内部統制システムの意味・目的とは?
必要性やメリット、構成要素も解説

 2025.03.21 

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企業が信頼を得るには、不正防止や財務報告の透明性確保が不可欠であり、その役割を果たすのが内部統制システムです。内部統制システムは企業の業務運営を適正に保ち、経営の効率化やリスク管理を強化するための仕組みです。本記事では、内部統制システムの基本的な意味や目的、企業にとっての必要性などについて解説します。

内部統制システムの意味・目的とは? 必要性やメリット、構成要素も解説

健全な企業の運営を支える内部統制システム

企業が健全な事業活動を継続するためには、社内のルールや規定を整備し、適切に運用することが必要ですが、この仕組みを支えるのが「内部統制システム」です。内部統制システムは、企業が適正な業務運営を行い、不祥事の防止や業務の効率化、透明性の確保を実現するための重要な取り組みです。

内部統制は「会社法」と「金融商品取引法」の2つの法律に関連し、それぞれ異なる目的のもとで求められています。会社法では、株式会社における業務執行の適正化を行うことが目的です。取締役の職務執行が法令や定款に適合していることを確保するため、必要な体制の整備が企業に求められています。一方、金融商品取引法においては、企業の財務報告の適正性を確保することを主な目的としています。企業が提供する財務情報の信頼性を確保し、株主や投資家に適切な情報を開示することが重要です。

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会社法における内部統制システム

企業の健全な経営を維持するには、適切な業務運営を確保し、不正やリスクを未然に防ぐ仕組みを整えることが重要です。そのために、会社法では取締役の業務執行を適切に監督し、企業活動の透明性を高めるための体制として、内部統制システムの整備を求めています。

会社法における内部統制システムの定義

会社法では、内部統制システムについて明確に定めており、第362条4項6号において以下のように規定されています。

「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」

引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-Pa_2-Ch_4-Se_5-Ss_1

上記規定により企業は、取締役の職務執行が法令や定款に適合しているかを監督する体制の整備が求められています。また、グループ企業を含めた業務の適正性を確保するため、内部統制の仕組みを構築し、継続的に運用することも必要です。

構築が義務づけられている企業

会社法では、取締役会を設置しているすべての株式会社に対し、内部統制システムの整備を求めています。特に、大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)では、より厳格な体制整備が求められます。これらの企業では、内部統制の仕組みを整え、法的要件を満たすだけでなく、経営の透明性やリスク管理を強化する必要があります。義務の対象となる企業は、内部統制の具体的な方針や運用方法を明確にし、それを社内のすべての関係者に周知徹底することが求められます。経営陣だけでなく、従業員も内部統制の意義を理解し、日々の業務に活かすことで、組織全体のコンプライアンス意識の向上につながります。

会社法における内部統制システムの構成要素

会社法が求める内部統制システムの整備においては、企業が取締役の職務執行を適切に監督し、業務の透明性を確保するための具体的な体制を構築することが必要です。そのため、取締役の職務に関する情報を保存・管理する仕組みや、企業が直面するリスクを適切に管理する体制の整備が求められます。

すべての企業に共通して求められる要素のひとつが、取締役の職務執行に関する情報管理です。重要な経営判断が行われた際、その記録を適切に保存し、必要に応じて確認できる状態を維持することで、意思決定の精度を高められます。また、企業が直面する可能性のあるリスクを洗い出して、それに対する管理方針を策定し、未然に問題を防ぐ体制を築くことも重要です。

監査役を設置していない企業では、監査等委員会や指名委員会などが監督機能を担い、取締役会の監視のもとで業務執行が適正に行われているかが確認されます。一方、監査役を設置している企業では、監査役が取締役の業務を監視し、経営の公正性を確保する役割を担います。監査役が独立性を維持しながら適切に機能するよう、社内ルールを明確に定めることが重要です。

金融商品取引法における内部統制システム

企業が適切な財務情報を提供し、投資家や株主の信頼を確保するには、正確で透明性の高い財務報告が求められます。金融商品取引法では、この目的を達成するために、企業が財務データの適正性を確保する仕組みとして、内部統制システムの構築を義務づけています。この制度は、不正会計や情報の改ざんを防止し、公正な資本市場の維持に貢献するものです。

金融商品取引法における内部統制システムの定義

金融商品取引法では、企業の財務報告の適正性を確保するために内部統制システムの整備が求められており、第24条の4の4において、次のように規定されています。

「当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なもの」

引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000025

金融商品取引法上の内部統制システムは、一般的に「日本版SOX法(J-SOX法)」とも呼ばれます。この法律は、米国のサーベンス・オクスリー法(SOX法)を参考にしており、企業が財務報告の信頼性を確保するための規定を設けています。J-SOX法の適用により、日本国内の企業も内部統制を強化し、財務情報の適正性を保証する仕組みを構築することが求められています。

内部統制の整備は、財務の正確性を確保し投資家の信頼を得るために重要です。内部統制報告書の提出も義務づけられており、制度の適用を受ける企業は定期的に報告を行う必要があります。内部統制報告書について詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。

構築が義務づけられている企業

金融商品取引法では、金融証券取引所に上場しているすべての企業に対し、内部統制システムの構築が義務づけられています。上場企業は、投資家や株主に対して正確な財務情報を提供する責任があるため、特に不正や誤報を防ぐための内部統制が重要です。

また、内部統制システムの適用を受ける企業は、適切な財務報告を行うために、定期的に内部統制報告書を提出しなければなりません。内部統制報告書の内容に虚偽があった場合や、報告の提出を怠った場合には、法律に基づく罰則が科されることがあります。そのため、企業は正確な情報の開示だけでなく、内部統制が適切に機能していることの証明も必要です。

金融商品取引法における内部統制システムの目的

金融商品取引法に基づく内部統制システムには、企業が適切な業務運営を行い、財務報告の信頼性を確保するためのさまざまな目的があります。その主な目的は、下記の4つです。

  • 業務の有効性
  • 効率性の向上、財務報告の信頼性の確保
  • 法令等の遵守
  • 資産保全

1. 業務の有効性・効率性の向上

企業活動を円滑に進めるには、業務効率の向上が重要です。組織の規模が拡大すると、業務の流れが複雑化し、リソースの無駄が生じることもあります。そこで内部統制を導入し、業務フローを整理することで、適切な資源配分が可能となります。例えば、財務処理や契約管理の業務において、明確なルールを設けたり、職務分掌を明確にして適切な権限を与えたりすることで、業務の属人化を防ぎ、組織全体の生産性向上が図れます。

2. 財務報告の信頼性

投資家や株主にとって、企業の財務情報が正確であることは重要です。財務報告に不備があると、企業の信用が損なわれ、市場での評価が低下する可能性があります。そのため、内部統制の仕組みを整え、財務情報の正確性と一貫性を確保することが求められます。企業の財務報告においては、売上の計上や資産の評価、負債の管理など、多くの項目が関係します。適切な内部統制を導入するほか、粉飾決算を防ぐためにも定期的な監査を行い、業務全体が適切に機能しているかを確認することも重要です。

3. 法令等の遵守

企業が持続的に成長していくには、関連する法令や規制を遵守することが必要です。金融商品取引法をはじめとする各種法律は、企業の経営活動におけるルールを定めており、これらの法令を守らなければ企業活動そのものが危うくなる可能性があります。また、従業員が法律や規則を理解し、それを実行できる環境を整えることも内部統制の重要な役割です。社内研修などを通じて、社員一人ひとりの遵法意識を高めることが、企業全体のリスク管理に貢献します。

4. 資産保全

企業が持続的に成長し、株主の利益を守るためには、資産の適切な管理・保全が求められます。株式会社は出資者から資金を受け取り、その資産を元手に事業を展開するため、内部統制の仕組みを整え、資産の流出や不正な使用を防ぐことも重要です。例えば、資金の流れを明確にし、不正な取引や横領を防ぐ仕組みを構築することで、企業の財務状況を健全に保持できます。また、資産の管理体制を強化し、適切な監査を実施することで、不正行為の発生リスクを最小限に抑えられます。

金融商品取引法における内部統制システムの構成要素

金融商品取引法における内部統制システムは、企業の財務報告の適正性を確保し、不正や誤りを防ぐために設けられています。企業が公正な資本市場の一員として責任ある経営を行うためには、内部統制の仕組みを適切に整備し、組織全体で統制を機能させることが必要です。内部統制システムにおける構成要素は、以下の通りです。

  • 統制環境
  • リスクの評価と対応
  • 統制活動
  • 情報と伝達
  • モニタリング

それぞれが相互に関連しながら企業運営の透明性と信頼性を高めています。

統制環境

内部統制を効果的に機能させるには、まず統制環境を整えることが重要です。統制環境とは、企業の経営方針や行動理念、組織の風土、企業文化など、内部統制を支える基盤を指します。この環境が適切に構築されていなければ、どれほど精密な統制システムを導入しても、その実効性が十分に発揮されない可能性があります。

企業が統制環境を整える際は、取締役会や監査役の機能を強化し、統制を実行するための明確な組織構造を確立する必要があります。また、統制環境には経営者の意向や倫理観、誠実性などの要素も含まれます。

リスクの評価と対応

どれだけ統制環境を整えても、企業経営には常にリスクがつきものです。企業活動の中には、想定外の損失をもたらす要因が数多く存在しており、それらを適切に評価・管理することが求められます。リスクにはさまざまな種類があります。例えば、財務リスクとしては、売掛債権の回収不能や資金繰りの悪化が挙げられます。経営リスクの中には、市場環境の変化や競争激化による売上減少のリスクが含まれます。また、情報セキュリティの観点からは、データの漏えいやサイバー攻撃への対応も、重要なリスク管理項目となります。

これらのリスクを最小限に抑えるためには、発生の可能性がある要因を的確に分析し、適切な対策を講じなければなりません。リスクを軽減する手法には、予防的措置の導入、保険や契約によるリスクの移転、損失発生時の迅速な対応計画の策定などがあります。企業はこうしたリスク管理の体制を確立し、万が一の事態に備えることが重要です。

統制活動

統制活動とは、企業が定めた方針やルールを、実際の業務にて確実に実行するための仕組みを指します。どれだけ詳細な規則を策定しても、実務レベルで従業員がそれを守らなければ、内部統制は形骸化してしまいます。そのため、企業は統制活動を強化し、組織全体でルールが徹底される体制を整えることが必要です。

統制活動の具体例としては、職務分掌の明確化、権限の適切な設定、業務マニュアルの作成、定期的な監査の実施などが挙げられます。これらを適切に運用することで、組織内での責任の所在が明確になり、不正やミスの発生を防ぐことが可能です。

情報と伝達

組織内外の関係者と適切な情報を共有し、正しい意思決定を行うためには、情報の流れを管理することが不可欠です。企業の経営陣が従業員に対して明確な指示を出し、従業員が必要な情報を適時に取得できる体制が整っていなければ、組織全体の業務が円滑に進みません。

特に財務情報の伝達に関しては、正確性が求められます。誤った情報が伝われば、経営判断に影響を与え、企業の信頼性を損なう可能性があるためです。企業は情報の収集・整理・伝達のプロセスを厳格に管理し、適切な方法で関係者に共有することが求められます。

モニタリング

企業が適切な内部統制を維持し、その実効性を確保するには、導入した仕組みが計画通りに機能しているかを継続的に確認し、必要に応じて改善することが求められます。この役割を担うのが、モニタリングのプロセスです。内部統制は、一度導入すれば終わりではなく、組織の成長や市場環境の変化に応じて見直し、最適化を図ることが重要です。

モニタリングの目的は、内部統制システムの運用状況を定期的に評価し、不備があれば適切な対策を講じることにあります。このプロセスを効果的に機能させるには、日常的な業務監視と、独立した視点からの監査の両方を組み合わせることが重要です。例えば、各部門の管理者が日々の業務における内部統制の遵守状況を確認し、問題が発生した場合には速やかに報告・対応できる体制を整えます。また、経営陣や取締役、監査役が定期的に独立した視点で監査を実施し、内部統制の全体像を評価することも必要です。

ITへの対応

現代の企業経営において、ITの活用は内部統制の精度を大きく左右する要因となっています。デジタル技術の進化に伴い、企業の業務はますますITシステムに依存するようになっており、財務管理や業務プロセスの適正性を確保するためにも、ITの戦略的な活用が求められています。そのため内部統制の強化には、ITシステムの適切な管理と活用が必要です。

ITへの対応を適切に行うには、まず基幹システムや情報システムの有効性を評価し、企業全体のITインフラを把握することが重要です。企業が使用するシステムが適切に管理されていない場合、不正アクセスやデータ改ざん、システム障害などのリスクが高まり、内部統制が機能しなくなる可能性があります。そのため、定期的なIT環境のアセスメントを実施し、セキュリティの強化やデータ管理体制の見直しを行うことが求められます。

内部統制システムを構築するメリット

内部統制は単なるコンプライアンス対策ではなく、企業の経営基盤を強化し、業務の効率化やリスク管理を徹底する役割を果たします。ここでは、内部統制システムを導入する主なメリットについて解説します。

信用度を向上させられる

企業が市場で評価されるためには、製品やサービスの質だけでなく、組織としての信頼性を確保することが重要です。特に株主や投資家、取引先など企業のステークホルダー(利害関係者)にとって、経営の透明性や適正な財務報告がなされているかどうかは、重要な判断基準となります。そのため、内部統制システムを整備し、ガバナンスの強化に努めることは、企業の信用度向上に寄与します。

内部統制が適切に機能している企業は、財務情報の正確性が担保され、不正会計や情報の改ざんといった問題が発生しにくくなります。また、経営の監視体制が強化されることで、社内外のステークホルダーに対し、経営の健全性を証明することが可能です。このような取り組みは、企業が「GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)」を推進している証となり、外部からの信頼の獲得につながります。

不正やミスを抑止できる

企業活動において、不正行為や業務上のミスは大きなリスクとなります。情報の改ざんや横領、機密情報の漏えいといった問題が発生すると、企業の信用が失われ、経営に大きなダメージを与えかねません。こうしたリスクを最小限に抑えるためにも、内部統制システムの導入が重要です。

適切な内部統制を整えることで、組織内の業務フローが明確になり、不正を防ぐ仕組みが構築されます。例えば、業務の権限を分散し、一人の従業員がすべての取引を管理できない体制を作ることで、不正が発生しにくくなります。また、データの管理やアクセス制限を強化することで、情報漏えいのリスクを低減することも可能です。監査機能が強化されることで、問題の早期発見が可能となり、必要に応じて迅速な対策を講じられます。

こうした取り組みを積み重ねることで、不正行為やヒューマンエラーの発生を抑え、企業の安定経営の支えとなります。

業務を効率化できる

内部統制システムの導入は、業務効率化にも大きく貢献します。統制を強化することで、業務プロセスの可視化が進み、無駄な手続きや不要な業務の見直しが可能になります。結果、組織全体の業務フローが整理され、スムーズな業務運営が実現します。

業務の標準化を進めることにより、属人化した業務の解消にもつながります。従来、一部の担当者に依存していた業務も、マニュアルやシステムの活用により、誰でも一定の品質で遂行できる体制の構築が可能です。

また、内部統制システムの一環としてITツールを活用することで、データの一元管理や業務の自動化が進みます。例えば、財務管理システムやワークフロー管理ツールを導入することで、情報共有がスムーズになり、業務の負担が軽減されます。さらに、リアルタイムでのデータ分析が可能になれば、意思決定のスピードが向上し、企業の競争力強化にもつながります。

まとめ

内部統制システムは、単に法令を遵守するためのものではなく、企業の経営を支える重要な仕組みです。適切な統制が機能することで、企業の信用度が向上し、不正行為や業務ミスの発生を抑えられます。また、業務の効率化にも寄与し、企業全体の生産性向上につながります。

特に上場企業や大企業では、投資家や株主からの信頼を得るためにも、内部統制の強化が求められています。もちろん中小企業においても、健全な経営を維持し、リスクを適切に管理するためには、内部統制の導入が重要となります。企業規模に応じた適切な統制システムを構築し、持続的な成長を目指しましょう。

内部統制システムの構築・運用を進める際は、組織の状況や市場環境の変化に応じて統制のあり方を調整し、より実効性の高い体制を整えることが重要です。適切な内部統制の整備を通じて、企業の信頼性を高め、持続可能な成長を実現していくことが求められます。内部統制システムの有効性を維持するために、コンプライアンス管理体制チェックシートを活用しながら、継続的な改善を行いましょう。

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