商品の製造・販売、サービスの提供にかかる費用には大きく分けて2つあります。1つ目は「変動費」、そして2つ目は「固定費」です。事業の「損益分岐点(損失が無くなり利益が発生するポイント)」を理解するためには、変動費と固定費の違いを知り、それぞれにいくらお金がかかっているのかを把握することが大切です。
本稿ではこの変動費と固定費の違いについて解説しています。
変動費と固定費の違い
変動費=売上に応じて増減する費用
「商品を製造してECサイトで販売する」というケースを想定してみましょう。まず、商品を製造するために原材料や部品を仕入れます。この仕入れにかかる費用は、商品を製造するのに比例して増えていきます。一方、製造した商品をECサイトで販売する際に、送料無料キャンペーンを実施した場合、商品を販売するのに比例して送料がかかります。このように、商品の製造・販売に応じて増えたり、逆に製造数・販売数が少なくなることで減ったりする費用のことを変動費と呼びます。
固定費=売上にかかわらず必ず発生する費用
先ほどと同じケースを想定します。商品を製造したりECサイトで販売したりするためにかかる費用は、仕入れや送料だけではありませんね。商品を製造するには人手(=人件費)が必要ですし、ECサイトを運営するための費用も必要です。それ以外にも工場の水道光熱費や機械設備のリース料金、あるいは減価償却費などがかかります。これらの費用はすべて、商品の製造数・販売数にはかかわりなく発生するものです。こうした費用のことを固定費と呼びます。
変動費と固定費を分ける「個変分解(原価分解)」の方法
商品の製造・販売に必要な費用の中から、変動費と固定費に分類することを「個変分解(原価分解)」と呼びます。この方法として一般的に用いられるのが「勘定科目法」と「回帰分析法」です。
勘定科目法
勘定科目ごとに変動費と固定費を振り分けるという、運用が簡単な方法を指します。変動費と固定費の分類をシンプルにするというメリットはありますが、個変分解を厳密に行いたい場合は適しません。数ある勘定科目の中には変動費であり固定費にも分類されるという科目もあり、変動費と固定費の間に絶対的基準がないためです。従って、勘定科目法では変動費としての性質が強いか、固定費としての性質が強いか、企業が個別に判断・分類する必要があります。
回帰分析法
方法は複雑ですが、厳密な個変分解を行えるのが回帰分析法です。縦軸に総費用、横軸に売上を記した分布図の中に、毎月の売上と総費用の点を描いていきます。たとえば12ヵ月分の売上と総費用を記録した場合、12個の点を近似曲線で結ぶと、変動費率と固定費を計算でき、「y=ax+b」という公式で表現されます(aが変動費、bが固定費)。手作業で計算するには時間がかかるため、Excelの仕様をおすすめします。勘定科目法での個変分解を試してみて、実態と乖離している場合は回帰分析法で変動費と固定費を導き出してみましょう。
[RELATED_POSTS]コスト削減、どっちの費用に着目すべき?
すべての企業にとっての至上命題である「コスト削減」。原価率を下げることに成功すれば、利益率が向上し、持続的な成長体質を作り上げることができます。コスト削減の方法は色々とありますが、一般的な方法としては「費用削減」が挙げられます。では、コスト削減において変動費と固定費、どちらの費用削減を目指すべきでしょうか?
セオリー通りに取り組むのならば優先すべきは固定費でしょう。その理由は、売上にかかわらず費用が固定にかかるためです。変動費は売上に応じて増減する費用なので、たとえば仕入れの場合は仕入先変更や価格交渉等を行わないと費用削減はできません。一方で、固定費は費用削減をしてもすぐには売上に反映されないため、無駄にかかっている固定費を削減することがコスト削減の基本になります。
1つ事例を挙げてみましょう。1994年、マクドナルドが当時210円で販売していたハンバーガーの価格を100円まで低下させました、一般的に考えればこれで利益は減少するでしょうが、むしろ増収に成功したのには固定費の削減が大きくかかわっています。
210円で販売していたハンバーガーの原価は原材料費57.5円、人件費40.7円、店舗賃料21.0円、その他の販売管理費66.6円で、合計197.1円の原価がかかっていました。一方、100円で販売したハンバーガーは人件費が2.3円、その他の販売管理費が3.7円まで圧縮され、商品1個あたりの利益が12.9円から34.7円に増加しました。
これは、固定費は売上に応じて増えることはありませんが、売上がアップするほど商品1個あたりにかかる固定費率が下がるからです。固定費はさまざまな費用の中で削減が比較的簡単なものですし、売上をアップすることで固定比率を下げて利益を上げることができます。色々なアプローチで固定費を削減することで、効率良くコスト削減を実現し、利益向上へと繋げることができます。
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勘定科目法における変動費と固定費
勘定科目法において変動費と固定費を分ける絶対的基準は無いため、正確な個変分解は難しくなります。ただし、中小企業庁が発表している「中小企業の原価指標」で一般的な分類が紹介されています。
製造業
<変動費>
直接材料費、買入部品費、外注費、間接材料費、その他直接経費、重油等燃料費、当期製品知仕入原価、当期製品棚卸高―期末製品棚卸高、酒税
<固定費>
直接労務費、間接労務費、福利厚生費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、水道光熱費、旅費、交通費、その他製造経費、販売員給料手当、通信費、支払運賃、荷造費、消耗品費、広告費、宣伝費、交際・接待費、その他販売費、役員給料手当、事務員(管理部門)・販売員給料手当、支払利息、割引料、従業員教育費、租税公課、研究開発費、その他管理費
卸・小売業
<変動費>
売上原価、支払運賃、支払荷造費、支払保管料、車両燃料費(卸売業の場合のみ50%)、保険料(卸売業の場合のみ50%)
<固定費>
販売員給料手当、車両燃料費(卸売業の場合50%)、車両修理費(卸売業の場合50%)販売員旅費、交通費、通信費、広告宣伝費、その他販売費、役員(店主)給料手当、事務員(管理部門)給料手当、福利厚生費、減価償却費、交際・接待費、土地建物賃借料、保険料(卸売業の場合50%)、修繕費、光熱水道料、支払利息、割引料、租税公課、従業員教育費、その他管理費
建設業
<変動費>
材料費、労務費、外注費、仮設経費、動力・用水・光熱費(完成工事原価のみ)、運搬費、機械等経費、設計費、兼業原価
<固定費>
労務管理費、租税公課、地代家賃、保険料、現場従業員給料手当、福利厚生費、事務用品費、通信交通費、交際費、補償費、その他経費、役員給料手当、退職金、修繕維持費、広告宣伝費、支払利息、割引料、減価償却費、通信交通費、動力・用水・光熱費(一般管理費のみ)、従業員教育費、その他管理費
変動費と固定費を計算してみよう!
商品の製造・販売やサービスの提供にかかっている変動費と固定費を計算してみると、コスト削減までの道筋が見えたり、商品の価値創出にかかわっている費用などを把握することができます。この機会に、変動費と固定費を計算してみましょう。
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