2018年10月23日に平井卓也科学技術相が、日本経済新聞等のインタビューにおいて「デジタルファースト法案を来年の通常国会に提出する」という考えを示したことで「デジタルファースト法案」に注目が集まっています。
このデジタルファースト法案とは何なのか?ITに関わる方や企業経営者の方は なんとなく「無関係ではなさそう」と考えている方も多いでしょう。実際にデジタルファースト法案が実現すれば、様々な業態が変化するためすべての企業にとって関係のあるものです。
本稿ではそんなデジタルファースト法案について解説します。
そもそもデジタルファーストとは何か?
実は「デジタルファースト」という言葉は以前から浸透しているもので、もともとは「従来、印刷物として提供されてきた書籍・雑誌・新聞といった媒体を、最初から電子出版形式で提供すること」を指します。しかしビジネスや社会のデジタル化が進むにつれて「ビジネスにてデジタル化を優先し各業務や活動に取り組む」という概念に発展しました。
類似した言葉として「クラウドファースト」があります。これは、ITシステムを導入したりそれに必要なインフラを調達するにあたって、クラウドサービスの利用を優先的に検討するという考えです。デジタルファーストは、このクラウドファーストを含む広範囲なデジタル化の概念だと言えます。
デジタルファーストが必要とされている理由は3つあります。
1. ビジネス社会の急速なデジタル化
米デロイト社の調査(Mind the gaps The 2015 Deloitte Millennial survey)によると2020年までにビジネスパーソンの50%はデジタルネイティブ(学生時代からPCやインターネットといったデジタルが、当たり前のように身近に存在していた世代)になると言われています。IT技術の発展よりも急速なスピードでデジタル化は進み、その対応が強く求められている時代です。潮流に沿ったデジタルコミュニケーションを実現するためには、デジタル化されたビジネス環境が必要です。
2. 業務自動化による作業効率のアップ
代表的なデジタルファーストといえば、帳票類のペーパーレス化です。たとえば契約書をデジタル化すれば数日かかる契約業務を数時間に短縮したり、デジタルデータとして保管することで管理スペースや管理コストの削減になります。デジタルファーストによって業務自動化に成功すれば、作業効率を大幅にアップしつつ様々な経営課題を解決できます。
3. デジタルトランスフォーメーション
デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル化を推進することで起こすビジネス改革です。その対象は社内業務だったり収益モデルだったりと様々であり、現代企業にはこのデジタルトランスフォーメーションが強く求められています。消費者や企業の行動は完全にデジタル化しているため、企業もそれに合わせたデジタル化が必要になっているのです。
以上のように、デジタルファーストとはあらゆる場面でデジタル化を検討し、新しいビジネスを展開したり経営課題を解決したり、企業を1つ上のステージへと押し上げるための新しい経営概念です。
[RELATED_POSTS]デジタルファースト法案とは何か?
デジタルファースト法案に関しては2018年6月8日に総務省からその概要が発表されています。その内容によればデジタルファースト法案の主な概要(検討中)は次の通りです。
①. 行政手続きのオンライン化の徹底
- 行政手続きのオンライン原則
- 本人確認手法のデジタル化
②. 添付資料の撤廃
- 行政機関間の情報連携等による添付資料の省略
- 添付書類のデジタル化
③. デジタル化を実現するためのシステム整備等
- オンライン化及び添付書類の撤廃のためのシステム基盤の準備
- システム整備に当たってのAPIの整備及び活用
- デジタル化に当たってのデジタル・デバイドへの配慮
デジタルファースト法案の中心になるのが「オンライン処理原則化による行政手続きの効率化」です。各種行政手続きを完全にオンライン化すれば、企業にとっても自治体や国にとっても業務効率を大幅に向上し、高い生産性を手にすることができます。
なぜこうしたデジタルファースト法案が検討されているかというと、日本は「2020年までに先進国(OECD加盟35か国)で3位以内を目指す」をいう目標を掲げたにもかかわらず、2013年の15位から5年間で10位以上もランクを落としていることが大きな理由になっています。
その原因として法人設立・建設許可・不動産登記・契約執行といった行政手続きと法律の分野であり、これを改革しなければいけないという姿勢からデジタルファースト法案による行政手続きの完全オンライン化が検討されているのです。
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今から始めるデジタルファースト
デジタルファースト法案が通常国会に提出されるのは2019年を予定しているので、法案が可決し施行されるまでしばらくかかるでしょう。
この国が推し進めるデジタルファースト法案は、ほとんどの企業にとっては関係ないかもしれませんが、この潮流を機に一般企業においてもデジタルファースト法案同様にデジタル化を推進することに力を入れてみてはいかがでしょうか。そこで、デジタルファーストに向けて取るべき行動を紹介します。
デジタルファーストニーズを見つけ出す
まずは企業を取り巻くヒト、モノ、カネ、情報、業務といった要素を可視化して企業の現状を把握します。その上でデジタルファーストニーズがどこに隠れているかを考えてみましょう。たとえば契約業務では紙文書での契約によって、印紙代や郵送代が負担になっていたり契約締結までに時間がかかるといった問題がよくあります。
契約業務をデジタル化すれば、これらの問題は一挙に解決できるでしょう。
デジタルファーストの本質をとらえる
デジタルファーストは「何でもデジタル化する」という意味ではなく、大切なことはデジタル化によって業務効率をアップしたり、新しいリソースを生んだり、顧客満足度を向上するといったことです。そのため前述した契約業務デジタル化の話しで言えば「必ずしもデジタル化がプラスの方向に働くとは限らない」ということを理解しましょう。
取引先の事情を考慮するとデジタル化せず現行のまま取引を行う方がよい場合もありますし、デジタル化によって会社の強みが失われるというリスクもあります。デジタルファーストはあくまでデジタル化を優先的に考え、課題に応じて最適な一手を選択するためのものです。場合によっては「あえてデジタル化しない」という選択肢もあります。
必要な情報基盤を整える
デジタルファーストへ取り組むにあたって大切なのが情報基盤の整備です。その中でも企業経営に必要な「データの一元化」が高い効果をもたらします。部署ごとに分断している業務アプリケーションを1つのデータベースで管理することで、データ連携を素早く行い会社全体の業務効率をアップできます。しかしながら、単一データベースを築くのには手間と時間、それとコストがかかります。
そこでおすすめなのが「クラウドERP」の活用です。ERP(Enterprise Resource Planning)には様々な業務アプリケーションが統合されており、それらはすべて1つのデータベースで管理されています。そのためシステム間のデータ受け渡しがスムーズに行え、データ分析のための情報収集も容易に行えます。
デジタルファーストに向けて取り組めることはたくさんあります。ビジネスをまた1つ成長させるためにも、デジタルファーストを積極的に検討していきましょう。
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