現在、物流業界では急速にDX化が進んでいます。本記事では、DXの意義から、重視されるようになった背景、ゴール(目標)は何かについて解説します。また、物流DXのメリットや現在抱えている問題、成功させるのが難しいとされる原因についても紹介します。
物流DXに興味があり、システム導入や取り組みを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
物流業界における「DX」の意味とは?
昨今は、あらゆる企業でDXを推進しようとする動きが強まっています。DX化してレガシーシステムから脱却することで、政府が警鐘を鳴らしている「2025年の崖」をクリアすることが可能になります。
物流業界でも同様に、DXを進めている企業が増えています。以下では、DXの意味と、物流業界におけるDXの目標について解説します。
DXとはデジタルによる企業変革
そもそもDXとは、Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)を略したIT用語です(「X」は「Trans」を意味します)。直訳すると「デジタル変革」で、スウェーデンにあるウメオ大学教授であったエリック・ストルターマン氏によって初めて提唱されました。元々は学問的な立場から、「新しいデジタル技術を活用することで、人々の生活をよりよいものにする」といった、幅広い定義がなされていました。
その後、ビジネスの世界へも広がり、今は既存ビジネスを根底から覆し変革することで、市場での優位性を確保する取り組みといった意味付けがなされています。
経済産業省が「DX推進ガイドライン」を改訂し、2022年9月に改訂した「デジタルガバナンス・コード2.0」でも、以下のように定義されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
DXは、IoTやAIなど、最新のデジタル技術を活用することで、業務プロセス改善やビジネスモデルの新規創出といった目的にとどまらず、より大きな企業変革を目指す取り組みです。デジタル技術が発展する中で、変化の激しい市場で勝ち残るためには、どの企業もDX化が不可欠でしょう。
物流業界におけるDXの最終的な目標
物流業界でのDX化は、「物流DX(ロジスティクス・デジタル・トランスフォーメーション)」と呼ばれています。では、物流DXが目指している理想の姿とは何でしょうか。
国土交通省が定期的に公表している「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」によると、物流業界は、DXを強力に推進することで、サプライチェーン全体を変革し、最適化を実現することが重要とされています。
つまり、物流DXを成功させるためには、複雑に絡み合いバラバラに分散した物流システムを整理し、規格化していくことで、物流業界全体のあり方を再構築していくことが必要です。市場や顧客からの多様化したニーズに応えるためには、アナログ的な既存の手法から脱却し、ドローンなど最新のデジタル技術を活用して、適宜機械化を進めていくことが欠かせないでしょう。
物流DXの推進が求められているのはなぜ?
これまでも、物流業界は仕事の過酷さから敬遠されがちで、労働力不足に悩まされてきました。加えて、日本の労働人口は、少子高齢化の影響を大きく受けて今後減り続けるものと予想されます。よって物流業界も例外なく、人手不足はますます深刻になるでしょう。限られた人員で業務効率化を図るために、スポットを当てられているのが物流DXです。
また、経済産業省は、平成30年9月に公表した「D X レポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開」の中で、「2025年の崖」という言葉を使って、あらゆる企業がDX化に取り組むことの重要性を示しました。
「2025年の崖」とは、企業がレガシーシステムに固執して変革を起こさなければ、最大12兆円もの経済損失が生まれることを指しています。物流業界でも同じようにリスクを抱えていることは明白であり、システムを見直して早急にDX化を進めることが不可欠です。
物流業界が抱えている現在の問題点とは?
現在、物流業界はさまざまな問題点を抱えています。ここでは、なかでも注目すべき3つのポイントについて、くわしく解説します。
問題点1. 小口配送が増加しすぎている
経済産業省が2022年8月に取りまとめた電子商取引の実態調査結果(「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」)によると、BtoC-EC市場規模は、2013年の11兆1660億円から、8年後の2021年には、20兆6950億円にまで大幅に増加しています。中でも衣類や生活家電、食品、生活雑貨といった「物流系BtoC分野」で顕著に伸びており、ネットショッピングの需要増が浮き彫りになっています。
これからも傾向は変わらず、物流業界ではBtoCの小口配送が増加し続けるでしょう。小口配送が増えると、事業者にとってどのような問題が起きうるのか深掘りしてみると、以下の2点が考えられます。
小口配送により積載効率が下がっている
個人がネットショッピングを日常的に行うようになり、小口配送が増えると、物流に与える影響も大きくなります。
従来、物流トラックはBtoBの大口配送が主な業務であり、荷台が満杯になるまで荷物を載せて、効率よく運搬していました。しかし近年、ネットショッピングなどによるBtoCの小口配送が増えてくると、一人ひとりの顧客に早く届けることを求められるため、トラックの荷台が満載になる前に出発しなければならないケースも出てきました。
国土交通省が2021年1月にまとめた「最近の物流政策について」でも、ここ数年で営業用トラックの積載率は約40%まで低下していることがわかります。また、配達時に顧客が不在であれば、再配達のためにトラックを出す頻度も高くならざるを得ないでしょう。
BtoCの小口配送が増加すると、1台あたりのトラックについて積載率が下がるとともに、個別対応が求められるなど、運搬・配達業務の効率が悪くなってしまいます。
小口配送により倉庫が圧迫されている
ネットショッピングなどによる小口配送が増えると、配送業務だけではなく、一時保管用倉庫の管理にも多大な影響を及ぼします。大きさや重さ、配達希望日時がバラバラである大量の荷物を倉庫で管理するのにスペースを要し、空きがなくなってきていることも問題のひとつです。
物流業界の労働者不足や市場・顧客のニーズが多様化するなか、国土交通省は小口配送の負担増加に対応するため、2016年10月、「改正物流総合効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)」を施行しました。これは、2以上の者が連携して、輸送、保管、荷さばき、流通加工などを包括的、合理的に行い、環境負荷の低減及び省力化に資する事業として認定されれば、税制面での優遇や経費補助などの支援を受けられるものです。
同法では、具体的な事業例として、以下の3つが挙げられています。
まず「輸送網の集約」は、分散していた輸送網の中央に輸送連携型倉庫を設け、ひとまず集約した上で納品先へと運ぶ方法です。「輸配送の共同化」も似たような事業で、2社以上の事業者が一旦ひとつの倉庫に荷物を集め、保管や輸送業務を連携して実施する方法です。共同で荷物をさばけるため、トラックの積載率向上に期待できます。
3つめは「モーダルシフト」と呼ばれる方法で、輸送手段をトラックから船や鉄道に置き換えることです。消費エネルギーを最小限に抑えたり、少ない人員でまかなえたりするメリットがあり、大量輸送も可能になるでしょう。
問題点2. 少子高齢化により人材が不足している
ドライバーは、物流業界にとって不可欠で、重要な存在です。小口配送が増加すると、物流業界ではより多くのドライバーが必要になります。しかし、前述したように、日本は少子高齢化が進み、労働力人口は今後さらに減ることが予想されています。また、そもそもテレワークなどが不可能な職業のため、育児や介護などの事情を抱え時間的な制約がある人にとって、ドライバーへの就職は難しいでしょう。
これからますます超高齢化社会が進んでも、次世代への引き継ぎができず、今よりもさらにドライバーの人材確保が追いつかない状況に陥る可能性が高まっています。私たちの身の回りの生活に欠かせないものを運んでいる物流業界において、ドライバーなどの人材はインフラのようなものであり、生活基盤が揺らぐリスクもあります。
問題点3. 業界全体で従業員の負担が大きい
物流業界は以前から労働条件が厳しく、従業員の負担が大きいと指摘されてきました。ただ、小口配送の増加は、その傾向にさらに拍車をかけています。いち早く届けることへの要求や、不在による再配達の増加など、ドライバーをはじめ従業員にとって負担はますます増えるばかりです。
人材が不足していると、一人あたりのドライバーが配送しなければならない荷物量は増えます。おのずと労働時間も長時間になってしまいます。
2022年10月に、全日本トラック協会は「トラック運送業界の2024年問題について」という資料を公表しました。調査によると、トラックドライバーの年間労働時間は、全産業平均と比較して、大型トラック運転者で432時間(月36時間)長く、中小型トラック運転者で384時間(月32時間)長いとの結果です。年間所得額も、全産業平均と比べて、大型トラック運転者で約5%低く、中小型トラック運転者で約12%低いという結果も気になるところです。
小口配送によるトラック積載効率の低下や、配送料の値下げ競争の激化により、従業員は賃金が安くても長時間働かざるを得ない状況になっています。
物流DXにより達成できること
物流業界にはさまざまな問題点がある一方、物流DXで解決できることも多くあります。ここでは、物流DXがもたらしてくれる主な恩恵について、4四つ紹介します。
機械化する部分を増やすことで業務を効率化できる
これまでは、人が運転して荷物を運ぶ必要があったところでも、昨今はデジタル技術の発展により、機械化が可能な部分が増えてきました。自動化と機械化をミックスさせて推進すれば、これまで人の負担となっていた業務をスピーディに効率よくこなせるようになるため、大きなメリットがあります。
たとえば「隊列走行」は車間距離を自動で測り、機械的に管理できる手法です。この技術を使えば、前に有人トラックを走らせて後方に無人トラックを付かせることも可能になります。船舶であれば、AIや衛星通信などを利用した「自動運搬船」もあり、効率的に大量輸送を行えるのが魅力です。
作業が効率的になることで人材不足を解消できる
これまで人が担っていた作業を機械化すると、少ない人員で業務を進められます。省力化して業務効率が向上するのもポイントです。最近は、ドローンを使って離島などに荷物を届ける小口配送の実験も行われています。飛行の安全性や受け取り方法について課題があるものの、人手不足解消や労働環境改善のため、実用化に向けて取り組みが活発化しています。
顧客のデータを把握することで配送のムダをなくせる
物流DXでは、システムでデータを一元管理する方法が一般的です。過去に取引した顧客データを蓄積し分析できれば、顧客が在宅している可能性の高い時間帯を見出し、その時間帯に配達が可能です。もし不在だとしても、何度も再配達に行くムダを減らせるでしょう。配送の際、より効率よく回れるルートを逐次導き出すことでも、労働時間の短縮といった働き方改革へつながっていきます。
各種手続きのデジタル化によりコスト削減を目指せる
従来物流の世界では、伝票を手書きで書く習慣があり、未だに紙ベースでの書類が多い傾向にあります。それらをデジタル化すれば、用紙代や筆記用具代、書類を保管するためのスペースや手間など、紙にまつわるコストを一気に減らせるでしょう。こうしたペーパレス化は、インターネットやモバイルデバイスの普及の後押しもあり、DX推進の前段階であるデジタル化でよく導入されています。
紙資源をムダに使わない取り組みは、地球環境保護の観点でもステークホルダーからよい評価をもらえやすいため、おすすめです。
物流DXの推進はなぜ難しい?
物流DXにはさまざまなメリットがあり、すでに実践している企業は多くあります。しかし、DXは大きな変革を伴うため推進するのにはハードルがあり、なかなか進まないといった悩みを抱えている企業担当者も多いでしょう。
以下、物流DXの難しさについて、3つのポイントから解説します。
事業に関わっている企業が多い
物流業界は、引き受けなど顧客と直接接客する会社や一時保管するための倉庫を管理する会社、配送に関する会社など、多種多様な企業が関わっているのが特徴です。それぞれの企業には経営方針や社内ルールがあるため、DXに対する意識もまちまちの可能性があります。
DX推進は自社だけで独自に進められるものではありません。他社と物流業務を進めていくときに、どこが音頭を取ればいいのかがわからず、足踏みしてしまうケースが見られます。
過去のシステムが老朽化し管理が複雑になっている
デジタル技術の発達は早く、日々目まぐるしく変化しています。過去に構築したシステムは分散化したオンプレミス環境も多く、アップデートを場当たり的にしてきたこともあるでしょう。システムが老朽化し、十分なマニュアルなどもなければ、誰も手を付けられずに管理費用だけが高騰する可能性があります。
前述した「2025年の崖」問題でもあったように、レガシーシステムを放置していると、大きな損失になりかねません。部門ごとにシステムが異なっているとDXが困難になるため、まずデータやシステムを標準化し、共有しやすい環境に整えることから始めましょう。
DXの推進に不安を抱いている従業員が多い
DXはビジネスを変革するといった大きな目標があるため、取り組みが大変で業務に支障が出たり、負担が増えたりするのではないかと危惧する従業員がいるかもしれません。
原因として、物流DXの意義について基本的な知識が不足していることが考えられます。物流DXによってもたらされる恩恵について従業員に時間をかけて説明し、不安を解消していくことが必要でしょう。
まとめ
従業員の高齢化や人材不足が深刻化する物流業界では、自社にとっての問題や原因を的確に把握し、業界全体で物流DXを進めることが急務です。近年問題となっている小口配送増加による負担増も、DX化で解決できる可能性があります。
DXはデジタル技術を活用し、ビジネスを根底から変革させる意味があることから、難しいイメージを持たれがちです。事業に関わる他社の協力も求めなければならない点も、推進の妨げになることがあります。まずは、できそうなことから取り組んでいきましょう。
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