利益率拡大のために「原価管理」は欠かせない業務です。その中でも、「移動平均原価」と「標準原価」については正確に把握しておく必要があります。本稿では、移動平均原価と標準原価について解説し、原価管理の重要性についてお伝えしたいと思います。
移動平均原価とは?
移動平均原価とは「移動平均法」によって算出された原価を指します。移動平均法は棚卸資産を受け入れるたびに、その時点における受入資産と在庫資産の平均原価を算出し、この平均原価をもって商品の払い出し単価および在庫資産の価額を算定するための方法です。以下の計算式を持って平均原価を求めます。
<移動平均法による平均原価の求め方>
(受入棚卸資産取得原価+在庫棚卸資産金額)÷(受入棚卸資産数量+在庫棚卸資産数量)=平均原価
移動平均法では払い出し資産の単価を随時把握することはできても、受け入れのたびに平均原価の算定が必要になり、実務的に手間がかかる方法だと言えます。たとえば以下のような状況にて移動平均法を用いて平均原価を算出してみます。
4月1日:繰越100個(110円/個)
4月6日:仕入100個(100円/個)
5月3日:売上50個
5月9日:仕入50個(101円/個)
5月14日:売上150個
移動平均法は商品を受け入れるたびに受入商品原価と在庫商品金額の合計を、受入商品数量と在庫商品数量の合計で割り、その時点においての商品1単位あたりの平均原価を算出します。この平均原価をもって商品の払い出し単価および在庫金額を評価するため、計算は以下の通りになります。
4月6日仕入時点における平均原価:(100×110円+100×100円)÷(100個+100個)=105円/個
5月9日仕入時点における平均原価:(150×105円+50×101円)÷(150個+50個)=104円/個
3月31日(決算)時点における在庫金額:50×104円=5,200円
移動平均原価のメリットとデメリット
移動平均法を用いた平均原価算出のメリットは、期中においても棚卸資産の払い出し単価を算定するため、販売業績の把握・管理が常に可能になることです。一方、デメリットは異なる価格の棚卸資産を受け入れるたびに、平均原価の算定が必要になるため実務上の手間がかかります。
標準原価とは?
次に標準原価について解説します。標準原価は、材料や製造に必要な労働力の消費量を統計的に調査した上で算定していきます。数値にはあらかじめ想定される「予定原価」も含まれるので、製造中に条件が変動すると改訂されることもあります。さらに、標準原価は以下の4つに分類されます。
1.理想標準原価
現在の技術レベルで達成できる最大値を前提として、最高能率で最低限の原価となり、財貨の現存や製造中のトラブルは考慮しません。
2.現実的標準原価
予想される能率から達成できる原価を指します。実際に生じることを前提とした数値なので、予算編成や棚卸資産化価額の算定にも使われる原価管理に適しています。
3.正常原価
過去の長期実績をベースにして、将来の見通しを加えた原価です。経営における異常な状態を排除した数値なので、経済状態が安定している場合に有効です。
4.基準標準原価
一度立てた標準原価を翌年以降も継続して使用する場合に有効な原価です。将来の原価動向を把握する際の基準としても使われます。
標準原価計算の流れ
標準原価の計算は原価管理に大いに役立ちます。実際に発生した原価と標準原価の差異を分析することによって、無駄やロスを排除した生産性向上を目指すのが目的です。標準原価計算の流れは以下のようになります。
- 目標となる原価の基準を設定する
- 設定した目標値に基づき標準原価を計算する
- 実際に発生した原価(実際原価)を計算する
- 標準原価と実際原価の差異を比較・分析する
- 改善案を作成する
目標とする原価基準は、直接材料費・直接労務費・製造間接費を考慮します。直接材料費は製品別の仕入れ価格や使用量から計算し、直接労務費は製品別の作業呼応数と目標賃率から計算します。製造間接費に関しては実際原価を参考にします。それらを製品別に割り当てて、上記でご紹介した流れで標準原価と実際原価を比較し、改善案を検討していきます。
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原価管理の重要性とは?
原価管理は「在庫管理」と並んで、「経営そのもの」と言われるほど高い重要性を持ちます。なぜ原価管理はそこまで重要だと考えられているのでしょうか?それを理解するために、原価管理を実施していない企業によくある経営問題についてご紹介します。
1.原価に無駄が生じる…
新しい商品やサービス、あるいは既存の商品やサービスにはそれぞれ原価があるわけですが、原価管理を徹底していない企業では原価に多くの無駄が生じています。原価の無駄が怖いのは、簡単に視覚化ができないことです。製造に必要な業務プロセスだけを構築しても、作業ごとに原価がかかっているため、そこには無駄が生じている可能性があります。しかし、原価管理を徹底していなければ無駄は見えてきません。それはつまり、原価を低減して利益率を向上するチャンスを逃していることになります。
2.サービス原価が把握できない…
商品の製造や販売に原価がかかっているのはもちろん、サービスを提供するためにも原価がかかります。たとえばソフトウェア開発では人件費が主な原価になりますし、サービスを1つ提供するためにはさまざまな原価が生じます。こうしたサービス原価について把握してないと、赤字プロジェクトが生まれやすくなったりします。
3.商品の適正価格が分からない…
最終的な商品価格は原価情報を考慮して、適切な価格を設定する必要があります。しかし、原価管理を行わずどんぶり勘定を続けていると、原価に対して低い利益率を設定してしまったり、あるいは高すぎる価格設定によって消費者から敬遠されてしまう可能性があります。
4.損益分岐点が分からない…
損益分岐点とは、利益が確保できるようになるボーダーラインを指します。たとえば1個当たり原価20円のチョコレートを1,000個製造すると、総合原価は20,000円になります。そのチョコレートを1個100円で販売した場合、利益は80円なので250個販売すれば損益分岐点を越えて利益が発生します。こうした損益分岐点を原価管理で把握しているかどうかで、事業採算性が判断できます。
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ERPとは、生産管理システムや販売管理システムといった基幹系システムを統合し、各システムの情報を同じデータベースで管理するためのIT製品です。ERPを構築することで、各システムから原価管理に必要な情報を収集し、原価計算を自動的に行うことで効率的な原価管理を実現します。加えて、より正確な原価情報をタイムリーに知れることで、経営最適化や利益率向上にもつながります。
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