日本は中小企業国家と言っても過言ではありません。日本企業全体の99%以上は中小企業および小規模企業であり、しかも、高い技術力を持ち世界中で活躍している中小企業が多数存在します。そうした中小企業が、激変するビジネス環境の中で、どのように存続し、どのようにその価値を高めていけばよいのか?本稿では中小企業を取り巻く課題と、その対策についてご紹介します。
中小企業の現状
まずは、中小企業庁が発行している「2018年版中小企業白書」より、中小企業の現状について把握していきましょう。
中小企業の売上高
中小企業の売上高について財務省の「法人企業統計調査季報」を用いて、過去10年間の推移を確認すると2011年から2012年にかけて減少傾向が続いたものの、2013年第1四半期以降は横ばいが続き、2016年代第3四半期に入ると海外経済の復調等を背景に中小企業の売上高は増加に転じています。2017年を通じて5.4兆円増加し、大企業との差は10.6兆円まで縮めています。
売上高が増加傾向に転じる直前の2016年と2017年では、具体的にどの業種が売上高の増加に影響を与えているのか?大企業で卸売業が14.0兆円、製造業が12.0兆円と、売上高に最も寄与しています。一方、中小企業ではサービス業が8.4兆円、小売業が6.3兆円と最も寄与しており、大企業とくらべて売上高増加に寄与している業種の違いが伺えます。ちなみに中小企業における建設業は4.2兆円の減少となっています。
世界的金融危機のリーマンショックや東日本大震災などにより、売上高が著しく低下した期間もありましたが、現在ではゆるやかな改善傾向が続いています。しかし、業種や地域によってのばらつきも大きいという問題も見受けられます。
[RELATED_POSTS]そもそも中小企業とは?
ここで、中小企業の定義について改めて説明しておきます。中小企業とは中小企業基本法第二条に定められている事業者の1つであり、資本金または出資総額3億円以下、常時従業員300人以下の範囲に収まり、製造業/建設業/運輸業/卸売業/サービス業/小売業とその他の業種に属する中堅企業および小規模事業者その総称です。
中小企業は中小企業者と小規模企業者という2つの定義に分類され、さらに4つの業種ごとに資本金/出資総額/常時従業員の範囲が異なります。
業種 |
中小企業 (資本金および出資総額/常時使用従業員規模) |
小規模企業者 (常時使用従業員数) |
製造業/建設業/運輸業 |
3億円以下/300人以下 |
20人以下 |
卸売業 |
1億円以下/100人以下 |
5人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下/100人以下 |
5人以下 |
小売業 |
5,000万円以下/50人以下 |
5人以下 |
中小企業庁によると日本企業全体における中小企業の割合は99.7%とされており、中小企業は日本経済の活性化において欠かせない役割を持っていると認識されています。そのため、日本政府では「来たるAIやIoT、ビッグデータなどの第四次革命において、世界で日本が存在感を増していくためには、中小企業を中心にこれらの最先端技術の浸透が重要である」と考えています。
参考:中小企業庁 FAQ「中小企業について」
中小企業の課題
中小企業を取り巻くビジネス環境では、AIやIoTといった革新的技術によって不確実性が増しており、さらに多様な時代背景によって多くの課題が発生しています。中小企業が抱えている課題とは何でしょうか?
課題1.人材不足の深刻化
日本経済全体での人材不足問題は、中小企業経営者の皆さんは日々痛感している問題ではないかと思います。みずほ総合研究所によれば、日本の労働者人口は2065年までに現在の6割程度の水準まで下がるとされており、IT人材不足にいたってはすでに20万人が不足していると言われています。
特に中小企業では各業種で人材に対する不足感が増しており、求人難の時代でもあります。さらに、日本の少子高齢化が加速していることから、こうした求人難は一層深刻化していくと言われています。
参考:少子高齢化で労働力人口は4 割減 - みずほ総合研究所
課題2.従業員1人あたりの労働生産性
公益財団法人・日本生産性本部によると、日本の2017年の労働生産性は主要先進7ヵ国(G7)で最下位となっており、ワースト記録は47年連続となっています。この結果に対して「勝手な基準で決められた指標だから、あてにならない数値だ」という意見を持つ人も多いようですが、実際はこの数値を素直に受けとめて、労働生産性向上に向けて取り組みを実施する必要があります。
参考:DIAMOND online「日本の生産性は先進国で最下位」を素直に受け止めない人が多いのはなぜか
課題3.後継者問題
日本の中小企業では経営者の高齢化が進んでおり、その背景には後継者不足が大きな問題になっています。さらに、中小企業の経営者のほとんどは何らかの形で事業継承を望んでいるにもかかわらず、スピーディな事業継承ができないことで廃業を選択している企業が多いという報告もあります。
金融機関からの借入時に発生する個人保証問題への懸念や、親族経営が前提の中小企業特有の経営体質が影響しているなど、そこには事業継承に対する人材が集まりにくいという社会的背景があります。
課題4.シェアリングエコノミーの影響
テクノロジーの発展によって新興企業の参入障壁が大きく下がり、IT企業をはじめ新興企業が従来のビジネスモデルを変革し、市場シェアをまたたくまに奪うという事象が頻繁に発生しています。その中でも「シェアリングエコノミー」の発展は、世界中でさまざまな業界に影響を与えており、中小企業にも多大なインパクトを与えています。
ちなみにシェアリングエコノミーとは物・サービス・場所などを、多くの人と共有・交換して利用する社会的な仕組みを指します。フリマアプリのメルカリなどがそれに該当します。
[SMART_CONTENT]
中小企業が取るべき対策とは?
1.労働環境改善
人材具足を解消していくためには多様な働き方を提案し、シニアや女性の労働参加を向上させていくことが重要だと考えられています。リモートワークなどを導入し、そうした人材でも働きやすい環境を整えることが大切です。
2.積極的なIT投資
労働生産性向上とIT投資は今や切り離せない関係にあり、中小企業でも積極的なIT投資が求められています。クラウドサービスやERP(Enterprise Resource Planning)等を積極的に検討しましょう。
3.M&A(吸収合併)による事業継承
事業継承問題はM&Aによって解決できる場合も多く、中企業でのM&Aが活発化しています。
中小企業の課題を解決するには様々なアプローチがあり、自社にとって何が適切かを見極め、それぞれの課題を解決していきましょう。
- カテゴリ:
- コラム