企業が資材を仕入れる際の購買方式として「集中購買」と「分散購買」の2種類があります。この記事では、それぞれの特徴や採用することで得られるメリット、気を付けたいデメリットとともに、向いている資材の種類についても解説します。さらに、購買管理をより効率化したいときに役立つ「購買管理システム」とは何か、どのように選べばよいのかについても紹介しますので、現在購買管理に課題をお持ちであれば、ぜひ参考にしてください。
集中購買とは何か?比較される分散購買と共に特徴を解説
企業が物品を購入する際の方式として、集中購買と分散購買があります。どちらが常に優れているといったことはないものの、しっかり違いを把握したうえで資材によって最適な方式を選ぶことで、戦略的な経営が可能です。ここではまず、それぞれの概要と主な特徴について解説します。
一か所でまとめて発注する集中購買
まず本社があり、さらに各事業所があるといった一般的な企業において、それぞれのロケーションで必要な資材の数量をまとめ、本社が一括して発注、購入する方式が「集中購買」です。JIS(日本工業規格)では、「購買の発注契約又は業務を集中的にまとめてとり行う購買方式」と定義づけられ、「中央購買」と呼ばれることもあります。
購買行為を一元的に管理することでコスト面や効率性などでさまざまなメリットが生まれることから、多くの企業で採用されている方式です。ただし、一括発注のリスクを避けるため、あえて分散購買にシフトして発注するケースもよく見られます。
それぞれの場所で発注する分散購買
一方、「分散購買」とは各事業所単位で物品を購入する方式のことです。JISでの定義は「購買の発注契約又は業務を必要とする場所ごとに分散して購買する方式」とされています。
本社で各事業所の必要分を取りまとめることはないため、1回あたりの発注ボリュームは必然的に少なくなるものの、各事業所で必要なものをすぐに買えることから、融通の利きやすさや柔軟性といった点では軍配が上がるでしょう。
似たような言葉に「複数購買」があります。これは同一の資材を、複数のサプライヤーから調達することを指します。分散購買とは根本的に意味が異なることに注意しましょう。
集中購買のメリットとデメリットとは?
集中購買と分散購買には、メリットとデメリットがあります。それぞれの特徴を理解しておけば、資材購入時にどちらの方式を選べばよいかの判断に役立つでしょう。
まずは、集中購買を選択することで得られるメリットと、気を付けるべきデメリットについて解説します。
メリット
集中購買は、いわば「まとめ買い」として、各事業所分をまとめて一括購入する方式です。1回の発注数量が大量になるため、ボリュームディスカウントが効き、コスト低減に関する交渉をしやすいというメリットがあります。資材を販売する企業も、より多く買ってくれる企業はお得意様として、多少価格を下げても良好な関係性を築き、強化したいと考えているためです。
また、業務効率の面から見ても、各事業所で面倒な購買処理をする必要がなくなるため、事務作業にかかる人件費を下げられるのもメリットでしょう。各拠点で資材を標準化したり、過去の購買データを分析し、煩雑になりがちな在庫管理を一元的に最適化できたりするようにもなります。購買に関して一定のルールを設け、全社的な視点で無駄を排除し、廃棄物を減らせることも利点です。
デメリット
集中購買はデメリットが目立ちにくいものの、購買手続きのスピードという点では、分散購買に比べて劣ります。各事業所の必要数量や要望の取りまとめに時間がかかり、発注から納入にいたるまでの時間が長くなるためです。発注数量が大量であれば、その分納期もかかるでしょう。また、納入までのタイムラグが大きければ大きいほど、正確な在庫状況をリアルタイムで確認するのが難しくなります。
本社に一括納品される場合は、資材を各事業所へ運搬するために費用がかかることもネックです。資材の内容によって、こうした点が問題となるのかどうかを考慮したうえで適した購買方式を選ぶことが大切です。
分散購買のメリットとデメリットとは?
集中購買と同じように、分散購買にもメリットとデメリットが存在します。両者の違いを意識しながら、具体的な特徴について解説します。
メリット
分散購買では、必要な資材を各事業所が個々に購入するため、融通を利かせやすいのがメリットです。とくに集中購買で問題視されやすかった、取りまとめに時間がかかる、納期が遅れがちになるといった点も、分散購買ではクリアできます。企業は顧客からの注文を受ければすぐに購買手続きを踏めるようになるため、資材調達のタイムラグが原因で必要なときに資材不足の状況に陥るといった状況を避けられるでしょう。
また、発注品が事業所ごとに納品されることから、運搬コストを低減できたり、在庫を各拠点にて管理することでシンプルな運用ができたりすることも魅力です。
デメリット
デメリットはやはり価格交渉が難しいことでしょう。集中購買に比べて発注数量が必然的に少なくなるので、数量を盾にした価格交渉ができなくなります。少量だからといって定価での仕入れを続けていると、原価低減への意識が薄れていき、本社の購買方針からズレることも少なくありません。
また、グループ全体で見た際の標準化も難しいことから、事業所ごとに購買管理の品質や費用にばらつきが出てしまいます。事業所ごとの購買データを収集・統合するのも難しいので、実践的な分析活動が行いにくい傾向にあります。
集中購買に向いているもの
前述したように、企業で資材を購入する際、集中購買と分散購買のどちらかが必ず有利というわけではありません。ただ、それぞれの購買方式に向いている資材の種類を押さえておくと、調達時にどちらを選べばよいのかを判断しやすくなります。
集中購買の場合は、大量発注によって単品あたりのコストを低減させられることがポイントです。そのため、元値が高額なもの、全事業所で共通化している汎用的なものなどの購入に向いています。あくまで価格交渉を前提にした購買方式のため、交渉のテーブルで自社が有利になりやすいものであれば、集中購買を選ぶとよいでしょう。
分散購買に向いているもの
仕入コストの削減効果が小さい低額のもの、あるいは値引き交渉が難しい特注品は、分散購買が向いています。資材の価格帯によってうまく使い分け、定価で購入したとしても支障がないものは、あえて分散購買を採用することも戦略として重要です。資材提供元との駆け引きで、より値下げの効果が大きな資材を購入する際に、より有利な交渉を進められる可能性があります。
購買方法は使い分けることで最適化を目指す
ここまで解説したように、集中購買と分散購買には大きな違いがあります。真逆の購買方式といってもよいため、それぞれのメリットとデメリットは表裏一体のように存在しています。そのため、企業としては「あちらを立てればこちらが立たず」状態で、一体どの購買方式を選べばよいのか悩んでしまうことも少なくありません。
そこで肝心なポイントは、必要に応じて購買方式を「使い分ける」ことです。2つの購買方式の得手不得手は企業ごとに異なるというより、購買する資材によって変わります。たとえば高額資材や共通資材の場合は、集中購買で本社が購買管理をコントロールして、価格交渉を有利に進めることで原価低減に取り組めます。
一方、低額資材や特殊資材などは価格交渉が難しいことから分散購買を採用して、柔軟性を優先する方が良いと考えられます。同じ仕入れ先から複数種の資材を購買するケースでも、低額資材や特殊資材は分散購買を実施して、価格を決定的に抑えたい資材で価格交渉が行える余地を残しておくなどの戦略が大切です。
したがって、購買方式を選択する際はどちらか一方ではなく、資材ごと事業所ごとに集中購買と分散購買を組み合わせて、最適な購買方式を作り上げるのがベストだといえます。
購買管理システムを導入しよう
企業にとって、昨今はDX(デジタルトランスフォーメーション)化なくして市場での優位性を確保できない時代になりつつあります。そこで、資材の購買管理もアナログからデジタルへ移行し、自社に合ったシステムを導入することで業務の最適化を目指す企業が増えてきました。
ここでは、購買管理システム(SCM)とはどのようなものか、また、導入することで得られるメリットについて解説します。
購買管理システムとは
集中購買では各事業所が必要とする資材をひとつの窓口で取りまとめるため、事務作業に人手がかかったり、手間が増えたりしがちです。
その点、購買管理システム(SCM:Supply Chain Management/サプライチェーンマネージメント)は、こうした煩雑になりがちな購買業務を効率化できるメリットがあります。たとえば、取引先情報の管理や、見積依頼書、注文書などの伝票作成をシステム上で完結できます。
システムを導入すれば、これまで定型的な事務作業にあたっていた従業員を、より創造的で生産性の高い業務に専念させたり、アナログ処理によるヒューマンエラーを防いだりできるようになります。また、過去の購買データを分析し、活用することで、さらに業務の最適化を図れるようになるでしょう。つまり、購買履歴をデータとして蓄積し、可視化分析するようになれば、購買に関する無駄を発見しやすくなり、より効率的な購買管理が実現します。
購買管理システムの選び方
購買管理システムは、ベンダーからさまざまな種類が提供されているため、導入時にはどのシステムを選べばよいのか迷ってしまうかもしれません。ここでは、購買管理システムを選ぶ際に確認しておきたいポイントを解説します。
自社の課題に合っているか
企業によって、購買管理業務で抱えている課題は多種多様です。そもそも課題を解決できなければシステムを導入する意味自体がなくなってしまうため、「なぜ購買管理システムを導入するのか」といった目的を明確化しなければなりません。
まずは各事業所を含め、自社の購買管理業務の内容や流れをしっかり整理し、業務における課題を洗い出しましょう。すると、課題から目的がはっきりし、自社にとって最適な製品がおのずと絞り込めるようになります。
購買管理システムの多くは、見積依頼から発注、製品入荷、検収といった一連の流れを包括的に管理できるのが特徴です。ただ、製品によっては、見積もりに特化したシステムや、資材購入のプロセスで必要な業務を選べるシステムなども存在します。自社の課題や導入目的を洗い出し、費用対効果も含めて総合的に選択するようにしましょう。
導入実績はどうか
購買管理システムを導入する前には、必ず導入実績を確認することが大切です。どのような企業に、どれだけ導入されているかは、その製品が信頼できるかどうかを判断するのに役立つ情報です。導入実績はベンダーのホームページなどを参照し、導入事例などがあればそれを確認します。
また、どれほど優れたシステムでも、自社の課題解決につながる機能が搭載されていなければ、十分な導入効果を得られません。さらに、実際にシステムを利用する従業員にとって使いやすいユーザーインターフェースでないと、かえって業務効率が悪くなってしまいます。導入後の活用イメージを描きながら、自社にとって適切なシステムを選ぶことが重要です。
サポートは充実しているか
購買管理システムの導入後に、トラブルが発生する可能性はゼロではありません。また、これまで紙などのアナログで処理していた業務をシステム上で運用するとなれば、従業員が運用スキルをスムーズに習得できるかどうかも課題となります。
もしもの場合に備え、システム提供側であるベンダーのサポート内容について、あらかじめ確認しておく必要があります。具体的には、ベンダー側の技術的なサポート体制について調べたり問い合わせたりして、それが自社にとって十分かどうかという点に注目するとよいでしょう。
購買管理は、企業にとって経営に大きく関わる重要な業務です。思わぬ事態に直面したときにもスピーディーに復旧できる対策があるかを確認し、業務に支障をきたさないように万全の準備を整えておくと、安心して導入できます。
自社システムとの連携はできるか
企業におけるDX化がうまくいかない理由として、システムのサイロ化が挙げられます。サイロ化とは、業務効率化を図るために新たなシステムを導入したのにもかかわらず、自社の既存システムとうまく連携できずに孤立してしまう状態のことです。
購買管理システムも同様で、導入したあとは単独で運用するわけではなく、さまざまな業務と連携する必要があります。たとえば、すでに会計システムを利用していれば、それに発注情報を入力したり、請求情報をもとに支払い業務が発生したりします。業種によっては、在庫や販売に関する管理システムが別に存在するケースもあるでしょう。それらをうまく連携させられなければ、導入したシステムが使いにくいものとなり、かえって業務効率を落としかねません。
そのため、すでにある自社のシステムとスムーズに連携できるかどうかを事前にベンダーへ問い合わせ、相談することが肝心です。自社に合うようにカスタマイズできるかどうかも、導入の成否に関わる大切なポイントです。
まとめ
資材調達には「集中購買」や「分散購買」といった方式があります。それぞれのメリットとデメリットを理解し、どちらが戦略的に有効かを見極めたうえで採用することが大切です。
購買管理は煩雑な業務のため、「購買管理システム」の導入がおすすめです。自社の課題解決につながるか、また導入実績やサポート体制、既存システムとの連携可否の観点から選ぶことで効果を実感できます。
おすすめは、データベース大手のオラクル(Oracle)社が提供しているERPシステムの「NetSuite ERP」や「Oracle Fusion Cloud ERP」です。NetSuite ERPはクラウド型のERPソリューションで、会計管理からサプライチェーン、請求にいたるまでの一連の業務をまとめ、シンプルな管理を可能とします。
より多彩な機能で柔軟なカスタマイズを希望する場合は、Oracle Fusion Cloud ERPが適しているかもしれません。クラウド型ERPとしてカバーする業務領域が広いだけではなく、必要なモジュールを組み合わせることで段階的な導入も可能です。
自社の課題に合わせて、より効果が見込めるシステムをご検討ください。
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