SSCはグループ企業の業務効率化など、さまざまなメリットがあります。本記事では、まずSSCの基本情報から、普及しつつある理由とその背景について概説します。また、SSCの運用方法と導入によって実現するコスト削減、サービス品質の向上、業務工数の削減といったメリット、そしてSSC構築において解決すべき課題、具体的な成功事例についても詳しく解説します。
SSC(シェアードサービスセンター)とは
SSCとは、グループ企業内の人事や経理業務といったコーポレート業務をとりまとめて担当する組織のことです。一般的には、関連会社のコーポレート業務処理のみを行う、子会社など別の組織としてSSCが構築されます。コーポレート業務は専門性が低く、かつ事業を支える管理的な業務のことで、「人事・労務、経理・財務、総務、法務、情報システム管理」などが該当します。
コーポレート業務の大半は、一般会計、給与計算、福利厚生、社会保険など異なる企業でも共通する内容なので、複数の企業で業務を標準化し一箇所にまとめて処理することが可能です。企業が営業活動を続けていく上で欠かせないコーポレート業務ですが、これを集約して行うことで、業務の効率化や経営コスト削減につながります。
SSCが広まる背景
SSCは、海外にグローバル展開している企業や、複数のグループ会社を抱える企業で活用されているケースが多くみられます。近年では、2021年に急増した新型コロナウイルス感染の影響などを受け、リモートワークに移行する企業が増えています。リモートワークへの移行と同時に、ITツール上で業務が行えるSSCと運用システムの構築を行うことも可能です。
クラウド上で利用できるストレージサービス「ANF(Azure NetApp Files)」などを活用してクラウド上で完結できるSSCを構築すると、グループ企業全体で無理なくリモートワークへの対応ができ、業務効率化が実現します。こうしたこともあり、SSCを活用できる環境への迅速なシフトチェンジができたかどうかによって、各企業による新局面への柔軟な対応で明暗が分かれることとなりました。
こうした状況が発生したのは、SSCの構築、リモートワークへの移行を目指していても、ペーパーレス化、クラウド化、業務の標準化といった前提となるフェーズで頓挫し、SSC構築まで踏み出せないという企業も少なくないためです。
現在政府が主導し国内で進んでいるDX対応のためにも、SSCの活用や企業のデジタル化などには、柔軟かつ早急な対応が求められています。
BPOとの違い
BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)は、特定の業務や部門を他企業に移管したり売却したりして外部化することで、業務の効率化をはかるシステムのことです。対してSSCの場合、業務を標準化する組織は、子会社などの形でグループ内に設置されます。
BPOはコスト削減の効果がすぐに現れるため、早急な効率化が必要な企業に適しています。
一方でSSCは子会社やグループ会社の数が多く、人事ローテーションが盛んな企業に適しています。自社の特性や規模を見極めながら、適した形を選びましょう。
[RELATED_POSTS]SSCを構築するメリット
SSCを構築するメリットには、「コストの削減」「サービス品質の向上」「従業員の意識向上」などさまざまなものがあります。SSCを活用することで業務効率化が実現し、生産性の向上が期待できます。
コストの削減
グループ企業がSSCを採用すると、それまで子会社等の関連企業が独自で行っていたコーポレート業務を一箇所で集約処理することが可能です。従来の方法では、各企業において人事、総務、経理業務などの部門を設置し、それぞれ人材、システムを準備しなければなりませんでした。SSCを活用した場合、これらの業務を処理する人材、システムなどのリソースを一箇所にまとめられるため、グループ内各企業がスタッフを雇用したり、システムを構築したりする必要がなくなります。
必然的にそれぞれ構築する場合よりも費用が軽減されます。また、組織を子会社化して給与体系を変えるなど、コーポレート業務を行う人材の確保についても柔軟な対応が可能です。例えば、海外の人件費が安い地域にコーポレート業務を行う拠点を設置するなど、組織のグローバル展開によりコストを抑える方法もあります。
サービス品質の向上
SSCには、コーポレート業務に専任する人材を配置します。このため、給与の管理業務、社会保険業務、マイナンバー関連業務、一般会計業務などの専門知識が必要な業務を、適性ある人材が担当して行うため、正確な処理が期待できます。
SSCのスタッフは、自らが担当している業務に関して、グループ内の企業であれば組織の垣根を越えて処理を行うのが一般的です。業務がSSCに集約されるため、コーポレート業務の内容、様式、プロセスなども必然的に統一されます。業務内容を統一し標準化することにより、業務品質の向上につながります。
SSCが各企業のコーポレート業務をまとめて処理していると、SSC内に業務処理に関するノウハウや技術が蓄積されていくため、コーポレート業務の継続的な品質向上が可能です。サービス品質が向上すると、グループ内だけでなくグループ外の企業から業務委託を受けられるようになるなど、事業の幅を広げられます。
従業員の意識向上
SSCは同じ社内の一部署とは違い別の企業として設置されるケースが多いため、各社内で書類を処理する場合と比べ従業員のコーポレート業務に対する意識が向上するという効果も期待できます。社内処理の場合、記入内容や提出日を間違えてもすぐに訂正できるといった気安さから、業務への注意が散漫になるケースもありうるからです。
SSCを活用して別会社として業務に専任させると、これまでよりも従業員が業務により強い責任感を持つ場合が多く、業務に対する意識を向上させることが可能です。従業員の意識向上により業務が適切に行われると、業務の品質向上や業務効率化にもつながります。
内部統制の強化
グループ企業の業務をSSCに集約して行うと、各企業の業務やデータを一箇所で確認できます。とくに経理業務の処理・管理をSSCが担当する場合、グループ企業の決算書類をまとめた連結決算の書類を作成しやすくなるメリットもあります。
コーポレート業務にはさまざまな業務がありますが、SSC設置以前は各企業が独自の処理方法で業務を行っていたかもしれません。SSCを導入すると、業務の効率化、可視化のために業務の処理方法が標準化されてSSCでの一括処理に変わります。企業内ではなく別の企業で処理を行うため、不正防止やセキュリティ対策実施による内部統制の強化が可能で、企業経営の健全化が実現します。
業務工数の削減
SSCの活用が決まり、業務を集約する際には業務プロセスの見直しが行われます。これは、SSCで複数企業の業務を処理するための標準化工程で行われます。各企業で実施している処理方法を標準化するためには、業務内容やフロー、使用するシステムなどを根本から見直し、改善する必要があるからです。
業務を標準化する際には、見直しにより無駄なプロセスが削減されて工数が減少します。業務工数削減を伴うプロセスの標準化を定着させるには時間や労力がかかりますが、業務工数削減による業務効率化は生産性の向上にもつながるなど、SSCを成功させるための重要なポイントでもあります。
SSCの運用方法
SSCの運用には子会社化する方法と、本社の一部門にする方法の2種類があります。
子会社化した場合は、独立企業として親会社から切り離し、グループ全体の間接業務を一括管理します。給与体系を親会社とは別で設定できるため人件費を抑えられ、財務諸表も独立しているので業績が数値として明確に現れるなどのメリットがあります。
本社の一部門にした場合は、グループ企業の間接業務を集約して一括管理するため、組織構造を大きく変える必要がなく、社員の不安感も解消されやすいというメリットがあります。一方で、組織として独立していないので人件費の抑制効果が少なく、社員の意識も変わりづらいというデメリットもあります。
企業の特性やSSCの目的に応じてどちらが適切かは変わりますが、現状でシェアードサービスを導入している企業の約7割は、子会社化を選んでいます。
SSCの課題・実施時の注意点
コーポレート業務の効率化や人件費の削減に役立つSSCですが、いくつか課題もあります。
まず挙げられるのは、導入に高額の初期費用と開発時間がかかることです。SSCとして業務を標準化するには、これまで利用していたシステムを修正・再構築しなければなりません。また、修正後のシステムや変更した組織体系、業務手順などに社員が慣れるにも時間がかかります。
さらに、異動によって給与が下がったり、取り組む業務が単純化したりした場合、左遷されたと感じて社員のモチベーションが低下する可能性もあります。社内から人事担当者が異動すれば、本社で適切な人事評価ができなくなるリスクもあるでしょう。
グループ会社といえども、独立した企業なら個別に設定された間接業務や管理ルールもあり、SSCを導入したからといって、すぐにすべてを統合するのは困難です。まずは社員に目的を丁寧に説明することで理解を得つつ、システムの変更は時間をかけながら段階的に行うとよいでしょう。
SSCの成功事例
SSC構築時の諸問題を解決するには、ERPの活用が効果的です。ここからはERPソリューションを活用して、SSCの構築を成功に導いた2社の事例について紹介します。
KDDIが取り組む経営管理DX
現在、経営管理本部内に設置されたDX推進部で、DX化による会計業務の効率化を進めているのがKDDIです。2019年に発足したこの部署は、デジタル化にまつわるさまざまな業務のほか、本社の会計伝票の審査や子会社の経理業務まで行い、グループ会社の会計業務の集約を目指しています。
KDDIが業務改革のスタートを切ったのは2014年のことです。その頃、同社は経営の高度化に乗り遅れ、強い危機感を抱いていました。そこで、これまで自社で開発していたスクラッチシステムを見直し、オラクルのERPソリューションを導入して大胆なDX化に取り組みました。
具体的な効果としては、ERPとBIツールを連携させることでさまざまなデータや業務の進捗状況が可視化され、迅速なデータ分析や作業が遅れているところへの適切なサポート、ノウハウの横展開などが実現しました。また、支払い内容のガバナンスチェックにおいても、ERPによりマスタ類が強化されたことで、高リスクの取引先を抽出しやすくなりました。
今後は社外支払伝票の自動作成にも取り組み、伝票作成や審査業務について80%自動化を目指すほか、分散している子会社の会計業務をSSCで統一化する計画も進んでいます。
SMBCグループが取り組む会計システムの統合
株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)ではこれまでグループ各社ごとに独自の経理業務システムを運用していました。しかし、DXの波に伴い、全グループ会社の業務システムを標準化できる会計基盤を構築することにしました。そこで2021年に導入が決まったのが「Oracle Fusion Cloud Procurement」と「Oracle Fusion Cloud Enterprise Performance Management(EPM)」を含む「Oracle Fusion Cloud ERP」です。
これらを活用することで、グループ各社の会計や購買・経費管理業務が効率化でき、あわせてコスト削減や統制の強化も実現できます。また、「Oracle Fusion Cloud EPM」により、グループ全体の予実・採算管理も行え、最適な経営戦略立案と意思決定に貢献します。
この大幅な会計システムの刷新は、2023年よりグループ各社で段階的に行われていく予定です。この改革が成功すれば、グループ全体の企業価値の向上や競争力の強化におおいに役立つと考えられます。
会計SSC構築ならOracle Cloud ERP
SSCを構築する際の主な課題には、「柔軟性・一元化、拡張性、業務の標準化」などがあります。一般的に、SSCはコーポレート業務をまとめて一元管理するといった目的で活用されます。構築する際には、複数企業のコーポレート業務をまとめる上で、まずは親会社が管理しやすい仕様にカスタマイズします。その後、各子会社の業務処理に最適化していくため、先にカスタマイズした仕様を調整しようとしても、柔軟性がないツールでは適切に変更ができません。
各企業で業務を処理していたときと同様に、異なるツールを使ってデータをバラバラに保存しているなど、一元管理できていない状態では業務効率化が難しくなります。そのため、SSCでは柔軟性のあるツールによって一元管理できる環境構築が必要です。
SSC構築後に、社員数が増加したりグループ企業が増えたりすることもあるかもしれません。企業は利益が順調に上がった場合などにグループ規模が拡大する可能性があるため、SSCに増加した企業を追加できる拡張性がないと、別のツールで処理・管理をするかSSCを再構築しなければなりません。
また、業務の標準化は業務効率化のためにも欠かせない課題です。しかし、標準化のためには従来の業務を大きく変えなければならない場合もあり、導入時に混乱が生じやすい点に注意が必要です。標準化の過程で行う業務プロセスのスリム化も、SSC構築時の難しい工程だといわれています。
オラクルが提供する「Oracle Cloud ERP」は、SSC構築時の課題を解決してグループ企業経営を強力にサポート可能なソリューションです。幅広い業界に対応可能で、さまざまなツールを選択することで必要な業務をすべてカバーでき、SSCに集約できます。
Oracle Cloud ERPは企業のグローバル化が進む現代で求められる多言語・多通貨・主要国の法制度にも対応しており、グローバルな事業拡張にも利用可能です。既存システムやIoTシステムなどと簡単に連携できる利便性の高さも魅力のひとつといえるでしょう。さらに、オラクルの高度なセキュリティ技術と堅牢なデータセンターが企業の重要なデータを守り、SSCの運用をサポートします。
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