財務会計には2つの重要な仕事があります。それが、管理会計と財務会計です。
管理会計会社が経営判断を正しく下すために、さまざまな会計情報からリアルタイムな経営状況を把握するための仕事。法的要件なし。
財務会計株主、投資家、金融機関などの外部ステークホルダーに会社の経営情報を開示するための仕事。決算書のとりまとめ。法的要件あり。
本稿では2つの仕事のうち、管理会計の手法を解説していきます。管理会計がなぜ重要かというと、利益を継続的に確保していくためには会社の経営状況を踏まえながら舵を切る必要があり、あらゆる意思決定に必要な情報を提供できるためです。
昔ながらの企業の中には、未だに「どんぶり勘定」で経営を進めているケースが少なくありません。特に個人事業主では売上規模も大きくないため、それで済んでしまう場合も多いのですが、組織として成長していこうとすれば、現状を打開することが大切です。
とはいっても、管理会計って何をすればいいの?という方も多いかと思いますので、本稿でその内容や手法について、大体で掴んでいただけたら幸いです。
管理会計はなぜ大切?
たとえば、第1四半期の営業利益が△100万円の場合、第2四半期終了時までに+100万円に転じるためには、どれくらいの収益が必要でしょうか?瞬時に、とまではいかなくても、数分で答えが出ないようならば継続的に利益を確保する企業体質を作り上げることは難しいでしょう。
そもそも、ビジネスの目的は「継続的に利益を確保すること」です。しかしながら、売上目標や利益目標に対してどれくらいの収益を上げれば達成できるのかが把握できていないと、具体的なアクションプランを作ることは困難です。その結果、行き当たりばったりの経営活動が続き、いずれ経営が立ち行かなくなる時が必ず訪れます。その時になって管理会計の重要さに気づいても遅いでしょう。
企業を船に例えるならば、管理会計とは船舶の状態、乗組員の状態、天候の状態、進路の状態などの情報を管理するための仕事です。いわゆる一等航海士~三等航海士までの仕事全般です。船長はあくまで船の進路を決定したり、最終的な意思決定を下したりする存在です。その意思決定に必要な情報や船舶の整備は航海士が行います。
どれほど船長が優秀であったとしても、航海士から打ち上がってくる情報が無ければ船は進路に迷い、沈むこともあります。
管理会計とはいわば、企業が正しい進路を知り、組織内の環境や経営状況、外部要因などを幅広く把握しながら航海するための、羅針盤のようなものなのです。
管理会計の考え方
一口に管理会計といっても、実にさまざまな手法があります。基準にすべき指標はそれこそ無数にありますし、財務会計のように法的要件がなく企業ごとにルールを作るものなので、やり方は無限です。まずはその中の1つである「固変分解(こへんぶんかい)」についてご紹介します。
経営活動で発生する費用は「固定費」と「変動費」に大きく分類されます。2つの違いは以下の通りです。
固定費
売上高が変化しても変動しない費用のこと。テナント賃料や水道光熱費、設備のリース料金や人件費などが該当します。
変動費
売上高が変化するのに応じて変動する費用のこと。材料や商品の仕入費用、広告宣伝費などが該当します。
会社の費用を、このように2つの費用項目に分けていくことを固変分解といいます。1つ1つの費用を分類していくので大変な作業を想像されがちですが、中小企業や個人事業主では損益計算書に記されている売上原価と販売費及び一般管理費の中から、変動的な費用を選び、残ったものを固定費にするだけでも構いません。そうすれば比較的簡単に固変分解が行えます。
もちろん、管理会計では費用を単に固定費と変動費に分けるだけではダメです。この情報を、しっかりと会計に活かし、意思決定に必要な情報へと変換しなければいけません。
そこで再度、△100万円になっている営業利益を+100万円に転じるには、どれくらい収益を増やせばよいのかを考えてみましょう。まず、営業利益は売上高から固定費と変動費を引いた値で算出できます。ここでは、1,200万円の売上高に対して700万円の固定費と600万円の変動費が発生し、△100万円の営業利益になっていると仮定しましょう。
次に、変動比率を計算してみます。固定費は収益がいくら増えても変わりません。変わるのは変動費なので、売上高に対する変動費の割合を算出することにより、いくら売り上げたら営業利益が+100万円になるかが分かります。
変動費率の計算式は「変動費÷売上高×100」なので、売上高1,200万円に対して変動費が600万円の場合、変動比率は50%ということになります。つまり、売上高が1,300万円なら変動費は650万円、1,400万円なら700万円ということになります。
すでにお気づきの方も多いでしょうが、売上高が上がると固定費を除いた営業利益も増えていきます。ということは、営業利益+100万円に転じるためには、固定費700万円を除いた営業利益が800万円確保できればよいので、売上高は1,600万円必要ということになります。
いかがでしょうか?このように、費用を固変分解して売上高や営業利益と突き合わせて考えるだけで、意思決定に必要な情報を揃えることができます。このように、管理会計はさまざまな情報を新しい情報に変換し、会社の経営状況を把握したり、新しいプランを打ち出すための材料にしたりすることがとても重要です。
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管理会計の代表的な指標
固変分解以外にも、今すぐ利用できる指標はたくさんあります。最後に、管理会計の代表的な指標について解説し、終わりたいと思います。
限界利益
売上高から変動費を引いた数値を限界利益と呼びます。先の事例でいうなら売上高1,200万円から変動費600万円を引いた600万円が限界利益です。
1,200万円の売上高が確保でき、1,300万円の費用がかかる仕事があるとして、皆さんはその仕事を取りますか?それとも取りませんか?正しい答えは「必要とあれば取る」です。一見、利益が△100万円になって損しかないと考えてしまいがちですが、改めて固定費の特徴を思い出してください。固定費は「売上の変化に関係なくかかる費用」です。つまり、この仕事を取っても取らなくても、固定費700万円は必ずかかる、というわけです。
これを考慮すると、場合によってはマイナスになるような仕事も取らなくては、固定費700万円が丸ごと損失として計上されることになります。一方、変動費を引いた600万円でも限界利益を確保できれば、損失は100万円に抑えられます。「肉を切って骨を断つ」ほどの効果ではありませんが、600万円分の損失をカバーできるのは大きな利点です。
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損益分岐点
営業利益がゼロになる地点が損益分岐点。有名な指標なので、知っている方も多いでしょう。損益分岐点を計算するための式は「固定費÷限界利益率」となります。損益分岐点とはつまり、会社が利益を出していくために最低限必要な売上高です。
たとえば、原価20円(変動費10円、固定費10円)で、販売価格100円のチョコレートを1,000個作った場合、何個目から利益が出るのでしょうか?答えは「111個目から」です。このように、損益分岐点を理解すると、商品やサービスをどれくらい販売したら利益が出るのか?を理解できるため、管理会計においてとても重要な指標です。
会社は経営状況を正確に把握し、販売戦略を立て直すことができるのですから、事業ごとに常に損益分岐点を把握することがかなり大切です。
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