システム開発には金銭的・技術的なリスクが多分に含まれており、開発が中止されると莫大な損失を計上するケースも少なくありません。開発プロジェクトを成功へと導くためには発注者と受注者の相互理解を図るプロセスが不可欠です。そこで重要な役割を担うのが「RFP(提案依頼書)」です。本記事ではRFPの概要や必要性について解説します。新システムの導入や既存システムのリプレイスなどを検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
RFP (提案依頼書) とは?
RFPは「Request for Proposal」の略称で、日本語では「提案依頼書」と呼ばれる文書です。発注者がシステムに求める仕様や機能を明示したものであり、システムを設計・構築するベンダーやSIerなどの受注者に提出し、最適な提案を引き出すことを目的とします。簡単にいえば、発注側が「当社の要望を満たすシステムの提案をお願いしたい」という意図を伝えるために作成する文書です。
たとえばERPの導入・刷新といった大規模プロジェクトでは、発注者が複数のベンダー・SIerにプロジェクトの要望や条件を提示し、各社から提案や見積もりを受けるのが一般的です。その際にRFPを共有することで、受注しようとする側は発注者の要求事項に沿った提案と正確な見積もりを導き出せます。それにより、発注者は最良の提案を引き出せる可能性が高まるとともに、最適なベンダー・SIerを選定するための判断材料も得られます。
RFPと要件定義書の3つの違い
RFPには意味合いの類似する用語がいくつか存在します。そのひとつが要件定義書です。要件定義書は「RDD:Requirement Definition Document」とも呼ばれ、発注者の要求に基づいて業務要件や機能要件、非機能要件などを明確化した文書を指します。RFPと要件定義書の主な相違点は以下の3つです。
- 書類作成の目的
- 書類の記載内容
- 作成のタイミング
1. 書類作成の目的
RFPは発注者の要求事項を受注者に提示するための文書で、最適な提案を引き出すことを目的とします。一方、要件定義書はシステムに求められる仕様や機能を要件として厳密に定義した文書であり、プロジェクトの目的や開発範囲などを関係者全員で共有するための文書です。
原則としてRFPは発注側が自社の課題やシステムに求める機能を踏まえながら作成し、要件定義書は受注側がRFPや要求仕様書に基づいて作成します。基本的にRFPが必要なのは要件定義ないしベンダー・SIer選定のフェーズまでですが、要件定義書はその後の設計や実装のフェーズでも求められる文書です。
2. 書類の記載内容
RFPに記載する内容は、会社概要や事業内容、導入の目的や背景、導入時期、提案の前提条件、選定スケジュール、システム化したい業務領域、求める仕様や機能などです。また、情報セキュリティやバックアップ体制、運用保守、BCP対策などに関する要求事項の明確化も求められます。
一方、要件定義書はシステム設計の土台となる文書なので、システム化したい業務領域を業務要件として明確化し、その実現に必須の機能を機能要件として定め、拡張性や可用性などの非機能要件を定義する必要があります。RFPの要求事項を深く掘り下げ、より詳細で技術的な情報を盛り込むのが一般的です。
3. 作成のタイミング
RFPと要件定義書は、プロジェクトにおいて異なる段階で作成されます。通常、システム開発は「企画」「要件定義」「基本設計」「詳細設計」「実装」「テスト」「運用」というプロセスを辿るのが一般的です。RFPは基本的にプロジェクトの「企画」の段階で発注側が作成します。
それに対し、要件定義書は「要件定義」の段階で受注側が作成する文書です。RFPに基づいて業務要件・機能要件・非機能要件を定義し、プロジェクトの予算や開発スケジュールなどを厳密に策定します。そして要件定義書の内容をベースに基本設計書を作成するというのが基本的な流れです。
RFPを作成するメリット
RFPは新システムの導入や既存システムのリプレイスを進める上で不可欠な文書です。とくにERPのような組織全体の業務に関わる大規模システムを構築する場合、要求事項の明確化と共有が欠かせません。システム開発プロジェクトなどにおいて、RFPを作成する主なメリットは以下の3つです。
自社の要望をベンダー・SIer側へと漏れなく伝えられる
RFPを作成するメリットのひとつは、システムに対する要求や業務上の課題をベンダー・SIerに漏れなく伝えられる点です。RFPの作成なしにプロジェクトを進めた場合、受注者が発注者の要求を正しく理解できず、開発後に仕様変更や追加開発が発生して予算を大幅に超過するリスクが高まります。
要求事項に関する受発注者の相互理解を深められれば、認識齟齬によって生じるリスクを最小限に抑えることが可能です。また、RFPを作成する過程で、見落とされていた課題を認識したり、開発スケジュールやリソース配分を俯瞰的に管理したりできるという利点もあります。
ベンダー・SIerからの提案を検討しやすくなる
システム開発のプロジェクトを成功に導くためには、信頼できるベンダー・SIerの選定が極めて重要です。複数社にヒアリングを実施する場合、基本的に各社が個別の提案や見積もりを散発的に提示してきます。そのため、ベンダー・SIerの選定に多くの時間的コストを要します。
企画段階でRFPを作成し、自社の要求事項を提示すると、統一されたフォーマットを基準とする各社の提案を同時に比較検討できる点が大きなメリットです。また、特定の要求に基づく提案を複数社に依頼することで競争が促進され、より魅力的な提案を受けられる可能性が高まります。
トラブル防止にもつながる
RFPを作成するメリットのひとつは、発注者と受注者の共有認識を確立することで、実装後のトラブルを防止できる点です。RFPを作成していない場合、システムに求める仕様や機能が曖昧になるため、受注者側で必要な機能を見落としたり、反対に不要な機能を追加してきたりする可能性があります。
仮にテスト段階で機能不足が発覚した場合、RFPを作成しておくことで「要求通りではない」と主張できるため、手戻りによる追加コストを発注者側が負担せずに済むかもしれません。また、要求以上の機能が追加されていた場合、費用の減額やコストの調整を求める際にRFPの記載内容が重要な根拠となります。
RFP作成はサンプルの活用がおすすめ
RFPの役割は自社にとって最良の提案を引き出すことであり、いかにして発注側の要求・要望を正しく伝えるかが重要です。そのためには記載すべき重要項目やフォーマットの整え方などを理解しなくてはなりません。そこでおすすめしたいのが、Oracle社が作成したRFPのサンプルを活用する方法です。
Oracle社はリレーショナル型データベース管理システム(RDBMS)のリーディングカンパニーとして知られる企業であり、APPS RUN THE WORLD社の調査レポート(※1)によると、ERP市場では同社の製品が第2位の市場占有率を誇っています。以下の資料より、Oracle社が提供するRFPサンプルを利用できます。
RFP(提案依頼書)サンプル新統合基幹システム導入プロジェクト提案依頼書
あくまでもERPの導入プロジェクトに最適化されたRFPですが、国内外で4万社以上のクラウドERP導入実績を有するOracle社が作成した、非常に有用性の高いサンプルです。基本的な構成や項目は他のプロジェクトにも応用可能ですので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
(※1)参照元:Top 10 ERP Software Vendors, Market Size and Market Forecast 2023-2028|APPS RUN THE WORLD
まとめ
RFP(提案依頼書)は、発注者がシステムに求める仕様や機能を受注者に正しく伝えるための文書です。RFPの作成によって受注者が発注者の要求事項を汲み取りやすくなるため、最適な提案を引き出せる可能性が高まります。
RFPを介して複数のベンダー・SIerに要求事項を提示できれば、統一された基準に基づく提案を同時に比較検討するのも容易です。とくにERP導入のような大規模プロジェクトでは、信頼できるベンダーの選定と認識齟齬によるトラブルの防止に欠かせない文書として位置づけられます。
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