業務プロセスのIT化が進む中、1998年に電子帳簿保存法が施行されました。これは財務会計システムや販売管理システム等で国税関係帳簿書類(下表参照)を電子データで保存することが可能になった法令です。ただし当時の電子帳簿保存法は、システム上にて電子データとして作成されたデータのみを保存対象としており、紙書類をスキャンして保存することは考慮されていませんでした。
しかし2005年にe-文書法が施行されたことにより、電子帳簿保存法が改訂されこれまで認められていなかった紙の国税関係書類(決算関係書類を除く)をスキャンで読み取り、電子ファイルとして保存することが認められたのです。
さらに2016年の改訂ではスキャナ対象書類の金額基準である「3万円未満」が撤廃され、2017年にはスマートフォンによる撮影での電子ファイル化も認められ徐々に規制緩和が進められてきました。
分類 詳細
国税関係帳簿 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金・買掛金元帳固定資産台帳、売上・仕入帳など
国税関係書類
(決算関係書類) 棚卸表、貸借対照表、損益計算書、その他決算に関して作成した書類
国税関係書類
(その他の証憑類) 重要書類領収書(および写し)、契約書(および写し)、請求書、納品書など
一般書類見積書、注文書など
ちなみに国税庁は電子帳簿保存法(正式名称:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)の基本的な考えについて次のように述べています。
“新しい時代の流れに対応し、納税者の帳簿書類の保存の負担軽減を図るために、記録段階からコンピュータ処理によっている帳簿書類については、電子データ等により保存することを認めることが必要であると考えます。その際には、コンピュータ処理は、痕跡を残さず記録の遡及訂正をすることが容易である、肉眼でみるためには出力装置が必要であるなどの特性を有することから、適正公平な課税の確保に必要な条件整備を行うことが不可欠です。また、電子データ等による保存を容認するための環境整備として、EDI取引(取引情報のやり取りを電子データの交換により行う取引)に係る電子データの保存を義務づけることが望ましいと考えます。”
電子帳簿保存法の押さえておくべき4ポイント
電子帳簿保存法を理解するための重要な4つのポイントを紹介します。
1. 電子帳簿保存法におけるデータ保存方法
電子帳簿保存法では特定のデータ保存方法が定められており、それが以下3つの方法です。
- 電磁的記録媒体による保存
- マイクロフィルムによる保存
- スキャナ読み取りによる保存
電磁的記録媒体とはDVDやCDといった記録媒体のことです。しかしながら、外部媒体だけでなくサーバーに保存した会計システムデータに関しても電磁的記録として認められます。マイクロフィルムとは歴史的文献など重要な書籍や図面、あるいは新聞等の原版汚れや破損を予防するための記録媒体です。長期保存に優れており永続的な保存が可能です。スキャナ読み取りに関しては改ざんが容易に行えることから、一定水準を超える規格の製品を使ったり、タイムスタンプを押す必要があります。
2. 電子帳簿保存を行うための手続き
電子帳簿保存法は法令の対象となる帳簿に関して「いつでも電子データとして保存してもよいですよ」という法令ではありません。電子帳簿保存を行うのならば、次の手続きを踏む必要があります。
- 国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請書を記入
- 承認を受けようとする国税関係書類の保存を行う電子計算機処理システムの概要を記載した書類
- 承認を受けようとする国税関係書類の保存を行う電子計算機処理に関する事務手続の概要を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書の写し)
- 申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類その他参考書類
参考:国税庁ホームページ「[手続名]国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請」
申請者は電子帳簿保存をスタートする日の3ヵ月前までに、以上の申請を完了しなければいけません。電子帳簿保存法についてご開始、申請せずに帳簿を電子保存してしまい、それによって原本を破棄してしまうと監査対応が難しくなるため注意しましょう。
3. スキャナでの読み取り保存が可能な文書
2005年のe-文書法によって特定書類のスキャナ保存が可能になっています。企業が扱う契約書や見積書といった書類はほとんどが紙を使用しているので、電子データ化すれば保存スペースの確保や管理コストの削減といったメリットがあるでしょう。ただし、スキャナでの読み取り保存に対応している書類は次のものです。
スキャナでの読み取り保存が認められている書類
契約書、領収書、預り証、借用証書、預金通帳、小切手、約束手形、有価証券受渡計算書、社債申込書、契約の申込書(定型的約款無し)、請求書、納品書、送り状、輸出証明書及びこれらの写し
スキャナでの読み取り保存が認められていない書類
仕訳帳、総勘定元帳、帳簿関係書類全般、棚卸表、貸借対照表、損益計算書、決算関係書類全般
仕訳帳、総勘定元帳、貸借対照表、損益計算書はスキャナでの読み取り保存には対応していませんが、電磁的記録媒体での保存は可能です。書類によって可能な保存方法が異なることに注意してください。
[RELATED_POSTS]4. ファイルサーバーが国外にある場合
最近では社内のファイルサーバーを排除して、クラウドストレージを業務書類の保存先とする企業が増えています。この時心配になるのが「サーバーが国外にあると電子帳簿保存法の対象外になってしまうのか?」ということです。結論から言うとサーバーが郊外にあっても法令対象になるため問題はありません。ただし、次の2点を満たしていないと電子帳簿保存法には対応できないのでご注意ください。
- 保存場所が瞬時にデータを確認できる環境にあること
- 電子帳簿保存法の真実性、可視性の要件を満たすためにバックアップが頻繁にできること
一般的なクラウドストレージではインターネット環境さえ安定していればいつでもデータを確認できますし、オプションを契約したりローカルと併用することでバックアップ環境を整えることは簡単です。ただしオンプレミス環境に比べると申請が却下される可能性があるため、クラウドストレージ選びは慎重に行いましょう。
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ERPと電子帳簿保存法
ERP(Enterprise Resource Planning)は財務会計システム等の基幹系システムと、SFA(営業支援システム)等の情報系システムを1つに統合したIT製品です。ERPに内包されている各業務システムは相互に連携が撮れており、データフォーマットや帳票類も統一されています。そのためERPがある環境では電子帳簿保存法に対応しやすく、それによってペーパーレス化を推し進めることができます。
もしも、これから電子帳簿保存法に対応したいと考えているのであれば同時にERPもご検討ください、ERPがあれば、電子帳簿保存法への対応を容易にし、かつ組織全体で高い生産性を得るためのベストプラクティスが詰まっています。
紙書類が大量に保管されている現場では業務効率が低下傾向にあるため、この機会に電子帳簿保存法やERPを検討しましょう。
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