企業が事業拡大を行う上で実施される経営戦略にM&Aがあります。M&Aを行うことによって、「新規事業参入」や「事業多角化」などを素早く行えるメリットがあります。
ただし新しいシステムの構築や、ガバナンスの策定など、M&A後には多くの問題を解決しなければいけません。
経営陣がM&Aを考える場合は、こうしたリスクマネジメントも必須です。本記事では、M&Aのポイントや注意点を解説しているので、ぜひ参考にしてください。
M&Aのニーズは高まっている
レコフデータ社の調査では、M&Aを公表した企業の件数を1985年からまとめており、計算した初年度のM&Aの件数は260件でした。そして36年後の2021年に、M&Aを行なった企業の件数は4,280件となり、過去最多を記録しました。
これは2020年よりも14.7%増加しており、新型コロナウイルスの影響によるM&Aの先延ばしや、金融緩和による影響の可能性もあります。初年度の件数と比べると約20倍も増加しており、徐々にM&Aによる経営戦略が活発になってきました。
近年は、買い手側の「事業拡大」と売り手側の「事業承継・利益獲得」という目的が合致することが多く、今後もM&Aによる経営戦略は活発化していくと見られます。
M&Aで考慮しておくポイント
M&Aを検討する際には、あらかじめ考慮しておくべきポイントがあります。
費用やリスク、システム統合についてなどを把握しておきましょう。
以下で詳しく解説します。
M&Aの買収やアドバイザリーに関係する費用が高い
M&Aには仲介手数料や買収費用、税金などがかかりますが、中小企業の場合は多額の費用を準備することが難しい場合があるでしょう。
なかでも、多くの費用が発生するのが仲介手数料で、一般的には以下のような内容が含まれています。
- 着手金:約50〜400万円
- 中間報酬:約30〜200万円
- 成功報酬:取引金額の1~5%程度
なお、リテイナー契約を交わすのなら「リテイナーフィー」も発生します。着手金のことをリテイナーフィーと呼ぶこともありますが、一般的にはM&A会社に支払う月額顧問料を指します。
リテイナーフィーは、M&Aの対象となる企業の調査や分析など、継続的に行われる業務への対価です。契約期間を定めるケースが多く、たとえば1年契約なら1年のあいだ月額報酬を支払います。
さらに買い手側が売り手企業を調査する場合には、「企業価値算定費用」や「デューデリジェンス費用」も必要で、10〜200万円程度かかることがあるでしょう。
企業価値算定費用とは、M&Aによる譲渡を検討している企業が、対象となる企業の価値を算出してもらう際に必要な費用です。依頼されたM&A会社が対象企業の価値を算出したうえで企業価値評価レポートにまとめてオーナー企業に提出し、その対価として報酬を支払います。
企業価値を正確に算出するには、どれほど資産を有しているのか、関係会社がどれくらいあるのかなどを調査しなくてはなりません。そのため、対象企業が保有する資産や組織の規模、関係会社の数などによって企業価値算定費用は異なります。
「デューデリジェンス費用」は、M&Aの買い手企業が売り手企業の財務や法務、税務、事業などを短期調査する際に発生する費用です。基本合意後に、対象企業のことをきちんと理解するために行われます。
一般的には、公認会計士や弁護士、税理士、社会保険労務士などその道の専門家に依頼をします。実施するデューデリジェンスの種類や依頼する専門家、対象企業の規模などにより最終的なデューデリジェンス費用は異なるため注意が必要です。
上記だけでも大きなコストとなるのがわかりますが、これ以外にも売り手側の企業価値によって買収費用が発生します。M&Aにかかる費用は複雑なため、内容に対して適切な金額か、また一般的に見て妥当な金額なのかを判断するのは難しい側面があります。
このような問題を解決するためには、リテイナーフィーや成功報酬を事前に確認することが重要です。また、M&Aプラットフォームや買収費用のかからない手法を選択するのもよいでしょう。
M&Aを行うときに情報漏えいのリスクがある
M&A成立前に情報が漏洩してしまうと、業務に悪影響を及ぼす可能性があります。
どこかから漏れた情報が従業員に伝わった場合、「自社が売却されてしまう」「リストラされるかもしれない」など、誤解や混乱を招きます。そのため、従業員にM&Aを伝えるときは、経営者の口から正しい情報を伝えなければいけません。
また、相手先から提供された社外秘の情報や資料についても、慎重な取り扱いが必要です。相手側の重要な情報を漏えいさせてしまったら、信頼関係が破綻し、M&Aの締結は難しくなるでしょう。
そのほかにも取引先や金融機関に情報が漏れると、リスクの懸念点から取引量が減ったり、融資が受けられなくなったりするケースもあるので注意が必要です。
M&Aの取引を円滑に進めるためにPMIを意識する
PMIは「意識の統合」「業務の統合」「経営統合」の3つの統合作業のことで、2つの異なる企業を、円滑に統合させるための施策です。M&Aの成功の鍵ともいえるPMIは、統合によってどれだけ利益を生み出せるかにも直結します。
そこで、事前にPMIを策定して、M&A後にすぐに計画を実践に移すことが効果的です。
デューデリジェンスなどで仕入れた情報を元に、以下の3点を策定します。
- 基本方針
売り手側企業の自主性を残しつつ子会社として相続させる「連邦型統合」、売り手側企業を子会社として残しながら経営に大きく関与する「支配型統合」、吸収・一体化する「吸収型合併」などが代表的です。どのような方針で進めるのかを最初に決めます。 - ランディングプラン
クロージングから3〜6か月の間に実施する作業の策定です。経営全体から管理・事業などを見直します。 - 中期的な100日プラン
クロージングから100日の間に行う、中期の事業計画を策定します。
PMIは、基本合意書の締結前に構築するのが一般的です。そして、M&A後も新しい情報を元に、構築・実施していく必要があります。PMIの重要性を理解して、しっかりと取り組みましょう。
M&A時のシステム統合に問題がある
M&A直後は、買い手側と売り手側のシステムが別々に稼働しています。これでは企業内のデータがばらばらになっていて業務に支障が出るため、素早く統合しなければいけません。
一般的に用いられるシステム統合の方法は、以下の3つです。
- 新規システムで運用
既存システムを引き継がず新しいシステムで運用する場合は、M&Aを機に業務プロセスも一変します。新しい事業に合わせてシステムが構築できる利点がありますが、コストが大きくなるのが難点です。 - どちらかの企業のシステムを引き継ぐ
どちらか一方の企業が利用していたシステムを、もう片方の企業が利用する手法です。新規システム構築のコストはかかりませんが、システムを廃止する企業はデータ移行や、業務フロー変更などの対応に追われます。 - お互いの企業のシステムを稼働しつつデータ連携
クラウドでデータを連携させながら、両方の企業が既存システムを使い続ける手法もあります。コストは低くなりますが、データ変換の手間があったり、連携がスムーズにいかなかったりします。そのため、M&A直後の移行時期に限定して導入するケースが多いです。
M&Aのシステム統合において長期的な視点で準備すべきこと
M&Aに失敗しないためには、業務システムのスムーズな統合が重要です。企業データの多くはクラウドや自社システムによって管理されていますが、複雑な管理方法の場合、統合に手間取ってしまうこともあります。
速やかに連携して業務を行うためには、長期的な目線での準備も必要です。準備しておくとよいポイントを以下で詳しく解説します。
日頃から業務標準化などを意識する
業務標準化は、自社の業務を誰が行なっても同じ成果をあげられるようにする仕組みづくりのことです。これにより属人化や、要因欠如による業務停止などを避けられます。
具体的な方法は、「業務フローの作成」や「成果が出ている方法のマニュアル化」などがあげられます。これらがうまくいけば業務が効率化できて、従業員のモチベーションアップや、品質の向上も期待できるでしょう。
複雑なシステムをかかえているとM&Aの際に、相手先に受け入れてもらえない可能性もあります。業務プロセスを整理しておくことでM&A後の統合範囲がわかりやすくなり、時間やコストも短縮できる点もメリットです。
子会社とも連携や統合が容易にできるような仕組みを持っておく
企業間では、システムだけでなくガバナンスなどルールの仕組みも異なります。特に海外企業とM&Aを行なった場合は、「通貨」「法律」「税金」も違うため、どのようにしてデータ連携を行うかを考えなくてはいけません。
たとえば、IDECグループでは、海外の企業と積極的にM&Aを行なっていますが、異なる会計データを統合するために、OracleのERPクラウドサービスを導入しています。これにより以下のメリットが得られました。
- 会計データがセグメント別に保持される(データ集計と損益把握が効率化)
- 会計レポート作成の効率化
- 業務標準化の推進
- プロジェクトの効率化
具体例からもわかる通り、さまざまなデータを統合的に管理するにはERPシステムの導入が効果的です。
プロジェクト管理リスクの排除を行う
M&Aによるシステム統合をひとつのプロジェクトと見た場合、リスクマネジメントは欠かせません。プロジェクトを成功させるためには、さまざまなリスク要因を洗い出して、排除することが重要です。
プロジェクトリスクを排除するためには、以下の工程が推奨されます。
- リスク要因の洗い出し
- 想定できるリスクの検討
- 対応策の作成
- 実施のモニタリング
M&Aの際に注意しておくリスクには、「システムを早く移行しなくてはいけない」という時間的な制約や、「関係者が多くて意思疎通が難しい」といった点があります。また、双方の企業の異なるデータを再構築していくことは、最も大変な作業ともいえるでしょう。
M&A後のデータの統合や移行、指針を決める際には決裁者の判断が必要なシーンが多くあります。システムが自動化していても、代表者や経営陣の意思確認を常にしておかなければなりません。完全に移行が終了するまでの期間は、常に進捗状況を確認しておきましょう。
まとめ
M&A後の企業間システム構築には、データを統合的に管理できるERPシステムの利用がおすすめです。たとえば「Oracle ERP Cloud」では、SCM・CRM・BI・人事管理・財務会計など多くの機能を備え付けており全てのデータを一元管理できます。
グローバル展開にも強く、財務会計ではさまざまな国との連携が可能です。また、Oracle社といえばデータベースですが、ERPシステムにもそのノウハウを使用しているためデータの取り扱いに優れています。グローバルでの事業展開や、企業間データ連携を活かしてデータ分析を行いたい方は、ぜひ利用を検討してみてください。
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