昨今、ものづくりを支える製造業では、デジタル化を導入する企業が増えています。本記事では、デジタル化の概要から、製造業界全体の現状について、主に「ものづくり白書」をベースに解説します。デジタル化を導入するには、コストや人材確保といったハードルがあるものの、クリアできれば多くのメリットも得られます。製造業でデジタル化を進めるのにあたって、おすすめの事例も紹介します。
製造業における「デジタル化」とは
昨今、あらゆる業界でデジタル化が進んでいます。製造業やものづくりの現場でも同様で、人材確保や市場での勝ち残りをかけて、大きな変革期を迎えているといってもよいでしょう。
デジタル化はよく耳にする言葉であるものの、どのような意味を持っているのかを正確に説明するのは意外に難しいかも知れません。ここではまず、デジタル化が持つ意味について解説します。
デジタル化とはデジタル技術を用いた業務改善
デジタル化とは、人の手を使った作業や紙ベースでの品質管理といったアナログ的な業務に、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といったデジタル技術を導入し、業務を改善することです。同じような場面でよく使われる「DX(Digital Transformation)」は、データ活用やデジタル化によって既存のビジネスを根底から変革し、市場で優位に立つことを目的としています。
一方、デジタル化はその前の段階であり、紙などアナログ的な方法から脱却し、データで「見える化」することが目標とされるため、目指すゴールや目的のレベルに差異があります。
ただ、デジタル化と一言で言っても、なかなか具体的なイメージがわかないかも知れません。
デジタル化のよくある例としては、紙ベースの帳票をデータ化し、いつでもどこからでもすぐに確認できるようにすることが挙げられます。日々の提携業務をRPA(Robotic Process Automation)と呼ばれるコンピュータ内のロボットで自動化し、効率的に処理できるようにしたりすることもデジタル化の一例です。紙ベースで行われていた作業員のスキルをシステムでデータ管理することで、人材配置を最適化することもよく行われています。
自社が抱える課題を認識し、デジタル技術を積極的に活用してデジタル化を進めれば、これまで時間や労力がかかっていたことを、短時間かつ自動で処理できるようになります。省人化・省力化が実現でき、業務効率化が進むことで、工場での生産性向上にも役立つでしょう。デジタル化によって、業務プロセスをよりよいものに改善でき、企業側と従業員側のいずれにとっても、よいサイクルが回っていきます。
製造業界の現状は? 多くの企業がデジタル化に前向き
1980年代後半から、製造業は製造工程を国内完結型からグローバル化へと変化させてきました。いわゆる「グローバルサプライチェーン」と呼ばれるビジネスモデルです。しかし、大規模な自然災害や新型コロナウイルス感染症の拡大、国家間の衝突や金融不安など、現代は「VUCAの時代」とも言われるように先行きが見えにくく、不確実性が増しているといっても過言ではありません。予測が困難な、さまざまな変化に対応するため、製造業は社内外のリソースを最適化できる、柔軟なサプライチェーンを構築し直すことが急務です。このような背景から、ビッグデータを収集・分析するなど、デジタル化への流れが製造業界全体で強まっています。
では、実際に製造業界の各企業では、デジタル化をどのように捉えているのでしょうか。
デジタル化はDXの前段階とはいえ、日々の業務に大きな変化を生み出すため、重要性は認識しながらも二の足を踏んでいる企業が多いのではないかと思われるかも知れません。しかし、すでにデジタル化を推進している企業は多くあります。
2020年5月に経済産業省・厚生労働省・文部科学省から公表された「2020年版ものづくり白書」では、ものづくりに携わる約半数の企業が、生産工程においてデジタル技術を活用していることがわかります。まだ導入できていない企業の中でも、約半数が「活用を検討している」と回答していることから、デジタル化へのポジティブで前向きな姿勢がうかがえます。
さらに2022年5月の「2022年版ものづくり白書」では、製造業における情報通信機器やソフトウェアなどへのIT投資の状況が示されています。デジタル化の目的が「コミュニケーションや働き方改革の強化」から「ビジネスモデルへの変革」へと変化しつつあることから、デジタルやITをより実践的に経営へ活かそうとする動きが高まっていると考えられます。
製造業のデジタル化は経済産業省も推進
日本は少子化の傾向が止まらず、超高齢化社会が訪れようとしています。15歳から64歳までの労働力が減り続け、今後はますます人的リソースの確保が困難になると容易に推察できます。熾烈な市場競争に勝ち残るためには、最新のデジタル技術をフル活用していくことが不可欠です。
そうした背景から経済産業省では、以前から製造業のデジタル化を指南しています。同省の一機関であるIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2020年12月に出した、製造業におけるデジタル推進の指針「中小規模製造業者の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のためのガイド」を見れば、官民一体となって推進していこうとする動きがよくわかるでしょう。本ガイドでは、製造業が目指すべき姿として、「スマートファクトリー」や「スマートプロダクト」「スマートサービス」を挙げています。とくにスマートファクトリーは、工場での製造プロセスを可視化することで生産性を上げられるのはもちろん、技術のノウハウを継承したり、ロジスティクス改善につなげたりとさまざまなメリットがあるため、近年、多くの企業から注目が集まっています。
製造業がデジタル化を進める主な4つの利点
ものづくりを支える製造業がデジタル化を進めると、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。ここでは、代表的なポイントを解説します。
作業の負担が軽くなる
現場では、作業員の手によって行われる作業が多くあります。それらをすべて高いクオリティでこなそうとすれば、一定の時間や労力をかける必要があります。一方、デジタル化を進め、定型作業はロボットに任せられるようになれば、作業員の負担はぐんと減らせるはずです。浮いた時間は、人間しかできないような、頭を使う作業や創造的な業務に専念できるため、企業全体にとって生産性が上がります。
安全性といった観点でも、人間が危険な作業をせずに済むようになり、労働環境を改善できるメリットがあります。
生産力が安定し人材確保に悩まされない
日本は今後も、少子高齢化の傾向が続くと考えられます。製造業は消費者の生活に欠かせない製品も多く作っているため、人手が不足すると社会は何らかの影響を受けることになるでしょう。
人手不足を早期に解消するためには、デジタル化が不可欠です。これまで人間が負っていた生産工程の一部をIT機器に任せるなどすれば、限られたリソースを最適化できるとともに生産力を担保できるため、将来にわたって人材不足で悩むこともなくなります。
作業時間が短縮され効率がよくなる
デジタル化により、IT機器やロボットなどが導入されると、人間の手で行っていたときよりも、実質的な作業時間は大幅に短縮されます。製造業での生産工程は、製造や検査といったさまざまなプロセスで構成されているため、ひとつひとつの過程をスピーディに行えれば全体的な生産効率が上がるでしょう。ひいては、より短時間で品質が均一の製品を量産できるようになるわけです。
競合が激化する市場において、他社との差別化を強化できるようになり、経営の安定や成長にもつながります。
製品の品質が高い水準で保たれる
人が作業を行う製品の生産工程において、ヒューマンエラーは完全に防げません。それぞれの作業員で、スキルや経験年数が異なっているほか、その日の体調や集中力などによってもミスの起きやすさは変化します。
一方、デジタル化によって機械が導入されれば、あらかじめコンピュータでプログラムされた作業を行うため、人が作業するよりもエラーが起きる確率はぐんと下がります。
同じ製品を量産するのにあたり、常に安定した高い品質を確保できる点も、デジタル化によるメリットと考えられるでしょう。
製造業がデジタル化する際の問題点
ここまで、製造業がデジタル化すると、どのようなメリットがあるのかについて解説しました。ただ、デジタル化はよいことばかりではない点にも注意が必要です。デジタル化を導入するのにあたって、押さえておきたい問題点を解説します。
デジタル化に伴う多額の出費
製造業におけるデジタル化としてよく見られるのは、IT機器やシステムの導入、ロボットによる作業の自動化、「見える化」を実現したスマートファクトリー化などです。これらはすべて、導入から運用にいたるまで多額のコストがかかるため、出費を覚悟しておく必要があります。大きなパフォーマンスを求めるあまり、あれもこれもと手を広げてしまうと、経営を圧迫してしまうことも否めません。機器を導入すれば定期的にメンテナンスが必要になったり、市場や業界の動向に合わせて、より効果的に改修しなければならなかったりと、費用がかかる場面はしょっちゅう出てくるため優先順位をつけて取り組むことが重要です。
デジタル化に対応した人材の確保
先に紹介した「2020年度ものづくり白書」によると、規模にかかわらず、製造業では人材不足や育成に悩んでいる企業の多さが浮き彫りになっています。
中でも、デジタル化に向けて主導できるスキルを持った人材は、「量」の側面でまだ少なく、IT機器やシステム導入に踏み切れない原因にもなっています。
デジタル化においては膨大なデータを扱うことが多く、数学的な知識も不可欠です。データサイエンティストやデータアナリストなどデータから的確に分析し、ビジネスや経営につなげていけるスキルを持った人材が製造業においても求められています。新しい技術がどんどん誕生し流れが早い分野のため、新規採用とともに継続的な研修体制の確立など、人材育成も悩ましい問題です。
今後、製造業でのデジタル化が重視され、官民一体となってスピーディに推進していくにあたっては、こうしたデジタル人材やDX人材の確保が急務になっていると考えられます。
併せて、社内におけるデジタル化の進め方も考えなくてはなりません。自社に合った方法が何かを探るためには、さまざまな他社事例を参考にし、実現できそうなものを検討する必要があるでしょう。
製造業におけるデジタル化の具体例
デジタル化のメリットやデメリットを理解し、いざ実践しようと思ったとしても、何から手をつければよいのかわからないといったこともよくあります。ここでは、代表的なデジタル化の具体例を2つ紹介します。ぜひ導入前の参考にしてみてください。
紙からデータに変更して処理を楽にする
かつて、ものづくりの現場では、ホワイトボードを使って生産スケジュールを共有したり、Excelなどで在庫管理を行ったりすることもよく見受けられました。しかし近年、データを使って品質を管理する、いわゆるペーパレス化へと転換する企業が急速に増えています。パソコンのローカル上でデータを入力するだけではなく、インターネット環境を利用し、関係者へ即時に共有できれば、課題や次に何をすべきかといった必要なアクションの把握もスムーズです。
ペーパレス化でのデータ管理が増えてきた主な背景としては、消費者の多様化するニーズが挙げられます。同一のモデルを大量に生産することで満足されていた時代は終わり、昨今は、消費者が自由にカスタマイズできる商品が好まれるようになっています。しかし、これまで主流であった紙やExcelでは、そうしたきめ細かな対応は困難です。そのため、生産プロセスや在庫をデータで一元的に管理する方法が求められていると考えられます。
紙の帳簿などを用いたアナログ式の方法とは異なり、デジタルデータで管理するようになると、コンピュータが自動的に必要なデータを集めて計算や集計をしてくれることから、人的ミスが減ります。わざわざ時間をかけて書いた紙や資料をうっかり紛失することもありません。人は限られた箇所のみを処理するだけで済み、作業を大幅に効率化できるのがメリットです。
作業効率化を図れれば、人はほかの必要な作業に専念でき、生産性の向上にもつながっていきます。ワークライフバランスのとれた希望する働き方を実現しやすくなるため、離職も防ぎやすくなるでしょう。
稼動状況を可視化し把握しやすくする
製造業でのデジタル化にはさまざまな方法があります。設備や機器にIoTと呼ばれる機材を取り付けることで「見える化」を実現する方法も有効です。先に挙げたスマートファクトリーがひとつの例でしょう。
IoTとは「Internet of Things」の略称で、「モノのインターネット」と訳されます。それだけでは通信しない「モノ」にIoT機材を取り付けると、AI(人工知能)も活用しながら、インターネットに接続してデータをやり取りできるようになるのがポイントです。
この技術をものづくりの現場に取り入れると、さまざまなメリットが生まれます。
たとえば、工場内にある設備や機器がどれくらい稼動しているのか、あるいはどれだけエネルギーを消費しているのかなどをすべてデータで可視化できるようになります。もしデータの中に不具合や問題点が見つかれば、すぐに原因を突き止めて改善できるため、生産プロセスをよりよいものにしていくことが可能です。設備や機器だけではなく、従業員についても稼働状況をデータ化し、配置などを最適化するのもよい利用方法でしょう。
ただ、導入にあたっては注意すべきこともあります。データによる可視化はあくまで手段であり、収集したデータをどのように使うべきかは社内で十分検討することが大切です。また、工場で収集したデータは意図せず外部へ漏えいしないよう、セキュリティを十分確保するのも不可欠です。
まとめ
製造業におけるデジタル化は、政府からの大きな後押しもあり、全社を挙げて早急に取り組んでいく必要があります。導入にあたっては、コストや人材確保などクリアすべき問題点はあるものの、条件によって支援金もあるため、上手に活用するとよいでしょう。
とはいえ、デジタル化を社内で一気に進めるのは難しい場合があります。スモールスタートでも、たとえば紙ベースをデータ管理するなど、比較的導入しやすいところからチャレンジしてみるのもよい方法です。
デジタル化を推進していく際には、「Oracle Fusion Cloud ERP」も併せて導入し、活用するのも一案です。財務会計から調達管理、プロジェクト管理、リスク管理、統合業績管理(EPM)などの管理系業務、製造・物流システムまで、企業活動に関わる情報を一元管理できるため、これからデジタル化を進めるのにはおすすめのERP(Enterprise Resource Planning)です。Oracle社が長年積み重ねてきた利用実績をクラウドでも再現して運用できるため、コストが安価で済むのもポイントでしょう。デジタル化導入の際には、ぜひご検討ください。
参照:https://www.clouderp.jp/oracle-erp-cloud
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