会計業務をペーパーレス化することで、企業はさまざまなメリットを得られます。それを裏付けるように、近年では多くの企業がペーパーレス化を進めています。本記事では、会計業務のペーパーレス化を成功に導くポイントやメリット、デメリットを解説します。
ペーパーレス化とは?
ペーパーレス化とは、従来紙の書類を用いて行っていた業務を見直す取り組みです。たとえば、定例会議で使用する資料を紙ではなく電子データで作成し、タブレット端末での閲覧を可能にする、稟議書を用いずワークフローシステムで申請、承認ができるようにするといった取り組みが該当します。
なお、ペーパーレス化の取り組みは国が推進しています。企業における紙の使用が少なくなれば、業務効率化や生産性向上につながり、ひいては国力の強化につながるためです。また、紙を使用することが少なくなれば、原料となる木の伐採が減り環境保護につながるのも、政府が取り組みを主導しているひとつの理由です。
ペーパーレスを国が推進しているのを裏付けるように、電子帳簿保存法やe-文書法などの法律が整備されました。電子帳簿保存法やe-文書法の施行により、企業は経理に関連する書類の電子化、保存が可能となったのです。
近年は、さまざまな事情でリモートワークを導入する企業が増えました。リモートワーク環境下で従来と同じ、もしくはそれ以上の業務効率を実現するには、ペーパーレス化が必須です。その場で直接書類を手渡す、閲覧することができなくなるためです。リモートワークへの移行を検討している企業にとっても、ペーパレス化は避けて通れない取り組みといえるでしょう。
ペーパーレスの対象となる書類
ペーパーレスの取り組みを進めるのなら、どのような書類が対象になるのかを把握しておかなければなりません。国が推進しているとはいえ、すべての書類が対象ではないのです。書類でないと効力を発揮できないもの、リスクを発生させるおそれがあるものなどは対象外となるため注意が必要です。
取り組みの対象になる書類として、請求書や領収書、契約書、給与明細、源泉徴収票などが挙げられます。また、会議で使用する資料や商品のカタログ、会社のパンフレット、チラシなども該当します。
基本的に、ビジネスで使用する書類のほとんどは、ペーパーレス化が可能です。会計業務に関連するものでは、会計帳簿や財産目録、資産負債状況書類、損益計算書、監査報告書なども該当します。
一方、電子化や電子保存が認められていない文書として、許認可関連の書類が挙げられます。たとえば、店舗の営業許可証や建設業許可証などです。また、不動産取引で用いられる書類の多くは、電子化が認められていないため注意しましょう。
会計業務のペーパーレス化を実現するメリット・デメリット
会計業務のペーパーレス化により、企業が得られるメリットは多々あります。一方で、デメリットが存在するのも事実であるため、正しく理解しておかなければなりません。取り組みを進める前に、メリットとデメリットを把握しておきましょう。
会計業務のペーパーレス化を実現するメリット
ペーパーレス化のメリットとして、業務効率化が挙げられます。日々の業務で紙を使わなくてよくなれば、作業の簡潔化や時間の短縮につながり、結果として業務効率が向上します。
会計業務では、数多くのさまざまな書類に目を通す必要があります。それぞれの書類に1枚ずつ目を通しつつ業務を進めるため、必然的に時間がかかるデメリットがありました。しかし、業務に必要な書類を電子化していれば、スピーディーに求める情報へアクセスでき、業務効率が高まるのです。
コスト削減につながるのも、大きなメリットといえるでしょう。ペーパーレス環境が整えば、従来のように書類を使用する頻度が大幅に低下します。印刷するための用紙やインク代、キャビネット費用などが不要になるほか、印刷の手間がなくなるため、人的コストの削減にもつながります。
セキュリティ強化に役立つのもメリットです。業務で使用する書類を電子保存し、適切にアクセス権限を付与していれば、情報漏えいのリスクを下げられます。書類を使用しているケースでは、従業員が外部に持ち出してしまい、情報が流出してしまう可能性がありますが、電子化によりこのようなリスクも回避できるのです。
また、脱ハンコにもつながります。企業によっては、リモートワークを導入しているにも拘らず、わざわざ書類へ押印してもらうためだけに出社が必要なところもあります。ペーパーレス化を実現すれば、そもそも書類への押印が必要なくなるため、このようなことも発生しません。
会計業務のペーパーレス化を実現するデメリット
ペーパーレス化を進めるにあたってのデメリットとして、導入時のコストが挙げられます。ペーパーレス環境を整備するには、パソコンやタブレット端末などのデバイスをはじめ、クラウドストレージやサーバーなども必要です。
また、既存の書類を電子保存するのなら、相当な作業の手間と時間が発生し、人的コストがかかります。専門業者へ依頼すればスピーディーな電子化が可能ですが、自社で対応する以上のコストが発生するでしょう。
書類をなくすことで視認性が低下し、かえって業務効率を落としてしまう可能性もあるため、注意が必要です。たとえば、小さな文字で記述されている書類の場合、パソコンやタブレット端末では見えづらくなる可能性があります。倍率を拡大すれば見やすくなりますが、今度は文書全体の内容を把握しづらくなるのです。
従業員にITリテラシーが求められることも覚えておきましょう。ITリテラシーの低い従業員がいる場合、電子化したデータを不適切に扱ってしまい、情報漏えいを招くおそれがあります。
書類を電子化すれば、容易に外部へ持ち出しにくくなるため、セキュリティを強化できますが、結局のところ扱うのは人です。従業員のITリテラシーが低ければ、かえってセキュリティリスクが高まる危険があることを理解しておきましょう。
[RELATED_POSTS]ペーパーレス化を成功に導くポイント
ペーパーレス化を成功させるには、目的を明確に設定しましょう。国が主導しているから、他社が取り組んでいるからといった理由で進めると失敗してしまう可能性があります。
目的によって、取り組む順序や内容が変わります。業務を効率化したいのか、コストを削減したいのか、セキュリティの強化を望んでいるのかなど、まずは目的を明確にしましょう。
スモールスタートで取り組むのも大切なポイントです。最初から組織全体で取り組んでしまうと、現場が混乱してしまうおそれがあります。ペーパーレスに対応できず、業務に支障をきたすおそれもあるでしょう。まずは1つの部署で取り組んでみるなど、範囲を限定して進めることをおすすめします。
また、ITツールの導入により、スムーズにペーパーレスを実現できます。たとえば、情報共有ツールや電子署名システム、Web会議ツール、ワークフローシステムなどが挙げられます。達成したい目的により選ぶべきツールが変わるため、目的にマッチしたものを導入しましょう。
財務部門の効率化を実現したOracleの事例
Oracleは、クラウド型ERP「Oracle Cloud ERP」の導入により決算業務の効率化を実現しています。同社の財務部門は、新型コロナウイルスの影響を受けて在宅ワークで業務に取り組んでいましたが、それにも拘らず月次決算に要していた時間を20%も短縮できたのです。
決算処理に要する時間を短縮できたことで、財務部門はほかの主要業務へ注力できるようになりました。また、決算業務が迅速化したことで、経営層はそのときどきに応じた柔軟かつ適切な意思決定を行えるようになったのです。
こうした成功の成果をさらに拡張していくためには、経営層がリードする改善努力だけでは十分ではありません。今後は現場の課題に焦点を当てたルールの策定や、国家による法整備などにも適切に対応していくことが必要だとOracleは考えています。
まとめ
会計業務のペーパレス化により、業務効率化やコスト削減、セキュリティ強化などのメリットを得られます。一方で、導入にコストがかかる、視認性が低下する可能性がある、従業員のITリテラシーが必要といったデメリットがあることも覚えておきましょう。ペーパーレス化をスムーズに成功させるため、まずは目的を明確にし、そのうえで範囲を限定して取り組むことをおすすめします。
- カテゴリ:
- 会計
- キーワード:
- 経理/財務会計