難解な会計用語の中に「CVP分析」があります。複式簿記の知識を持っている方ならば簡単に理解できるCVP分析も、初めて目にした方にとっては何のことやらさっぱりなのではないかと思います。CVP分析は経営管理に役立つ分析手法であり、財務分析の基礎にもなるので、本稿で ぜひその概要について知っていただきたいと思います。
CVP分析とは?
CVP分析は「Cost(コスト)」「Volume(販売量)」「Profit(利益)」の3ワードの頭文字を取ったもので、日本語では「損益分岐点分析」と表現されます。複式簿記知識として欠かせない分析であり、会計管理上の分析手法の一種として広く使用されています。まずは、CVP分析が何かを理解することから始めましょう。
損益分岐点とは?
CVP分析を理解するためにはまず「損益分岐点」という言葉の意味を知ることが一番の近道です。企業が継続的に事業活動を行い、利益を生み出していくためには、製品販売やサービス提供にかかった費用よりも売上高を大きくしなければいけません。その費用と売上高が同じ金額になり、損失と利益がプラスマイナスゼロになったところを「損益分岐点」と呼びます。利益はないけれど損もしていないポイントであり、それを越えて商品やサービスを販売することで利益に転じていくポイントでもあります。
つまり、損益分岐点を売上高が上回れば利益になり、逆に損益分岐点を下回ってしまうとそれは損失になり赤字となります。
変動費と固定費
損益分岐点は売上高と費用によって決まります。これを計算するためには、費用をさらに「変動費」と「固定費」に分類する必要があります。変動費とは生産量や販売量に応じて増減する変動経費を指し、材料費などがその代表です。一方、固定費とは生産量や販売量の増減にかかわらず固定で発生する経費を指し、人件費やテナント料、固定資産材などが該当します。
これを踏まえて損益は「売上高-費用(変動費と固定費)」の式で計算することができます。
CVP分析のやり方
たとえば、1個あたりの売上が100円の製品に、20円の変動費と1ヵ月100,000円の固定費がかかるとします。この製品から利益を生み出すためには、1ヵ月あたり何個販売すればよいでしょうか?その計算方法が「売上高=売上原価」です。実際に計算していきましょう。
100円×□個=20円×□個+100,000円
100円×□個-20円×□個=100,000円
(100円-20円)×□個=100,000円
80円×□個=100,000円
□個=100,000円÷80円
□個=1,250
答え:1,250個販売すると損益分岐点がゼロになる
いかがでしょうか?このように、1個あたりの売上と費用(変動費と固定費)さえ理解していれば、損益分岐点は簡単に算出することができます。この例では、1,250個販売すれば赤字から黒字に転じ、利益が生まれることになります。言い換えれば1ヵ月あたり1,250個販売しないと利益が生まれないことになります。
CVP分析はなぜ必要なのか?
CVP分析は特に、新規事業立ち上げや新製品販売の際に有効だとされています。他の事業活動が上手くいっているからといって、綿密な計画を練ることなく新規事業を開始してしまうと、新規事業が不調になった余波が主要事業に及ぶ可能性があります。そうなってしまうと、経営全体が傾き、事業縮小などを余儀なくされてしまうでしょう。
そこでCVP分析を使用し「損益分岐点」を知ることで、どの単価で最低どれくらいの製品を販売すれば利益を創出されるのかを計算し、その妥当性と現実性を検討して計画的に新規事業を開始することができます。
その一方で既存事業においてもCVP分析は活躍します。CVP分析を実施することで、企業全体ではなく各部署、製品別のコスト構造を理解することができ、現状抱えている原価管理問題などのリスクを浮き彫りにすることができます。新規事業でなくても毎月、損益分岐点を算出することが理想的だといわれています。原価はその時々で変動するものなので、毎月の収支を正確に把握し、損益分岐点を継続的に算出することは安定した経営を行うために欠かせません。
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限界利益率から損益分岐点を求める
損益分岐点を算出するための公式について前述しましたが、その方法以外にも「限界利益率」から損益分岐点を求める方法があります。限界利益とは売上高から変動費を差し引いた利益のことであり、直接手元に入る利益のことを指します。ただし、限界利益には固定費が含まれているので、限界利益と固定費がリコールにならなければ赤字になってしまうということです。そして限界利益率とは、売上高の中で限界利益の占める割合のことです。では実際に計算していきましょう。
まず、限界利益を算出するには「売上高×限界利益」で算出し、これを置き換えると「固定費=売上高×限界利益率」で求められ、さらに「損益分岐点=固定費÷限界利益率」で算出することができます。では、150円で販売する商品を30円で仕入れ、それを販売するための店舗を1ヵ月150,000円で借りることにしました。
売上高150円
変動費30円
固定費150,000円
ということになります。ここから限界利益率を計算していくと、限界利益率は「1-(変動費÷売上高)」で求めます。
限界利益率=1-(30円÷150円)
限界利益率=1-0.2
限界利益率=0.8(80%)
この限界利益率0.8(80%)を「損益分岐点=固定費÷限界利益率」の数式に当てはめていきます。
損益分岐点=150,000円÷0.8
損益分岐点=187,500円
これで損益分岐点が算出されました。つまり、この製品から利益を生み出すためには毎月187,500円以上の売上が必要になり、それを下回ると赤字になります。
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CVP分析を効率良く行うには?
いかがでしょうか?本稿ではCVP分析の概要とその計算方法についてご紹介しました。管理会計目的はもちろん、新規事業の計画立案時や財務状況把握のためにもこのCVP分析をぜひご活用ください。最後に、このCVP分析を効率良く行うための方法をご紹介します。
CVP分析を正しく実施するには、正しい原価を把握することがとても大切です。製品原価や販売原価など、製品製造や販売にかかわる原価を正確に知ることで、正確なCVP分析が可能になり、より安定した経営を目指すことができます。しかし、原価はあらゆるコストが関係してくるため、人手で完璧に管理することは非現実的なことです。そこで、原価管理を徹底するためのシステム構築をおすすめします。
具体的には、複数のシステムが単一データベースによって管理されているOracle ERP CloudやOracle NetSuiteなどのERP(Enterprise Resource Planning)を導入することで、すべてのシステムから原価管理にかかわる情報を収集でき、正確な原価情報をリアルタイムに取得することができます。そうすることで初めて、正しいCVP分析が可能になり事業戦略の立案に有効的な知見を導き出すことができるでしょう。
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- データ分析/BI