ビジネスシーンにおいて「基幹システム=ERP」といった認識をもたれている方は少なくありません。しかし、基幹システムとERPは別物です。これを理解しているか否かで、発見できる経営課題や、解決できる問題の質と量が変わります。
そこでこの記事では、基幹システムとERPの違いや特徴について解説します。基幹システム運用で課題をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
基幹システムとは?
「基幹」という言葉には「物事を成り立たせるための主要部分」といった意味があります。そのため、基幹システムとは特定の物事を成り立たせるために欠かせないITシステム(とりわけ業務アプリケーション)と言い換えられます。企業においてはバックオフィスに集中しており、次のようなものが代表的です。
いずれのITシステムも、企業が経営活動を維持していく上で欠かせないものばかりです。
一方、顧客管理を目的としたCRMやマーケティングを目的としたMAツール、コミュニケーション円滑化を目指すグループウェアなどのITシステムは、「情報系システム」と呼ばれます。これらは事務作業や情報処理を効率化するためのITシステムであり、必ずしも経営活動の維持に欠かせないものではありません。
従来、ビジネスに直接関与しないものは情報系システムにカテゴライズされてきました。ただし、最近ではCRMやMAツールも経営基盤として必要不可欠になってきているため、その垣根は曖昧になりつつあります。
前述した6つの基幹システムは、部門ごとに最適化され独立した状態で稼働しており、異なるデータフォーマットや帳票を管理している状態が主流です。多くの企業では、特定の業務を行う部門ごとに最適化することによって業務効率を大幅にアップできると考えられてきました。また実際に、高い生産性を手にしてきた経緯もあります。
しかし昨今、企業が扱うデータ量は膨大です。さらに、消費者や企業の製品・サービスに対するニーズも非常に多様化しています。変化の激しいビジネスシーンにおいて、部門最適化が本当に最適解かどうかは見直す段階に来ているといっても過言ではありません。
代表的な6つの基幹システム
ここでは、先に述べた基幹システムがどのような特徴やメリットを持っているのかを説明します。
生産管理システム
生産管理システムは、自社にとって必要な商品の生産量を確保するため、原材料の調達から生産までのフローを、より効率化させるために管理するシステムです。QCD(品質・コスト・納期)の最適化を目的とし、在庫管理システムと連携させるケースが多いです。
販売管理システム
顧客などの取引先に商品やサービスを販売するにあたって、見積のやり取りや受注、納品、入金といったさまざまな情報をとりまとめ、管理するシステムです。煩雑になりがちな損益、商品ごとの売上などを正確かつスピーディに確認できるメリットがあります。在庫管理システムや受注管理システムなどと連携させると、より包括的な管理が可能です。
仕入管理システム
商品を販売するためには、生産工程に必要な原材料や出来上がった製品自体を仕入れなければなりません。そこで、仕入れに関する情報を管理できるのが「仕入管理システム」です。
販売数を増やそうとするあまり、何も考えずに多く仕入れてしまうと過剰在庫になるおそれがあります。また、そのために多くの人員を割くとコストにも影響がおよびます。
在庫適正化や管理コスト削減のためにも、仕入管理システムがあると効果的です。
在庫管理システム
生産したり購入したりした商品は売れるまで在庫として確保しておく必要があります。現状の在庫数が適正かどうかを把握し、管理するためには「在庫管理システム」が有効です。いつまでも売れない不良在庫を抱えることなく、大きな負荷がかかりやすい棚卸作業も効率化できるのがメリットです。
会計管理システム
顧客など取引先とは、商品やサービスの対価としてお金をやり取りするため、それらを管理する「会計管理システム」も重要な役割を果たします。現在、自社がどのような財務状況にあるのか、財務諸表を作成してクリアにできるのが利点です。そうした意味から「財務管理システム」や「経理システム」といった名称で呼んでいる企業もあります。
労務管理システム
「労務管理システム」は、企業にとって重要なリソースのひとつである「ヒト」、つまり社員の勤務状況をチェックし、適切な労働環境になっているかを把握できるシステムです。また安心して働けるように社会保険や労働保険などを管理できるのも特徴です。社員の労働状況を正確に把握し、問題点があれば改善につなげられるようになります。
基幹システムを運用するメリット
基幹システムを導入する際、次のようなポイントを理解した上で運用すれば、より効果を上げられます。
業務の効率化につながる
基幹システム内ではデータを連携させ、一元的に管理可能です。これまで分散していたデータを半自動的にまとめられるため、効率的に業務を進められます。
システムによっては売上や債務状況なども可視化され、スピーディな経営判断にもつながるのは大きなメリットです。
業務を標準化できる
同じ業務内容にもかかわらず、部署ごとにバラバラのシステムを使っていると、特定の人しか理解できないといった「属人化」の課題が生まれがちです。一方、業務ごとにシステムを統一化できれば、ベテラン・新人にかかわらず誰が行っても同じクオリティで業務を遂行できます。ひいては育成にかかるコストも削減できるようになります。
手動によるミスを減らせる
分散していたデータをほぼ自動的に連携させられれば、手動によるデータ入力や転記は不要です。これまで防ぎきれなかったヒューマンエラーや単純ミスを減らせるようになり、効率性も向上します。
ERPとは?
そもそも「ERP(Enterprise Resource Planning:経営資源計画)」とは、経営効率をアップするために生まれたマネジメント手法です。生産効率性向上を目的としたMRP(Material Resource Planning)がベースとなっています。
MRPは生産計画にもとづいて部品表と在庫情報から、発注すべき生産資材の量とタイミングを決定する手法です。
その後、「MRPⅡ」と呼ばれる新しい手法が登場しました。これはMRPの対象を拡張し、人材・設備・資金などの生産に必要な資源を全体的にコントロールすることで、単一のITシステムにすることを目指したものです。
ERPはこのMRPやMRPⅡを生産管理だけでなく、企業全体のさまざまな資源に適用し、情報を一元管理するために生まれた概念といっても過言ではありません。
そして、その概念や手法を具現化したものが、ITシステムとしての「ERP」であり、今ではERPと言えば、統合的なITシステムのことを指します。具体的には、前述した基幹システムに加え、情報系システムも統合可能です。つまり、「ERP=基幹システム」ではなく「ERP=基幹システムと情報系システムを含む統合ITシステム」とイメージすれば分かりやすいかも知れません。
複数の部門や部署間で、データのやり取りや情報共有がリアルタイムに実現できるため、利便性向上にも期待できます。
ERPの導入形態
現在、ERPにはさまざまな形態があります。代表的なパターンとしては、次の2種類です。
オンプレミス型
社内でサーバーやシステムを構築し運用するタイプです。オンプレミス型は一度構築してしまえば、ランニングコストは不要で、自社に必要なカスタマイズをしやすいといった利点があります。ただ、デメリットとして初期コストが高いこと、運用や保守は自社で行わなければならないことが挙げられます。
クラウド型
近年注目を集めているのが、クラウド型ERPです。インターネット環境があればアクセス可能で、ネット上でデータを管理・運用できます。サーバーなどを自社で構築する必要がないため初期コストはオンプレミス型より安価で、スピーディに導入、運用が可能です。またIT人材を確保しにくい場合にもおすすめの方法です。ERPを運用するメリット
社内全体で業務の最適化ができる
ERPを導入すれば社内情報を一元管理できるため、業務効率化を目指せます。また、複数部署で同じようなデータを入力するといった二度手間を省略できるほか、ミスも減らせる点が魅力です。
経営判断がより迅速になる
データを一元管理し可視化できれば、自社の経営状況をリアルタイムで把握できます。ひいては経営陣の意思決定や経営判断を、よりスピーディに行えるようになるはずです。
内部統制を強化できる
企業が抱えるよくある課題として、ガバナンス(内部統制)があります。ERP上において、データの動きは一目瞭然です。そのため、業績をよく見せようと不正にデータを作成したり故意に修正したりすることを防げます。また、万一誤ったデータがあった場合も、発見や対処を迅速に行えるのがメリットです。
基幹システムとERPの違いとは?
先に「ERP=基幹システムと情報系システムを含む統合ITシステム」と述べたように、基幹システムとERPとは厳密に異なるものです。ここではもう少し掘り下げて違いについて解説します。
導入目的
まず導入目的に注目してみると、基幹システムはある特定の業務を効率化させることに焦点が当たっています。一方ERPは、企業の経営基盤強化が目的である場合に導入されるソリューションです。
管理の範囲
それぞれがどのような範囲を管理しているかにも違いがあります。すでに述べたように、基幹システムは多くの種類があり、各システムは独立しています。しかしERPは、ひとつのパッケージで基幹業務全体をカバーできるのが特徴です。
導入までの工数
導入までの工数の多さを見てみると、基幹システムは特定の業務にスポットが当てられているため、それほど多くはないのが一般的です。一方、ERPは基幹システムよりも管理範囲が広いことから、導入までの工数はおのずと増えます。
既存の基幹システム環境からERPに置き換えるメリット
ERPが世界中で浸透してきた理由として、既存の分断的な基幹システム環境に比べ、多くのメリットを持っているからだと考えられます。ここでは、基幹システムをERPに置き換えることで得られるメリットとはどのようなものなのか、代表的なポイントを解説します。
ヒト・モノ・カネの動きが見える
前述のようにERPは、基幹システムや複数の情報系システムを統合したITシステムであり、各ITシステムから生まれるデータを一元的に管理できます。つまりヒト・モノ・カネといった重要な経営資源の動きが、全体的に把握できるようになることを意味します。
ERPでよくある機能が「経営ダッシュボード」です。これは各ITシステムから生まれたデータを一元的に管理した上で、あらゆる情報をシステム画面上に視覚的に表示できるものです。したがって、経営者は欲しい情報を欲しい時に、常に新鮮な状態で手に入れられます。
データ連携による業務効率の向上
ERPでは、各基幹システムと各情報系システムが相互に連携しています。データの受け渡しは非常にスムーズで、マスターデータや帳票も統一されるためITシステム間で連携が難しいといった問題が解消されます。
また相互にデータ連携することで、次のようなメリットが生まれるのも魅力です。
たとえば営業部門でCRMとSFA(営業支援システム)が同時に稼働していると、営業担当者のデータ入力負担はかなり大きくなりがちです。一方、ERPならCRMやSFAと相互にデータ連携されているため、一度データ入力すれば、どちらのシステムにも同じ情報が自動的に記録されます。つまり、何度も同じデータを入力する必要がなくなり、全社的に大幅な業務効率アップが見込めます。
在庫適正化や調達費用の削減
ERPの環境下では、あらゆる情報が可視化されるだけでなく、情報の正確性も担保されるようになります。それは複数のITシステムが相互にデータ連携しているからです。二度手間になるデータ入力や反映し忘れといったミスがなくなるため、各ITシステムが持つデータは信憑性が高まります。
すると、在庫管理システムや調達管理システムに表示されているデータはいつでも信用に足り、それだけで物事を判断できるようになります。さらに無駄な在庫を持ったり、必要以上に資材を発注したりしなくて済むようになり、コスト削減も実現可能です。
生産工程の管理と適正化
基本的に、ERPパッケージには生産管理システムが含まれており、従来のMRPⅡと比較してもその性能は大幅にアップしています。生産効率をより向上させるためには、生産部門以外の関連した部門とも、データ連携を推進することが大切です。ERPがあることでさまざまなITシステムから生まれたデータを生産管理へ活かせるほか、生産工程の正しい管理や工程の適正化を図れるようになります。
基幹システムからERPに入れ替える際のポイント
ここでは、基幹システムからERPへ入れ替える際、どのような点に注意すればよいのかについて、2点解説します。
現在の課題やERPに入れ替える目的を明確にする
ある業務に特化して効率化を図りたい場合は、基幹システムで充分かもしれません。しかし、運用している中で何らかの課題が生まれており、ERPで解決できることがあるのであれば、ERPへの入れ替えを検討するのも一案です。つまり、ERP導入を考える前には「なぜその必要があるのか」といった目的を明確化することが重要です。
もし現在抱えている課題や目的が不明瞭であれば、自社にとって最適なERPパッケージを選べないおそれがあるため、注意しましょう。
現場の社員に理解を得た上で導入する
ERPへ入れ替えるなら、これまで基幹システムを使ってきた現場の社員に対して丁寧な説明を行い、理解を充分得ておくことも大切です。現時点における運用上の課題を抽出しながら、各部署の責任者と社員一人ひとりにERP導入のメリットを伝えるようにしましょう。
そうすることで、ERP導入後は利用率が向上し、スムーズに運用しやすくなります。
クラウドERPで更なるメリットを得よう
基幹システムは、財務会計システムや生産管理システムなどさまざまな種類があり、業務に特化して効率化させる際には有効です。一方、ERPは単一のパッケージで基幹システム全体をカバーでき、「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源の全体的な動きを俯瞰的に把握できます。
これからの時代、企業が変化の激しい市場で勝ち残るためには、基幹システム運用では限界があると感じられるかも知れません。そこで昨今注目を集めているのがERPです。
中でもクラウドERPであれば、インターネット経由で大規模な統合ITシステム環境を整えられます。
場所にとらわれずに遠隔操作したり、ChatGPTを活用したりして海外拠点との連携も図りやすくなります。自社でサーバーやシステムを構築するオンプレミス型と比べて初期投資も圧倒的に安価で済むのも魅力です。導入後も基本的にはベンダーに任せられるため、セキュリティ対策など保守・管理にかかる負担もほとんどありません。ほかに注力すべき事業へ資源を集中でき、市場競争力を高められるのが大きなメリットです。
基幹システムからERPへ入れ替える際には、ぜひクラウドERPの導入をご検討ください。
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