「BPMって何ですか?」会社の後輩や同僚からこんなことを聞かれて、スラスラ答えられるビジネスパーソンはどれほどいるでしょうか?BPMを知らないからと言って恥になるようなことはないですが、現代社会を生きるビジネスパーソンとしては、知っておきたいビジネス基礎知識のひとつです。
特に、会社が業務改善へ積極的に取り組んでいたり、抜本的な経営改革を必要としたりしているような環境に身を置いているのであれば、BPMを理解していることでしょう。
本稿は、そんなBPMの基礎について解説しています。この機会に、BPMの特徴や実行方法などについて知見を広げていきましょう。
BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)とは?
BPM(Business Process Management:ビジネス・プロセス・マネジメント)は、組織内に存在する全ての業務プロセスに目を向けて、業務プロセスごとに存在する作業工程、業務プロセスごとの繋がり、それを回すための業務システム等を分析し、今ある問題を洗い出し、原因を究明し、業務プロセスや作業工程を組み替えたり、簡素化したり、無駄を排除することでより効率的な業務プロセスを実現するための取り組みのことです。
以前はBPR(Business Process Reengineering:ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)という言葉がよく適用されていましたが、「BPRには継続的な改善が無い」という考えから、現在ではBPMが主流になっています。
BPMとPDCAサイクル
BPMに関する調査、研究、研究会の開催、人材育成等を行いその普及と実践を促進することを目的としている一般社団法人の日本BPM協会では、BPMについて「BPMとは業務プロセスのPDCAサイクルを回して業務の成果を上げるための、新しいアプローチです」と説明しています。
「PDCAサイクル」はビジネスパーソンなら誰もが知っているフレームワークであり、新入社員教育の際に教わったという方が多いでしょう。そのPDCAサイクルについて簡単に解説します。
PDCAサイクルは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価・分析)」「Act(改善)」という4つの工程に当てはめて、業務プロセスを継続的に改善していくためのフレームワーク(効率的なやり方)です。
「Plan(計画)」で改善計画を立て、「Do(実行)」でそれを実行し、「Check(評価・分析)」で実行した施策の評価及び要因分析を行い、その結果に応じて「Act(改善)」で次の改善へと繋げていきます。
実際には業務プロセス洗い出しと現状評価及び分析から始めるので、「CAPDサイクル」でBPMを実施していくことになるでしょう。BPMとPDCAは非常に深いかかわりがあり、かつBPM成功に欠かせないフレームワークなので、間違った取り組みを行わないためにも1度PDCAサイクルの基礎を復習するとよいでしょう。
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BPMを実施する目的
なぜBPMを実施するのか?その理由は企業によって千差万別ではありますが、今ある経営課題を洗い出し、見つめ直し、原因を突き止め、改善するという本質的な目的はどの企業も変わりません。
近年よくある目的としては、急速なグローバル化に伴う事業拡大や組織編成にも耐えられるように、業務プロセスの抜本的見直しを行い、世界標準の業務プロセスを確立するというものです。
日本市場の成熟化もあり、海外市場に視野を広げる企業が非常に多く、その方法としてM&A(統合&合併)を選択する企業が増えています。JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)が発表した調査結果によると、今後3年程度の輸出方針について「さらに拡大を図る」と回答した企業が全体の67.8%おり、海外進出事業は年々増加傾向にあります。
引用:JETRO 2017 年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査~JETRO 海外ビジネス調査~
こうした背景から、BPMによって業務プロセスや経営戦略の改革を行う企業が増えており、BPMが経済界全体で促進するきっかけにもなっています。
BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)実施のメリット
BPMを実施することで、具体的に企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。考えられる主なポイントは4つあります。
本質的な課題の発見・改善
M&Aにより事業が拡大したり、各部署で分業化が進んだりすると、業務プロセスは複雑化し、全体像を把握することが難しくなります。部署が多岐にわたる大企業などでは、すべての業務プロセスを把握しているのは、役員などの一部の人間に限られるというケースもあります。
プロセスが見えなければ、当然、課題や問題点を洗い出すことも難しくなります。別々の部署で2重に業務をこなしていたり、確認や認証のプロセスが煩雑だったりしても、気付かないまま放置している場合もあるでしょう。
BPMの最大のメリットは、業務プロセスを可視化できることです。BPMでは業務プロセスをモデリングにより図式化するため、業務に関わる全員がひと目でプロセスを理解できます。
モデル化することで、重複している業務や不要な業務が洗い出しやすくなります。問題点や課題を的確に発見できるため、今後の改善への道筋が付けやすくなるでしょう。
業務の進捗の可視化
モデル化により可視化できるのは、業務プロセスだけではありません。業務の進捗状況についても可視化が可能になります。
現在、誰がどのように業務をこなしているか、滞りなく業務が進んでいるかをリアルタイムに把握できるため、問題が起こりそうなところは事前に予測して予防策を講じられます。万が一、トラブルが起こった場合でも迅速に対応できるため、ダメージを最小限に止められるでしょう。
また、改善後に実際にプロセスを回してみた際、新たに発生する課題や問題点を発見しやすいのもメリットです。PDCAサイクルは多様な業務プロセスへ柔軟に適用できるため、改善点は早い段階で新しい業務プロセスに反映できます。そうして何度も改善や変更を繰り返すことで、より無駄のない効率的なプロセスが構築できます。
部署間の連携の強化
BPMにより業務プロセスを可視化することで、部署間の連携状況や依存度も把握しやすくなります。ひとつの部署に負担が集中している、部署間の連携がうまく行えていないなど、プロセスにひそむ部署間の問題が見付かれば、業務の配分を見直したり、デジタルツールを活用したりして連携を円滑化させるなどの対応が必要です。
近年のDX化による業務改善においては、現場の声を重視せず、データ主導で一方的に進められるケースも少なくありません。しかし、実際にそのプロセスで働く人の意見をないがしろにして無理な目標を掲げると、現場の反発を招きかねません。
BPMはデータだけを見るのではなく、既存の業務プロセスに即して改善を積み重ねていくアプローチなので、現場で働く人々の合意を得やすいというメリットがあります。プロセスの全体像が可視化されるため、関係者全員で目標を共有しやすいという利点もあり、モチベーションも高く保てます。
業務プロセスの見直しを行う場合は、現場で業務にあたる従業員の意見も取り入れながら進めると、結束や連携がより強化されるでしょう。
コストの削減
BPMは最適化したPDCAサイクルを定着させることで、業務の生産性などを改善していく方法です。そして、最適化されるのは業務効率だけではありません。スキルや設備などのリソースを的確に配分し、部署をまたぐプロセスにも改善のメスを入れることで、業務の無駄が減りコストも削減できます。
1回のPDCAサイクルで浮かせられるコストは些細な額だったとしても、PDCAを繰り返すことで長期的には多額のコストを削減できる場合もあります。BPMの一環として、デジタルツールやAIを導入する企業も増えており、業務の一部を自動化することで省コストの効果はさらに高まるでしょう。
また、BPMは業務プロセス全体におよぶ改善のため、結果的に部署間をまたいだ連携も強化されます。そのため、部署や部門が多い大企業の場合は、部門ごとに連携プログラムを開発するより、BMPを活用した方が大幅にコストを削減できます。
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BPMの推進方法
BPMは古くから存在する管理手法ですが、現在ではICT(Internet and Communication Technology)が発展したことで、より現実的な管理手法として浸透しています。そのBPMを推進するためのプロセスをここで紹介します。
1.Modeling(モデリング:モデル化する)
このプロセスでは、主に業務プロセスの洗い出しを行い、特定のフレームワークを使用してモデル図を作成します。よく使われるフレームワークがBPMN(Business Process Model & Notation:ビジネス・プロセス・モデル&ネイション)です。BPMNは世界標準のモデリング手法であり、BPMに取り組む組織全体の共通言語として機能し、かつシンプルなモデル図で業務プロセス全体を表すことができます。
このプロセスのポイントは「スモールスタート」です。組織の業務プロセスは無数に存在するので、モデリングにはいくらでも時間を消費してしまうため、愚直にすべての業務プロセスをモデル化するとかなりの時間を費やしてしまいます。そのため、BPMを実施する特定の業務プロセスを決めてからモデリングすることが大切です。
2.Reengineering(リエンジニアリング:再設計する)
次にリエンジニアリングによってモデル化した業務プロセスを再設計していきます。このプロセスではBPMツール等を使用するケースが多く、モデル図をシステム上で組み替えて、そのまま適用するという方法が一般的です。ちなみにリエンジニアリングを実施する際は、業務プロセスまたは作業工程を「無くす」「簡素化する」「組み替える」という視点で考えると、効率良くBPMを実施できます。
3.Expanding(エクスパンディング:展開する)
このプロセスでは再設計した業務プロセスを適用していきますが、その前に組織全体の理解を得たり、新しい業務プロセスを展開したりすることでどんな影響があるのかを事前に調査しておくことが大切です。その結果を組織全体に共有しておくことで、BPMをスムーズに実施していけます。
4.Monitoring(モニタリング:監視する)
BPMを実施する上でとても大切なのがモニタリングです。展開した新しい業務プロセスが組織にフィットし、効果を発揮するかどうかは実際に運用してみないと分かりません。そのため、継続的に監視することで、新しい業務プロセスが効果を発揮しているか、問題が起きていないか等を見ていきます。継続的な監視があることで初めて次のBPMに繋げていくことができるでしょう。
BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)実施の際の注意点・ポイント
BPMのプロセスが把握できれば、いよいよ実践に移ります。実施するにあたり、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。意識したいポイントは以下の3点です。
目的の明確化
BPMの実施にあたっては、目的を明確化することが非常に重要です。失敗した例を見ると、導入自体が目的化しており、具体的な目的が設定されていないケースが目立ちます。目的が曖昧なままだと、BPMの効果があったのかどうかの判断も行えず、プロセスの改善が絵に描いた餅で終わってしまいます。
目的の設定にあたっては「コスト○%削減」、「作業時間○%短縮」など、誰が見ても認識にズレが生じないよう、具体的な数値を用いるとよいでしょう。その上で定期的に関係者間ミーティングや意見交換を行い、導入意義や目的の共有、BPMが順調に進んでいるかの確認などを行いましょう。
優先順位付け
BPMを導入するにあたっては、まずどこから始めるのかという優先順位付けも重要です。問題点や課題の洗い出しと同時に、業務プロセス全体の中でも生産性の低下を招いているボトルネックを見つけ出し、その工程から優先的にBPMを進めましょう。
もし、この優先順位付けを怠り、すべてのプロセスでBPMを並行して行おうとすると、広範囲にわたって大量のモデリングが必要となり、時間と労力の負担が大きくなります。それだけでなく、モデリングのクオリティにも差が生じるなどして、本来の目的が達成できなくなるおそれがあります。
BPMは最も改善が必要な部分から限定して始めることで、効果も上がりやすくなります。成果が目に見えることで、現場の従業員のモチベーションも向上するでしょう。
PDCAサイクルの徹底・継続
BPMによる業務改善は、PDCAサイクルを継続して回していくことにより、高い効果が期待できます。BPMにおけるPDCAサイクルは以下の通りです。
1.現実のプロセスに基づいて、情報収集や分析を行う。
2.モデル化によってプロセスを可視化し、業務の停滞を招いている部分や改善点を洗い出す。
3.改善した新しい業務プロセスを実行する。
4.実施後の経過を観察し、成果のモニタリングを行う。思うように成果が現れていないところがあれば、再度改善点を洗い出し、業務プロセスを再考する。
PDCAサイクルでは、ひとつの課題の解決が新たな計画につながるため、永続的な改善の連鎖が繰り返されることになります。それにより、業務プロセスはより洗練され、最適化されるでしょう。
いきなり大規模に始めては失敗する可能性もあるため、まずは部署単位など小規模なところから始めて、徐々に部署をまたいだプロセスの改善も行うとよいでしょう。最終的には、BPMが企業文化として根付くのが理想です。
まとめ
BPMはPDCAサイクルを回し続けることにより、業務プロセスの継続的な改善と最適化が期待できる取り組みです。競争力強化のため、業務プロセスの見直しを行う企業は増えていますが、1度や2度の改善では効果は限られるでしょう。また少し時間が経てば、改善したプロセスが現場に即したものとずれてしまう可能性もあります。
その点、BPMは計画と実施、評価と改善を繰り返すので、常にリアルタイムの現場にフィットした業務プロセスを構築できます。また、長期的にプロセスが最適化されることで、大幅なコストの削減や労働時間の短縮が実現できるでしょう。
既存の業務プロセスを見直し、持続的な業務効率化を図りたい企業の方は、ぜひBPMの実施を検討してはいかがでしょうか。実施に際しては、会計や人事、生産や物流などのシステムを統合できるEPRを活用すると、より効果的に業務プロセスの改善を進められます。
Oracle社が提供するOracle NetSuiteやOracle ERP Cloudは、高い実績と機能性を誇るクラウド型のERPサービスです。BPM運用に当たっても、情報の収集や分析に有用ですので、ぜひ導入をご検討ください。
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- BPR/業務改善