人だけが理解している状態ではなく、社内全体が情報を共有し、理解・協力する体制を整えることが大切です。
工数削減を実行すると、これまでとは作業内容が変わってしまうため、現場や周りが混乱してしまう恐れもあります。どの作業をいつ変更するか、注意点は何かなど、あらかじめ工数削減の内容を社内で共有して周りの理解を得ていると、計画実行時に周囲との連携が取りやすくなり、スムーズな移行も可能です。
スモールステップで取り入れる
工数削減の計画範囲が広い場合でも、実行する際にはスモールステップで取り入れるのがおすすめです。最初から広範囲にわたって作業を変更すると、大規模の変更に現場が対応できず混乱を招きやすくなるからです。
変更した範囲が大きいほど、ミスやトラブルの発生時にはさまざまな部署へ悪影響を及ぼす恐れがあります。作業の変更は影響が出にくい部分から、少しずつ実行していくことが大切です。
システムやツールを活用する
作業を削減するだけでなく、新しいシステムやツールの導入も工数の削減に役立ちます。毎日行っている入力作業やシンプルな帳票作成、集計作業といった単純な事務作業などは、ツールの使用による自動化で効率的に行えます。
これまで手作業で行っていた作業を自動化できるため、生産性の向上も期待できます。システムやツールを導入してDXを進めることで、スムーズな情報共有、データ検索時間の削減など、さまざまな業務の効率化につながります。
ERPを利用した工数削減の方法
ERPは、企業の膨大なデータを統合して一元管理するシステムです。これを導入すると、財務会計、販売、生産、人事など、部門を問わずすべての企業活動に関わる情報を統合管理できます。
ERPを活用すると、各部門の業務プロセスを統合することが可能です。これによって部門間・部門内で重複している作業の見直しもしやすくなり、工数管理を効率的に行えます。
企業活動におけるさまざまな業務はERPの統合データベース上で行えるため、部門ごとにデータを入力・管理する必要がなく、データの不整合が生じる恐れもありません。単純な入力ミスによるエラーも予防しやすくなるほか、意思決定の迅速化といったメリットが得られることもポイントです。ERPで情報の一元化を進めることにより、将来的な工数削減・業務効率化が可能になります。
まとめ
工数削減とは、作業完了までにかかる時間や作業人数を削減することです。労働力人口の減少や2025年の崖問題などの理由から、現在では従業員の負担軽減や生産性の向上が期待できる工数削減への取り組みが重要視されています。
工数削減は、現状を把握し、業務を整理した上で、優先順位や担当・範囲を決めてから計画を立てて実行します。これまで行ってきた作業内容を変更する工数削減は、トラブルを起こさないためにポイントを押さえて行うことも大切です。周りの理解・協力を得てからスモールステップで取り入れる、システムやツールを導入するなど、無理のない方法で行いましょう。
工数削減・業務効率化のために取り入れるツールには、企業内の情報や業務プロセスを統合できるERPがおすすめです。ERPの導入は、DX推進への取り組みにもつなげられます。
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