ユーザーファーストのEコマースを実現するうえで、近年「ヘッドレスコマース」への注目が集まっています。ヘッドレスコマースは、多様化する購買チャネルに応じ、迅速なシステム構築を可能とする未来志向のEコマースです。ECサイトは今後、ヘッドレスコマースへの移行が進んでいくと見られ、これから企業がEC事業を発展させていくには、ヘッドレスコマースの知識が不可欠と言えます。本記事では、ヘッドレスコマースの概要やメリットを解説します。
ヘッドレスコマースとは何か
ヘッドレスの「ヘッド」は、消費者とのタッチポイントとなるECサイトのフロントエンドを意味します。ヘッドレスコマースとは「頭がない」、つまりフロントエンドとバックエンドがそれぞれ独立しているEコマースのシステム構造を指します。
「フロントエンド」とは、消費者が閲覧したり操作したりする部分のことです。ブラウザはもちろん、スマートフォンアプリやECモール、SNS、デジタルサイネージ、音声サービスなどが該当します。
一方のバックエンドは、消費者からは見えません。ここには受注管理データや決済情報、在庫情報、顧客情報など、消費者が入力した情報の処理を担う業務が当てはまります。
ヘッドレスコマースではフロントエンドとバックエンドを分離することで、システム上の制限を取り払い、消費者がほしいと思えばすぐに購入できる基盤を作り出せます。簡単に言えば、ECモールにアクセスしなくても、ほかのさまざまなタッチポイントから商品が買えるようになるのです。
現在は常に新しいヘッド、つまりフロントエンドが登場しています。ウェアラブル端末やスマートスピーカー、Instagram、YouTubeなどを通じて商品を購入することも当たり前になりつつあります。
より便利な購買体験を提供して、顧客満足度を高めていくためには、それら多様化するタッチポイントに合わせてシステムもスピーディーに対応させていくことが重要です。そして、それを可能にするのがヘッドレスコマースです。ヘッドレスコマースによって、いつでもどこでも買い物できるようになれば、コンバージョン率の向上も期待されるでしょう。
APIについて
「API(Application Programming Interface)」は、既存のアプリケーションの一部機能を公開し共有できるようにした仕組みのことで、分離されたフロントエンドとバックエンドをつなぐ役割を持っています。他社のプログラムもAPIを通して無料で利用できるため、自社で新たにプログラムを開発する手間やコストがかかりません。
最近では、各システムの提供者やECプラットフォームが、APIのプログラムをWeb上で公開するケースも増えてきました。
自社が出店している大手ECモールのAPIを利用すれば、自社のECサイトで、そのモールにおける最新の在庫状況や顧客情報を表示することも可能です。大手ECモールと自社ECサイトのデータを一元管理できるため、より効果的なマーケティング施策を講じられるメリットがあります。
またAPIを使えば、システム間の情報共有が容易になります。例えば、現行のECサイトのプラットフォームに受注管理システムが組み込まれていない場合、これまでは受注情報のCSVファイルをプラットフォームから取り出し、バックエンド側のシステムに取り込んで処理する方法が一般的でした。そこでAPIを活用し、フロントエンドとバックエンドをそれぞれAPIに連携させれば、シームレスな情報管理が可能となるのです。
従来のEコマースとの違い
従来のECサイトでは、フロントエンドとバックエンドが一体化しているものが主流とされていました。基幹システムや受注管理システムなど、さまざまなシステムがECのプラットフォームに組み込まれているため、簡単にはカスタマイズできず、UI(ユーザーインターフェース)を変更したい場合はシステムを再構築する必要までありました。このように、両者が一体化したシステム構造を「モノシリック(一枚岩)」と呼びます。
一方、ヘッドレスコマースではフロントエンドとバックエンドが分離されているという点で、従来のEコマースとは異なります。APIを用いてフロントエンドとバックエンドを連携させるため、UIデザインを変えてもバックエンドに影響しないことが特徴です。
消費者のニーズや行動の変化に合わせて、迅速にサイトデザインも変えていけるので、ヘッドレスコマースはUX(ユーザーエクスペリエンス)の強化が見込めるシステム構造と言えるでしょう。
また、従来のEコマースシステムでは、新しいコンテンツをアップロードする際に時間がかかっていました。対するヘッドレスコマースでは、コンテンツのアップロードにかかる時間を短縮可能なので、ECサイトのパフォーマンス向上も期待できます。
ヘッドレスコマースのメリット
ヘッドレスコマースには、上述した以外にもさまざまなメリットがあります。
スピード
フロントエンドとバックエンドが独立しているため、それぞれが同時に作業を進められます。片方の作業が終わるのを待つ必要もなく、効率的な開発が可能です。
また、市場のトレンドに合わせて見せ方を柔軟に変更でき、フロントシステムを追加してタッチポイントを随時拡大していくことまで可能になります。ECサイトやモバイルアプリ、SNS、音声サービスなど、それぞれのフロントシステムに最適なコンテンツをスピーディーに配信していけるようになるでしょう。
自由度
フロントエンドとバックエンドのシステムが分離されていたほうが、UIデザインやサービスの拡張を行ううえで制約は少なくなり、より自由度の高いシステム設計が可能です。
また、異なるプログラミング言語で書かれたシステムを統合する際には困難が生じますが、ヘッドレスコマースではAPIによってすべてのシステムを統合し、既存のプログラミング言語でシステムを構築できます。
ヘッドレスコマースは、フロントエンドとバックエンドの連携ができないという課題の解決にも有効です。これまでは、UIを変更したければバックエンドが対応しているかどうか考慮しなければなりませんでしたが、ヘッドレスコマースではその必要がありません。マーケティングやキャンペーンに関するツールも必要に応じて実装できるので、多様化する顧客ニーズや移り変わりの早い市場トレンドにも柔軟に対応していけます。
OMO・オムニチャネルとの相性
ヘッドレスコマースは、OMOやオムニチャネルとの相性がよいことでも知られています。
「OMO」とは「Online Merges with Offline」の略で、オンラインとオフラインの垣根を超えて、消費者のあらゆる購買行動データを集約し、顧客体験を重視したマーケティング施策を打ち出していくことです。実店舗での購買情報とECサイトでの購買情報を一元管理すれば、消費者一人ひとりの好みに基づき、よりパーソナライズされた情報を発信することができます。
一方の「オムニチャネル」とは、実店舗・ECサイト・SNSなど、あらゆる販売チャネルと流通チャネルを統合し、消費者とのタッチポイントを増やす取り組みです。
バックエンドで扱う顧客情報をもとに、複数のチャネルに届けられるヘッドレスコマースは、これらの施策にマッチします。消費者はECサイトと実店舗を使い分けており、店舗で実物を見て試し、ECサイトで購入するといった購買行動も珍しくはありません。多様化するチャネルをシームレスにつなぎ、一貫した購買体験を提供していくうえで、ヘッドレスコマースは有望視されているのです。
ヘッドレスコマースの課題
このようにメリットの多いヘッドレスコマースですが、すべての企業が移行に踏み切るわけでないのには、それなりの理由があります。
従来のEコマースシステムをヘッドレスコマースのシステムに再構築するには、時間もコストもかかります。既存のシステムで特に問題ないのであれば、企業の責任者にヘッドレスコマースへの移行を提案したところで、なかなか受け入れてもらえないかもしれません。
また、従来型のEコマースシステムには、システム構成のシンプルさゆえ開発難易度が比較的低く、システムテストの工数が少ないというメリットもあります。もともとECプラットフォームに連携しているシステムが少ない場合、ヘッドレスコマースに移行してもさほど利便性を実感できないでしょう。
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ヘッドレスコマースへの移行をどうするか
とはいえ現在、数年前には想像もしていなかった新しいタッチポイントが続々と登場してきているのが実情です。ネットで買い物するにあたり、Webブラウザという購買チャネルは今後、衰退していくことも十分予想されます。
そうした現状を踏まえると、変化の速い市場トレンドや複雑化する消費者のニーズに対応していくうえで、いずれヘッドレスコマースへの移行を余儀なくされる時代が来るはずです。将来的に自社のEコマース事業を発展させていくためには、段階的にでも現行のEコマースからヘッドレスコマースへの移行を検討しておいたほうが賢明でしょう。
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まとめ
フロントエンドとバックエンドが分離されたヘッドレスコマースは、従来型のEコマースと比べて効率的なシステム開発を可能とし、サイトデザインの変更やシステム間での情報共有も柔軟に行える、未来型のEコマースです。複数のチャネルに分散されている顧客情報も一元管理できるため、より消費者の嗜好に合ったコンテンツを、消費者の生活導線上にあるチャネルへと届けられます。
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