経済産業省は2018年5月に有識者を集めた「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を立ち上げ、その討議の結果を同年9月に「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」という資料に取りまとめています。
その資料の中で強く明示しているのが、2025年までに多くの日本企業がデジタル化に取り組まない限り、2025年~2030年にかけて年間12兆円もの経済的損失を被ることになるということです。これに対する危機感から同年12月に発表された「デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン (DX 推進ガイドライン)」では、DXを推進するにあたり経営者が押さえるべき事項を明確にし、さらに取締役会や株主がDXの取り組みをチェックする上で活用できるものとすることを目的としています。
本記事ではこのDX推進ガイドラインをわかりやすく解説していきますので、まだデジタル化が進んでいないすべての企業の経営者の方に読んでいただきたいと思います。
経営トップの強いコミットメントこそDX推進のカギになる
DX推進ガイドラインの構成は大きく分けて2つです。「(1)DX推進のための経営のあり方、仕組み」「(2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」となります。まずは第一の要点である、経営の在り方と仕組みを解説します。
「(1)DX推進のための経営のあり方、仕組み」を作るために示されている項目は5つ。「経営戦略・ビジョンの提示」「経営トップのコミットメント」「DX推進のための体制整備」「投資等の意思決定のあり方」「DXにより実現すべきもの:スピーディな変化への対応力」です。中でも重要と考えられるのが最初の2項です。この2つの項目では、経営トップのDX推進に対する意思が重要だということを訴えています。
「経営戦略・ビジョンの提示」
今日、多くの市場でデジタルディスラプション(デジタル技術を活用した破壊的イノベーション)が起きています。経営者は想定されるディスラプションを念頭に置きながら、データとデジタル技術を活用して自社事業分野において、どのような新しい価値(新ビジネスの創出、即時性、コスト削減など)を生み出すことを目指すのか?そのためにどのようなビジネスモデルを構築すべきなのか?などの経営戦略およびビジョンを、明確に提示しなくてはいけません。
戦略のない技術起点のPoC(Proof of Concept:概念実証)は、組織が疲弊しDXに失敗する原因です。ましてや、経営者が明確なビジョン無しにDX推進を部下に丸投げするような事態は決してあってはいけません。
「経営トップのコミットメント」
DXとは、デジタル技術を活用したイノベーションへのチャレンジです。ビジネスそのものや仕事のやり方、組織と仕事の仕組み、企業の文化と風土を変革し、さらに経営トップ自らがこれらの変革に対して強いコミットメント(意思表明)を持って取り組んでいるかたが重要です。
変革には必ずと言ってよいほど反対意見がつきものです。しかし、トップが強いリーダーシップを発揮し、DX推進に向けた意思決定をすることが必要となります。
以上2つの項目を十分に意識しながら、経営トップがDX推進をけん引するような姿勢・体制が欠かせません。3つ目の項目である「DX推進のための体制整備」では、DX推進にあたり欠かせない体制を具体的に示しています。それが「マインドセット」「推進・サポート体制」「人材」の3つです。
こうした体制を整備するために大切なことは、「必ず仮説を立ててから検証すること」と「社外からの人材の獲得や社外との連携を含め人材確保を行うこと」です。仮説なしの検証は必ずと言ってよいほど失敗します。また、社内の人材だけでは知見が及ばない領域もどんどん出てくるため、改革を成すためには時に外部の人材に頼ることも必要です。
[RELATED_POSTS]システムの複雑化・ブラックボックス化を徹底排除した全社最適なIT活用
では次に、「(2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」を解説していきます。ここではさらに2つに分類し、それぞれの3つの項目を持ちます。
(2)- 1 体制・仕組み
- 全社的なITシステムの構築のための体制
- 全社的なITシステムの構築に向けたガバナンス
- 事業部門のオーナーシップと要件定義能力
(2)- 2 実行プロセス
- IT資産の分析・評価
- IT資産の仕訳とプランニング
- 刷新後のITシステム:変化への追従力
「(2)- 1 体制・仕組み」ではデジタル活用のための基盤と、組織や役割分担といった全社的なITシステム構築のための体制や、ガバナンスについて先行事例・失敗事例を交えて紹介しています。ここで重要になるのは、「IT システムが事業部門ごとに個別最適となることを回避し、全社最適となるよう、複雑化・ブラックボックス化しないための必要なガバナンスを確立しているか」です。
日本企業の多はこれままで、システムが事業部門ごとに個別最適化されていました。しかしDXのあるべき姿とは全社最適であり、システムの複雑化・ブラックボックス化を防ぎ、柔軟な対応力を持ったシステム構築が欠かせません。
そのためにはユーザー企業自らがシステム連携基盤の企画・要件定義を行い、提案を自ら取捨選択してそれらを踏まえて各事業部門自らが要件定義を行い、完成責任を担うことが大切です。
「(2)- 2 実行プロセス」においては、システムが単体ではなくビジネスのバリューチェーン(価値の連鎖)の中で有意義に機能し、ビジネスへ貢献することが重要だと説明しています。これを実現するには、すべてのIT資産の強みと弱みを踏まえて棚卸を行い、全社横断的なデータ活用や全社最適の視点からシステムを評価する仕組みを必要とします。
そこでさらに欠かせないのが、全社システム全体を俯瞰できるIT人材の存在です。IT人材不足が叫ばれている中、そうした人材を確保することは難しいかもしれませんが、ビジネスとデジタルのスキルを併せ持った、全社最適を推進できる人材の確保が急務となります。
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ひとつひとつの課題を向き合い、着実なDX推進を目指す
日本企業にとってDXは焦眉の急ではありますが、目の前にある課題のひとつひとつとしっかり向き合った上で、仮説と検証を繰り返し、少しずつでも着実なDX推進を目指すことが肝要なのではないかと思います。そのために活用できるツールやサービスはどんどん取り入れ、失敗を恐れないDX推進が大切でしょう。皆さんもこの機会に、DX推進ガイドラインに一度目を通し、自社のDXについて深く考えてみてください。どんな企業にもDX成功のための道は用意されています。
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