環境保全は、企業にとって重要な経営課題のひとつであり、環境への配慮を定量化する環境会計の必要性が注目されています。本記事では、環境会計について概説するとともに、環境会計ガイドラインの意味や導入のメリットについて解説します。また、環境会計に役立つ資格として、環境プランナーを取り上げ、その取得方法も紹介します。実際に環境会計を採用している企業には、どのような傾向が見られるのかも説明するので、ぜひ参考にしてください。
環境保全の推進を目的とした環境会計とは
2005年に環境省が公表した「環境会計ガイドライン2005年版」によると、環境会計とは、「企業等が、持続可能な発展を目指して、社会との良好な関係を保ちつつ、環境保全への取組を効率的かつ効果的に推進していくことを目的として、事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的(貨幣単位又は物量単位)に測定し伝達する仕組み」と定義されています。
(引用元:https://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=6396&hou_id=5722)
つまり、環境会計とは、企業が環境保全活動にかけたコストとその効果を金額や物量の形で数値化し、社会に対してわかりやすくアピールするための手段です。環境会計を実践して、環境保全に関する自社の取り組みを、利害関係者に正当に評価してもらうことが、今後企業を存続させる上で、ますます重要になっていくでしょう。
とはいえ、日本において、環境会計に関する法律や規制はなく、環境会計の実施は、企業の自主性に委ねられています。そのため、導入は意識の高い企業のみにとどまっているのが実状です。なお、日本で環境会計が誕生した背景には、環境保全関連支出の増加、ISO14001の認証取得企業数の増加、エコ・ファンドの台頭などがあると考えられます。
環境会計の内部機能とは?
環境会計の内部機能とは、企業等の内部において、環境保全に対する経営管理や意思決定を支援する機能です。環境会計というツールを利用すれば、環境保全に要したコストを管理し、環境保全対策の費用対効果が分析できるようになります。適切な経営判断を行うための材料が集まるため、より効率的で効果的な環境への投資が可能です。
環境会計の外部機能とは?
環境会計における外部機能とは、企業等の情報を外部に公表する機能です。この機能により、環境報告書等に企業が環境保全に関してどのような取り組みを実施しているか、結果をわかりやすく明示でき、組織外の利害関係者に対して説明責任を果たせます。
なお、ここでいう利害関係者とは、消費者や取引先、投資家、地域住民、政治家などを指します。企業による情報の公開が、利害関係者の意思決定にプラスの影響を与え、環境に配慮した地道な取り組みが認められることで、その企業は適切な評価を受けられるようになるでしょう。
環境会計のガイドライン
環境会計のガイドラインとは、企業等が環境会計を採用・実践するのを支援するために、環境省が作成した指針です。このガイドラインは、企業等に活用されることを前提とし、環境会計が内部機能・外部機能のどちらにおいても、より効果的な手法となるように作成されています。
1999年に公表された「環境保全コストの把握及び公表に関するガイドライン(中間取りまとめ)」が最初のものであり、その後改定を繰り返して、2005年に公表されたものが最新版です。2005年版では、より利便性が向上するよう、新たな研究・調査結果や非上場企業などにおける環境会計の実施状況などが反映されています。
現在、環境省はガイドラインの改定作業を進めており、2017年に公表した「環境報告ガイドライン及び環境会計ガイドライン改定に向けた論点整理」の中で、その状況を中間報告しています。その中には、すべての利害関係者のニーズに応える指針を目指し、中規模以下の事業者を含む幅広い事業者が使いやすいように、コンパクト化を検討する等の内容が盛り込まれています。
[RELATED_POSTS]環境会計を導入するメリット
環境保全への取り組みは、コストがかかるというイメージを持たれがちです。しかし、省資源や省エネルギーを徹底することで、原材料費や燃料費のコストを削減できるという側面もあります。
経営管理に役立つ
環境会計を採用することは、経営管理に役立ちます。それは、内部機能の項目で説明したように、環境会計は経営管理を支援するツールとして利用できるからです。
環境保全に関わるコストや効果に加え、環境保全活動に関する環境負荷情報などが環境会計を通じて把握され、分析された結果は、効率的な環境経営に活用できます。環境会計を経営管理に役立てるには、例えば、各々の環境保全プロジェクトについて収支を計算し、投資の判断材料とすることなどが考えられます。
公表することで企業をアピールできる
環境会計を実践し外部に発信することで、環境保全に取り組む姿勢を取引先や投資家といった利害関係者にアピールできます。また、環境保全に積極的に取り組んでいる企業として社会的に認められれば、中長期にわたる企業の業績アップにもつながるでしょう。
最近では、就職活動の場面でも、環境会計を採用している企業に就活生の人気が集まる傾向があります。そのため、優秀な若手の人材が集まるという効果も期待できるでしょう。
環境会計で役立つ環境プランナーとは
環境プランナーとは、企業が事業を行う上で直面する様々な環境問題に対処するために、必要な経営知識を持ち、企業に対して環境全般のアドバイスや関連実務ができる人材です。環境プランナーは、民間資格ではあるものの、環境省が進めているエコアクション21審査人の受験資格となっており、公に認められています。
特に昨今の中小企業において、環境プランナーは重要な人材です。ISO14001の認証取得から環境会計の導入まで、環境全般に対応可能で、企業に対してビジネスと環境を両立させるための必要な提言ができ、行動を起こせる人材が求められています。
環境プランナーになるには
環境プランナーになるには、まず高等学校卒業以上の学歴が必要です。そして、環境プランナーは社会人向けの資格ということもあり、2年以上の業務経験を有することが申請要件に入っています。ただし、特例として、環境分野の学士、修士、博士課程に在籍する学生は申請要件を満たし、資格の取得が可能になります。申請要件を満たしている場合は、環境プランニング学会認定の環境プランナーコースを受講し、修了試験に合格すれば、環境プランナーの資格が取得できます。
なお、環境プランナーには、「環境プランナーER」と「環境プランナーERO」という2種類の上位資格があります。環境プランナーERになるには、環境プランナーの資格が、環境プランナーEROになるには、環境プランナーERの資格が必要です。
どのような企業が環境会計を導入しているのか
2020年に環境省が行った「令和元年度 環境にやさしい企業行動調査(平成30年度における取組に関する調査)調査結果」によると、環境会計の導入率は、上場企業が44.3%、上場していない企業が10.5%で、全体でみると19.6%の導入率という結果が出ています。環境に配慮することが企業経営にとってどのような位置づけにあるかという問いに対しては、「社会的責任のひとつ」という意見が58.2%と最も多く、次いで「重要なビジネス戦略のひとつ」と答えた企業が19.8%ありました。環境会計を採用している企業は、年々増えているものの、規模が小さい企業ほど浸透していないというのが現状です。
(参照元:https://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/kigyo/R1/100.All.pdf)
まとめ
環境会計を採用し、環境に配慮している姿勢や実績を利害関係者にアピールすることで、企業は社会から適切な評価を受けられるようになり、業績アップにつなげられるでしょう。また、環境会計を経営管理の機能・ツールとして用いることで、効率的な環境経営が実現できます。
なお、環境会計を行う上で役立つ資格としては、環境プランナーがあります。企業の中長期的な存続・成長のためにも、環境保全の取り組みを明示できる環境会計の採用を考えてみてはいかがでしょうか。
- カテゴリ:
- 経営/業績管理