会計業務には「財務会計」と「管理会計」があります。どちらも経営活動において大切な会計業務ですが、どちらの方が企業の成長に繋がるかといえばそれは管理会計です。「会計」と聞くと、決算や確定申告のために帳簿をつける作業をイメージする方が多いでしょう。これは財務会計に分類される作業です。
本稿では、管理会計の基礎とその手法についてご紹介します。「まだ経営活動に会計を上手く取り入れられていないな…」と感じる方はぜひ参考にしてみてください。
管理会計とは?
よく「会計にテコ入れをして経営状況を回復させた、成長させた」といった事例を目にすることがあります。確かに、会計は適切に取り組めて必ず利益向上に貢献する業務です。問題は、会計にどう力を入れるか?という点です。
会計に力を入れているつもり、でも思うように成果があがらないというケースでは管理会計を実施できていない場合があります。その理由が、多くの方が「会計=財務会計」と考えがちだからです。
財務会計はいうなれば財務諸表を作成するための会計業務です。決算時に必要な情報を、帳簿を使って記録していくという作業が主になります。財務会計に力を入れても、財務諸表作成にかかる時間を短縮出来ても、利益向上にはつながりません。
そこで必要になるのが管理会計です。管理会計のプロセスには法定ルールがなく、企業ごとに必要な情報を収集・加工・レポートするためのプロセスを確立できます。要するに管理会計は自由な会計業務であり、会社の経営状況を判断するために必要な情報を、必要な時に収集することが管理会計です。
財務会計では成長企業になれない理由
成長企業に共通している特徴は、「経営状況をタイムリーに可視化して、正しい情報にもとづいた経営判断をしていること」です。これは「航海」に例えてみると分かりやすいかと思います。
自分がある船(企業)の船長(社長)になっていると想像してみましょう。遠く離れた島へ行くために必要なものは何でしょうか?大まかに分類すると乗組員、海図、食料、そして船体の状況把握です。
では、あなたの船にこれらの要素のうち「船体の状況把握」だけが実施できていないと仮定します。すると何が起こるのか?例えば船が座礁して船体に小さな穴が開いていたとしても気付くことはありません。それとは逆に、船体が万全な状態かどうかを把握することもできないので、必要以上に慎重になってしまうこともあります。
この「船体の状況把握」が実施できていない状態は、企業に置き換えると「管理会計を徹底できずに経営状況を把握できていない」のとまったく同じ状態です。要するに、管理会計が実施していないと会社が儲かっているのか?損をしているのか?を正確に捉えることができないため、経営活動の軌道修正を行ったり、適切な投資をしたりすることも難しくなります。
財務会計はあくまで財務諸表を作成するための業務であり、決算は1年に1度です。または、経営者が意思決定材料とするためではなく株主や取引先に経営情報を開示するためのものなので、経営状況把握に活かすことができません。
株式会社エフアンドエムが行った実態調査では、月次で実績管理(管理会計)を行っている企業は73.2%であり、予算管理を行っている企業は30.1%です。つまり、「管理会計を実施できている中小企業は半数に満たない」ということになります。
管理会計はなぜ経営に生かせるのか?
財務会計と管理会計で何が違うの?なぜ管理会計は経営に生かせるの?という疑問を持っている方も多いでしょう。管理会計といってもいろいろな種類があるため、ここでは「個変分解」を例にその理由をご説明します。
個変分解とは経営活動の中で発生する費用を「変動費」と「固定費」に分けることを意味します。
変動費
売上の変動に伴って変化する費用のこと。仕入れや広告宣伝費、アルバイトの給料など売上が上がるのに比例してコストが多くなります。
固定費
売上の変動にかかわらず常に一定かかる費用のこと。テナント賃料や水道光熱費、リース料など支払額の変動が売上高に左右されないこれらのコストが主に該当します。
このように、経営活動の中で発生する費用を変動費と固定費に分けていきます。大変な作業のように思えますが、個人事業主や小規模事業者の場合は費用の多くを固定費と分類した方がよいものが多いので、決算書の損益計算書に表示されている売上原価や販売管理費の中から、変動費に配当するものを選んで残ったものを固定費に分類するという方法で問題ありません。
次に、「100の赤字」を「100の黒字」へ転換するにはどうすればよいかを考えていきます。営業利益というのは売上高から変動費と固定費を引いた金額で決定します。たとえば売上が1,200なのに対して、変動費が600、固定費が700だとすると、赤字が100になっている計算になりますね。ここからが管理会計の考え方です。
売上が増減しても固定費は常に一定なので700のままです。一方で、売上の増加に比例して増える変動費には、売上に対する変動費の割合を示す「変動費率」というものがあります。変動費率は変動費から売上高を割ると計算できます。この例で変動費率は「600÷1,200×100」で50%ということになります。
従って、売上に応じて変動費は簡単に計算できます。そこで営業利益を100の黒字に転換するためには、売上が1,600の時に変動費が800になり、固定費はそのまま700なので、「1,600-1,500」なので黒字が100になりました。
このように、管理会計を実施することで経営目標を達成するために必要な売上はいくらか?を計算したり、現状の売上では何がいけないのか?などを把握したりすることによって、経営状況をタイムリーに可視化しつつ経営判断の材料として使うことができます。
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変動費と固定費の分類
最後に、管理会計を行いやすくするために中小企業庁が発表している変動費と固定費の基準についてご紹介します。
製造業
<変動費>
直接材料費、買入部品費、外注費、間接材料費、その他直接経費、重油等燃料費、当期製品知仕入原価、当期製品棚卸高―期末製品棚卸高、酒税
<固定費>
直接労務費、間接労務費、福利厚生費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、水道光熱費、旅費、交通費、その他製造経費、販売員給料手当、通信費、支払運賃、荷造費、消耗品費、広告費、宣伝費、交際・接待費、その他販売費、役員給料手当、事務員(管理部門)・販売員給料手当、支払利息、割引料、従業員教育費、租税公課、研究開発費、その他管理費
卸・小売業
<変動費>
売上原価、支払運賃、支払荷造費、支払保管料、車両燃料費(卸売業の場合のみ50%)、保険料(卸売業の場合のみ50%)
<固定費>
販売員給料手当、車両燃料費(卸売業の場合50%)、車両修理費(卸売業の場合50%)販売員旅費、交通費、通信費、広告宣伝費、その他販売費、役員(店主)給料手当、事務員(管理部門)給料手当、福利厚生費、減価償却費、交際・接待費、土地建物賃借料、保険料(卸売業の場合50%)、修繕費、光熱水道料、支払利息、割引料、租税公課、従業員教育費、その他管理費
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建設業
<変動費>
材料費、労務費、外注費、仮設経費、動力・用水・光熱費(完成工事原価のみ)、運搬費、機械等経費、設計費、兼業原価
<固定費>
労務管理費、租税公課、地代家賃、保険料、現場従業員給料手当、福利厚生費、事務用品費、通信交通費、交際費、補償費、その他経費、役員給料手当、退職金、修繕維持費、広告宣伝費、支払利息、割引料、減価償却費、通信交通費、動力・用水・光熱費(一般管理費のみ)、従業員教育費、その他管理費
以上の情報を参考に、まずは個変分解から管理会計に取り組んでみていただきたいと思います。
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