事業を営む経営者にとって煩雑なバックオフィス業務は極力減らすことが重要です。しかし、この日本において紙文化や判子文化が企業成長を妨げていることも事実です。多くの場合、これらの文化は仕事のための仕事の位置付けであり生産性を妨げる要因になっています。しかし、最近はそれら法律的な規制も緩和されてきており、それらを有効に活用することも可能となっています。
本記事では会社の生産性を向上させるための領収書の電子化についてです。「領収書の電子化(デジタル化)ってどうやるの?」という方に向けて、電子帳簿保存に関する最新法律を解説しながら、その方法を紹介していきたいと思います。
電子帳簿保存法を大きく変えた2015年・2016年の改正
まず、会社が管理する帳簿類の電子化を認める法律の大元になっているのが電子帳簿保存法であり、この法律は1998年より施行されています。
同法の内容は、財務会計システムや販売管理システム等で作成された国税関係帳簿書類の電子化保存を認めるものです。ただし、システム上で電子データとして作成された帳簿書類のみを対象にしていたので、紙の帳簿書類をスキャンして電子化保存することは不可能でした。
その後2005年にe-文書法が施行され、それまで認められていなかった国税関係書類のスキャンによる電子化保存が認められるようになります。
1989年に施行された電子帳簿保存法は実用的なものではないとされ、準拠する企業は一部の企業に限られていました。2005年のe-文書法では規制が一部緩和されたものの、いずれにせよ要件は厳しくビジネスに採り入れるのは厳しい状況でした。
この状況を大きく変えたのが2015年と2016年、2年連続の電子帳簿保存法の改正です。
2015年の改正内容
2015年にはe-文書法で改訂されたスキャナ保存要件が緩和され、それまで対象外となっていた取引先と紙で授受する帳簿の、スキャナによる電子化保存が可能になりました。主な内容は以下の通りです。
- 業務処理サイクル方式を採用する際に必要とされていた、国税関係帳簿にかかわる「電磁的記録等による保存制度の承認」が不要になった
- スキャナ保存の際に必要とされていた電子署名が不要になった
- 保存要件を緩和する一方で、国税の納税義務の適正な履行を確認する観点から、「適正事務処理要件」を満たす必要がある
2016年の改正内容
2016年の電子帳簿保存法改正では、「スキャナ保存要」がさらに緩和されることとなります。以前は解像度200dpi以上のスキャナでの読み取りと、帳簿の大きさに関する情報を保持しなければいけなかったのに対し、800万画素以上のカメラを搭載するスマートフォンでの電子化保存が認められました。これに伴い、領収書がA4サイズ以下の場合は、大きさに関する情報の保持が不要になっています。
ただし、スマートフォンで撮影した領収書をデータ化保存する場合は、受領後3日以内にタイムスタンプを付与する必要があり、受領した本人が領収書に対して手書きの署名をするという要件が加わっています。
[RELATED_POSTS]電子化保存に対応している帳簿書類の種類
では、電子帳簿保存法によって定められている電子化保存可能な帳簿書類は何でしょうか?
電子化保存に対応している帳簿・書類
対象書類 |
分類 |
---|---|
総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金・買掛金元帳固定資産台帳、売上・仕入帳など |
国税関係帳簿 |
棚卸表、貸借対照表、損益計算書、その他決算に関して作成した書類 |
国税関係書類 |
領収書(および写し)、契約書(および写し)、請求書、納品書など |
国税関係書類 |
見積書、注文書など |
一般書類 |
電子帳簿保存法における保存方法の仕訳
区分 |
対象書類 |
電磁的記録による保存 |
スキャナ保存 |
---|---|---|---|
帳簿 |
仕訳帳、現金出納量、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳など |
保存不可 |
|
書類 |
『取引関係書類』 |
紙で発行した書類の控え |
紙で受け取った書類 |
電子取引データ |
|||
『決算関係書類』 |
会計ソフトやERPのデータ等 |
保存不可 |
以上の帳簿書類を電子化保存する場合は、自社で一貫して統一的に電子的な会計データを作成しなければいけない、という規定があります。多くの企業で導入されている会計ソフト・会計システム、そしてOracle NetSuiteやOracle ERP CloudなどのERPはその要件を満たしているので、電子化保存の難易度は高くありません。
ちなみに、自社内で完結する帳簿書類と決算会計書類の電子化保存に関しては、電磁的記録による保存のみが対象になっています。要するに、会計ソフト・会計システム、ERPで入力したデータを保存することで、決算書や総勘定元帳の印刷及び保管を省略できるということです。
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電子帳簿保存法へ対応するための手続き
1998年の施行から20年以上が経過し、電子帳簿保存法はかなり実用的な法律として多くの企業が準拠するようになりました。ただし、正当な手続きを踏まずに対応しようとしても、帳簿書類の電子化保存は認められていません。準拠のためには、以下のような手続きが必要です。
[手続根拠]電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律第4条第3項、第6条第2項
[手続対象者]国税関係書類の全部又は一部について、スキャナで読み取った電磁的記録による保存を行おうとする保存義務者。
[提出時期]承認を受けようとする国税関係書類をスキャナで読み取った電磁的記録による保存に代える日の3月前の日まで。
[提出方法]申請書を1部(承認を受けようとする書類が次に該当する場合は2部)作成し、添付書類を添付の上、提出先に持参又は送付してください。
- 国税局において課税標準の調査及び検査を行うこととされている法人の法人税及び消費税に係る書類
- 国税局において課税標準の調査及び検査を行うこととされている製造場等の酒税、たばこ税、揮発油税、地方揮発油税、航空機燃料税、石油ガス税、石油石炭税、印紙税、電源開発促進税及び国際観光旅客税に係る書類
不要です。
[添付書類・部数]- 承認を受けようとする国税関係書類の保存を行う電子計算機処理システムの概要を記載した書類 1部
- 承認を受けようとする国税関係書類の保存を行う電子計算機処理に関する事務手続の概要を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書の写し) 1部
- 申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類 1部
参考:国税庁ホームページ「[手続名]国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請」
領収書を電子化保存するメリットとは?
何度かの改正によって実用化された電子帳簿保存法ですが、これに準拠し、領収書を電子化保存するメリットとは何でしょうか?
メリット1. 帳簿書類管理コストの削減
領収書を電子化保存することで、経費精算にかかわる人件費や、領収書をファイリングする工数、書類を保管するスペースなどが省略され、管理に係わるコスト全般を削減できます。
メリット2. 長期保存の実現
領収書を紙のまま保存すると、作業ミスによって紛失したり消失したりと何らかのトラブルによって情報の読み取りが不可能になるリスクがあります。一方、電子化保存した領収書はファイルサーバーの保存することで、簡単にバックアップが取れますし半永久的な管理も可能です。クラウドストレージをバックアップ先として選択しておけば、災害時のBCP対策にもなります。
メリット3. 経費精算の効率化
経費精算の現場では、領収書を台紙にのり付けし、経費申請書類を作成してそれを台紙に添付してから上司に回覧して承認を得て、経理部門へ送付し、人手を使って1つ1つの領収書と申請された経費の内容を確認・整理・ファイリングし、倉庫に送付して7年間原本を保管するという手間があります。電子化保存に対応すれば、領収書はスマートフォンで撮影するだけでよいですし、経費精算システム等と連携すれば非常にスムーズに経費精算を完了できます。
以上のように、領収書の電子化保存に対応するメリットが多く、業務効率化やコスト削減を実現できます。ぜひこの機会に、電子帳簿保存法への準拠を検討されてはいかがでしょうか?
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- 経費・資金管理