経理業務にかかわりのないビジネスパーソンでも、一定の簿記知識を付けることで会社の経営状況について知れたり、会社のお金がどのようにして流れているかを理解できるので、ひいては自分が今行っている業務の重要性を再認識したり、業務の目的を知ることができます。
本稿では、簿記知識の基本である「単式簿記」と「複式簿記」の違いについて解説しますので、ぜひご一読ください。
単式簿記と複式簿記
そもそも「簿記」とは、企業などの組織などに属する財産の増減・出納を一定の仕方で記録・計算・整理し、その結果を明確にするための記帳法です。ちなみに同じ経理業務の「会計」は、会社や事業が利益を出しているかどうかを、財務的にどのような状況なのか報告するための業務です。帳簿と会計は切り離せない関係にあり、会計書類を作成するために帳簿を付ける技術が簿記、ということになります。
この簿記には「単式簿記」と「複式簿記」という2つの種類があり、会社の簿記業務では主に複式簿記を利用します。
単式簿記
単式簿記は、発生した取引を1つの勘定科目に絞って記帳する方法です。たとえば、個人で考えて見ましょう。
4月25日に給与が500,000円入り、同月27日に家賃100,000円が預金から引き落とされ、さらに同月30日にショッピングで50,000円を使用した場合は、次のように記帳します。
10月25日 給与 500,000円
10月27日 家賃 100,000円
10月30日 買物 50,000円
残高 350,000円
このような記帳を、取引発生順に繰り返していくことで、収入と支出を記録していき、手元にある現金がいくら増え、いくら減り、最終的にいくら残ったのかを把握することができます。一般的な家計簿はこの単式簿記に分類され、非常にシンプルな記帳方法なので特別な知識も資格も必要ありません。
会社においては、開業間もない場合や取引数が少ない場合は、単式簿記で記帳してもお金の流れを正確に管理することができます。ただし、単式簿記はあくまで現金増減を記帳するだけのものです。そのため、「会社の正確な資金や借金が分からない」という欠点もあります。この欠点を補い、会社の中で一般的に使用されている記帳方法が複式簿記です。
複式簿記
複式簿記は、発生した取引を複数の勘定科目に分けて記帳する方法です。先ほどの例でいうと、次のように記帳することになります。
<現金>
借方 |
貸方 |
|
4月25日 |
売上 500,000円 |
<給与>
借方 |
貸方 |
|
4月25日 |
現金500,000円 |
<普通預金>
借方 |
貸方 |
|
4月27日 |
地代家賃10,000円 |
<地代家賃>
借方 |
貸方 |
|
4月27日 |
普通預金100,000円 |
<現金>
借方 |
貸方 |
|
4月30日 |
消耗品費50,000円 |
<消耗品費>
借方 |
貸方 |
|
4月30日 |
現金50,000円 |
このように、複式簿記では取引内容を左に「借方(かりかた)」、右に「貸方(かしかた)」として複数の勘定科目を用いて記帳していきます。簡単な認識方法としては「借方=入ったお金」「貸方=出ていったお金」と考えるとよいでしょう。
複式簿記の特徴は、取引の結果として財政状況がどのように変化したのかを表すため、どちらかに現金や預金などの勘定科目が入ります。これによって、何のための金が、いつ、入ったか?出ていったか?を把握することができます。
勘定科目ごとに取引内容を記帳していくことを「仕訳(しわけ)」と呼びます。この仕訳のルールについて知ると、複式簿記の知識をより深めることができます。複式簿記の仕訳では、資産・負債・純資産・収益・費用という5つのグループに分かれます。
仕訳 |
お金が増えたら? |
お金が減ったら? |
資産 |
借方 |
貸方 |
負債 |
貸方 |
借方 |
純資産 |
貸方 |
借方 |
収益 |
貸方 |
借方 |
費用 |
借方 |
貸方 |
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賃借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)
複式簿記によって記帳した取引内容は、最終的に賃借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)をアウトプットとしています。これらの書類は、決算報告のための財務諸表として作成するものであり、上場企業ならば作成義務があります。
賃借対照表(B/S)
賃借対照表は、会社の一定期間での財政状態を表すための一覧表のことです。「バランスシート」とも呼ばれます。賃借対照を確認することで、企業の資産と負債、純資産を示しているための調達元などが確認できます。
まずは、左側の借方に資産の部として流動資産と固定資産に分けます。流動資産には現金預金・受取手形・売掛金・有価証券・商品などが分類されます。流動資産の基準は1年以内に現金化できる資産として、原則現金化しやすい順番に記載されています。
流動資産の下部には固定資産が記載されます。固定資産には、企業が保有する土地や建物などの不動産、あるいは機械設備やなどが含まれます。右側の下部からには、負債と純資産が記載されます。負債は、返済義務のある資金を表しているもので、他人資本とも呼ばれます。
負債も資産と同じように、1年以内に返済期限のある流動負債と、返済期限が1年を超える流動負債に分けられています。負債は原則、返済期日が早いものから並んでいるので、上から流動負債、その下に固定負債が並びます。流動負債では支払い手形・買掛金・未払金・短期借入金などが分類されます。固定負債として長期借入金、社債なども記載されています。
ちなみに純資本は資本ともいわれ、資本金として投資家から集めた資金としての資本金、営業活動によって生まれた利益余剰金があります。
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損益計算書(P/L)
損益計算書とは、1年間の事業活動においての会社の収益と費用を明らかにして、いくらの利益または損失が出ているかを把握するための決算書類です。賃借対照表と同時に作られ、財務諸表の1つとして扱われます。英国では「Profit and Loss statement」と呼ばれており、「P/L」と表記されることもあります。
損益計算書を見れば企業収益と費用が把握できるため、会社がどれくらいの利益を出しているのかという収益力が確認できます。経常損益の部と特別損益の部に分かれ、さらに形状損益では営業損益の部と営業外損益の部に分かれています。
営業損益では、売上高が最上部に記載され、その下に売上原価を差し引いた金額が売上総利益として記載されます。売上総利益から営業費用として販売費及び一般管理費(販管費)を差し引いた金額が営業利益です。販管費は会社の営業活動に欠かせないもので、給与・賞与・福利厚生費・広告宣伝費・旅費交通費・消耗品費・減価償却費などの経費がこれに該当します。
経常損益として、営業利益に営業外収益を加算し、営業外費用を差し引いた金額が該当します。営業外収益では受取利息や受取配当金など、営業外費用や支払利息や貸倒損失などが該当します。最後に、特別損益は経常損益に特別損益を加算し、特別損失を差し引くと税引き前当期純利益になります。
少し難しい内容になりましたが、複式簿記に加えてこの賃借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)について理解すると、会社の決算報告書などを見て、1年間の経営状況が手に取るように分かり、これからの経営について予測を立てることもできます。
この機会に、複式簿記および賃借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)について、より深く理解していただきたいと思います。
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