会計不祥事から学ぶこれからの会計監査のポイントと会計ソフトのあるべき姿

 2016.02.16 

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はじめに

その事業規模にかかわらず、ほぼ全ての事業体が、何らかの形で会計ソフト(会計システム)を整備・運用している状況です。しかしながら、コンピューターが世の中に広く普及してから既に四半世紀になろうかとするいまなお、事業活動の記録情報としてもっとも中心的情報となる会計情報、すなわち、売上、仕入、在庫、販管費、人件費などなど、日常的に発生する取引情報は、数多の入力作業を通じて生成される前提に立って構築されているのが現状といえます。

確かにこれまでの情報処理は、それがフロント・バックオフィスのいずれかにかかわらず誰かの入力という活動を通じて経営データが記録されてきたのは事実です。

しかしながら、現在のインターネット社会の発展は、情報を記録活動そのものがヒトのキーボートによるタイピングを通じたデータ記録方法を大きく変えただけでなく、データ記録の変化が、情報収集スピードを劇的に向上させました。

その結果、従前では入手し得なかったタイミングで、正確かつ詳細な経営データを担当者に提供できるようになり、担当者はそうした正確な経営データをもとに合理的かつ正確な意思決定を行なうことができるようになったわけです。

これまでの経営では、欲しい情報を管理部門に情報提供を依頼し、その要望に応じて経営情報を加工し、提供する。そのためには必然的にタイムラグが生じてしまう。結果、何らかの意思決定を行なう頃には、既に環境は変わってしまっている。そんな感じです。

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従来の管理会計がもたらす不合理性と市場環境のスピード化がもたらす弊害

企業において、もっとも欲しがる情報、それは営業情報、中核事業である事業の実情をできるだけリアルにかつ早く手に入れたい、全ての経営者が望む環境でしょう。

いわゆる「管理会計」という言葉で、各社様々な視点から管理情報を生成し、決算が締まる前の意思決定に資する情報収集・提供が行なわれていることともいます。その意味で、経営企画部門には、営業活動のもっともホットな情報が同部門に集約され、その収集分析に優秀な人材を割いているはずです。

しかし、残念なことに、そうした優秀な人材が何をしているかといえば、各部門から五月雨式に提供される営業情報をただひたすら収集しつづけ、報告情報の誤りが無いかを、繰り返し、繰り返し、確認することに相当の時間を費やされているケースも少なくないものです。

UBER」のようにタクシー運行の一挙手一投足から、資金決済、そのユーザー・ドライバー相互の評価にいたるまで、ヒトによる入力を最小限にしながら経営データを記録し続けるというレベルまで一足飛びとはいかないまでも、企業経営において真に重要とされるべき経営情報が定まっているのだとすれば、そうした情報の収集プロセスを抜本的に見直すような取り組みが、これからの企業運営で目指すところではないでしょうか。

情報の誤りが及ぼす企業リスクと課題

こうした経営環境の変化は、いまなお手入力中心が当然と思われている会計インフラにおいても、いずれ同様のトレンドとなるであろうことは、容易に想像できるところです。

企業運営の活動記録の代表格、経理情報は、所定の期間の事業活動を、複式簿記のルールに則り記録し続け、期間内の財政状態および経営成績の実態を網羅的かつ正確に理解するにはとかく便利な情報であることから、販売、購買のみならず、資金、人件費、固定資産、在庫など企業のありとあらゆる情報が一まとめに確認できることから、経営データの中でもとりわけ重要なものです。

とはいえ、売上請求額、請求内容、請求時期、得意先情報、与信情報、銀行口座情報、担当部署など、販売管理だけでも、管理対象データは、少なくなく、そうした情報の誤りは、社内担当だけでなく、取引の相手先との関係にも影響を及ぼすものですので、下手な誤りは許されませんし、お金に直結するものでもあることから、その処理を誰にでも気軽に任せる訳にもいきません。小さい会社であれば、社長自らが、大きくなるにつれて担当者と管理部長が相互にチェックを行なうことになるかと思います。

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会計情報は、繰り返し発生する取引情報を、所定のルールに則り、正確に処理しない限り、情報としての価値が生まれません。例えば、「借方」買掛金/「貸方」売上高 という仕訳をさせたらどんなことが起こるか、実務担当者であったら想像するのも恐ろしくなると思います。

今後目指すべき経営基盤とは

このようなリスクを考えれば、経理・財務担当は同じ担当者が(他部署に比べて)かなり長い期間にわたり配属され、当該担当者の定めた暗黙のルーチンに則るのが、一番無難な体制になるわけです。

企業運営を行なうなか、フロントの管理ツールはお金に直結しないこともあり、経営者の判断でどんどん変わるケースは多いのですが、会計ソフトについては、比較的担当者の好みに大きく左右されてしまうことから、なかなか新たな環境づくりに踏み出せず、単に情報の保管場所をクラウド化しただけで、処理プロセスは実質何も変わっていないといったことも。

インターネットによる情報が世の中に広がり、様々な情報をつなげることで新サービスが続々生まれる中にありながらも、依然として会計ソフト周りの環境は、今なお管理担当者による入力を前提とした情報処理環境から大きな変貌を遂げていないということの裏返しなのかもしれません。

公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組が意味するもの

しかし、従来の考え方を大きく揺さぶる出来事が、2015年に社会問題化した会計不祥事を端緒に、監査業務のあり方を業界全体で見直す動きとして、2016年1月付けの日本公認会計士協会から会長通牒「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」として情報発信されました。

当該通牒において、リスクアプローチあるいは形骸化しがちな内部統制監査に対するあり方を今一度再考することが強く求められています。

内部統制監査も制度導入当初は、従来の処理プロセスをある程度考慮して、ヒトの手によるマニュアルコントロールを許容してきたものの、企業活動が日本国内はもちろん遠く海外まで大きく拡大すると、マニュアルコントロールによる管理はもはや机上の空論となりつつあることでしょう。今回の事件を契機に内部統制についてもリスクコントロールの実現可能性を改めて見直す機会として位置づけられることが予想されます。

加えて、企業運営サイドにおいても、昨今のテクノロジーの進化とともに営業活動にIT技術を駆使したサービスが広く普及することもあり、国内外を問わず、電子情報による経営情報管理が進みはじめています。国をまたがる経営情報の集約にヒトの手を解するだけの時間的猶予がなくなりつつあるからなのか、膨大な経営情報をもはやヒトの手で入力し続けること自体が、事業活動のスピードにキャッチアップすることはできないという経営判断からなのか、企業がしのぎを削るコンペティターのスピード感あふれる経営管理体制を目の当たりにしたからなのかは、わかりませんが、少なからず、社内情報をリアルタイムで共有できない経営環境が企業成長を阻害する一因となるであろうことを、直感的に感じ始めているのではないかと思います。

構造的な市場変化に対応出来ない企業の更なるリスク

前述の「UBER」のすごさは、リスクコントロールの視点からも目を見張るものです。一言で言えば、「事業活動そのものを多面的視点からリアルタイムで詳細把握できていること」、これにつきます。

結局、活動の一つ一つをスクリーニングできる環境が整備されていることで、正確な売上データ、原価データといった重要な営業情報がリアルタイムで把握でき、タクシー運行記録が延々と補足され、どのドライバーがどんな活動をしたのか、今も分かるし、後からも補足できる、ユーザからの評価を通じて顧客満足度の確認も即座にフィードバック、金銭的やり取りも伴うことなく債権債務管理がWEB上で完結している。

あとはこうした経営情報をヒトの手を介さずただ、会計ソフトにつないでいけば良い。問題が起こったら、その発生の地点までさかのぼり、その事実関係が本当はどうだったかを振り返ればよい。

「事業活動をリアルに正確に補足できること」、いわばモニタリング機能の高い事業インフラの形成が、結果的に経済合理性があり、かつ、リスク管理が適正に行なわれた健全な事業運営を可能とするわけです。

リスクマネジメント、決算情報、内部統制監査、企業が管理すべき事項は増え続ける一方です。企業活動の範囲が世界レベルに及んでいる会社であれば、なおのことです。

企業運営で求められるチェックポイントはたしかに増えているものの、事業活動はスタートから終わりまでつながっています。こうした連続性のある事業活動の一つ一つを輪切りにして情報生成をおこなっているようでは、早晩限界を迎えることでしょう。そもそもそうしたぶつ切りの情報管理には、どうしてもヒトの作業と意思が入り込む余地が生まれ、それが結果として様々なリスクをもたらす要因となりうるものです。

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結論と提言

もちろん、事業運営において様々なリスクは当然に起こりうるわけで、そのすべてがテクノロジーで解消されるわけではありません。

しかしながら、経営情報の生成過程にできる限りヒトの手を介在させる範囲を減らすことは、結果的に当事者の業務を本来ヒトがもっと時間を割くべき活動に集約することが可能となり、その結果、会社運営はいっそう健全なことが可能となるのではないかと思います。

従来より入力を基礎に築かれてきた会計情報ですが、事業運営の全体を俯瞰できる情報、いわば、企業運営における「扇の要」であることは今も昔も変わりません。

企業運営の「要」であるからこそ、当該情報だけが旧態依然別管理であり続けることが、どれほどのロスをこうむっているのかは明らかです。

要たる会計ソフトに何をさせるのか、企業はどういった情報のどのタイミングで欲しいのか、過去の振り返りと将来予測を見比べる情報は何なのか、新たな事業活動はどこを目指しているのか、すべてが会計情報につながっていくはずです。情報としての重要性をかんがみれば、戦略的視点を持ちながら、その改善改革の方向性について検討を重ね続けることが、これからのバックオフィス構築において重要な視点です。

日常的な活動のなかで新たな環境づくりは決して簡単なことではありませんが、こうした社会的要請を限られたリソースの中で実現することが求められている以上、取り組まざるをえないテーマになってきたといえるのではないでしょうか。

注:Uberはタクシー業界での破壊的イノベーターであり、クラウドを活用しているユーザである。
破壊的イノベーターは、表面からは見えない優位性を気づく必要があり、他社には模倣困難な方法で提供することである。当然製品やサービスを簡単に安易に提供する技術あるいは、運用コストを大きく下げる、例えば クラウドバックオフィスの利用などはいずれも破壊的イノベーターの優位性となりうるであろう。

著者紹介

hanyu-samaひので監査法人 羽入 敏祐 氏

監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入所、上場企業等監査業務に従事。会計事務所にて会計・税務全般およびM&A関連各種業務事業会社では経営管理実務、IPO準備全般に従事。監査・経営実務経験を踏まえたITインフラ提案力に強み

ひので監査法人について

ひので監査法人は、2009年5月 設立、大手監査法人の監査経験者と事業会社のマネジメント経験者から構成され、上場準備、中堅国内上場企業向けの効率的監査サービス、バックオフィス支援サービスの提供をしております。信頼される会計プロフェッショナルとしていかに成長し続けていくかを日々模索し、監査ならびにバックオフィス構築サービスの品質維持・向上に取り組んで参ります。

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