コンプライアンスリスクは現代の企業経営において無視できない課題です。法令や契約違反は、罰則や損害賠償だけでなく、企業の社会的信用を失墜させるリスクを伴います。本記事では、コンプライアンスリスクの概要や発生原因、具体的な種類とその防止方法を詳しく解説します。企業の健全な発展を目指す経営者に役立つ情報をお届けするので、ぜひ参考にしてください。
コンプライアンスリスクとは?
コンプライアンスリスクとは、コンプライアンス違反によって企業が被るリスクを指し、法令違反、顧客・取引先との契約違反、社内規定違反、社会規範に反する行為などが該当します。コンプライアンスリスクが現実化すると、罰金・損害賠償請求・業務停止命令などの法的ペナルティや、社員との労務トラブル、社会的信用の失墜につながる可能性があります。
コンプライアンス違反はなぜ起こる?
企業でコンプライアンス違反が発生する主な要因は以下に紹介する3つです。
経営層や従業員のモラルが低い
コンプライアンス違反が起こる原因のひとつは、モラルの低さです。「発覚しなければ問題ない」「他の人もやっている」などの認識が違反行為を誘発します。一度違反行為が見逃されると、常態化し、悪化する恐れがあります。モラルの高い経営層であればリスク管理が可能ですが、モラルが低い場合、違反行為が常態化しやすくなります。その結果、従業員を酷使する体制や不正が日常化する企業風土が形成されることがあります。
コンプライアンスリスクを理解していない
コンプライアンスに関する知識が不足していることもコンプライアンス違反の原因です。知識がないと、ある程度モラルはあっても、意図せず法令や社会規範を逸脱する行為をしてしまうことがあります。「上司が冗談のつもりで言ったことがパワハラやセクハラに該当する」「労働基準法を理解しておらず、違法な労働条件を課す」といったケースです。このような事例は、何が問題かを理解していないことに起因します。経営層がコンプライアンスの知識を習得し、従業員にも周知徹底することで、違反の防止が可能です。
コンプライアンスリスクが起きやすい環境である
職場環境もコンプライアンスリスクが起こる原因のひとつです。コンプライアンス遵守を掲げている企業であっても、不正が発生しやすい職場環境がある場合、コンプライアンスリスクを回避することは難しくなります。以下は、コンプライアンスリスクが高い職場環境の例です。
- 職場で社員が1人だけになる時間帯が多い
- 会計管理が不十分
- PCを社外に持ち出せる環境
- 社内規則が曖昧
これらは横領や情報漏洩のリスクを引き起こしやすい状況です。企業はコンプライアンスリスクを想定し、違反が発生しないよう徹底的に管理する必要があります。
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コンプライアンスリスクの代表的な種類
コンプライアンス違反には、粉飾決算、横領、過酷な労働環境など、さまざまな種類があります。
1. 法令違反のリスク
企業経営に関わる多くの法令を正しく理解しない場合、法令違反を引き起こす恐れがあります。企業が遵守すべき代表的な法令には、以下のようなものがあります。
- 労働基準法
- 独占禁止法
- 下請法
- 消費者契約法
- 金融商品取引法
- 不正競争防止法
違反すると、業務停止命令や罰金、さらには刑事罰が科される可能性があります。企業の社会的信頼が大きく損なわれ、最悪の場合、企業の存続そのものが危ぶまれます。
2. 社内規則違反のリスク
法令違反を防ぐため、多くの企業では社内規則を設けています。しかし、社内規則だからといって軽視してはいけません。社内規則は、経営者と従業員の契約関係を適切に維持し、組織内の秩序を保つ重要な役割を果たします。社内規則の軽視が常態化すると、社員の不満が高まり、退職者の増加や労務トラブルの発生につながります。
3. 契約違反のリスク
契約違反のリスクとは、企業が顧客や他社との契約を結ぶ際に、契約内容に問題が生じ、それにより発生するリスクです。具体的には、以下のような例が挙げられます。
- 契約内容が法令に違反している
- 契約内容が自社もしくは相手方に不利益をもたらす
- 契約内容を一方的に変更する
もし契約違反が発生すれば、相手方から契約を解除されるだけでなく、損害賠償を請求されるリスクもあります。
4. 社会的信用に対する違反のリスク
企業は法令や社内規則を遵守するだけでなく、社会的モラルや社会貢献活動、企業イメージの維持にも努める必要があります。これらを損なう行為として、以下のような例が挙げられます。
- インターネット上での悪評の拡散
- 不祥事の隠蔽が発覚する
- 企業イメージに反する低品質な商品・サービスの提供
- 情報漏洩
- 経営者の失言
- 社員によるSNS上での不適切な言動
「法令や社内規則に違反しなければ問題ない」という認識でこれらの対策を怠ると、「レピュテーション(社会的評判)リスク」が発生し、売上減少、顧客離れ、株価下落など、企業経営に深刻な影響を与える可能性があります。
5. 第三者に対する不法行為のリスク
自社と直接の契約関係にない第三者に対しても、企業の不法行為により損害を与えるリスクがあります。具体的には、以下のような行為が該当します。
- 著作権侵害
- 商標権侵害
- 特許権侵害
- 工場から排出された物質による公害
- 企業が手掛ける施設の設備不備による事故
損害を与えた場合には企業が責任を負う必要があります。被害者から訴訟や損害賠償請求を起こされる可能性があり、被害の規模によっては多額の賠償金を支払う事態に発展することもあります。また、第三者への不法行為は、社会的信頼の喪失にもつながるため、十分な注意が必要です。
コンプライアンスリスクマネジメントが企業にとって重要な理由
企業経営は、企業イメージや社会的信頼によって支えられています。コンプライアンスリスクマネジメントは、行政処分や刑事罰などのリスクを防ぎ、企業経営に与える損害を回避するために欠かせない取り組みです。
コンプライアンス違反が発生すると、社会的評判の低下により、顧客離れや取引先との契約解除、離職率の上昇、人材採用の困難化といった問題が生じます。一方で、適切なコンプライアンスリスクマネジメントを実施することで、労働条件の改善や働きやすい職場環境の整備が可能になり、ブランドイメージの向上にもつながります。したがって、健全な企業経営を続けるために、コンプライアンスリスクマネジメントは不可欠です。
コンプライアンスリスクマネジメントのポイント
企業において、コンプライアンスリスクマネジメントが後回しにされているケースは少なくありません。しかし、コンプライアンスリスクマネジメントを適切に行わなければ、将来的に重大なコンプライアンス違反を防止することは困難です。以下では、リスクマネジメントを徹底するためのポイントをご紹介します。
過去の事例からリスクを徹底的に洗い出す
企業が過去に経験した独自のコンプライアンス違反事例や、他社で発生したコンプライアンス違反事例を整理し、自社に起こり得るリスクを徹底的に特定します。主なコンプライアンス違反事例として、以下のようなことが挙げられます。
- 誇大広告の掲載:「業界シェアNo.1」など、根拠を提示しない、または事実と異なる広告を行うケース
- 性能データの偽装:「ウイルス除去率〇%」など、実際の性能を誇張した虚偽の表示で販売するケース
- 顧客の個人情報紛失:顧客情報を含むUSBメモリを社外に持ち出し紛失したケース
これらの事例を参考に、自社が抱えるリスクを網羅的に洗い出すことが重要です。リスクをひとつでも見落とすと、大きな問題に発展する可能性があります。また、社員へのヒアリングを行い現場の実情を把握することや、弁護士や税理士などの専門家に監修を依頼することも欠かせません。徹底的なリスク洗い出しが、コンプライアンス違反の防止に繋がります。
対応すべきリスクに優先順位を付ける
洗い出したすべてのリスクに対応することは、現実的には困難です。リスクマネジメントには投資や人材が必要であり、企業のリソースには限りがあるためです。そのため、リスクに優先順位を付け、最も重要なリスクから対応を進めることが求められます。優先順位を付ける際には、リスクの影響度と発生する可能性を基準とします。また、常に最悪のシナリオを想定し、それに基づいてリスク対応を検討することが重要です。
4つのリスク対策で考える
リスクへの対応策は、大きく以下の4つに分類できます。
- 回避:リスクが発生する要因を取り除く
例)社員にセキュリティ教育を実施する - 低減:リスク発生時の影響を最小限に抑える
例)非常時の対応を含めたマニュアルを作成する - 転嫁:リスクの責任を第三者に移行させる
例)保険契約を利用し、リスク発生時の損害を保険会社に補填してもらう - 受容:リスクを受け入れる
例)リスクが軽微である場合や、対策コストが利益に見合わない場合にあえて対応しない
これら4つの対策を適切に組み合わせることで、効率的かつ効果的なリスク対応が可能です。
経営を持続し継続的な成長を目指すために
コンプライアンスリスクとは、企業が法令や規則を遵守しないことで生じる損失の可能性を指します。これは、社会的信用の低下や罰金、訴訟、業務停止など、重大な影響をもたらします。
コンプライアンス違反の主な要因は、経営層や社員のモラル不足、コンプライアンス知識の欠如、不適切な職場環境などです。これらを防ぐためには、過去の事例からリスクを洗い出し、コンプライアンスリスクマネジメントを徹底することが重要です。適切なコンプライアンスリスクマネジメントは、企業イメージの向上や労働環境の改善につながる、健全な経営の基盤です。その際には、「コンプライアンス管理体制チェックシート」の活用をおすすめします。
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- ガバナンス/リスク管理