日本国内では企業全体のうち99.7%が中小企業であり、中小企業によって経済が支えられている部分も大きくあります。その中には高い技術力を保有し、世界的に有名な中小企業も多く存在しています。そうした中小企業に共通して見られる傾向が「計数管理に強い」ことです。
中小企業庁が今年4月に発表した「中小企業白書2018版」によると、企業の強みとして「計数管理がしっかりしている」と回答した数は30%にも満たないそうです。中小企業の7割以上は計数管理が十分に行えず、課題を抱えているようです。
現在の日本にとって深刻な問題になっているのが「人手不足」ですが、これはRPA(Robotic Process Automation)という自動化ソフトウェアの登場や、ERP(Enterprise Resource Planning)の導入によって解決できる部分が多く、IT活用によって人手不足を乗り切っている中小企業はたくさん存在しています。
しかしながら、計数管理という課題に関しては、経営者自身が企業の計数管理に強い人材にならなくてはなりません。特にいくつかの経営指標を把握して、それに応じた経営意思決定を下していくことが大切です。
そこで本稿では、中小企業の経営者が知っておきたい経営指標を5つご紹介します。
代表的な経営指標
売上高利益率
売上高利益率は簡単に説明すれば「企業がどれくらい儲けているか?」を知るための経営指標です。企業として十分な利益を確保するために商品売上を増やすことに注力する経営者は多いですが、それよりも重要なポイントは「売上増加に伴って利益も増加させる」ことです。必ずしも「売上増加=利益増加」ではなく、売上とはあくまで利益を考慮していない販売金額のことです。
そのため、利益増加を目指すためには常に売上高利益率を把握し、売上増加に伴って利益も増加しているかを確認し、その状況に応じた経営意思決定を下していくことが大切です。売上高利益は売上に対する粗利で計算するのが一般的です。売上が100万円、粗利が5万円だとすると売上高利益率は5%になります。
粗利5万円÷売上高100万円×100=売上高利益率5%
もう1つ、「営業利益率」についても把握していると企業の経営状況をより詳しく知ることができます。営業利益率とは粗利から販売費などを差し引いたもので、営業利益率を知ることで企業の営業力を単純に評価することができます。
損益分岐点
損益分岐点とは「採算が生じるボーダーライン」のことです。商品を販売したりサービスを提供するにあたって、必ず原価が存在し利益がその原価を超えない限りその事業から利益を回収したり、高い利益を確保することはできません。なのでそのボーダーラインを知ることでその後の販売戦略等が大きく変わります。
企業経営とは単純に考えると、総売上高から総費用を差し引いた純利益を最大にしていくことです。総費用には人件費、販売管理費など売上高に関係なく一定にかかる固定費と、原材料費や販売手数料など売上に伴って増加する変動費があります。事業がスタートした段階では固定費と変動を合わせた総費用を利益が上回らないため、利益はマイナス計算になります。しかしながら、売上が増えるにつれて利益が総費用を上回るようになり、収支がイーブンになります。そのボーダーラインが損益分岐点です。
損益分岐点の計算は[固定費÷(1-変動費率)]で計算できます。たとえば月間売上高1,000万円の事業で、人件費等の固定費が月間300万円、変動費が600万円かかっているとすると、損益分岐点は次のようになります。
変動費600万円÷売上高1,000万円=変動費率0.6
固定費300万円÷(1-0.6)=損益分岐点750万円
つまり月間750万円の売上高があれば利益が得られる計算になります。
自己資本比率
自己資本比率とは企業の資金力を知るための経営指標の1つです。企業の資金が十分にあれば、積極的に設備投資を行ったり事業拡大に向けて人材を確保したりと、事業を大きく成長させることができます。また、自己資本比率は企業の総資本に対する純資産の割合を指します。
純資産は資本金や利益剰余金等の合計で計算され、返さなくてもよいお金なので自己資本と呼ばれています。たとえば総資本が1,000万円なのに対して総資産が300万円だとすると、自己資本比率は30%になります。製造業の場合は平均で20~30%の自己資本率があれば十分な自己資金力だとされています。
流動比率
企業経営ではお金は入ってくるだけでなく、どんどん出ていくものでもあります。流動比率はそんな企業の支払能力を判断するための経営指標です。従業員への給与支払、原材料の仕入れ等すぐに支払わなければならない費用(流動負債)に対して、現金や受取手形などすぐに現金化可能な資産(流動資産)の割合が流動比率です。
流動比率が高いほど資本に余裕がある企業であり、通常は150~200%が適正だとされています。たとえば流動資産が2,000万円ある企業に対し流動負債が1,000万円ある場合は、流動比率が200%になります。
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労働分配率
5つ目の経営指標は人材に関する費用です。人材に関する経営指標は総人件費で考えるケースが多いですが、本来ならば売上総利益に対して人件費がどれくらいの割合かを見ることが大切です。これを労働分配率といいます。つまり企業の利益に対して人件費が適正かどうかを判断します。
ちなみに人件費とは給与に限ったものではありません。年数回の賞与、企業が負担する社会保険料と厚生年金、法定福利費と福利厚生費、交通費やその他多数の費用が人件費として計上されます。人件費の総額は給与の1.5倍~2倍ともいわれています。
業種によって異なりますが労働分配費は70~75%が一般的とされています。業界ごとの標準を知ったり、継続して経営指標を確認することで企業にとっての平均値を割り出し、それに応じた対処をとっていきます。売上総利益が1,000万円に対して人件費総額が750万円の場合は、労働分配率は75%ということになります。
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経営指標をリアルタイムに可視化するには?
いかがでしょうか?ここまで5つの経営指標を紹介しましたが、最低限これらの経営指標について知っておくと経営に対する見方は大きく変わるのではないでしょうか。ここで経営指標活用のポイントを1つ紹介すると、それは「リアルタイムな経営指標を手にする」ことです。
企業というのは生き物のように常に変化いていますし、新しい情報が日々生まれています。その中で古い経営指標を用いても正確な経営意思決定を下していくことはできません。
また、部下に対して思いつきでデータ依頼をしていると部下の士気は低下するだけでなく、データの収集・加工のための人件費もかかります。
そこでリアルタイムかつ手間をかけない経営指標が必要になります。言い換えればリアルタイムなデータ分析を行って、常に経営指標が確認できる状態にしておきます。
そのためには、ERP等の統合的なITシステム環境が必要になるでしょう。ERPは財務会計システムや生産管理システム、購買管理などの基幹系システムであり、相互に連携の取れたITシステム環境を構築できます。
ERPではすべてのITシステムが1つに繋がり、単一データベースで情報が管理されます。また、Oracle NetSuiteやOracle ERP Cloudなどでは、優れたダッシュボード機能が用意されており経営者は常に最新の経営指標を目にしながら経営意思決定を下していくことができるでしょう。経営指標活用の際はぜひERPをご検討ください。
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