従来、企業は財務的な情報でしか価値を測られないことが多くありました。しかし、環境問題や社会問題における危機感から非財務情報の重要性が高まっています。本記事では非財務情報とは何か、またどのような取り組みがあるのかを解説していきます。また、非財務資本と関わりの深いESG経営についてもあわせてご紹介します。
非財務情報とは
そもそも企業が持つ非財務情報とは一体どのようなものなのでしょうか。まずは定義を理解したうえで、企業においてどのような取り組みが行われているのかを確認していきましょう。
非財務情報の定義
従来、企業は収益や利益といった、定量化が可能な財務情報によって評価されるのが主流でした。しかし、将来にわたって企業が成長するかどうかは、短期的な財務情報だけで判断できず、定性的な情報もあわせて判断する必要があります。
定性的な情報としては、非財務情報が挙げられます。定量的に測れないものの、企業が持つ潜在的な価値になり得るため、投資の判断に組み込まれることも多くなっています。
2021年12月には、岸田首相が賃上げを目的として、2022年度中に「非財務情報の開示ルール」を策定する方針を発表したことも話題になりました。今や企業のステークホルダー(利害関係者)は、企業との関わり方を非財務情報によって決めているといっても過言ではありません。
非財務情報に関する企業の取り組み
企業の価値を評価する要素として、キャッシュフローや貸借対照表などの数値化された財務情報は重要です。しかし、自然災害や金融危機、感染症流行など、企業は常に多くのリスクにさらされています。そのため、投資家にはそれらのリスクに備えられているか、取り巻く環境が変化するなかで持続可能な成長が可能であるかなどを、非財務的な情報も含めて評価することが必要とされています。
一方で企業側には、非財務情報を収集して可視化し、情報公開することが求められるようになっています。中長期的な視点で、起きうるリスクについて自社が「課題と認識している」ことを積極的に発信することで、リスクマネジメントがしっかりできている企業として、投資家をはじめとしたステークホルダーから高評価を得られるからです。現状において取り組みが足りていない課題についても開示しなければ、リスクに向き合えていない、ガバナンスに問題がある企業と見なされてしまいます。いま把握できている客観的なデータを開示し、今後に向けた改善の取り組みについて真摯に伝えていくことが重要です。
また、非財務情報を可視化・公開するという取り組みは、PDCAを回していくことが基本です。まず「開示」の後に「課題を認識」し、その課題を踏まえて「取り組みを改善、強化」します。そして、それらを再び「開示」するといった流れを意識しましょう。
ただ一度開示すれば完了するものではなく、データ分析からインサイトを得たり、投資家や消費者からのフィードバックを受けたりして、常に自社が抱える課題を認識することで、改善の糸口が見えてきます。そして、PDCAを定期的に回し積極的に開示すると、より多くのステークホルダーに自社をアピールできるようになります。また、市場において競合他社との差別化も図れるなど、長期的な成長戦略としても有効です。
非財務資本の種類
財務情報と非財務情報を一冊にまとめたものを「統合報告書」と呼びます。企業が今後、どのような価値を創造していくのか戦略を開示するものです。世界的に非財務情報の重要性が高まるなかで、統合報告書を発行している企業は年々増えています。
また、国際統合報告評議会(IIRC)は、統合報告書の基準を作成している組織として、2013年12月、国際統合報告フレームワーク(IIRCフレームワーク)を発表しました。そのフレームワークによると、資本には以下の6種類が存在します。「財務資本」以外は非財務資本にカテゴライズされているため、それぞれの特徴について理解しておくと良いでしょう。
- 財務資本
財務諸表に記載される借入や寄付、株式など - 製造資本
商品やサービスを製造、提供するのに必要な建物や設備など - 知的資本
特許やノウハウといった知的財産権などに代表される無形資産 - 人的資本
業務プロセスを変革する力やマネジメント能力といった、従業員のスキルや経験など - 社会・関係資本
企業を取り巻くあらゆるステークホルダーとの関係性など - 自然資本
水や空気、土地、森林といった自然や生物多様性、安定した生態系など
ESGと非財務情報
非財務情報と、昨今よく耳にするようになったESG経営には深い関係があります。企業が持続的な成長を果たすためにも、両者にどのような関連があるのか理解しておきましょう。
ESG経営とは
そもそもESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字から作られた言葉です。2008年、世界経済に大打撃を与えたリーマンショックをきっかけに、投資家は企業が長期的に存続し、成長し続けられるかどうかを評価する指標としてESGに着目するようになりました。
企業のESGに配慮した経営スタイルのことを「ESG経営」と呼びます。ESGはまだ新しい概念のため、明確な定義は存在しません。しかし、気候変動などの地球環境問題や労働環境の改善、ダイバーシティの推進といった要素がESG経営には重要なポイントとされています。
投資家は、企業がどれくらいESGに配慮した経営を行っているかを、投資における判断基準にするようになりました。このようなESGに着目した投資方法は「ESG投資」と呼ばれ、拡大傾向にあります。2021年に発表された「GSIR2020」によると、2018年からの2年間で世界におけるESG投資額は15%増加しています。また、各国における運用資産額全体におけるESG投資の割合も大きく、カナダは61.8%にも上っています。
(参照元:http://www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2021/08/GSIR-20201.pdf?msclkid=142d8e06cf9811ec86c91c235f937e31)
ESGが重視されつつある社会において、ESG経営を導入し積極的に進めている企業は、将来起きうるリスクを把握し、管理できている企業として高い評価を得られるようになります。また、投資家からの資本が集まることで、キャッシュフローの改善も期待できるでしょう。
非財務情報とESGの関係
非財務情報とESGにはどのような関係があるのでしょうか。まず、ESG投資は、従来主流とされてきた財務情報のみならず、非財務情報も含めて両方の観点から投資先を決める方法です。環境や社会、企業統治などの課題が顕在化している現代では、ESGの取り組みをせずにステークホルダーからの信用は得られない、というのが世界共通の認識となっています。日本でも環境省や経済産業省が中心となり、ESG経営の実践、普及に向けてどうサポートしていくのか、活発な議論が交わされているのです。
また、前述したように企業が情報開示する際には、統合報告書によって財務情報と非財務情報を組み合わせることが一般的になりつつあります。日本では統合報告書のガイドラインや開示ルール、開示義務はないものの、企業価値レポーティング・ラボが公表した「国内自己表明型統合レポート発行企業等リスト 2021年版」によると、2021年9月時点で641の企業や組織が統合報告書を開示していることが分かります。
(参照元:http://cvrl-net.com/archive/pdf/list2021_202111.pdf?msclkid=5613de3bcf9c11ecbd8c7a164d05489a)
このように、ESGに代表される非財務情報は今や企業価値を判断したり、企業が市場で勝ち残ったりするためには必要不可欠なものとなってきています。ESGへの取り組みを見れば、どのような戦略で将来的に成長していきたいのかが垣間見えるでしょう。
[RELATED_POSTS]まとめ
企業が将来にわたって成長できるかどうかは、財務情報だけではなく、非財務情報でも判断されるようになってきました。そのため、企業はPDCAを回しながら、非財務情報を積極的に開示することも求められています。自社に関心のあるステークホルダーを増やすためにも、ESG経営を進めるとともに、非財務情報の公開について検討してみてはいかがでしょうか。
- カテゴリ:
- 経営/業績管理
- キーワード:
- ESG経営