組織が目的を達成するためには経営戦略が欠かせません。
戦略の重要性は、古くは孫子の『兵法』で語られています。歴史では、精強な軍隊を持ち、有利な条件にあったにもかからず、戦略を持たなかったために予想外の敗北を喫した例は枚挙に暇がありません。
ビジネスにおいての戦略とは、経営目標を達成するための方針を決め、実現可能な計画に落とし込むというように、具体的な「戦い方」を決めることと言えます。
本稿では、企業の戦略立案や運用を担う経営管理部(とその担当者)の業務を紐解き、企業がどのような管理体制を作っていくべきかを解説します。
経営管理が会社にもたらす価値とは
経営管理部の役割は全社を見通しあらゆる企業活動の指針となる数値を作成して、経営者層に施策などを提案することです。企業のビジョンに基づいた経営戦略を立て、計画を数値面・実務面に落とし込んで具体化し、達成状況を管理していきます。担当者は、会社の生産活動や営業活動が最も良い形で行われるように体制づくりをしたり、経営者が適切な判断をしたりするのを支援します。
経営計画を各部署向けに具体化し、数値面から管理する
営業セクションや製造セクションといった各部署に責任者を置き業務を任せるには、数値による裏打ちが必要になってきます。
たとえば「売上を前期から110%上げる」という目標があれば、現場社員の目指す方向性も明確になります(この110%という数値設定にも根拠が必要です)。経営管理担当者は、会社に点在する数値(顧客への売上金額、工場の生産台数、1支店あたりの粗利額などのデータ)に意味をもたせ「各部署の目標」という形に落とし込みます。
もし数値に基づかない目標(指標)を経営層から提示されたら、現場の担当者は困ってしまいます。ただ「頑張れ」と命令されても、どの商材をどの程度売り上げれば良いのか分からず、自分の評価が上がるのか明確でないと現場社員のモチベーションも上がらないでしょう。
部署ごとの状況を把握するにも数値面の管理が欠かせません。各部署が定量的な指標を持たなかったとしたら、社長は中間管理職の報告だけで状況を判断することになり、経営判断を誤る可能性が高まります。
営業部門の売上処理や実際のものの動き、物流にかかる運送費、また製造コストなど、全ては数値によってシステマティックに管理されています。管理会計などを用いて企業活動を数値によって可視化し、全社の動きを見渡します。
全社最適の企業体制をつくるには内部管理が欠かせない
全社最適の企業体制を作っていくこともまた、経営管理部の重要なミッションです。
社長ひとりで会社の全てを管理できる規模であれば、仕組み作りはそこまで重要でないかもしれません。しかし企業規模が拡大し、組織が階層化していくと社長1人で全てを管理することは難しくなってきます。
また企業がある一定以上の規模になると、それぞれの部署が独自のルールを作り個別の活動に最適解的な動きをすることがあります。各部署が独自の動きをすると、業務が属人化して会社全体にノウハウが共有できなくなるだけでなく、会社全体のガバナンスが効きづらくなるというリスクも生まれます。
各部署にとって最適と思われる選択が全社にとって最良の選択とは限りません。企業が成長する上では、部門の個別最適ではなく全体最適型の組織体制に移行する必要があります。全社を見通せる管理体制を敷き、その運用を徹底させていくことも経営管理部のミッションです。
[RELATED_POSTS]もし経営管理担当者がいなかったら?
もし経営管理担当者がおらず、定量的な指標や経営戦略を持たなければ企業はどうなるのでしょうか?
まず、経営者層が自社の状況を正しく見通せなくなります(あるいは経営者自らが細かい数値の作成から数値の分析戦略の落とし込みまで受け持つ必要が生じます)。定量的な指標を持たなければ、どの部署がどの事業でどの程度利益を出しているかが見えません。現状が把握できていないと、業績評価や予算の策定や管理ができないだけでなく、状況が芳しくないときに適切な改善策を打つことも難しくなってきます。このように明確な指標を持たず目隠しをして全力で走るような状況が続けば、会社経営は不安定になってしまいます。
経営管理部は企業の方向性を示し、経営判断をサポートする存在です。経営管理手法を用いて中長期的なビジョンを設計し、因数分解を行い、予算と実績の管理をし、来期以降の予算を策定していくことが非常に重要です。
また、経営管理体制が整っているということは株主や銀行、ステークホルダーへの良いアピールになります。自社の現状や今後の戦略を策定し、第三者へ報告するには経営管理担当者の支援が欠かせません。
経営管理担当者の役割
それでは、経営管理部の具体的な業務内容を見ていきましょう。例えば以下のような業務があります。
- 経営者とともに中長期の経営計画を設計
- 中長期の計画に基づき予算を策定
- 予算と実績の管理(予実管理と呼ばれる)
- システム導入の検討
- 人事制度の設計
求められる役割は多岐に渡りますが、大きく以下の3つに集約されます。
1. 中長期経営計画の策定と予算の策定
中長期の経営計画を立てることは経営管理部の最も重要な役割の1つです。なぜなら計画に基づいて全ての業務が行われるからです。
経営管理担当者は経営者とともに会社のビジョンやマクロ環境、事業ごとの損益を見渡したうえで会社をどのようにしていくかを決定し、中期経営計画を設計して数値に落としていきます。ここで決定されたことが会社の中期の方向性になります。
たとえばA事業での売上が今年度と比べて5年後に半減、B事業が3倍、という計画が策定されたとすると、「今後はB事業に力を入れていきますよ」というメッセージを社内外に出していることになります。
併せて、中期経営計画をどのように達成していくかも考えていきます。たとえば、新規事業算入や海外市場への展開、M&A、また会社の効率化のためのシステム導入などにも費用が必要になるので、経営層と経営管理担当者の間で話し合われることが一般的です。
2. 実績・予算の管理と分析、他経営指標の分析
中長期の目標である中期経営計画が完成したら、中期計画に基づいて次年度(年度単位かは会社による)の予算策定が必要になります。
予算策定のアプローチは会社によって異なりますが、中期経営計画及び経営者と部門長、事業部長との調整が重要になってきます。せっかく予算を作っても、該当部署の責任者との合意が取れていなければ、目標数値ひいては予算達成のための施策が現場担当者レベルまで浸透せずに、予算が達成される可能が低くなってしまいます。
経営層と現場とのミスマッチを避けるために、予算策定の段階で各セクションの責任者とは十分すり合わせを行い、全社として納得感のある予算を作ることも経営管理部の重要なミッションです。
同時に、予算の達成率を管理していきます。予算の達成・未達いずれの場合でも、なぜそのような結果がもたらされたのかを分析し、いかに今後に繋げていくかを経営者と共に明らかにしていきます。
3. 内部業務の効率化と改革
3つ目は内部業務の効率化・標準化です。
先述のとおり、企業として活動をしていくためには各部門がそれぞれの動きをするよりも統一的な動きをする(全社最適な行動をとる)方が効率的になります。そのためには全社で全体最適的なルールを策定することが必要になります。
経営管理担当者は各部門が個別に定めたルールをヒアリングしたうえで、これまでの業務に支障をきたさず、より全体最適的なルールを策定していきます。策定したルールは経済状況や法律、会社が変わっていくのに合わせて定期的な見直しを行うことが求められます。
会社の体制や制度を大きく変革する場合、経営管理のメンバーのみでなく、実務担当者などを交えた部門横断型のチームを結成することもあります。経理管理部としては管理及び会社変革の舵取りを行う必要があります。
特に新規事業の立ち上げでは、制度設計がうまく機能しないと新規事業部隊だけが独自の動きをしてしまい、トラブルにつながることもあります。 新規事業によっては、既存事業と必要な人材の質も違えば、売上の仕方も異なってきます。同様に、新規事業にも対応できる会社のルールや、仕組みとしてマニュアルチェンジしていく必要があるのです。
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経営管理の仕組みづくり
このような経営管理体制をつくるために、企業がすべきことを述べていきます。
経営管理担当者の採用
経営管理担当者に求められる能力は多岐に渡ります。経理知識やその会社独自の業務処理への理解はもちろん、経営者とともに会社のビジョンを数値化し中期経営計画を作成する能力、予算を編成する際に部門との調整を行う能力、またシステム導入を考えるとITシステムへの知見があった方が良いことはいうまでもありません。
ただしこれら全てを完璧に持ち合わせている人材は中々いません。そのため、経理や業務管理等のスペシャリストが経理管理担当者になることが多いようです。
採用・育成いずれにしても会社の損益やシステムに深く入りこむ業務の性質上、ある程度の時間をかける傾向がみられます。新卒で経理管理部に配属され経営管理の手法を叩き込まれてスペシャリストになる。もしくは、中途採用ですとコンサルタント出身者が中期経営計画策定能力やシステム導入の知見を期待され経営管理部に配属されることもままあるようです。
業界知識があるほうがキャッチアップも早く、戦略立案に好ましいとはいえるものの、必ずしも必要とはいえません。業界を問わず、売上、原価、経費などを紐解いて会社の経営管理等をしていく、という部分は同じです。
昨今はマクロ環境の変化も著しいため、同じ業界の人にこだわるよりも、目まぐるしい変化に臨機応変に対応できる人、経営者の参謀になってくれるような人が求められているように感じています。
管理体制を全社で統一し管理システムを導入
何度も述べていますが、効率的な会社の活動を行うためには全社的に統一された運用が絶対的に必要です。ある一定以上の規模になるとエンタープライズ向けのシステム導入をすることが求められるでしょう。
もし専用のシステムを導入しなければ、現場の担当者が非常に多くの手作業を行うことになります。そうすると、ヒューマンエラーが起きる確率が増加します。また、非効率な二重打ち込みなど人件費もかさむでしょう。経営管理を容易にするためには統一された管理システムを導入し、効率的に管理していく必要性があります。
データをとるためにこういう機能を持ったシステムがいる
社内のデータを管理して有効活用するためには、日頃の営業活動を正確に集計してくれるツールを使う必要があります。実際の売上はもちろん、仕入れ品の原価、経費、債権等もそれぞれ管理して勘定科目ごとに整理していく必要があります。理想を言えば、受注データや営業の営業報告、トレンドなどを基にした売上推定値も管理できると在庫の管理などもしやすく有用です。
経営管理部はこれら営業の受注に基づく先読みデータを基にして、先々の経営状況を予測して経営層に報告します。また実績データのみ表示されるよりも目標値や前年同期実績とも比較できる方が便利です。
例えばクラウドERP製品であるOracle NetSuiteやOracle ERP Cloudでは、経営者や担当者向けにダッシュボードが用意されており、仕事に必要な状態をリアルタイムに可視化することができます。
プロジェクト利益が一望できるダッシュボードがあると便利
あると便利なのが経営指標を視覚的に捉えるためにグラフと数表が組み合わされたダッシュボード(ビジネスインテリジェンス※単に分析ツールでも)です。
経営層はいろいろな判断を次々としていかなければなりません。そんな中、数表の数値のみを見て考えるのには限界があります(※実際は人による)。通常であれば経営管理部のメンバーが資料を作って報告することになりますが、ITを導入することによって、これらが簡単に見られるようになれば可用性が高まります。場合によってはこれまで会議で使っていた資料をダッシュボードで自動で取得できるようにすれば、これまで多くの時間を費やして会議資料を作っていた経営管理部の業務すら一気に圧縮できるかもしれません。
また、現場の担当者や管理者にしても自分の担当部署の成績は数値で言われてもピンと来ない場合があります。グラフ等でわかりやすく閲覧できる環境を作れば日々の業務確認の際に自身の実績(売上や経費の状況)を逐次確認し行動を改善していくことができるようになります。
- カテゴリ:
- 経営/業績管理
- キーワード:
- 予実管理